「うぃー。ったく、くそおもしろくもねえ」
島田邦衛は、朝から一升瓶をかかえて、酔っていた。
最近、おもしろいことも、楽しいこともなく、ただただ、つまらない人生を送っていたのだった。
「あなた、体に悪いから、昼間のお酒は・・・」
と、美人の妻、華子は、元看護婦なだけに、その心配は、正統な知識から、くるものであった。
「うるせえ。だいたい、おまえは、子供をつくることさえ、拒否しているくせに、俺にモノを言うな」
と、邦衛は、ふてくされます。
「それは、あなたに、負担をかけたくないから・・・。子供の存在があなたの負担にならないなら・・・私はいつでも・・・」
と、最近、収入が減っている邦衛のことを考えての、華子のやさしい気持ちです。
「うるせえ!まったく、いちいちうるさくて、楽しく、酔うこともできねえ。事務所に顔をだしてくら」
と、口では汚くののしるものの、華子の気持ちがちょっとうれしくて、仕事を探しにいく、邦衛です。
「ったく、いちいちいち・・・。でも・・・」
と、邦衛は、自宅マンションを調子よく出てきたものの、ひとりになると、弱虫の自分が顔をだします。
「あいつに、いつまでも、苦労をさせるわけにはいかねえ。と言って、今更、かたぎの仕事につくなんざ、できねえだろうなあ」
と、邦衛は、しょんぼりします。
「俺はどこで、道を踏み外しちまったんだろうなあ」
と、邦衛は、しょんぼりした顔で、つぶやきます。
「華子、華子・・・俺も一生懸命、おめえを、しあわせにしたいんだよ・・・」
と、邦衛は、思わず泣き出してしまいます。
「俺のために、看護婦さえ、やめたおめえに、俺は何ひとつ、してやることもできねえ・・・」
と、邦衛は、だだをこねる少女のように、妻のことを思って激しく泣いています。
「俺はだれよりも、おめえを愛しているんだ。だからよ、今のおめえを見ているとつらいんだよ」
と、邦衛は、つい自分の思いを吐露してしまいます。
「だからよ、俺は、お前のために、何か、でっけーことをよ、やり遂げたいんだよ」
と、邦衛は、自分の夢を話しています。
「華子・・・」
と、邦衛は、泣き崩れて、その場にうずくまってしまいます。
「おじちゃん、大丈夫?人生は、希望をもたなきゃだめって、先生が言ってたよ」
と、幼稚園生と思しき女の子が、肩を叩いて慰めてくれます。
「お、これは、街中だった。ありがとうよ、おじょうちゃん、おじさん、がんばるからね」
と、少し赤くなる邦衛です。
「とにかく、仕事だ。それをもらえなきゃ、話にならねえ」
と、邦衛は、気合を入れなおして、事務所へ向かいます。
紅色金魚組の事務所には、組長の神山雄三とその妻ひろこが、来ていました。
「あら、邦衛じゃないかい。久しぶりだね。あんた、最近、元気ないそうじゃないかい」
と、邦衛がこの事務所に入るきっかけとなったひろこは、邦衛には、古いなじみです。
「華子ちゃんに、おいしいものを食べさせなきゃいけないよ。がんばるんだよ、邦衛」
と、まるで、邦衛の母のつもりのひろこです。
「そうだぞ。おめえ、ここんところ、元気ねえからな」
と、組長神山雄三は、ゆっくりとした感じで、話します。
「へえ。それで、今日は、何か仕事でも、もらえねえかと、思いやして」
と、邦衛は、世話になりまくりで、頭の上がらない組長夫婦に、頭を下げています。
「おう。それがよ、おまえに、ちょうどいい仕事があってよ」
と、雄三組長は、にこにこ顔で、話しています。
「おれが、昔から世話になっているある筋のひとがいるんだが、そのひとにどうしてもって、頼まれちまってよ。俺の言わば、恩人だ」
と、雄三組長は、少し熱く語っています。
「そのひとの、娘さんが、よ。ちょっとグレてるらしくって、手を焼いているらしいんだな。それで、やめさせようとしたら、姿を消しちまったらしい」
と、雄三組長は、よくある話的に話します。
「まあ、行った先ってのは、だいたい見当がついているから、おめえ一っ走り、その娘さんを、お連れしてこい」
と、雄三組長は、おおらかに話しています。
「なんで、行った先の見当がつくんすか?」
と、邦衛は、素直な質問をしています。
「おう。その、まあ、お嬢さんがよ、しつけが行き届いた、まあ、超お嬢さんだからよ。数カ月経ってから、律儀にも、今後の目標とやらを、書いて送ってきたんだそうだ」
と、雄三組長は、少し笑みを浮かべながら話しています。
「まあ、だから、心配するなって、言いたかったんだろうが、看護婦になるんだそうだが、手紙の消印が釧路になっていて、そして、釧路には大きな看護学校がある」
と、雄三組長は、簡単な推理の結果を話しています。
「じゃってんで、電話で、その学校に聞いてみたら、その子は、毎日、ちゃんと通学してるときた。だから、こっちから理由を話して、お嬢さんの住んでる場所も聞いたのさ」
と、雄三組長は、行動的で、頭のまわりの早いところを見せています。
「学校には筋、通してあるし、あとは、連れて帰ってくるだけだ。おめえは、女にやさしいし、変にモテるところがあるから、この役には、うってつけだ」
と、雄三組長は、明るく言うと、
「さらに、相手のお嬢ちゃんは、超がつくくらいすげえ家柄だ。報酬もたんまりもらえるだろう。その仕事をおめえにやろうって、言うんだよ」
と、雄三組長は、邦衛思いのやさしいところを見せています。
「ま、行ってみりゃ、ボーナス仕事みたいなもんだ。ちょっと行ってつれ帰ってくれりゃ、一千万は、固えな」
と、雄三組長は、まるで魅力的な額を提示しています。
「ま、俺にすりゃ、恩人に義理も果たせる。警察沙汰にも、ならねえ。穏便にすませられるからな。それにおめえもボーナスだ。皆万々歳ってことなのよ」
と、雄三組長は、社会のしくみ、というものを話しています。
「どうでえ。やってくれるよな」
と、雄三組長が、満を持して聞くと、
「もちろん、俺なんかで、よかったら。組長の恩が返せるなら。ぜひ、やらせてください」
と、邦衛は、願ったり叶ったりの状況で、うれしそうに、そう宣言します。
「よし!そんじゃよ、これに必要な書類、いれておいたからよ。あと、当座の金の100万だ。足らなくなったら、言ってくれ。いくらでも出すからな」
と、鷹揚なところを見せる雄三組長です。
「わかりやした。なになに~、ほう、ここが、そのお嬢さんの住所ですかい。わかりやした。北海道旅行、存分に楽しんできますわ」
と、邦衛はにこにこ顔で、そう言うと、
「まあ、明日の夕方には、帰って来ますから」
と、邦衛は言って、事務所を出て行きます。
その後ろ姿に、
「邦衛、くれぐれも、気をつけるんだよ!」
と、組長の妻、ひろこが声をかけます。
「えー、俺ももう、大人っすよ。高校生じゃあ、ありませんから」
と、おどける邦衛に、苦笑いのひろこです。
暴力事件を起こし、退学になって、くさっていた邦衛に、この事務所を紹介したのが、
当時、近所で、邦衛の母親がわりをしていた、ひろこだったのです。
「見ててくださいよ。うまく、やりとげますから!」
と、邦衛はにこやかな表情とともに、事務所を出て行きます。
「あの子、小さいときと、全然、変わってないんだから」
と、その笑顔を思い出しながら、ひろこは、そうつぶやいていました。
「ラッキー、俺にも、どうやら、運が向いてきたぜ!」
と、邦衛は、自宅へ向かって走りながら、そうつぶやきます。
「俺の人生は、これから、上昇気流に、のっていくんでえ」
と、邦衛は、何度もジャンプしながら、自宅に帰っていくのでした。
「おう。華子!仕事だ!それも、簡単で、それでいて高収入の仕事だぜ!」
と、邦衛は、うれしそうに、妻に報告しています。
「そんな仕事・・・危ない仕事じゃ、ないわよね」
と、邦衛の体を心配する華子は、ついつい悪い想像をしてしまいます。
「んなもん、組長がこの俺にそんな仕事させるわけねーだろ」
と、邦衛は、うれしそうに悪態をつきながら、話しています。
「どっかの金持ちのお嬢ちゃんがとんずらしたらしいんだが、もうとんずらした先も釧路って、わかってんだ。そのお嬢ちゃんを連れて帰ってくるだけで、一千万だとよ!」
と、邦衛は、幸運が舞い込んだかのように、妻に向かって話しています。
「そんな、おいしい話・・・大丈夫なの?うまく、やれる?」
と、華子は、邦衛のことが、心配で心配で、たまらないようです。
「ばかやろー、おめえ、こんなおいしい話、とびつかねーほうが、どうかしてらあ」
と、邦衛は、のりのりで話しています。
「それによ、おめえ、一千万入りゃあ、おめえに、いい服も着せられる、うめえもんも食わせられる、いいことばかりじゃねえか」
と、邦衛は、旅行の準備をしながら、うれしそうに話します。
「ほんとうに、大丈夫なの?北海道、行ったことあるの?」
と、華子は、普通に邦衛のことを心配しています。
「んなもん、行ったこたあねーけど、大丈夫だ。どうせ、日本国内だし、グアム行ったときみたいに、パスポート忘れたりしねえから、大丈夫だ」
と、邦衛は、新婚旅行で、行ったグアムで、パスポートを忘れた記憶を思い出しています。
「あなた、忘れもの、多いから、心配だわ・・・」
と、華子が心配すると、
「大丈夫だって、俺も、あれから、大人になったんだから。じゃ、行ってくるぜ」
と、邦衛が、うれしそうに、話すと、
「うん。がんばって。くれぐれも、体に、気をつけてね」
と、やさしく見送る華子さんでした。
「よっしゃー!俺の人生は、これから、始まるんだ!」
と、邦衛は、ジャンプすると、駅に向かって、一目散に、走っていくのでした。
(つづく)
島田邦衛は、朝から一升瓶をかかえて、酔っていた。
最近、おもしろいことも、楽しいこともなく、ただただ、つまらない人生を送っていたのだった。
「あなた、体に悪いから、昼間のお酒は・・・」
と、美人の妻、華子は、元看護婦なだけに、その心配は、正統な知識から、くるものであった。
「うるせえ。だいたい、おまえは、子供をつくることさえ、拒否しているくせに、俺にモノを言うな」
と、邦衛は、ふてくされます。
「それは、あなたに、負担をかけたくないから・・・。子供の存在があなたの負担にならないなら・・・私はいつでも・・・」
と、最近、収入が減っている邦衛のことを考えての、華子のやさしい気持ちです。
「うるせえ!まったく、いちいちうるさくて、楽しく、酔うこともできねえ。事務所に顔をだしてくら」
と、口では汚くののしるものの、華子の気持ちがちょっとうれしくて、仕事を探しにいく、邦衛です。
「ったく、いちいちいち・・・。でも・・・」
と、邦衛は、自宅マンションを調子よく出てきたものの、ひとりになると、弱虫の自分が顔をだします。
「あいつに、いつまでも、苦労をさせるわけにはいかねえ。と言って、今更、かたぎの仕事につくなんざ、できねえだろうなあ」
と、邦衛は、しょんぼりします。
「俺はどこで、道を踏み外しちまったんだろうなあ」
と、邦衛は、しょんぼりした顔で、つぶやきます。
「華子、華子・・・俺も一生懸命、おめえを、しあわせにしたいんだよ・・・」
と、邦衛は、思わず泣き出してしまいます。
「俺のために、看護婦さえ、やめたおめえに、俺は何ひとつ、してやることもできねえ・・・」
と、邦衛は、だだをこねる少女のように、妻のことを思って激しく泣いています。
「俺はだれよりも、おめえを愛しているんだ。だからよ、今のおめえを見ているとつらいんだよ」
と、邦衛は、つい自分の思いを吐露してしまいます。
「だからよ、俺は、お前のために、何か、でっけーことをよ、やり遂げたいんだよ」
と、邦衛は、自分の夢を話しています。
「華子・・・」
と、邦衛は、泣き崩れて、その場にうずくまってしまいます。
「おじちゃん、大丈夫?人生は、希望をもたなきゃだめって、先生が言ってたよ」
と、幼稚園生と思しき女の子が、肩を叩いて慰めてくれます。
「お、これは、街中だった。ありがとうよ、おじょうちゃん、おじさん、がんばるからね」
と、少し赤くなる邦衛です。
「とにかく、仕事だ。それをもらえなきゃ、話にならねえ」
と、邦衛は、気合を入れなおして、事務所へ向かいます。
紅色金魚組の事務所には、組長の神山雄三とその妻ひろこが、来ていました。
「あら、邦衛じゃないかい。久しぶりだね。あんた、最近、元気ないそうじゃないかい」
と、邦衛がこの事務所に入るきっかけとなったひろこは、邦衛には、古いなじみです。
「華子ちゃんに、おいしいものを食べさせなきゃいけないよ。がんばるんだよ、邦衛」
と、まるで、邦衛の母のつもりのひろこです。
「そうだぞ。おめえ、ここんところ、元気ねえからな」
と、組長神山雄三は、ゆっくりとした感じで、話します。
「へえ。それで、今日は、何か仕事でも、もらえねえかと、思いやして」
と、邦衛は、世話になりまくりで、頭の上がらない組長夫婦に、頭を下げています。
「おう。それがよ、おまえに、ちょうどいい仕事があってよ」
と、雄三組長は、にこにこ顔で、話しています。
「おれが、昔から世話になっているある筋のひとがいるんだが、そのひとにどうしてもって、頼まれちまってよ。俺の言わば、恩人だ」
と、雄三組長は、少し熱く語っています。
「そのひとの、娘さんが、よ。ちょっとグレてるらしくって、手を焼いているらしいんだな。それで、やめさせようとしたら、姿を消しちまったらしい」
と、雄三組長は、よくある話的に話します。
「まあ、行った先ってのは、だいたい見当がついているから、おめえ一っ走り、その娘さんを、お連れしてこい」
と、雄三組長は、おおらかに話しています。
「なんで、行った先の見当がつくんすか?」
と、邦衛は、素直な質問をしています。
「おう。その、まあ、お嬢さんがよ、しつけが行き届いた、まあ、超お嬢さんだからよ。数カ月経ってから、律儀にも、今後の目標とやらを、書いて送ってきたんだそうだ」
と、雄三組長は、少し笑みを浮かべながら話しています。
「まあ、だから、心配するなって、言いたかったんだろうが、看護婦になるんだそうだが、手紙の消印が釧路になっていて、そして、釧路には大きな看護学校がある」
と、雄三組長は、簡単な推理の結果を話しています。
「じゃってんで、電話で、その学校に聞いてみたら、その子は、毎日、ちゃんと通学してるときた。だから、こっちから理由を話して、お嬢さんの住んでる場所も聞いたのさ」
と、雄三組長は、行動的で、頭のまわりの早いところを見せています。
「学校には筋、通してあるし、あとは、連れて帰ってくるだけだ。おめえは、女にやさしいし、変にモテるところがあるから、この役には、うってつけだ」
と、雄三組長は、明るく言うと、
「さらに、相手のお嬢ちゃんは、超がつくくらいすげえ家柄だ。報酬もたんまりもらえるだろう。その仕事をおめえにやろうって、言うんだよ」
と、雄三組長は、邦衛思いのやさしいところを見せています。
「ま、行ってみりゃ、ボーナス仕事みたいなもんだ。ちょっと行ってつれ帰ってくれりゃ、一千万は、固えな」
と、雄三組長は、まるで魅力的な額を提示しています。
「ま、俺にすりゃ、恩人に義理も果たせる。警察沙汰にも、ならねえ。穏便にすませられるからな。それにおめえもボーナスだ。皆万々歳ってことなのよ」
と、雄三組長は、社会のしくみ、というものを話しています。
「どうでえ。やってくれるよな」
と、雄三組長が、満を持して聞くと、
「もちろん、俺なんかで、よかったら。組長の恩が返せるなら。ぜひ、やらせてください」
と、邦衛は、願ったり叶ったりの状況で、うれしそうに、そう宣言します。
「よし!そんじゃよ、これに必要な書類、いれておいたからよ。あと、当座の金の100万だ。足らなくなったら、言ってくれ。いくらでも出すからな」
と、鷹揚なところを見せる雄三組長です。
「わかりやした。なになに~、ほう、ここが、そのお嬢さんの住所ですかい。わかりやした。北海道旅行、存分に楽しんできますわ」
と、邦衛はにこにこ顔で、そう言うと、
「まあ、明日の夕方には、帰って来ますから」
と、邦衛は言って、事務所を出て行きます。
その後ろ姿に、
「邦衛、くれぐれも、気をつけるんだよ!」
と、組長の妻、ひろこが声をかけます。
「えー、俺ももう、大人っすよ。高校生じゃあ、ありませんから」
と、おどける邦衛に、苦笑いのひろこです。
暴力事件を起こし、退学になって、くさっていた邦衛に、この事務所を紹介したのが、
当時、近所で、邦衛の母親がわりをしていた、ひろこだったのです。
「見ててくださいよ。うまく、やりとげますから!」
と、邦衛はにこやかな表情とともに、事務所を出て行きます。
「あの子、小さいときと、全然、変わってないんだから」
と、その笑顔を思い出しながら、ひろこは、そうつぶやいていました。
「ラッキー、俺にも、どうやら、運が向いてきたぜ!」
と、邦衛は、自宅へ向かって走りながら、そうつぶやきます。
「俺の人生は、これから、上昇気流に、のっていくんでえ」
と、邦衛は、何度もジャンプしながら、自宅に帰っていくのでした。
「おう。華子!仕事だ!それも、簡単で、それでいて高収入の仕事だぜ!」
と、邦衛は、うれしそうに、妻に報告しています。
「そんな仕事・・・危ない仕事じゃ、ないわよね」
と、邦衛の体を心配する華子は、ついつい悪い想像をしてしまいます。
「んなもん、組長がこの俺にそんな仕事させるわけねーだろ」
と、邦衛は、うれしそうに悪態をつきながら、話しています。
「どっかの金持ちのお嬢ちゃんがとんずらしたらしいんだが、もうとんずらした先も釧路って、わかってんだ。そのお嬢ちゃんを連れて帰ってくるだけで、一千万だとよ!」
と、邦衛は、幸運が舞い込んだかのように、妻に向かって話しています。
「そんな、おいしい話・・・大丈夫なの?うまく、やれる?」
と、華子は、邦衛のことが、心配で心配で、たまらないようです。
「ばかやろー、おめえ、こんなおいしい話、とびつかねーほうが、どうかしてらあ」
と、邦衛は、のりのりで話しています。
「それによ、おめえ、一千万入りゃあ、おめえに、いい服も着せられる、うめえもんも食わせられる、いいことばかりじゃねえか」
と、邦衛は、旅行の準備をしながら、うれしそうに話します。
「ほんとうに、大丈夫なの?北海道、行ったことあるの?」
と、華子は、普通に邦衛のことを心配しています。
「んなもん、行ったこたあねーけど、大丈夫だ。どうせ、日本国内だし、グアム行ったときみたいに、パスポート忘れたりしねえから、大丈夫だ」
と、邦衛は、新婚旅行で、行ったグアムで、パスポートを忘れた記憶を思い出しています。
「あなた、忘れもの、多いから、心配だわ・・・」
と、華子が心配すると、
「大丈夫だって、俺も、あれから、大人になったんだから。じゃ、行ってくるぜ」
と、邦衛が、うれしそうに、話すと、
「うん。がんばって。くれぐれも、体に、気をつけてね」
と、やさしく見送る華子さんでした。
「よっしゃー!俺の人生は、これから、始まるんだ!」
と、邦衛は、ジャンプすると、駅に向かって、一目散に、走っていくのでした。
(つづく)