さて、その時、僕は御島さん(31)、辛辣姫ユキちゃん(28)、イケメン貴島くん(29)と事務所でテレビを見ていました。
「ゆるちょさんの言った通り、久美子社長側が勝ちましたね。しかも、61%とは」
「会長側は随分水を明けられたカタチですね」
と、貴島くんが言葉にする。
「これ、今日の株主総会に出て、勝久会長の醜態、その奥さんの醜態を見て、久美子社長側についた」
「個人株主ってどれくらいいるんですかね?」
と、ユキちゃん。
「会社として株を持っている側は、事前に相談して決めているでしょうから」
「今日の醜態で決めた個人株主は少数派でしょうね」
と、御島さん。
「でも、僕としては・・・冒頭、久美子社長に勝久会長が「おまえは大塚家具の事を考えていない!」と感情的に発言した」
「あり様を見て・・・その言葉の裏を考えれば・・・勝久会長は、大塚家具の事しか考えていない・・・そういう事になるね」
「株主やお客様の事なんて、一切考えていないよ、彼の行動は」
と、僕。
「そうね。勝久会長の奥さんも質問に立ったらしいけど、感情的な・・・しかも、長い質問だったから」
「株主の間から、ブーイングすら出たっていうんだから・・・そのエピが日本中に流れれば、彼らが自分たちの事しか考えていないって日本中に明白に理解されるわ」
と、御島さん。
「この国では結局、大向うが答えを出すからね。大向うを説得出来なければ、終わっていくし」
「大向うに、ダメって判断されれば・・・消えていかざるを得ないよ」
と、僕。
「そう言えば、言われてましたね、勝久会長・・・「今日は平身低頭なポーズを取っているけど」」
「「今まであなたは、株主総会では、傲岸不遜で、「俺のやり方が正しいんだ。口出すな!」って言う、姿勢だったじゃないか」」
「「今回だけ、平身低頭なポーズを取り繕ったって、あんたの本当は株主全員知っている」的に個人株主に指摘されてて・・・」
と、ユキちゃん。
「そういうのが後々、効いてくるんだよな。自分の身が危うくなったからって、急に平身低頭になったって・・・今までの勝久会長の傲岸不遜な姿勢を見ていたら」
「以前書面に出した「社員は家族」とかって言葉も嘘臭いし、今回の「クーデターで追われた会長です」みたいな言説も」
「なんか「株主達が頭悪いから、宣伝してやってるんだ」的な上から目線の勝久会長の裏の意識が透けて見えるんだよね」
と、僕。
「・・・と言う事は、勝久会長は「俺偉い病」!」
と、辛辣姫。
「もちろん、そうだよ。「自分こそが大塚家具をここまで大きくしたんだ。業界も俺なら立て直せる」みたいな事を」
「今日も、言ってたし。ほぼ妄想的虚言を講じて相手を騙すレベルの詐欺師的発想にまで踏み込んでいるからね・・・」
「周囲に「負のエネルギー」ばかり、撒き散らすだけで・・・日本人の洞察力の高さを知らないみたいだ・・・」
と、僕。
「なんだか、お客様の事なんて一切、考えていないのがバレバレなのよね。もう、大塚家具の事しか考えていないし」
「自分が勝つためには、社員がどんなに厳しい対応に迫られようと、なんとも思っていないの」
「組織のトップに立つ者としては、失格レベルだと思うわ。なにより、日本人は人の中身を容易に見抜くもの・・・」
「それが今日の結果じゃない?」
と、御島さん。
「でしょうね。それと笑っちゃったのが、以前、御島さんが、「木偶の坊の長男」って言ってましたけど」
「その長男、今日も個人株主に「お前に社長の器はない。まだ、出来損ないだろ」的に指摘されてるセリフがあったので・・・御島さんの洞察力すげーって思いながら」
「思わず、笑っちゃいましたよ」
と、貴島くん。
「だって、あの長男、ほんと、馬鹿なんだもん。久美子社長の足元にも及ばない馬鹿だったわ」
「だから、それを知ってる勝久会長の子供たちは皆、久美子社長の側に回ったのよ」
「近くで見ているんだから、一番、長男の資質に問題があるのを知っている人たちでしょ?」
と、御島さん。
「っていうか、長男しかつかない勝久会長側を見れば・・・最初から劣勢なのは明らかだったわ」
と、御島さん。
「使えるコマは、脅せば動かせる社員達だけ・・・そういう事だったんですね」
と、ユキちゃん。
「日本人は裏側にあるストーリーをすぐに読み切るわ」
「あの勝久会長側に付くように脅された社員達の気持ちに立てば・・・いたたまれないし」
「勝久会長の横暴さがわかると言うものだわ」
と、御島さん。
「今回、あのプレゼンがすべての墓穴につながっていましたね。一般の人は、あの勝久会長のプレゼンに担ぎ出された幹部社員達の立場でモノを見ますからね」
「どうせ恫喝と「こっちにつけば将来を約束してやる」的な甘事で釣られたんだろうけど、会社員なんて悲しい存在だからね」
「そう言われちゃあ、会長側につかざるを得ない・・・そういう弱い存在を傲慢に利用した勝久会長に一般の人間は怒りを感じた・・・そういう事だと思うな」
と、僕。
「確かに・・・あの勝久会長の後ろに並ばされた幹部社員の気持ちになったら・・・いたたまれないですよ」
と、貴島くん。
「最低な事をしたオトコだったのね・・・勝久会長」
と、御島さん。
「彼の今回のやり方・・・弱い立場にある社員をカネのチカラで動かし、自分を支持していると見せかけ・・・日本国民すべてを騙そうとした」
「しかも、一旦娘にすべてを渡し、後ろから後見人的にバックアップするのが常道なのに、自分の娘をけなし、復活しようと画策し、大塚家具そのものの」
「価値すら、毀損した。それまで傲岸不遜を通してきたのに、突然、自身が危ういと見るや、平身低頭、泣き落としにかかる」
「しかし、すべては、自分の為、金の為。社員の事なんて自分に対する奉仕者程度にしか考えていないし、社員が迷惑するのも顧みず、大塚家具を割るカタチで」
「カネのチカラで多数派工作をする・・・すべて、自分の為、自分がカネを確保するため・・・客の事なんて、一切考えていない事が露骨に露呈した・・・」
「・・・こんなオトコとオンナ、日本人が許すはず、ありませんよ」
と、貴島くんが少し怒りながら、言葉にする。
「日本人の洞察力の高さを馬鹿にした、そういう人間には、鉄槌が下ると言う事ね」
と、御島さんが言葉にした。
「結局、この程度の子供だましな手腕しか見せられない、時代遅れの浪花節野郎は、今の時代を経営者として、乗りきれない・・・そう、株主達に判断されたのね」
と、御島さん。
「他人に迷惑をかけまくり、社員の気持ちなど考えもせず、株主や客の事も一切考えない、自分だけが良ければイイ・・・その発想が根底にあるのは明らかですもの」
「そんな社長、支える人間なんて、この世に、誰も、いませんよ」
と、辛辣姫。
「それが決定的・・・だったんでしょうね、今回」
と、僕。
「まさに墓穴を掘った感じですね。勝久会長は。それとその妻も・・・」
と、貴島くんが言葉にした。
「だいたい、自分一人では生きていけない、あのポンコツの長男が会長側についている段階で・・・どっちを信頼出来るか、わかりそうなものだわ」
と、御島さんがわかりやすく笑った。
「しかし・・・「和を以て貴しとなす」が最高正義のこの国で・・・公の場で、感情的に娘をなじる両親なんて、わたしだったら」
「恥ずかしくて・・・娘に財産渡したのに、また、蘇ってくるなんて、ほとんど、ゾンビですよ」
と、辛辣姫。
「それも、金の為、自分の為・・・この日本で最も嫌われるあり方だな」
「日本人は退き時を誤った老醜には、厳しいからね・・・」
と、僕。
「老醜ですか・・・確かにドンピシャな表現ですね」
と、貴島くん。
「わたしは、久美子さん側が上手いなって思ったのは・・・事前のコメントとして、「株主総会が終わったら、すべてノーサイド」」
「「皆で大塚家具を立て直そう」的な言葉を出したじゃないですか・・・三方に攻撃をしかけて、一方をがら空きにして」
「逃げ場所を作った・・・落とし所を用意したのが、久美子社長側でしたから・・・」
と、ユキちゃん。
「孫子の兵法だね、それ」
と、僕。
「そうなんです。日本人はちゃんと落とし所を作れる人間を主に仰ぎますからね」
「そういう意味では、久美子社長は勝つべくして勝った・・・とも言えますね」
と、辛辣姫。
「しかし、久美子社長、強いな」
と、貴島くんが感想を言う。
「彼女は、ライフワークを見つけたんだよ。そして、そこに自分のチカラが有用だと言う事も知っている」
「彼女は常に「社員に悪い」と言う事を言い続けてきたから・・・それが本当である事を望みたいね」
と、僕。
「そうよ。ライフワークを見つけて、その仕事に向いている自分を見つけたら・・・日本の女性は究極に強くなれるのよ」
「それはどんな立場でも・・・サラリーマンでも、専業主婦でも、一緒だわ」
「彼女・・・社員を自分の子供みたいに考えているのかもね・・・」
と、御島さんが言った。
「立場的には、同じ社長さんですものね・・・御島さんは、その心のうちをわかるのかもしれない」
と、ユキちゃんが笑顔で言った。
「感情的に振る舞い、お金の事しか頭に無く、株主なども人として扱わない勝久会長と」
「落とし所を用意し、社員の事を思い、終始冷静に振る舞った久美子社長では・・・久美子社長が圧勝するのも、当然よね」
と、御島さん。
「まず、あの最初のプレゼンで、日本のサラリーマンすべてを敵に回したし、娘をなじる馬鹿な父と言う事で、女性すべてを敵にした」
「その上で、ダメ押し的に、今日のプレゼンで、社員の事も、客の事も、株主の事も一切考えず、カネの事と、自分の事しか考えていない有り様を露呈させ」
「完全に日本人すべてを敵に回したよ。だって、それは日本の最高正義である「和を以て貴しとなす」を完全に破壊するあり方だからね。笑っちゃうくらいひどい有様だったね」
と、僕。
「ピンチになると自分が出ちゃうって本当だったんですね」
と、辛辣姫。
「ああ。勝久会長の真実の像が今日プレゼンされてた・・・それが墓穴を掘った。そういう事だろうね」
と、僕。
「怖いなあ。ピンチ」
と、貴島くんは、苦笑しながら言葉にした。
「でも、ほんと、社長のなんたるかを勉強したわ、今回の事で」
「それに、事業や株主、社員やお客の事を一切考えず、自分の事、お金の事ばかり考える人間は、この日本では否定されると言う事よ」
「だって、ゆるちょくんの言う通り、あの勝久会長の最初の会見・・・彼の後ろに並ばされた社員達の恨みみたいなモノを感じたもの・・・」
と、御島さんはため息をついた。
「自分の為に他人に迷惑をかける人間は、この日本ではいらない・・・そういう事なんですね」
と、辛辣姫は言いながら、
「コーヒー入れてきますね」
と、笑顔で歩いて行った。
(おしまい)