「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

いつか、桜の樹の下で(6)

2013年03月27日 | アホな自分
渋谷のロフトで数々の雑貨を楽しんだレイカとアイ、ジュンイチとケンタは、ロフトを後にし、道玄坂の中程にある、イタリアンレストランに入っていた。

「水野さん、ここ、なかなか、いいお店ですね。店知らないなんて・・・嘘じゃないですか!」

と、レイカは嬉しそうに笑顔になりながら、ジュンイチにそう言う。

「いやあ、ここは、以前いとこに教わった店で・・・東京にいる、いとこと渋谷で食事した時に使ったんです」

と、ジュンイチは、生真面目にそう応える。

「このペスカトーレ美味しい!・・・いつも食べてるペスカトーレより、何倍も美味しいです。水野さん!」

と、アイは無邪気にそんな風に話している。

「いやあ、僕はあんまり味がよくわからないんですが、いとこに言わせると、東京でも5本の指に入るってことで・・・」

と、ジュンイチは生真面目に答えている。

「水野さんは、ボロネーゼがお好きなんですか?」

と、レイカはボロネーゼを食べているジュンイチに興味深そうに質問する。

「ええ。僕はパスタ料理では、ボロネーゼが一番好きで、大学の学食でも、よく頂くんですが、やっぱり、ここのは、美味しいから」

と、少しリラックスした表情のジュンイチだった。

「わたし、パスタ料理も得意としているんですよ。水野さんに、一度、わたしのボロネーゼも食べて貰いたいわ」

と、レイカは、正面から攻撃をしかけてみる。

「え?九条さんは、料理やるんですか?」

と、ジュンイチは、興味を持ったよう。

「これでも、子供の頃から、母に厳しく躾けられて・・・」

と、レイカは素直に話している。

「へえーそうなんですか・・・」

と、ジュンイチは、素直に興味を持つ。

「わたしの家・・・古い家系なんです。1000年続く家で・・・だから、わたし、高校生の頃は男子に姫って言われていて・・・」

と、レイカはジュンイチへの攻撃を辞めなかった。

「え?1000年続いているんですか?・・・で、姫って言われていたってことは・・・九条さんって、藤原家の流れの、あの九条家の流れですか?」

と、歴史に詳しいジュンイチは、相当驚いている。

「ええ・・・まあ、本流でなく、支流のひとつですけど・・・だから、幼少の頃から、料理は厳しく仕込まれて・・・」

と、レイカはやわらかな笑顔でそう話す。

「はー・・・・っていうか、なんか、緊張してきました、僕・・・」

と、ジュンイチは、少し青ざめた顔でそう言う。

「大丈夫っすか?顔色青いっすよ、先輩」

と、直江ケンタが心配そうに言う。

「いや、おまえ、九条家って、言ったら、すげえんだぜ・・・九条さんがその流れのひととは・・・ちょっと冷や汗出てきた・・・」

と、ジュンイチは、顔色をさらに青くする。

「先輩、今の情報、水野さんには、逆効果だったみたい・・・」

と、アイは、小さな声でレイカに言う。

「ふふ・・・いいのよ、いずれ知られてしまう話だし・・・わたし、この話に少し引け目を感じてるから・・・」

と、少し寂しそうな表情をするレイカだった。


その後、明らかに身体に変調をきたしたジュンイチは・・・完全に調子を失っていた。


店を出て、歩いていても、調子が出ないジュンイチは、直江ケンタと相談すると、

「ちょっと今日は調子悪いんで、別の日にまた、会うことにしましょう。すいません、なんか、僕ダメすね・・・人間小さくて・・・」

と、ジュンイチは言うと、直江ケンタを連れて、渋谷の街を後にしていった。


レイカは悲しかった。中学生の頃から、同じような悲劇には、何度も見舞われたが今回のが一番悲しかった。


レイカはアイと近くのカフェに入り、コーヒーを注文した。

春の日の土曜日は、渋谷は幸せそうなカップルで一杯だった。

それを横目で見ながら、レイカは悲しくコーヒーを飲むしか無かった。

「水野さんって、普段は、生真面目すぎるみたいですね。なんか、女性に気を使いすぎていっぱいいっぱいになっちゃうタイプっていうか・・・」

と、アイは的確にジュンイチを見抜いていた。

「でも、水野さんって、おもしろい・・・飲み会の時は、あんなに豪快に、たくさんの女性たちを一遍に楽しく出来るひとなのに・・・普段は真逆・・・」

と、アイは少し笑顔になりながら、そう話す。

「すごーく真面目になっちゃって、生真面目で、一言話すのにも、かなり女性に気を使って・・・なんか興味を引く男性ですよねー」

と、アイは以前より、さらに水野に興味を持ったよう。

「自分のことなんて、どうでもいい。目の前の女性がしあわせになってくれれば・・・そんな風に思っているひとなのよ。きっと」

と、レイカはジュンイチをそう見ていた。

「だから、早めにあの情報を彼にぶつけてみたの。まあ、予想どおりの反応だったけど・・・」

と、レイカは話す。

「ただ、やさしいだけのひとだったら・・・俺の手には負えない的に身を引いちゃうだろうけど、彼はきっと違うはずだわ・・・」

と、レイカは言葉にする。

「だって、飲み会の時の彼は・・・きっと彼の本性は、あの飲み会の時の豪快で知恵のくるくる回る彼なんだわ・・・だから、絶対に気の小さいだけのひとではないわ」

と、レイカは言葉にする。


「リベンジをしてくる・・・そう言いたいんですか?」

と、アイが半信半疑な様子で言う。


と、そこで、レイカの携帯電話が鳴る。

水野ジュンイチの名前が光る。

「水野さんだわ!」

と、レイカは嬉しそうに電話に出る。

「レイカです!」

と、レイカが思わず叫ぶと、

「九条さん・・・さっきはすみませんでした。でも、俺、ちょっと考えなおして・・・」

と、暖かいジュンイチの声が聞こえる。

「明日、同じメンバーで、もう一度会えませんか?明日は11時半待ち合わせで・・・109の地下一階。リベンジ、お願いします」

と、ジュンイチの暖かい声が響く。

「水野さんが、明日、11時半待ち合わせで、同じメンバーでってリベンジさせてって言ってるけど、アイ、明日大丈夫?」

と、レイカがアイに聞く。

すると、アイは笑顔で、親指を立てる。

「大丈夫です。明日、楽しみにしてますから!」

と、レイカが言うと、

「九条さん、ありがとう!」

と、言って電話は切れた。


「ね。だから、大丈夫って、言ったじゃない」

と、レイカはアイに笑顔で言う。

「立ち直りが早いタイプって言うか・・・水野さん・・・受け入れることが出来たんでしょうね。九条先輩のすごい境遇を・・・」

と、アイが真面目に話す。

「1000年の血筋を引く九条家のお嬢様なんて・・・そんなすごい境遇を支えられる男子って、そんなにいないでしょうからねー」

と、アイが言う。

「ま、でも、あの飲み会での水野さんを考えれば・・・彼なら、悠々と対応出来る・・・あの時の水野さんを考えればいいんだ・・・」

と、アイは笑う。

「そうよ。あの彼を思い出せばいいのよ・・・きっとあれが彼の本性・・・彼ならきっと出来ると思ってた・・・」

と、レイカはほっとすると同時に涙がこみあげてきた。

「先輩・・・」

と、アイがレイカの涙を見て思わず声をかける。

「中学生の頃から、この境遇のせいで、男子に引かれてたの。わたし・・・」

と、レイカが言葉にする。

「好きな男子が出来ても・・・皆引いてた・・・高校生になったら、引かれなくなったけど、今度は明確に好きな男性は出来なかった・・・」

と、レイカは言葉にする。

「唯一心を許せた幼馴染は、やさしかったけれど・・・でも、やっぱり、こころのどこかで、私の境遇を負担にしてた・・・それが明確にわかっていたの。わたし・・・」

と、レイカは言葉にする。

「高校生の頃、なにかあったんですか?先輩」

と、アイが聞く。


「ねえ、トオルくんは、好きなひと、いないの?」

と、高校2年生のレイカは、幼馴染の土岐田トオルに学校帰りに一緒に歩きながら聞いている。

「いないわけじゃないけど・・・俺、恋人は大学に入ってから、作ることにしたんだ」

と、トオルはレイカにそう言った。

「なぜ?」

と、レイカがトオルにそう聞くと、

「俺、今の自分に価値を感じられないんだよ・・・」

と、トオルは言う。

「価値を感じられないうちは、オトコは・・・オンナをしあわせに出来ないと思うんだ」

と、トオルは言う。

「そうなの?」

と、レイカは聞く。

「ああ。オトコって、そういう生き物なんだよ。自分に価値のないオトコは、女性を好きになってはいけないんだ」

と、トオルは言う。

「だから、俺は大学に入って、自分に価値を感じられるようになったら、好きなオンナを作って、恋人にするんだ」

と、トオルは言う。

「だから、今は・・・大学に入るために勉強しているんだ・・・」

と、トオルは言った。

「そういうものなの?」

と、レイカは不思議そうにトオルに言う。

「そういうものなの・・・オトコってそういう生き物なんだ」

と、言うトオルを不思議そうに見ていたレイカだった。


「そんなことがあったんですか・・・」

と、アイはレイカを見ながら、感心したように話す。

「っていうか・・・その話、今日の水野さんの気持ちなんじゃないですか?」

と、アイは指摘する。

「先輩の価値があまりにすごすぎて・・・自分じゃバランスを取れないと思った水野さんは変調をきたして帰った・・・でも、水野さんは何かの価値を自分に見つけたのかも」

と、アイが言う。

「そうよ・・・きっとそうに違いないわ」

と、レイカ。

「でも、オトコって、面倒くさい生き物ですね」

と、アイ。

「そうね・・・でも、だから、かわいいんじゃない・・・」

と、レイカ。

「え?どこがですか?」

と、アイ。

「彼はきっとわたしの価値を飲み込んでくれたのよ。自分のお腹の中に・・・そして、自分の価値も見つけて、わたしたちに明日会いに来てくれるの」

と、レイカ。

「わたしたちを笑顔にするために、明日必死になってやってくるの。水野さんは・・・そこがかわいいの」

と、レイカがやわらかい表情で言うと、

「なるほど・・・必死に、ですか。あの水野さんが。確かに、かわいい・・・」

と、アイも言うのだった。


二人はなんとなくやわらかい笑顔で、微笑み合うのだった。


(つづく)

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