「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「バレンタインまでにすべき10の事 ~吉祥寺ラバーズ~」(11)

2013年02月18日 | アホな自分
1月下旬の土曜日の午前11時半頃。マミとミサトとミウ、そして、鈴木タケルは、吉祥寺のカフェ「アルカンシェル」に集まっていた。

「さて、「マミ恋愛プロジェクト」だが・・・かなり進捗してきたから、その進捗状況を確認するか・・・とマミちゃん」

と、鈴木タケルが話す。

「はい・・・わたしですか?」

と、マミは赤いメガネをずり上げながら、言葉を出す。

「トレーニングの方はどうかな?・・・と、ぱっと見、痩せたな、明らかに・・・」

と、タケルは改めてマミを見て、そう言葉にする。

「はい・・・木曜日から朝はジョギングに切り替えることが出来て・・・体重も2,4キロ減、というところで・・・」

と、マミは明るい表情で言葉にする。

「おう・・・いい感じじゃないか・・・ジョギングが効いてるな。停滞期を抜けだしたんだ。これから、ガンガン体脂肪が燃えてくれるぞ」

と、笑顔の鈴木タケル。

「すべて君の努力の賜物だよ・・・うん、これなら、行ける。自信を持つんだ、マミちゃん」

と、タケルがマミの頭を撫でてやると、嬉しそうにするマミ。

「君たちも、そう思うだろ?」

と、タケルがミサトとミウに促すと、

「マミ、綺麗になってるわ。大人の女性へ近づいている」

と、ミサト。

「そうよ。あなたは、真面目だし、努力すれば、絶対に大人のいい女になれると思ったもの」

と、ミウ。

「ありがとう、二人共」

と、笑顔になるマミ。


「で、だ・・・確か僕は最初の方で、こう言ったね「恋は仲間づくりなんだ」ってね。その仲間づくりがまた進んだよ」

と、笑顔で報告を開始するタケルだった。

マミとミサトとミウは、真面目な顔でタケルの報告に聞き入っている。

「シンイチさんの音楽プロデューサーの、北川ミチコさんに火曜日に会ってきた。「朱鷺色ワーカーズ」は、ビッグなロックバンドになる夢を持っていたそうだ。若い頃は」

と、タケルは語る。

「それがミキさんの死によって、トラウマを抱えたシンイチさんの絶不調により・・・今じゃ、街のロックバンド風情・・・それを解消したいとミチコさんは考えている」

と、タケルは語る。

「そのミチコさんのシンイチさん復活劇のシナリオは・・・シンイチさんを再度、本物の運命の恋に落とし、彼を完全に復活させること・・・そこに絞っていた」

と、タケルは語る。

「どうだい?僕らと接点が見えてきただろ?なあ、ミサトちゃん」

と、タケルが振ると、

「私達の方が先に・・・シンイチさんを本物の運命の恋に落とそうとしているんだから・・・ミチコさんに、今私達がしていることを話したんですね」

と、ミサトは冷静に語る。

「そういうことだ・・・彼女は僕に「そんなこと、ほんとに出来るの?シンイチはかなり頑固者よ・・・」と、言ったけどね」

と、タケル。

「「大丈夫。すべては予定通り、進んでます。大船に乗ったつもりで、いてくださいよ」って、俺は言ったけどね。実際、プラン通り、すべてはうまくいってるしね」

と、タケルは言うと、マミにウィンク。

「まあ、ミチコさんは、最終的に僕らを応援してくれることに決めてくれた・・・まあ、いずれ、彼女とマミちゃんを引きあわせなければいけないが・・・まだ、先の話だけどね」

と、タケルは言う。


「それから、水曜日には、シンイチさんの幼馴染の天ぷら屋「天富」の鹿島ミワさんに会ってきた。彼女は重大な証言をしてくれたよ」

と、タケルは話す。

「重大な証言?」

と、ミウがツッコむ。

「シンイチさんが、彼女の店に来た時、彼は「恋をするのが、怖い」と発言したそうだ・・・彼は自分が恋をすると、相手を亡くしてしまうというトラウマを持っているからね」

と、タケルが説明する。

「だから、彼は・・・もう、心のどこかで、マミちゃんを意識し始めているんだ。マミちゃんを無くしたくないから、恋は出来ない・・・彼はそう思ってるんだ」

と、タケルが説明すると、

「ほんとですか!」

と、マミがすごい勢いでタケルに聞く。

「ああ、これは絶対だ。ひとは本音を別な形で、つい言いたくなるもんさ・・・それがポロリと出たんだよ。シンイチさんの本音がね」

と、タケルが説明する。

「で、だ・・・ここで、それからさらに時間が経った、シンイチさんの様子見なんだが・・・」

と、タケルは、店内で文庫本を読んでいたマスターに手で合図をすると、ジュウゴが笑顔でこちらにやってくる。

「で、ジュウゴさん、シンイチさんの最近の様子、探ってくれました?」

と、タケルがジュウゴに聞くと、

「ああ、昨日の夜、あいつ、この店にブラっと現れてね・・・」


「ジュウゴ、コーヒーくれや」

と、シンイチは、少し酔いをさます感じで、ジュウゴにオーダーしていた。

時刻は、午後10時を少し回った時間だった。

「ほう、平日はあまり酒を飲まないはずのシンイチが珍しいな」

と、ジュウゴが言うと、

「いや、まあ、少しな」

と、少し赤い目をしているシンイチだった。

「お前、泣いたのか?」

と、ジュウゴは驚いている。

「ああ。酒飲んで早く寝てしまおうと思ったんだが・・・いやな夢を見てさ、気づいたら、泣きながら、マイの名前を呼んでたそうだ・・・」

と、シンイチは静かに話している。

「今日は姉が遅くまで仕事をしていく日だったんで、甘えたのが行けなかったかな」

と、シンイチは、微笑んでいる。

「お前・・・少し最近、おかしくないか?」

と、ジュウゴ。

「おかしいか、俺・・・」

と、シンイチ。

「だって、人一倍、店を大事にしていたお前が・・・いくらユキさんが店をやってくれる日とは言え・・・酒を飲んで寝てしまうお前なんか、信じられん」

と、ジュウゴ。

「少し、さ・・・ちょっとおかしいんだ、俺・・・」

と、真面目な顔して、シンイチ。

「何が原因なんだ?」

と、ジュウゴ。

シンイチは、そのジュウゴの問いに・・・真面目な顔をして、考えている。

と、ため息をつくシンイチ・・・。

「お前・・・わかりやすいな・・・」

と、ジュウゴが言うと、

「え?何がだよ・・・何が、わかりやすいんだよ・・・」

と、とぼけるシンイチ。

「お前、マイちゃんに恋に落ちた時も・・・そんな感じだったぜ。何も言わずため息ばっかりついてた・・・俺はお前と何年つきあってると思っているんだ?」

と、ジュウゴがツッコむと、

シンイチは、真面目な表情で、何も言わずジュウゴを凝視する。

ジュウゴも強い目で、シンイチの目を凝視する。

「正直、よくわからないんだ・・・俺自身も、これが恋なのか、あるいは、迷いなのか。それとも、ただトラウマに苦しめられているだけなのか・・・」

と、シンイチは、静かな目で真面目にジュウゴに話す。

「ま、俺達は、もう、高校生じゃないんだぜ。それぞれ責任のある大人の男なんだ・・・それ、わかってるんだろうな、シンイチ」

と、ジュウゴが言うと、

「無論、わかってるさ・・・店のことも、「朱鷺色ワーカーズ」のことも・・・皆の思いも・・・」

と、シンイチは絞りだすような声で言う。

「わかってるからこそ、こんなに悩んでいるんじゃないか!ロック界のスーパースターに皆でなろうって約束した日のことだって、忘れちゃいない」

と、シンイチは心から慟哭する。

「わかってるんだ。でも、ミキが死んだあの瞬間、俺は駄目になっちまったんだ。愛する女性ひとり、幸せにできない俺には、何の価値もなくなっちまったんだ」

と、シンイチは慟哭しながら、言葉にする。

「皆の顔が失望で白くなっていく様子を俺は肌で感じた。俺の音楽も色あせた。ファンだった女性たちも皆離れてしまった。全部俺の責任なんだ。俺の俺の・・・」

と、シンイチは慟哭し、嗚咽する。


ジュウゴは、慟哭し嗚咽するシンイチの肩に手を置いた。


「誰もお前の責任なんて、思っちゃいないよ。マキちゃんだって、ミキちゃんだって、精一杯生きて、死んでいったんじゃないか」

と、ジュウゴはやさしく語りかける。

「皆、しあわせいっぱいの笑顔で、お前を見つめていた・・・それを感じられた時間を過ごせて、彼女達だって、精一杯しあわせだったと思うぜ」

と、ジュウゴは言う。

「ミキちゃんが今のお前を見ていたら、きっと言う。「自分の為に生きろ」って、絶対に言う。お前、自分の為だけに生きてみろよ」

と、ジュウゴは言う。

「ほんの1年だけでも・・・いや、半年だけでもいい。お前、自分の為だけに、誰の為にでもなく、自分の為だけに生きてみろよ」

と、ジュウゴは言う。

「俺はそんな生き方をしていた、お前が好きだったんだ。マイちゃんも、ミキちゃんも、そんなお前が好きだったんだよ」

と、ジュウゴが言う。


「・・・」

シンイチは、その言葉を聞くとふいに黙った。

しばらくの間、静寂な時間が過ぎていった。

ジュウゴもシンイチも口を開かなかった。


「ジュウゴ、ありがとう・・・」

少し長い間、真面目な顔をして考え事をしていたシンイチは、ふらりと立ち上がると会計をして出て行った。


「そんなことが、シンイチさんに、あったんですか・・・」

と、マミは言う。

「ああ。マミちゃんだっけ・・・あいつ、君のことが気になり始めていると思う・・・それだけは、確かだなあ」

と、ジュウゴはやさしい表情でマミに言ってくれる。

「ということは、ここで、シンイチさんに、マミちゃんを会わせるのは、得策じゃない、ということになるね」

と、タケルが言うと、

「俺もそう思うな。奴が自分で、この恋を語り出すまでは・・・マミちゃんはシンイチに会いにいかない方がいい」

と、ジュウゴはジュウゴなりの感想を述べている。

「な、俺が恋愛は仲間づくりだって言った意味、わかるだろ。皆がマミちゃんの応援をしてくれる。それは皆がシンイチさんのしあわせを祈っているからなんだよ」

と、タケルが説明すると、

「君は若いのに、いろいろわかっているなあ・・・」

と、ジュウゴが嬉しそうにタケルと握手する。

「お互いがんばりましょう」

と、タケルもジュウゴに嬉しそうに言うのだった。


「男って、いいわね。すぐに友情が出来ちゃって・・・」

と、ミサトがその風景を見ながら言う。

「そうね。男って、そういう生き物だもの・・・」

と、ミウ。

「シンイチさん・・・がんばってください」

と、マミはひとり、シンイチのことを思うのだった。


その頃、「華可憐」では・・・シンイチは、黙々と作業をしていた。

頼まれた花束を作り、花の整理をし、笑顔で、花を人々に売っていた。

だが、その笑顔は、こころなしか、うつろだった。

それでも、シンイチは、仕事に没頭するしかなかった。

「今は、このやり方しか、ないんだ。俺に考えつく、やり方は・・・」

森田ユキは、そんなシンイチを心配そうに見つめるのだった。


シンイチはうつろに笑っていた。


つづく

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