「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「由美ちゃん物語」(43)

2010年05月12日 | 過去の物語
「由美ちゃん、悪いけど、俺の所持品がどこかに、保管されているはずだ。それを持ってきてくれないかな」

と、僕は由美ちゃんに頼みます。

すると、須賀田課長が、

「保管してあるところは、俺が知っている。俺がとってくるよ」

と、須賀田課長が、由美ちゃんを目で制して、走っていきます。

「課長、すいませんね」

という僕の言葉も聞かず、須賀田課長は、走っていきます。

僕は、彼の後ろ姿を見送ると、視線を樺山常務に向け、ニヤリとします。

そして、言葉を続けます。

「あなたは、キレ者のようだ。そして、自分でもそれを誇っているようだな」

と、僕が言うと、樺山常務はニヤリとしながら、

「ほう、それがわかるとは、大したものだな。若造!」

と話します。

「あなたは、家族まで犠牲にして、仕事に尽くしたと言いいましたね。あなたの居場所は、家にはありますか?」

と、僕が聞くと、樺山は、ニヤリとしたまま、

「そんなもの、どこにもないわ。できるサラリーマンは、安らぎなど、家に求めぬわ!」

と、喝破しています。

「ほう。そうですか。なるほど、わかりやすい。あなたは、簡単すぎる!」

と、僕が、笑うように言うと、樺山は、少し戸惑うように、

「なにが、わかりやすいんだ!」

と僕の真意を探っています。

「あなたの奏でるストーリーから、見えてくることがあるんですよ。ごく簡単なストーリーだ!」

と僕が言うと、樺山常務は、いぶかしげに、こちらを伺っています。

「あなは、自分がキレ者だと、誇っている。そして、家には安らぎなど、求めない!と言った」

と、僕は、周りを見回しながら、話します。

「あなたは、自分が社会的役割を高度に発揮できることを自慢している。つまり、日本人としては、非常に誇れる人間だということを自覚しているわけだ」

と、僕は、少し歩き回りながら、推理を披露しています。

「そういう人間は、こう考えるはずだ。「俺は一般の人間と違って、できる人間だ。少しくらい、ひとと違ったことをしても、許されるだろう」とね」

と、僕は丁寧に推理の道筋を話しています。

「そして、毎日全力で戦っているだろう、あなただ。いくら能力が高かろうと、疲れるはずだ。いや、ひとより、何倍も疲れるだろう。能力が高いおかげで」

と、僕は、からまった糸をほぐすように、ゆっくりと話しています。

「そしたら、あなたは、自分を癒すために、何らかの手を考えるはずだ。そして、それは、自分に適したモノでなければならない、と当然考えるだろう」

と、僕は、樺山常務の目を見つめながら、歩きながら、語っています。

「あなたは、男性だ。それを癒すことができるのは、当然、女性で、あるはずだ!」

と、僕は、樺山常務の目の表情を見ながら、語っています。

それに対して樺山常務は、

「ふん」

と、鼻を鳴らしただけです。

「そして、あなたくらい、自分を誇れる人間だったら、当然、一流のモノを求めるでしょう!」

と、僕は、素直に言います。

「あなたが求めたのは、「銀座の女!」ですね!」

と、僕が言うと、樺山常務の目が少し揺れます。

「家に安らぎを求めないことを、さっき誇りましたね、僕に」

と、僕は樺山常務の目を正面から見ながら指摘します。

「それは、あなたが、「銀座に女をもっているから、いいのだ!うらやましいだろ!」という感情が裏にあったからだ。本来誇れるような内容じゃ、ない内容なのにね!」

と、僕は、冷静に樺山常務のこころの中を見きっています。

「そんなこと、思ってもおらんわ!」

と、樺山常務は、軽く否定します。

「それは、どうですかね。否定なら、誰でもできる!」

と、僕は言うと、推理を続けます。

「しかし、あなたは、仕事ぶりに相当自信があるようだ。ということは、あなたは、日々、激務をこなしているはずだ」

と、僕は、普通に指摘します。

「であれば、平日、銀座の女に会う時間なぞ、なかなかとれないはずだ。と、すれば、いつ会っているか、ということになる」

と、僕は、ひとつひとつ推理を進めています。

「わしは、女などに、会っておるとは、言っておらんぞ!」

と、樺山は否定を続けます。

「まあ、最後まで、話を聞いてみてくださいよ」

と、僕は、樺山常務をいなすと、

「あなたは仕事のためには、家庭も犠牲にしてきた、と言った。つまり、週末もほとんど、家にいないということだ」

と、ゆっくりと話を進めて行きます。

「だとすれば、女と会うのは週末、ということになりますね。樺山常務さん!」

と、僕は、結論的に樺山常務に叩きつけます。

「単なる空想話など、聞く耳もたんわ!」

と、樺山は平気で、話を否定します。

そのとき、ガチャっとドアが空き、僕のバックと装備品を手にした須賀田課長と、幾分元気を取り戻した橘川部長補佐が現れます。

「これで、所持品は、全部のはずだ。確認してくれ。それと、比地通の橘川部長補佐だ。今回、おまえのことで、いろいろ動いてもらったんだ」

と須賀田課長は、所持品を全て僕に渡してくれます。

「○○くん、今回は、我が社の人間が申し訳ないことをした。比地通の橘川と言います。今回の事故の収拾役をまかされたんだが、途中で倒れてしまってね」

と、名刺を渡しながら、なぜか、握手を求める橘川部長補佐です。

「あ、どうも、これは。そうですか、あなたは収拾役ですか。というと、会社側から、派遣された、ということですか」

と、僕は返します。

「そうなんだ。最初、樺山常務がなかなかつかまらなかったんでね。それで、僕が来たんだが・・・。まあ、いろいろあってね。うん」

と橘川部長補佐は、これまでの経緯を簡単に説明します。

「なるほど、樺山常務は、すぐには、ここに現れなかったんですね!」

と、僕はその情報を聞くと、ニヤリと笑い、樺山常務の顔を見ます。

「ところで、橘川さん。あなたは、樺山常務が事故を起こしたときに何をしていたか、聞かされていますか?」

と、僕は素直に質問します。

「いや・・・。実は、聞かされていないんだ。・・・いや、というより、重要顧客との商談なので、内容は、秘密なんだ」

と、橘川はすまなそうに、僕に話します。

「なるほど。でも、それは、樺山常務にそう言われているんでしょう?」

と、僕は橘川に話します。

「ああ。そうだが。それが、なにか?」

と橘川が訝しげに聞きます。

「わかりましたよ!全てのパズルはつながった、ということです」

と、僕は晴れ晴れとした顔で、周りのすべての人間を見回し、そして、樺山常務を見て、こう言い放ちます。

「どういうことなんだ?○○くん」

と沢村が、僕に聞きます。

「なぜ、樺山常務が、事故後すぐに来なかったか。そして、事故の時、樺山常務が何をしていたか、秘密にしていること。これが最後のピースだったんだ!」

と、僕は言います。

そして、

「樺山さん!あなたは、自分を常務に押し上げる秘密のシステムを、見つけていたんですね!」

と、僕は、樺山常務に向かって、言い放ちます。

「なんじゃと!」

と樺山は訝しげに僕を見ているだけです。

「あなたは、確かに週末、毎週のように商談を入れていたんでしょう。そして、そこで、抜群の実力を示した」

と、僕は樺山成功ストーリーを話し始めます。

「そして、それが、周りに認められる契機になったでしょう。しかも、あなたは、週末さえ仕事に費やす男として、日本人からは尊ばれるストーリーをつむいだわけだ」

と、僕は成功の理由を語っています。

「顧客だって、週末でもいやな顔ひとつせずつきあってくれるわけだから、人間的にも信用を深めるだろうさ。だから、接待ゴルフなんてのも、たくさんやったんでしょう」

と、僕は樺山の信用獲得法を話しています。

「しかし、なぜ、そこまで、週末の商談に抜群の実力を示せたか。それには、理由があったのさ」

と、僕はここまで、言うと、樺山常務の顔をみます。

「女ですよ。しかも、とびきり上等の」

と、僕は言うと、樺山常務の表情を探ります。

樺山常務は、冷たい顔をしたまま、ピクリとも表情を動かしません。

「若くて美しい女と、土曜日から日曜日を過ごしていたんですよ。そして、その足で、彼は、お客と会っていたのさ」

と、僕は、結論を樺山常務に叩きつけます。

「まあ、顧客のスケジュールによるでしょうが、女と会った後、顧客に会っていたんですよ。あなたのモチベーションは最高の状態だし、客も週末だと気分が違うでしょうしね」

と、僕は、樺山常務の目を見ながら話しています。

「そして、あなたは気がついてしまった。このシステムが、あなたに「信用」と「できる奴という評価」をくれることをね。そして、それが、あなたを「常務」の地位へ引き上げた」

僕は樺山常務の表情を見ながら、さらに続けます。

「商談した日付が、後に情報として、会社に伝われば、「なるほど、樺山は週末も商談をしているのか」と高評価になるでしょう」

僕は、会社側の人間の気持ちを考えながら話しています。

「そして、顧客も週末だと、打ち解けた感じになる。より有利に商談を進めることができますからね」

僕は、顧客の気持ちを考えながら話しています。

「あなたにすれば、逢い引きのあとだ。そりゃモチベーションも高いでしょう。だから、さらに有利に商談を進められていたはずだ」

僕は、樺山常務の気持ちを考えながら話しています。

「なかなかよくできたシステムだ。会社には高評価をもらい、モチベーションの高い仕事にもつながる。それがわかったあなたは、週末に女というのは、やめられなかったはずだ」

僕は、さらに、推理を推し進めます。

「人間というのは悲しい生き物だ。最高のやり方を知ってしまったら、そこから下げることは、できなくなる」

僕は、さらに、言葉を続けます。

「週末に女、というのは、あなたの成功の方程式に組み込まれてしまったんだ。だから、やめられなくなった。違いますか、樺山常務!」

僕は、ゆっくりと樺山常務の顔に視線を移し、反応を見ます。

「そして、あなたが、僕の事故後に、ここにすぐ来れなかったのは、女と遊んだ後に、顧客との商談スケジュールを入れていたからでしょう!」

僕は、そう言うと最も重要な疑問に、答えを出します。

「そして、あなたが、事故の時に何をしていたかを必死に隠したのは、その時、女性と遊んでいたからですよ!」

僕は、そう言うと、樺山常務の反応を見ながら、さらに答えを続けます。

「あなたは、その事実を会社側に隠したかった、だから、顧客との商談だと話したんだ!」

僕は、そう言うと、樺山常務の目を見ながら、答えを続けます。

「あなたは、既に顧客と会うスケジュールを入れていたから、商談した日付は同じ日ということになる。あなたは、それで、ごまかそうとしたんだ!」

僕は、すべてを推理しきって、勝ち誇ったように、樺山常務を見ます。

「違いますか?樺山常務!」

と、僕は言うと、樺山常務を真正面から、睨みつけます。

「そうだったんですか。樺山常務・・・」

と矢野が、初めて真実を知ったかのように、驚いた表情を見せています。

「そりゃ、やばいですよ。常務・・・」

と、こちらも驚いているのは、松田です。

周りの皆も、唖然とした表情で、樺山の表情を見ます。

「それで、勝ったつもりかね。全てはあんたの推測に過ぎん。推理と言うものは、証明ができなければ、ただの憶測に過ぎんのじゃよ!」

と、樺山常務はピクリともせず、逆襲してきます。

「ほほう。なるほどね。まあ、それくらい言うと、思っていたけどね」

と、僕は臆すること無く対応しています。

「なるほど、だから、さわさんや課長の攻撃が失敗したわけか。いかにも、逃げ切りがうまそうだ」

と、僕が言うと、

「なにが、逃げ切りじゃ。仕事上での経験がモノを言っているんじゃ。修羅場なんぞ、それこそ数限りなく、くぐって来たわい!」

と、樺山常務は平然としています。

「おっさん、往生際がわるいねえ」

と、僕はつぶやくと、

「んじゃ、その証拠とやらを・・・」

と、僕はバックの中をごそごそ探して、

「あった」

と言いつつなにやら、ピッピと操作します。

「ほり。これだーれ?」

と、僕は携帯の中にある写真を表示してみせます。

須賀田、沢村、まひる、由美、そして、橘川、矢野、松田、樺山が一斉にその写真を見ます。

そこには、ドアが開いた状態の、車の後部座席が写っています。そして、シックな服装に赤いルージュが目を引く、20代後半くらいの美しい女性が座っています。

「これは、事故の時に撮った、加害者の車の写真だ」

と、まず、僕は説明すると、

「車の中にいるのは、樺山常務の奥さんかい?どう見ても銀座かどこかのきれいな女性って感じだよな。年齢的にいってもさ」

と指摘します。

「そして、横に置いてあるのは、湯河原のホテルの名前の入ったおみやげだろ。そのホテルを調べて、この写真を見せたら、誰と泊まったかわかるんじゃないかなあ」

と、僕が言います。

「おぬし、あのとき、気を失っていたのじゃ、なかったのか!」

と、樺山は取り乱します。

「あんたは、俺がぶつかった時、車の傷の方を心配していたようだからな。ひでえ人間だと思ったよ。だから、写真を撮る必要性を感じたのさ!」

と僕は、ゆっくりと理由を話します。

「もっとも、記憶が飛んでいて、俺も、さっき気がついたんだけどな。それほど、ひどい衝撃だったということだ、このサイクリストクラッシャーさんよ!」

と、僕は、樺山常務を睨みつけると、そう言い放ちます。

「常務、これは、どういうことですか!」

橘川は、樺山にくってかかります。

「さっき、○○くんが話していたことは、すべて本当だったのですか?女と遊んでいるときに、この事故を起こしたんですか!」

と、橘川は、ひとが変わったように、樺山をなじり始めます。

樺山はそれを無視し、

「どれ、私にも見せてもらおう。違う車を撮ったかもしれんからな。だとすれば、言いがかりということになる!」

と、僕に携帯を渡すように手をだします。

「おう。よーく目をかっぽじいて、確認するんだなあ!」

と、僕は鷹揚に携帯を渡します。

樺山は携帯を受け取ると、ゆっくり写真を眺めると、こちらを見て、ニヤリと笑います。

「こんなもの、こうだ!」

と、手にとった携帯を思い切り床に叩きつけ、携帯を破壊してしまいます。

「これで、証拠はなくなった。君の推測は、ただの憶測に過ぎんな!」

その場は一気に凍りつくだけでした。

(つづく)

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