1月上旬の水曜日、午前12時半頃、マミとミサトとミウ、そして鈴木タケルは、カフェのカウンターで、カフェのマスター、ジュウゴと話していた。
「シンイチとは、幼稚園の頃からの仲間で・・・あいつは、小学生の頃から、同級生の女の子にモテモテでしたよ」
と、ジュウゴはコーヒーを飲みながら話している。
「まあ、そんな感じですもんねー」
と、鈴木タケルは話している。
「でも、あいつは・・・理想が高いっていうか・・・両想いになったことって、高校生になるまで、無かったんじゃないかな」
と、ジュウゴは話す。
「じゃあ、高校生の時に、初めて恋に落ちた・・・そういうことですか。シンイチさんは」
と、タケルは話している。
「そう・・・あいつ高校時代はサッカーをやっていて、センターフォワードだったんです。まあ、モテますよね、普通に」
と、ジュウゴは話している。
「彼の恋の相手は、サッカー部のマネージャー・・・美人な女の子で、高校のマドンナの女性・・・綺麗で可憐な美しい女性でしたね」
と、ジュウゴは話している。
「美島マイさん・・・性格が良くて、美しい女性でした・・・」
と、ジュウゴは思い出すように話している。
「性格が良くて美しい女性・・・シンイチさんとそのマイさんとの恋は、その後、どんな感じになるんですか?」
と、タケルが慎重に言葉を選んで質問している。
「まあ、シンイチには可哀想なことになったんだけど・・・彼女、大学受験に行く途中で、交通事故に遭って・・・亡くなっちゃったんだ」
と、ジュウゴは、遠い目をしながら話す。
「それって・・・ミキさんと同じじゃ・・・」
と、ミサトが指摘する。
「それだ・・・それが今のシンイチさんを頑なにしている原因そのものだ・・・」
と、鈴木タケルが言葉にする。
「あいつ、彼女が亡くなった時も責任感じちゃってさ・・・同じ大学同じ学部を受験するのに、何故一緒に行かなかったんだって、泣いてたよ」
と、ジュウゴが言葉にする。
「そうか・・・それで、シンイチさんは、最初、ミキさんになびかなかったんだ。それが原因だ・・・」
と、タケルは言葉にする。
「そして、今度はミキさんを同じようにして失った・・・シンイチさんは、自分が恋すると相手は必ず死んでしまうというトラウマに取り憑かれているんだ」
と、タケルは言葉にする。
「これは、厄介だなあ・・・」
と、タケルは、マミを見ながら、臍を噛んでいた。
1月上旬の水曜日、午後6時半頃、シンイチは、吉祥寺南口にある、天ぷら屋「天富」で、大学の後輩で、近くで花屋「豪快屋」を営む、時田ゴウ(28)と、
酒を楽しみながら、天ぷらを食べていた。
「シンイチくん、このところご無沙汰だったじゃない」
と、「天富」の女将、鹿島ミワ(33)が甘えた表情で言う。
「まあ、いろいろあってね」
と、シンイチは、小学校で同級だったミワには、慣れた口調で話している。
「シンイチさんって、ミワさんの初恋の相手なんでしょ?」
と、ゴウが笑顔でツッコミを入れる。
「そうよー・・・でも、シンイチくんは全然振り向いてくれなくて・・・泣く泣く諦めたのよ。高校生の時」
と、ミワは屈託なく話している。
「ほんとに諦めたんですかあ?僕は今でも、ミワさんがシンイチさんに恋してる・・・恋は現役だと思いますけどね」
と、ゴウが素直に話している。
「大人の女性の仕事は毎日素敵な男性に恋すること・・・いいじゃない、恋くらいしたって・・・お店の為に、婿まで貰って、こうして働いているんだもん、それくらいねー」
と、ミワは満更でもない表情で話している。
「ミワちゃんには、悪いと思っているよ。俺も若い頃は、少し傲慢なところがあって・・・ミワちゃんは綺麗だと思ったけど、幼馴染と付き合うのは、違うだろって思ってさ」
と、シンイチは正直に自分の気持ちを述べている。
「ううん、いいのよ・・・シンイチくんは、少し傲慢なくらいがいいのよ・・・急にやさしい男になられても、こっちが調子狂っちゃうわ」
と、あくまで、シンイチにやさしいミワだった。
「ま、シンイチくんにわがまま言わせて貰えば・・・2週間に一回じゃなくて、週一くらいで、顔を出してくれると嬉しいんだけどな」
と、ミワはシンイチに甘えている。
「シンイチさんは、大人の女性にもモテるからな・・・羨ましい限りですよ」
と、ゴウが日本酒を楽しみながら、話している。
「でも、ミワちゃん・・・俺思うけど・・・「天富」の天ぷらは、天下一品だと思うよ。それは確かだ」
と、シンイチは、さわやかな笑顔で、口にした。
「その笑顔が、わたしを蕩かすのよねー」
と、ミワは口にして、笑顔で、店裏に戻った。
「恋することが、怖いって、どういうことですか?」
と、ゴウは少し驚いた感じで、シンイチに聞いている。
「俺が恋をすると・・・相手が死んじゃうんだ・・・マイもミキも・・・皆死んじゃうんだ」
と、シンイチが口にする。
「俺は始終夢を見ている・・・俺が恋した途端、死んじまった彼女達の夢を」
と、シンイチは吐露する。
「精一杯の笑顔をくれた彼女達が・・・しあわせの絶頂で、笑顔をくれなくなってしまう」
と、シンイチは言う。
「もう、いやなんだ。そんなことの繰り返しは・・・」
と、シンイチは言う。
「ってことは、新しい恋を見つけてしまったってことですか?シンイチさん」
と、ゴウが聞くと、驚いた表情をするシンイチ。
「新しい恋を見つけた?この俺が?」
と、シンイチは、ゴウに迫っている。
「だって、そうなりますよ。恋を見つけたから、恋することが、怖いんでしょう?」
と、ゴウに言われて、鼻をつままれたような表情になるシンイチ。
「恋している相手がいるから、その相手がいなくなることを怖がっているんでしょう?」
と、ゴウに言われたシンイチは、自分がよくわからなくなっていた。
1月中旬の日曜日、午後12時頃、吉祥寺のカフェ「アルカンシェル」には、マミとミサトとミウ、そして、鈴木タケルが集まっていた。
「よし、作戦は次の段階に入る・・・今日から当分、マミちゃんは、「華可憐」に行くな。わかったな」
と、鈴木タケルは司令していた。
「今まで毎日押してきたんだ。恋は化学変化だ・・・シンイチさんだって、朴念仁じゃない・・・必ず心のどこかで、マミちゃんを愛しく思っているはずだ」
と、タケルはそう読んでいた。
「その今こそ、マミちゃんは消えるんだ・・・そうすれば、シンイチさんだって、大きな喪失感を感じるはずだ」
と、タケルは説明している。
「その時、シンイチさんは、これが本当の恋だということを実感する・・・そうなれば、しめたものさ」
と、タケルは説明している。
「まあ、マミちゃん自身だって、昨日まで、毎日シンイチさんに会ってきたんだ。君もシンイチさんに会えない寂しさを感じるだろう。喪失感を感じるだろう」
と、タケルは説明する。
「だけど、そこで、我慢することが、シンイチさんを恋に落とすことになるんだ。だから、ここが肝心なんだよ。わかるね、マミちゃん」
と、タケルが言うと、コクリと頷くマミだった。
「でも・・・タケルさんって、まるで、恋の魔法使いのようですね」
と、ミサトが感心したように話す。
「ふふ・・・わたしもそう思うわ。なんとなく、シンイチさんの心も、タケルさんの思うがままって感じだし」
と、ミウも笑顔。
「まあね。僕も今まで、全力で恋されてきたからね・・・相手を恋に落とすには・・・ちょっとしたコツさえ掴んでいれば、それでいいってことさ」
と、タケルも笑顔。
「それ、わかります・・・タケルさんは、たくさんの女性を恋に落としてきたんでしょうね」
と、ミサトが言う。
「本当の大人の男性・・・タケルさんは、そんな感じですもんね」
と、ミウが言う。
「で、わたしは、どれくらい消えていればいいでしょうか?」
と、マミが心配そうにタケルに聞く。
「ん。そうだな。まずは、1週間様子を見よう。様子次第で、作戦は逐次変更される。ま、シンイチさんの様子は、ジュウゴさんに探ってもらえばいいし・・・」
と、タケルは涼しい顔をしている。
「じゃあ、私達もシンイチさんの前から消えるようにしましょうか?」「私も?」
と、ミサトとミウが言う。
「いや、君たちには、重要な役目があるんだ。まあ、だから、ここでの会議は続けていこう・・・で、プロジェクトも次の段階に入ろう」
と、タケルは言うと、「マミ恋愛プロジェクト」の冊子を出す。マミも、ミサトも、ミウも出す。
「バレンタインまでにすべき10個の事・・・(6)彼氏にしたい男の女性からの評判を調べる」
「というわけだが・・・シンイチさんのことをわかってる女性って、誰がいるんだろう・・・俺は義理の姉のユキさんくらいしか、わからんし・・・」
と、頭を抱えているタケルの横に、身のこなしの美しい、スラリと背の高い女性が立つ。
と、その気配に気がついたタケルは、その女性の顔を見て思い切り驚く。
「リサ・・・おまえ、アメリカに行って、CIAになったんじゃなかったのか?」
と、タケルは、クリスマスイブに助けてあげたリサの突然の出現に、声が完全に裏返っていた。
「はじめましてね、タケル・・・リョウコから手紙を預かってきたわ。それに、今私は、日本の公安と共同作戦をしている最中だから、日本にいるのよ」
と、笑顔の美しい大人の女性は言った。
「これで、あなたに借りた借りが返せるとは思わないけれど・・・何百分の一は、返せるかも・・・」
と、笑顔になったリサは、
「ありがとう、タケル・・・イブのプレゼント、最高だったわ」
と、言いながら、いきなり、タケルの右の頬にキスすると、マキとミサトとミウに、やさしくウィンクして帰っていった。
一同絶句していた。
「あ、あのー・・・あれ、誰なんですか。なんか、すっごく美しい女性でしたけど」
と、ミサトが驚きながら、言葉にする。
「そ、そうですよ・・・っていうか・・・今、キスしましたよね・・・あの女性」
と、マミも驚いている。
「タケルさんって・・・私の想像以上の男性ですわ」
と、ミウも完全に呆気にとられていた。
、
「いやあ、あれは、このあいだのイブに助けてあげた女性なんだ・・・まあ、それはいいとして・・・」
と、タケルは日本の公安で仕事をしているリョウコからの手紙を読んでいる。
「タケルさん、お久しぶりです。イブ以来会っていないので、正直寂しいです。また、時間があったら、会わせてくださいね」
「で・・・道明寺シンイチのことを知る女性は2人。吉祥寺の天ぷら屋「天富」女将、鹿島ミワ(33)。道明寺シンイチの小学生時代の同級生です」
「音楽プロデューサーの北川ミチコ(36)。道明寺シンイチの音楽活動をバックアップしている女性です。事務所は・・・」
「くれぐれも気をつけてくださいね。アイリさんに連絡を頂いた時は、正直うれしかったです。だって、タケルさんの為に働けるんですから」
「では、元気で。リョウコ」
「P.S.リサがタケルさんに、お礼をしたいと言っていたので、今回行かせました。彼女、何かしました?」
「そういうことか・・・」
と、タケルはひとりごちた。
「どういうことなんですか?」
と、ミサトが質問している。
「いやあ、フィアンセに「道明寺シンイチの女性の知り合いがわからない」って、愚痴ったら、それが巡り巡って彼女の派遣につながったってことさ」
と、タケルは簡単に説明している。
「タケルさんって、どういう背後関係を持っているんですか?」
と、マミとミサトとミウは、リョウコからの手紙を見ながら、正直驚いていた。
「いや、まあね・・・僕もいろいろあってね」
と、頭を掻くタケルを見ながら、驚きを隠せないマミ、ミサト、ミウだった。
「いずれにしろ、このリョウコって女性も、さっきのリサって女性も、タケルさんに感謝しているってことですね」
と、ミサトは見破る。
「まあ、男性は女性をしあわせにして、なんぼだからね」
と、鈴木タケルは言う。
ミサトとミウとマミは、そんな鈴木タケルのすごさを、改めて感じていた。
「うーん、鹿島ミワと北川ミチコか・・・どちらも大人の女性・・・これは、俺が出張るしかないようだなあ」
と、鈴木タケルは話している。
「確かに、私達では、手に負えない感じがします」
と、ミサト。
「つむじを曲げられてもいけないし」
と、ミウもそう言う。
「よし、この会議は、次は、土曜日としよう。マミちゃんは、もちろんトレーニング続けてるよね」
と、タケルが言うと、
「もちろんです。毎日、たくさんウォーキングしています」
と、マミは言う。
「ん?心なしか、頬も少しこけてきたかな?」
と、タケルはマミを見て言う。
「ほんとですか?体重は1キロしか落ちてませんよ」
と、マミは言う。
「大丈夫。今は多分停滞期だ・・・そのうち、また、落ち始めるから」
と、タケルは涼しい顔をして言う。
「とにかく、マミちゃんは、シンイチさんに会わないことだ・・・それが大事だからね」
と、タケルはマミに念押し。
「で、土曜日までに、僕が鹿島ミワと北川ミチコに会って、話を聞いてくる」
と、タケルはマミとミサトとミウに言う。
「じゃあ、解散!」
とタケルが言うと、4人は解散していくのだった。
(つづく)
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→物語の初回へ
→「ラブ・クリスマス!」初回へ
「シンイチとは、幼稚園の頃からの仲間で・・・あいつは、小学生の頃から、同級生の女の子にモテモテでしたよ」
と、ジュウゴはコーヒーを飲みながら話している。
「まあ、そんな感じですもんねー」
と、鈴木タケルは話している。
「でも、あいつは・・・理想が高いっていうか・・・両想いになったことって、高校生になるまで、無かったんじゃないかな」
と、ジュウゴは話す。
「じゃあ、高校生の時に、初めて恋に落ちた・・・そういうことですか。シンイチさんは」
と、タケルは話している。
「そう・・・あいつ高校時代はサッカーをやっていて、センターフォワードだったんです。まあ、モテますよね、普通に」
と、ジュウゴは話している。
「彼の恋の相手は、サッカー部のマネージャー・・・美人な女の子で、高校のマドンナの女性・・・綺麗で可憐な美しい女性でしたね」
と、ジュウゴは話している。
「美島マイさん・・・性格が良くて、美しい女性でした・・・」
と、ジュウゴは思い出すように話している。
「性格が良くて美しい女性・・・シンイチさんとそのマイさんとの恋は、その後、どんな感じになるんですか?」
と、タケルが慎重に言葉を選んで質問している。
「まあ、シンイチには可哀想なことになったんだけど・・・彼女、大学受験に行く途中で、交通事故に遭って・・・亡くなっちゃったんだ」
と、ジュウゴは、遠い目をしながら話す。
「それって・・・ミキさんと同じじゃ・・・」
と、ミサトが指摘する。
「それだ・・・それが今のシンイチさんを頑なにしている原因そのものだ・・・」
と、鈴木タケルが言葉にする。
「あいつ、彼女が亡くなった時も責任感じちゃってさ・・・同じ大学同じ学部を受験するのに、何故一緒に行かなかったんだって、泣いてたよ」
と、ジュウゴが言葉にする。
「そうか・・・それで、シンイチさんは、最初、ミキさんになびかなかったんだ。それが原因だ・・・」
と、タケルは言葉にする。
「そして、今度はミキさんを同じようにして失った・・・シンイチさんは、自分が恋すると相手は必ず死んでしまうというトラウマに取り憑かれているんだ」
と、タケルは言葉にする。
「これは、厄介だなあ・・・」
と、タケルは、マミを見ながら、臍を噛んでいた。
1月上旬の水曜日、午後6時半頃、シンイチは、吉祥寺南口にある、天ぷら屋「天富」で、大学の後輩で、近くで花屋「豪快屋」を営む、時田ゴウ(28)と、
酒を楽しみながら、天ぷらを食べていた。
「シンイチくん、このところご無沙汰だったじゃない」
と、「天富」の女将、鹿島ミワ(33)が甘えた表情で言う。
「まあ、いろいろあってね」
と、シンイチは、小学校で同級だったミワには、慣れた口調で話している。
「シンイチさんって、ミワさんの初恋の相手なんでしょ?」
と、ゴウが笑顔でツッコミを入れる。
「そうよー・・・でも、シンイチくんは全然振り向いてくれなくて・・・泣く泣く諦めたのよ。高校生の時」
と、ミワは屈託なく話している。
「ほんとに諦めたんですかあ?僕は今でも、ミワさんがシンイチさんに恋してる・・・恋は現役だと思いますけどね」
と、ゴウが素直に話している。
「大人の女性の仕事は毎日素敵な男性に恋すること・・・いいじゃない、恋くらいしたって・・・お店の為に、婿まで貰って、こうして働いているんだもん、それくらいねー」
と、ミワは満更でもない表情で話している。
「ミワちゃんには、悪いと思っているよ。俺も若い頃は、少し傲慢なところがあって・・・ミワちゃんは綺麗だと思ったけど、幼馴染と付き合うのは、違うだろって思ってさ」
と、シンイチは正直に自分の気持ちを述べている。
「ううん、いいのよ・・・シンイチくんは、少し傲慢なくらいがいいのよ・・・急にやさしい男になられても、こっちが調子狂っちゃうわ」
と、あくまで、シンイチにやさしいミワだった。
「ま、シンイチくんにわがまま言わせて貰えば・・・2週間に一回じゃなくて、週一くらいで、顔を出してくれると嬉しいんだけどな」
と、ミワはシンイチに甘えている。
「シンイチさんは、大人の女性にもモテるからな・・・羨ましい限りですよ」
と、ゴウが日本酒を楽しみながら、話している。
「でも、ミワちゃん・・・俺思うけど・・・「天富」の天ぷらは、天下一品だと思うよ。それは確かだ」
と、シンイチは、さわやかな笑顔で、口にした。
「その笑顔が、わたしを蕩かすのよねー」
と、ミワは口にして、笑顔で、店裏に戻った。
「恋することが、怖いって、どういうことですか?」
と、ゴウは少し驚いた感じで、シンイチに聞いている。
「俺が恋をすると・・・相手が死んじゃうんだ・・・マイもミキも・・・皆死んじゃうんだ」
と、シンイチが口にする。
「俺は始終夢を見ている・・・俺が恋した途端、死んじまった彼女達の夢を」
と、シンイチは吐露する。
「精一杯の笑顔をくれた彼女達が・・・しあわせの絶頂で、笑顔をくれなくなってしまう」
と、シンイチは言う。
「もう、いやなんだ。そんなことの繰り返しは・・・」
と、シンイチは言う。
「ってことは、新しい恋を見つけてしまったってことですか?シンイチさん」
と、ゴウが聞くと、驚いた表情をするシンイチ。
「新しい恋を見つけた?この俺が?」
と、シンイチは、ゴウに迫っている。
「だって、そうなりますよ。恋を見つけたから、恋することが、怖いんでしょう?」
と、ゴウに言われて、鼻をつままれたような表情になるシンイチ。
「恋している相手がいるから、その相手がいなくなることを怖がっているんでしょう?」
と、ゴウに言われたシンイチは、自分がよくわからなくなっていた。
1月中旬の日曜日、午後12時頃、吉祥寺のカフェ「アルカンシェル」には、マミとミサトとミウ、そして、鈴木タケルが集まっていた。
「よし、作戦は次の段階に入る・・・今日から当分、マミちゃんは、「華可憐」に行くな。わかったな」
と、鈴木タケルは司令していた。
「今まで毎日押してきたんだ。恋は化学変化だ・・・シンイチさんだって、朴念仁じゃない・・・必ず心のどこかで、マミちゃんを愛しく思っているはずだ」
と、タケルはそう読んでいた。
「その今こそ、マミちゃんは消えるんだ・・・そうすれば、シンイチさんだって、大きな喪失感を感じるはずだ」
と、タケルは説明している。
「その時、シンイチさんは、これが本当の恋だということを実感する・・・そうなれば、しめたものさ」
と、タケルは説明している。
「まあ、マミちゃん自身だって、昨日まで、毎日シンイチさんに会ってきたんだ。君もシンイチさんに会えない寂しさを感じるだろう。喪失感を感じるだろう」
と、タケルは説明する。
「だけど、そこで、我慢することが、シンイチさんを恋に落とすことになるんだ。だから、ここが肝心なんだよ。わかるね、マミちゃん」
と、タケルが言うと、コクリと頷くマミだった。
「でも・・・タケルさんって、まるで、恋の魔法使いのようですね」
と、ミサトが感心したように話す。
「ふふ・・・わたしもそう思うわ。なんとなく、シンイチさんの心も、タケルさんの思うがままって感じだし」
と、ミウも笑顔。
「まあね。僕も今まで、全力で恋されてきたからね・・・相手を恋に落とすには・・・ちょっとしたコツさえ掴んでいれば、それでいいってことさ」
と、タケルも笑顔。
「それ、わかります・・・タケルさんは、たくさんの女性を恋に落としてきたんでしょうね」
と、ミサトが言う。
「本当の大人の男性・・・タケルさんは、そんな感じですもんね」
と、ミウが言う。
「で、わたしは、どれくらい消えていればいいでしょうか?」
と、マミが心配そうにタケルに聞く。
「ん。そうだな。まずは、1週間様子を見よう。様子次第で、作戦は逐次変更される。ま、シンイチさんの様子は、ジュウゴさんに探ってもらえばいいし・・・」
と、タケルは涼しい顔をしている。
「じゃあ、私達もシンイチさんの前から消えるようにしましょうか?」「私も?」
と、ミサトとミウが言う。
「いや、君たちには、重要な役目があるんだ。まあ、だから、ここでの会議は続けていこう・・・で、プロジェクトも次の段階に入ろう」
と、タケルは言うと、「マミ恋愛プロジェクト」の冊子を出す。マミも、ミサトも、ミウも出す。
「バレンタインまでにすべき10個の事・・・(6)彼氏にしたい男の女性からの評判を調べる」
「というわけだが・・・シンイチさんのことをわかってる女性って、誰がいるんだろう・・・俺は義理の姉のユキさんくらいしか、わからんし・・・」
と、頭を抱えているタケルの横に、身のこなしの美しい、スラリと背の高い女性が立つ。
と、その気配に気がついたタケルは、その女性の顔を見て思い切り驚く。
「リサ・・・おまえ、アメリカに行って、CIAになったんじゃなかったのか?」
と、タケルは、クリスマスイブに助けてあげたリサの突然の出現に、声が完全に裏返っていた。
「はじめましてね、タケル・・・リョウコから手紙を預かってきたわ。それに、今私は、日本の公安と共同作戦をしている最中だから、日本にいるのよ」
と、笑顔の美しい大人の女性は言った。
「これで、あなたに借りた借りが返せるとは思わないけれど・・・何百分の一は、返せるかも・・・」
と、笑顔になったリサは、
「ありがとう、タケル・・・イブのプレゼント、最高だったわ」
と、言いながら、いきなり、タケルの右の頬にキスすると、マキとミサトとミウに、やさしくウィンクして帰っていった。
一同絶句していた。
「あ、あのー・・・あれ、誰なんですか。なんか、すっごく美しい女性でしたけど」
と、ミサトが驚きながら、言葉にする。
「そ、そうですよ・・・っていうか・・・今、キスしましたよね・・・あの女性」
と、マミも驚いている。
「タケルさんって・・・私の想像以上の男性ですわ」
と、ミウも完全に呆気にとられていた。
、
「いやあ、あれは、このあいだのイブに助けてあげた女性なんだ・・・まあ、それはいいとして・・・」
と、タケルは日本の公安で仕事をしているリョウコからの手紙を読んでいる。
「タケルさん、お久しぶりです。イブ以来会っていないので、正直寂しいです。また、時間があったら、会わせてくださいね」
「で・・・道明寺シンイチのことを知る女性は2人。吉祥寺の天ぷら屋「天富」女将、鹿島ミワ(33)。道明寺シンイチの小学生時代の同級生です」
「音楽プロデューサーの北川ミチコ(36)。道明寺シンイチの音楽活動をバックアップしている女性です。事務所は・・・」
「くれぐれも気をつけてくださいね。アイリさんに連絡を頂いた時は、正直うれしかったです。だって、タケルさんの為に働けるんですから」
「では、元気で。リョウコ」
「P.S.リサがタケルさんに、お礼をしたいと言っていたので、今回行かせました。彼女、何かしました?」
「そういうことか・・・」
と、タケルはひとりごちた。
「どういうことなんですか?」
と、ミサトが質問している。
「いやあ、フィアンセに「道明寺シンイチの女性の知り合いがわからない」って、愚痴ったら、それが巡り巡って彼女の派遣につながったってことさ」
と、タケルは簡単に説明している。
「タケルさんって、どういう背後関係を持っているんですか?」
と、マミとミサトとミウは、リョウコからの手紙を見ながら、正直驚いていた。
「いや、まあね・・・僕もいろいろあってね」
と、頭を掻くタケルを見ながら、驚きを隠せないマミ、ミサト、ミウだった。
「いずれにしろ、このリョウコって女性も、さっきのリサって女性も、タケルさんに感謝しているってことですね」
と、ミサトは見破る。
「まあ、男性は女性をしあわせにして、なんぼだからね」
と、鈴木タケルは言う。
ミサトとミウとマミは、そんな鈴木タケルのすごさを、改めて感じていた。
「うーん、鹿島ミワと北川ミチコか・・・どちらも大人の女性・・・これは、俺が出張るしかないようだなあ」
と、鈴木タケルは話している。
「確かに、私達では、手に負えない感じがします」
と、ミサト。
「つむじを曲げられてもいけないし」
と、ミウもそう言う。
「よし、この会議は、次は、土曜日としよう。マミちゃんは、もちろんトレーニング続けてるよね」
と、タケルが言うと、
「もちろんです。毎日、たくさんウォーキングしています」
と、マミは言う。
「ん?心なしか、頬も少しこけてきたかな?」
と、タケルはマミを見て言う。
「ほんとですか?体重は1キロしか落ちてませんよ」
と、マミは言う。
「大丈夫。今は多分停滞期だ・・・そのうち、また、落ち始めるから」
と、タケルは涼しい顔をして言う。
「とにかく、マミちゃんは、シンイチさんに会わないことだ・・・それが大事だからね」
と、タケルはマミに念押し。
「で、土曜日までに、僕が鹿島ミワと北川ミチコに会って、話を聞いてくる」
と、タケルはマミとミサトとミウに言う。
「じゃあ、解散!」
とタケルが言うと、4人は解散していくのだった。
(つづく)
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