1月中旬の火曜日の夕方6時頃、鈴木タケルは、音楽プロデューサーの北川ミチコ(36)と、吉祥寺北口にある、バー「chanteuse」に来ていた。
「あなた、若いのに、なかなか、素敵なバーを知っているのねえ」
と、北川ミチコは、感心しながら、鈴木タケルの笑顔を見ている。
「僕も大学時代、精一杯背伸びして、彼女を連れて行く店を探していましたから」
と、スーツ姿の鈴木タケルは言っている。
「そう。確かに、大学生が背伸びして来そうな店ね」
と、北川ミチコは笑顔になる。
「シンイチのことについて、話が聞きたいなんて言われて・・・最初は胡散臭い人物かと思ったわ」
と、ミチコは言葉にする。
「でも、あなたを見たら・・・誠実さが見て取れたから・・・信じても大丈夫ってわかったわ」
と、ミチコは言う。
「わたしも、長くオンナをやってきたから・・・その人物がどういう人物かくらい、見ただけでわかるようになったわ」
と、ミチコは言う。
「僕も・・・音楽プロデューサーなら、人を見る目が長けているだろうと・・・そう踏んで直接事務所に伺ったんです」
と、タケルは言う。
「電話では伝えきれないモノって、たくさんありますからね」
と、タケルは言っている。
「うん。わかるわ・・・それがわかるだけでも・・・あなたも相当おとなね」
と、ミチコは言う。
「それに胆力は、相当なモノ・・・普通若い子は、わたしを前にすると、けっこう萎縮するんだけど、あなたには、それがないわ」
と、ミチコは言う。
「まあ、相当な修羅場を体験してきましたから・・・CIAの手伝いを深夜のニューヨークで、やらされたことも、ありますし・・・」
と、タケルは言う。
「あなた、そんなことしてるの・・・そう・・・それはすごい胆力ね」
と、ミチコは目を見開いてタケルを見る。
「で、本題に入りたいんですけど・・・シンイチさんとの出会いから、まず、話してくださいませんか?」
と、タケルは質問する。
「そうね・・・あれは、シンイチが「朱鷺色ワーカーズ」を結成して2年目のこと・・・ライトミュージックチャンピオンシップで、歌ってたの。彼のバンド」
と、ミチコは懐かしそうに話す。
「ちょうど6年前・・・ミキちゃんがまだ、生きて・・・いつも、応援してたわ。彼女、会場に来て・・・その頃のシンイチはとっても元気だった・・・」
と、ミチコは話す。
「彼の奏でる音楽は素敵だった・・・全身鳥肌がたったの・・・彼の声、彼のパフォーマンス、彼の音楽、すべてに才能があふれていた・・・」
と、ミチコは話す。
「ミキちゃんが亡くなるまでは・・・」
と、ミチコは話す。
、
ミチコは、グラスホッパーのお代わりを貰うと、一口、口をつけてから話しだした。
「それからの彼は・・・はっきり言ってポンコツね。すべては色あせてしまった・・・」
と、ミチコは言う。
「メジャーデビューさせて、人気のバンドにしようと思ってた、わたしの目論見は完全に外れて・・・今じゃ趣味でやってるバンドみたいな体たらく」
と、ミチコは言う。
「シンイチが書く歌に、音楽に魅力が感じられないの。あの頃の輝くような光が消えてしまったの」
と、ミチコは言う。
「バンドのメンバー達も、ロッカーになろうという、若い頃の壮大な夢は消えて、今じゃ、皆、街のおじさんで満足しているわ」
と、ミチコは言う。
「でも、シンイチだけでも・・・わたし、シンイチさえ復活したら、ソロでデビューさせようと思っているの。バックバンドなんて、どうにでもなるから」
と、ミチコは言う。
「吉祥寺の街のバンドで満足していい人間じゃないの・・・シンイチは星なのよ。スターになることが出来るのよ・・・それが・・・」
と、ミチコはそれだけ言うと、小さなため息をついた。
「シンイチさんを、愛しているんですね」
と、タケルはポツリと言った。
「ふ・・・音楽プロデューサーが、アーティストを愛せないで、どうするのよ」
と、ミチコは言ってから、タケルの目を見る。
「あなたはいい目をしているのね・・・キラキラして、いいめぢからをしている」
と、ミチコは言う。
「あなたは、素敵な大人の男性の持つ、特徴をすべて兼ね備えているようね・・・柔らかい素敵な笑顔と、自然な身のこなし、細みのスポーツマン体型・・・」
と、ミチコは言う。
「そして、その強いキラキラした目が、おんなを恋に落とす・・・素敵だわ、あなたも」
と、ミチコは言う。
「どうも・・・」
と、タケルはポツリと言う。
「シンイチさん復活の鍵は・・・何とお考えですか?」
と、タケルはマンハッタンを飲みながら、ミチコに聞いてみる。
「ミキちゃんに変わる存在だわ、きっと・・・男は恋をしていないといい音楽を作れない。愛しさを知らないと、いい歌が書けない・・・アーティストとは、そういうモノよ」
と、ミチコは言い切る。
「だとしたら・・・僕らは協力出来る、ということになりますね」
と、タケルは目をキラリとさせて、ミチコを見ていた。
ミチコも、そのキラキラしたタケルの両目を見ていた。
1月中旬の水曜日の午後2時頃、鈴木タケルの姿は、吉祥寺の天ぷら屋「天富」にあった。
店は午後4時からだったから、その間に話を聞くことになっていた。
「シンイチくんを復活させるために、協力してほしいって、ことでしたね」
と、「天富」の女将、鹿島ミワ(32)は、スーツ姿の鈴木タケルにそう言う。
「ええ・・・先日、シンイチさんの音楽プロデューサーである、北川ミチコさんに会って話を聞いてきました」
と、タケルは話す。
「ミチコさんの話では、シンイチさん復活の鍵は彼に恋人が現れること・・・そういうことだとミチコさんは考えているようです」
と、タケルは話す。
「それは・・・わたしも同感です。シンイチくんは・・・ミキさんを亡くされてから・・・ほんとに元気を無くしてしまって・・・傍で見ていて、かわいそうなくらいです」
と、ミワは話す。
「わたし・・・小学生の頃から高校生になるまで、彼のことが大好きで・・・クラスにひとりいるじゃないですか。勉強も出来るスポーツマン。彼はまさにそれでした」
と、ミワは話す。
「あの頃、同級生の女の子達は、彼をいかに自分のモノにするか・・・ううん。彼に笑顔を貰うことに命をかけてました」
と、ミワは話す。
「彼は女性には、やさしくして、紳士でした・・・誰にでもやさしいところが、玉に瑕でしたけど」
と、ミワは話す。
「でも・・・そんな彼が変わってしまったのは、やっぱり、大学受験で、マイちゃんを亡くしたことだと思います」
と、ミワは話す。
「そして、さらにミキちゃんも亡くした・・・彼、最近、私の店に来てくれた時、「恋をするのが怖い」って言ってたんですよ」
と、ミワは話す。
「「恋をするのが、怖い」・・・それって、恋しそうだから、怖いってことですよね?」
と、タケルが質問する。
「はい。同じようなことをお連れの方に言われてましたから・・・なんとなく聞こえちゃったんですけど」
と、ミワは言い訳をする。
「実は、その事で、お話があるんです」
と、鈴木タケルは笑顔になると、ミワの耳元に言葉を出すのだった。
ミワは思わず笑顔になっていた。
1月中旬の水曜日の午後7時頃。朱鷺色ワーカーズのドラムスの清水コウタと、ベースの左右田タスクは、キーボードの佐藤シンサクの居酒屋で、
一緒にお酒を飲んでいた。
「今日は店はいいのか?」
と、聞くシンサクに、
「今日はひとに任せられる日なんだ」「俺も同じく」
と、コウタとタスクは話していた。
「しかしさー・・・俺達もなんだか、街のオヤジって感じになってきて・・・なんだか、若い頃の夢が消えちまった感じだな」
と、コウタが言う。
「そうだな・・・若いころは世界一のロッカーになるんだって、夢持ってたのにな」
と、シンサク。
「夢かな、それは」
と、タスクがぽつりと言う。
「なにより・・・シンイチがあの状態じゃあなあ・・・」
と、コウタが言う。
「それに俺たちももう若くはないさ。かみさんもいれば、子供もいる。家業もあるし・・・いつまでも若い頃の夢を見ている時代じゃないだろ」
と、シンサクも言う。
「そういうことだな」
と、タスクも寂しそうに言う。
「でもさ、シンイチだけには、復活して欲しくないか?」
と、年長のシンサクが言う。
「そうだな。一度は俺たちに夢を見せてくれた、シンイチだからな」
と、コウタが言う。
「そうだな」
と、タスク。
「俺、思うんだけど、俺達がいつまでも、シンイチの脚を引っ張ってるんじゃないかって・・・そんな風な罪悪感を俺、感じてるんだ」
と、シンサク。
「それはそうかもしれないな。おんぶに抱っこだもん、俺達、シンイチに・・・」
と、コウタ。
「そうだな・・・」
と、タスク。
「あいつが、ああなったのも、ミキさんが亡くなったからだ。だから、シンイチに新しい恋人が出来れば・・・奴は必ず復活する・・・そんな気がするんだ、俺」
と、シンサク。
「そうか、そうかもしれないな」
と、コウタ。
「うん。そうかもしれん」
と、タスク。
「で、考えたんだが・・・最近、「イケメン捜索隊」の女の子達がうろうろしているだろ?彼女達をうまく使えないかと思ってさ。シンイチの復活に」
と、シンサク。
「ほう・・・それはいい考えだ。あの子たち相当、美人だしな。シンイチを恋に落とす方法を皆で考えるか!」
と、コウタ。
「ほう、それはおもしろそうだ」
と、タスク。
男たちの相談は、夜遅くまで続くのであった。
1月中旬の金曜日の午後10時頃。マミは窓から夜空を見つめながら、寂しそうな表情をしていた。
「日曜日からシンイチさんに会っていない・・・あのシンイチさんの暖かい笑顔が見られていない・・」
と、マミは少し悲しくなりながら、夜空を見ている。
「タケルさんの言うように・・・毎日、シンイチさんに会ってきたから・・・あの笑顔を一日に一回見るのが、わたしの楽しい出来事だったから、わたし・・・」
と、マミは考えている。
「たった6日で、辞めたくなってる・・・シンイチさんに会いたくなってる。あの笑顔が見たくてしょうがなくなってる・・・」
と、マミは考えている。
「でも・・・タケルさんとの約束だもの・・・それは我慢しなくちゃ・・・」
と、マミ。
「でも、この会いたい気持ちは、何?・・・こんなに、激しい気持ちがわたしにもあったなんて・・・」
と、マミ。
「過去、わたし、どんな恋でも・・・こんな気持ちになったことがない・・・」
と、マミ。
マミは思い出している・・・シンイチに会ってからの日々を・・・彼を彼氏にすると決意してから、毎日、ウォーキングを重ねてきた日々を。
雨の日も、風の強い日も、マミは、毎日ウォーキングを続けてきた。身体はもう、ウォーキングより強い運動にも慣れ始めていた。
「ウォーキングに慣れてきたら、ジョギングも出来るようになるから。ジョギングは、さらに体脂肪を効率的に、燃やしてくれるから・・・」
と言っていたタケルの言葉を信じ・・・木曜日からジョギングを始めたマミだった。
「朝のジョギングに、昼間のウォーキング・・・これを続けていけば、大人の女性の細みの身体が手に入る・・・」
と、マミは決意する。
「シンイチさんに対する、こんなに強い気持ちは、わたし、始めて・・・だから、わたしは、心も身体も、大人の女性になるの!」
と、マミは決意する。
「大人の女性に、なってみせるの!」
と、マミは決意すると、自然と口元に笑みが戻るマミだった。
夜空には、美しい星がまたたいていた。
(つづく)
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「あなた、若いのに、なかなか、素敵なバーを知っているのねえ」
と、北川ミチコは、感心しながら、鈴木タケルの笑顔を見ている。
「僕も大学時代、精一杯背伸びして、彼女を連れて行く店を探していましたから」
と、スーツ姿の鈴木タケルは言っている。
「そう。確かに、大学生が背伸びして来そうな店ね」
と、北川ミチコは笑顔になる。
「シンイチのことについて、話が聞きたいなんて言われて・・・最初は胡散臭い人物かと思ったわ」
と、ミチコは言葉にする。
「でも、あなたを見たら・・・誠実さが見て取れたから・・・信じても大丈夫ってわかったわ」
と、ミチコは言う。
「わたしも、長くオンナをやってきたから・・・その人物がどういう人物かくらい、見ただけでわかるようになったわ」
と、ミチコは言う。
「僕も・・・音楽プロデューサーなら、人を見る目が長けているだろうと・・・そう踏んで直接事務所に伺ったんです」
と、タケルは言う。
「電話では伝えきれないモノって、たくさんありますからね」
と、タケルは言っている。
「うん。わかるわ・・・それがわかるだけでも・・・あなたも相当おとなね」
と、ミチコは言う。
「それに胆力は、相当なモノ・・・普通若い子は、わたしを前にすると、けっこう萎縮するんだけど、あなたには、それがないわ」
と、ミチコは言う。
「まあ、相当な修羅場を体験してきましたから・・・CIAの手伝いを深夜のニューヨークで、やらされたことも、ありますし・・・」
と、タケルは言う。
「あなた、そんなことしてるの・・・そう・・・それはすごい胆力ね」
と、ミチコは目を見開いてタケルを見る。
「で、本題に入りたいんですけど・・・シンイチさんとの出会いから、まず、話してくださいませんか?」
と、タケルは質問する。
「そうね・・・あれは、シンイチが「朱鷺色ワーカーズ」を結成して2年目のこと・・・ライトミュージックチャンピオンシップで、歌ってたの。彼のバンド」
と、ミチコは懐かしそうに話す。
「ちょうど6年前・・・ミキちゃんがまだ、生きて・・・いつも、応援してたわ。彼女、会場に来て・・・その頃のシンイチはとっても元気だった・・・」
と、ミチコは話す。
「彼の奏でる音楽は素敵だった・・・全身鳥肌がたったの・・・彼の声、彼のパフォーマンス、彼の音楽、すべてに才能があふれていた・・・」
と、ミチコは話す。
「ミキちゃんが亡くなるまでは・・・」
と、ミチコは話す。
、
ミチコは、グラスホッパーのお代わりを貰うと、一口、口をつけてから話しだした。
「それからの彼は・・・はっきり言ってポンコツね。すべては色あせてしまった・・・」
と、ミチコは言う。
「メジャーデビューさせて、人気のバンドにしようと思ってた、わたしの目論見は完全に外れて・・・今じゃ趣味でやってるバンドみたいな体たらく」
と、ミチコは言う。
「シンイチが書く歌に、音楽に魅力が感じられないの。あの頃の輝くような光が消えてしまったの」
と、ミチコは言う。
「バンドのメンバー達も、ロッカーになろうという、若い頃の壮大な夢は消えて、今じゃ、皆、街のおじさんで満足しているわ」
と、ミチコは言う。
「でも、シンイチだけでも・・・わたし、シンイチさえ復活したら、ソロでデビューさせようと思っているの。バックバンドなんて、どうにでもなるから」
と、ミチコは言う。
「吉祥寺の街のバンドで満足していい人間じゃないの・・・シンイチは星なのよ。スターになることが出来るのよ・・・それが・・・」
と、ミチコはそれだけ言うと、小さなため息をついた。
「シンイチさんを、愛しているんですね」
と、タケルはポツリと言った。
「ふ・・・音楽プロデューサーが、アーティストを愛せないで、どうするのよ」
と、ミチコは言ってから、タケルの目を見る。
「あなたはいい目をしているのね・・・キラキラして、いいめぢからをしている」
と、ミチコは言う。
「あなたは、素敵な大人の男性の持つ、特徴をすべて兼ね備えているようね・・・柔らかい素敵な笑顔と、自然な身のこなし、細みのスポーツマン体型・・・」
と、ミチコは言う。
「そして、その強いキラキラした目が、おんなを恋に落とす・・・素敵だわ、あなたも」
と、ミチコは言う。
「どうも・・・」
と、タケルはポツリと言う。
「シンイチさん復活の鍵は・・・何とお考えですか?」
と、タケルはマンハッタンを飲みながら、ミチコに聞いてみる。
「ミキちゃんに変わる存在だわ、きっと・・・男は恋をしていないといい音楽を作れない。愛しさを知らないと、いい歌が書けない・・・アーティストとは、そういうモノよ」
と、ミチコは言い切る。
「だとしたら・・・僕らは協力出来る、ということになりますね」
と、タケルは目をキラリとさせて、ミチコを見ていた。
ミチコも、そのキラキラしたタケルの両目を見ていた。
1月中旬の水曜日の午後2時頃、鈴木タケルの姿は、吉祥寺の天ぷら屋「天富」にあった。
店は午後4時からだったから、その間に話を聞くことになっていた。
「シンイチくんを復活させるために、協力してほしいって、ことでしたね」
と、「天富」の女将、鹿島ミワ(32)は、スーツ姿の鈴木タケルにそう言う。
「ええ・・・先日、シンイチさんの音楽プロデューサーである、北川ミチコさんに会って話を聞いてきました」
と、タケルは話す。
「ミチコさんの話では、シンイチさん復活の鍵は彼に恋人が現れること・・・そういうことだとミチコさんは考えているようです」
と、タケルは話す。
「それは・・・わたしも同感です。シンイチくんは・・・ミキさんを亡くされてから・・・ほんとに元気を無くしてしまって・・・傍で見ていて、かわいそうなくらいです」
と、ミワは話す。
「わたし・・・小学生の頃から高校生になるまで、彼のことが大好きで・・・クラスにひとりいるじゃないですか。勉強も出来るスポーツマン。彼はまさにそれでした」
と、ミワは話す。
「あの頃、同級生の女の子達は、彼をいかに自分のモノにするか・・・ううん。彼に笑顔を貰うことに命をかけてました」
と、ミワは話す。
「彼は女性には、やさしくして、紳士でした・・・誰にでもやさしいところが、玉に瑕でしたけど」
と、ミワは話す。
「でも・・・そんな彼が変わってしまったのは、やっぱり、大学受験で、マイちゃんを亡くしたことだと思います」
と、ミワは話す。
「そして、さらにミキちゃんも亡くした・・・彼、最近、私の店に来てくれた時、「恋をするのが怖い」って言ってたんですよ」
と、ミワは話す。
「「恋をするのが、怖い」・・・それって、恋しそうだから、怖いってことですよね?」
と、タケルが質問する。
「はい。同じようなことをお連れの方に言われてましたから・・・なんとなく聞こえちゃったんですけど」
と、ミワは言い訳をする。
「実は、その事で、お話があるんです」
と、鈴木タケルは笑顔になると、ミワの耳元に言葉を出すのだった。
ミワは思わず笑顔になっていた。
1月中旬の水曜日の午後7時頃。朱鷺色ワーカーズのドラムスの清水コウタと、ベースの左右田タスクは、キーボードの佐藤シンサクの居酒屋で、
一緒にお酒を飲んでいた。
「今日は店はいいのか?」
と、聞くシンサクに、
「今日はひとに任せられる日なんだ」「俺も同じく」
と、コウタとタスクは話していた。
「しかしさー・・・俺達もなんだか、街のオヤジって感じになってきて・・・なんだか、若い頃の夢が消えちまった感じだな」
と、コウタが言う。
「そうだな・・・若いころは世界一のロッカーになるんだって、夢持ってたのにな」
と、シンサク。
「夢かな、それは」
と、タスクがぽつりと言う。
「なにより・・・シンイチがあの状態じゃあなあ・・・」
と、コウタが言う。
「それに俺たちももう若くはないさ。かみさんもいれば、子供もいる。家業もあるし・・・いつまでも若い頃の夢を見ている時代じゃないだろ」
と、シンサクも言う。
「そういうことだな」
と、タスクも寂しそうに言う。
「でもさ、シンイチだけには、復活して欲しくないか?」
と、年長のシンサクが言う。
「そうだな。一度は俺たちに夢を見せてくれた、シンイチだからな」
と、コウタが言う。
「そうだな」
と、タスク。
「俺、思うんだけど、俺達がいつまでも、シンイチの脚を引っ張ってるんじゃないかって・・・そんな風な罪悪感を俺、感じてるんだ」
と、シンサク。
「それはそうかもしれないな。おんぶに抱っこだもん、俺達、シンイチに・・・」
と、コウタ。
「そうだな・・・」
と、タスク。
「あいつが、ああなったのも、ミキさんが亡くなったからだ。だから、シンイチに新しい恋人が出来れば・・・奴は必ず復活する・・・そんな気がするんだ、俺」
と、シンサク。
「そうか、そうかもしれないな」
と、コウタ。
「うん。そうかもしれん」
と、タスク。
「で、考えたんだが・・・最近、「イケメン捜索隊」の女の子達がうろうろしているだろ?彼女達をうまく使えないかと思ってさ。シンイチの復活に」
と、シンサク。
「ほう・・・それはいい考えだ。あの子たち相当、美人だしな。シンイチを恋に落とす方法を皆で考えるか!」
と、コウタ。
「ほう、それはおもしろそうだ」
と、タスク。
男たちの相談は、夜遅くまで続くのであった。
1月中旬の金曜日の午後10時頃。マミは窓から夜空を見つめながら、寂しそうな表情をしていた。
「日曜日からシンイチさんに会っていない・・・あのシンイチさんの暖かい笑顔が見られていない・・」
と、マミは少し悲しくなりながら、夜空を見ている。
「タケルさんの言うように・・・毎日、シンイチさんに会ってきたから・・・あの笑顔を一日に一回見るのが、わたしの楽しい出来事だったから、わたし・・・」
と、マミは考えている。
「たった6日で、辞めたくなってる・・・シンイチさんに会いたくなってる。あの笑顔が見たくてしょうがなくなってる・・・」
と、マミは考えている。
「でも・・・タケルさんとの約束だもの・・・それは我慢しなくちゃ・・・」
と、マミ。
「でも、この会いたい気持ちは、何?・・・こんなに、激しい気持ちがわたしにもあったなんて・・・」
と、マミ。
「過去、わたし、どんな恋でも・・・こんな気持ちになったことがない・・・」
と、マミ。
マミは思い出している・・・シンイチに会ってからの日々を・・・彼を彼氏にすると決意してから、毎日、ウォーキングを重ねてきた日々を。
雨の日も、風の強い日も、マミは、毎日ウォーキングを続けてきた。身体はもう、ウォーキングより強い運動にも慣れ始めていた。
「ウォーキングに慣れてきたら、ジョギングも出来るようになるから。ジョギングは、さらに体脂肪を効率的に、燃やしてくれるから・・・」
と言っていたタケルの言葉を信じ・・・木曜日からジョギングを始めたマミだった。
「朝のジョギングに、昼間のウォーキング・・・これを続けていけば、大人の女性の細みの身体が手に入る・・・」
と、マミは決意する。
「シンイチさんに対する、こんなに強い気持ちは、わたし、始めて・・・だから、わたしは、心も身体も、大人の女性になるの!」
と、マミは決意する。
「大人の女性に、なってみせるの!」
と、マミは決意すると、自然と口元に笑みが戻るマミだった。
夜空には、美しい星がまたたいていた。
(つづく)
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