「おまえのせいで・・・おまえが帰ってきたせいで・・・おとうさんは亡くなったのよ!」
と、母が怖い顔をして叫ぶ。
「わたしの大事な、大事な・・・わたしが一生を賭けて探しだした大事なあのひとをを・・・おまえが・・・」
と、叫ぶ母の目は怖かった・・・。
「夢か・・・」
日曜日の朝、ミウは身体中に汗をびっしょりかいて、朝の6時に目を覚ました。
「目が覚めたのが・・・深夜じゃなかっただけ、よかったようなものね・・・」
と、ミウはそのまま起きだし、水道の水をコップに移して飲むと・・・熱いシャワーを浴びる・・・。
「あれは、雨のひどい日だった・・・お父さんは目が悪かったのに・・・それでも出て行った・・・ほんとうに自殺だったのね・・・」
と、シャワーを浴びながらそのことを考えるとミウの目から涙が流れる。
「お父さん・・・なんで自殺なんてしちゃったの・・・あんなにやさしい・・・大好きなお父さんだったのに・・・」
と、ミウはシャワー浴びながら声をあげて泣いた。
いつまでも、いつまでも、ミウは泣き続けていた・・・。
日曜日、朝の10時半過ぎ・・・鈴木サトルは、藤沢駅北口にあるスポーツ自転車店「コギー藤沢北口店」にサイクルウェアのまま、顔を出していた。
「辻さん・・・マシンチェックいつものように頼みます。デパ地下で買い物してくるんで」
と、サトルは自分のマシンを辻店長に預ける。
「朝のトレーニングはどうだった?134号は相変わらず混んでたかい?」
と、自転車を渡されながら、辻は鷹揚に話している。
「えー、車はいつも通り混んでましたよ。自転車もけっこう走ってましたしねー」
と、サトルは笑顔で話している。
「じゃ、頼みますねー」
と、サトルは笑顔になると、サイクルウェアのまま、道路の反対側にあるデパ地下へと消えていく。
「しかし、サトルくんも・・・あの真っ赤な派手なサイクルウェアのまま、デパ地下へ出没するんだから、度胸あるわ」
と、辻店長は呆れ顔で、店員の嶋野に言葉をかける。
「ま、サイクリストはある意味、コスプレイヤーみたいなモノですからねー。ま、サトルさんところのチームは度胸あるひとばかりだし・・・」
と、苦笑する嶋野だった。
「そうだったな。つーか、八津菱電機マンは、皆、度胸あるのかもな」
と、ニヤリとする辻店長だった。
「そうですね」
と、嶋野も笑顔で同意した。
同じ頃、ミウは、日曜日の天気のいい月夜野の街を気分を変える為に散歩していた。
静かな街もなんとなくポカポカして・・・いい日よりだった。
ミウは結局、昨日の夜、サシ飲みをしてしまった先輩の豊島テルコ(60)との会話を思い出していた・・・。
「そういえば、姫ちゃんのお母さん、身体壊して大変なんだって?所長さんに聞いただが」
と、テルコはやさしい笑顔で聞いてくる。
「えー・・・まあ・・・そうなんですけど・・・」
と、ミウは少しうつむくように話す。
「テルさん、聞いていいですか?」
と、ミウは少し話しづらそうに聞く。
「ん?何でも聞いてくれ・・・姫ちゃんは娘みたいに感じるだが・・・」
と、豪快にレモンサワーのジョッキを空けながらテルコはそう話す。
「母親って、娘にどんな思いを持っているもんなんでしょう?」
と、ミウはテルコに真面目に聞いている。
「どんなって・・・なんだが?」
と、テルコは少しキョトンとする。
「そのー・・・進路っていうか、将来一緒に住んでほしいのか・・・それとも自由にしていいのか・・・とか、そういうこと・・・」
と、ミウは具体的に言葉にする。
「うーん、巷にはいろいろな女性がいると思うがら、俺の答えだけな・・・」
と、テルコは答える。
「俺は古い考え方かもしれねえが・・・まあ、仕事は東京で就職してもええけど、両親つーか、男親がよ、年取ってきたら・・・出来るだけ近くさ戻ってきてほしかったな」
と、テルコは真面目に答えている。
「年を取ってきたらっていうと・・・55歳を超えたらってことですか?」
と、ミウが聞く。
「まあ、サラリーマンには場所によって55歳で定年だからな・・・定年迎えっと男親はがっくり来るもんみたいだ」
と、テルコは答える。
「はい・・・」
と、ミウは言う。
「もちろん、おらも妻として、支えることには変わりはねえが・・・少しでも父ちゃん喜ばしてえって思うのが妻だが」
と、テルコは続ける。
「父ちゃんが、一番喜ぶのが娘の顔さ、見た時だ・・・それはどこの家族でも、変わらねえべ?」
と、テルコは言う。
「そうですね。わたしの家も・・・わたしが実家に帰るとまず父に会えるのが嬉しかったし、父も喜んでくれて・・・」
と、ミウは言う。
「そうだが・・・おらは、そんな父ちゃんの笑顔が見てえ・・・だがら、こうやって、仕事もしてる・・・」
と、テルコは答える。
「そういえば・・・テルさんの旦那さんは、今、どんな仕事を?」
と、ミウは質問する。
「元々は市場の関係者で仲買いさー、してたんだけど、40歳くらいから、野菜農家を片手間で始めてて・・・55歳で農家に専念してな・・・がんばってるんだ」
と、テルコは言う。
「酒一滴も飲めねえがら・・・こうやって、おらが、たまに外で飲むのも、許してくれてんだ・・・やさしい父ちゃんだ」
と、テルコは言う。
「それで娘さんは?」
と、ミウが聞く。
「東京で看護師してたんだけど、あるサラリーマンに見初められて・・・今、アメリカだ。ボストンっちゅーところへ住んでる。だから、たまにしか帰ってこねえ」
と、テルコは寂しそうに言う。
「そうだったんですか・・・」
と、ミウ。
「同じおんなとして考えたら・・・ユキはユキなりにしあわせをつかもうとがんばってるのかもしれねえ。あいつも必死だ」
と、テルコは少しさびしそうに言う。
「え?でも・・・サラリーマンで、アメリカにいるって言ったら・・・大きな会社なんじゃないですか?栄転っていうか・・・」
と、ミウが言う。
「大日本物産・・・旦那はそこのサラリーマンだ・・・エリートさんで・・・よくうちの娘なんか貰ってくれた・・・」
と、テルコは言う。
「大日本物産って・・・一流商社じゃないですか・・・すごいなあ、ユキさん・・・どうやったら、そんな男性捕まえられるんだろ」
と、ミウは少し笑顔になりながら、言う。
「看護師だったユキが交通事故で入院してた旦那さんを献身的に看護して・・・それがきっかけだ」
と、テルコは言う。
「へー、ドラマみたいな話ですね・・・あーあ、わたしも看護師になればよかったかなあ・・・」
と、ミウはため息をつきながら、言う。
「介護士は、看護師とは似て非なる仕事だかんな。相手はじっちゃんやばっちゃんばかりだからな。出会いはねーべ」
と、テルコは笑いながら、言う。
「そうですね。それは仕方ないけど・・・自分で選んだんだし・・・」
と、ミウは笑顔で言う。
「ところで、姫ちゃんは、なんでそったら事、俺に聞くんだ?」
と、テルコは真面目な顔で言う。
「姫ちゃんところも、あれか?母ちゃんとうまく行ってねえだが?」
と、テルコは真面目な顔して言う。
「さすがに先輩・・・よくわかりますね」
と、ミウは寂しそうに言う。
「そら、おらだって・・・何度ユキとぶつかったか・・・おらの考えが古すぎるんだけどな」
と、テルコ。
「それはわかってる。それはわかってるんだが・・・父ちゃんが寂しそうにしてると・・・たまんなぐなって・・・つい、ユキに電話して、戻ってこれねーか聞いちまう」
と、テルコ。
「今は無理だって、怒られる。まあ、その状況をわからねえではねえけど・・・でも、自分の父親だど・・・」
と、テルコ。
「父親が悲しい顔してんの、見てたら、たまらなぐなんねえか?特に一人娘だったら・・・責任感じねえもんか?」
と、テルコはミウに言う。
「それは感じますよ。それは・・・でも、人生どうにもならない時もあるって・・・今これをやらなければいけないって、そういう時だって、あるんです。娘だって」
と、ミウは自分の母親に言うように言葉にする。
「そーが・・・姫ちゃんは、ユキ側の立場の人間だもんな・・・そうが・・・」
と、テルコは少し寂しそうに話す。
「いや、すいません、テルさん・・・なんだか、母親に非難されているように感じて・・・」
と、ミウは謝り、すぐさま、
「ユキさん・・・アメリカのボストンは遠いし・・・お子さんなんかも、いて、大変な状況なんじゃないですか?」
と、言うミウ。
「5つと3つの男の子だ。かわいい盛りでな・・・父ちゃんは、その孫にもあいてえみてえだ。そりゃそうだ・・・年とったら孫に会うのは夢だべ」
と、テルコ。
「姫ちゃんも・・・早く子供産まねえと・・・女の賞味期限は、はええど」
と、テルコ。
「それは、わかってるつもりなんですけどね・・・そうですか、旦那さんの為に・・・娘さんに戻ってきて欲しいんだ」
と、ミウ。
「それはどこでも、そうなんじゃねえか?愛する者の笑顔を見たい・・・そりゃあ、誰だってかわんねえべ」
と、テルコ。
「そうですね・・・」
と、ミウ。
「姫ちゃんのおかあちゃん・・・なんか言っでねえが?父ちゃんのこと」
と、テルコ。
「言ってますよ。テルさんと同じです。父を、それはそれは愛していて、信頼していて・・・わたしとは喧嘩ばかり・・・」
と、ミウ。
「ほら、おんなじだべ・・・おんなは皆好きな男のために、生きてんだ・・・おらも、ユキも、姫ちゃんのおかあちゃんも・・・」
と、テルコ。
「姫ちゃんだって、まーさか処女じゃあんめい?」
と、テルコ。
「ええ。もちろん、男性に抱かれたことは、何度もありますよ」
と、ミウ。
「そっだら、気持ちいいの知ってっべ。好きな男が抱いてくれる時のいい顔知ってっぺ。思わず好きになるっべよ・・・愛しちまうべよ・・・」
と、テルコ。
「そうですね。それはわかります、わたしにも」
と、少し赤くなるミウ。
「おんなは、恋する為に生まれてくるんだ。一生尽くす男を探す為に生まれてくるんだ。それでそういう相手を見つけたら、その笑顔の為に生きるんだべや・・・」
と、テルコ。
「それが女だべ。違うが?姫ちゃん」
と、テルコは言う。
「いいえ・・・その通りです。テルさん・・・間違っていません。そのためにおんなは、生まれてくるんです」
と、ミウ。
「だったら、早く姫ちゃんも、そういう相手、みつけろ」
と、テルコは言うと、何杯目かのレモンサワーを飲み干した。
「すっがし、こういう話、楽しいなあ・・・姫ちゃんとこういう話したの、初めてだが」
と、テルコが言うと、
「そうですね。わたしもテルさんとこういう話が出来て楽しいです」
と、ミウは言う。
「これが、ガールズトークってやつか。おらたちも最先端だがー」
と、笑うテルコをミウはやさしい目で見ていた。
「女性はどこまでも行っても女性なのね・・・」
と、ミウは歩きながら、つぶやく。
そして、大きなため息をついたミウだった。
月夜野の街はポカポカと気持ちいい日よりだった。
(つづく)
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と、母が怖い顔をして叫ぶ。
「わたしの大事な、大事な・・・わたしが一生を賭けて探しだした大事なあのひとをを・・・おまえが・・・」
と、叫ぶ母の目は怖かった・・・。
「夢か・・・」
日曜日の朝、ミウは身体中に汗をびっしょりかいて、朝の6時に目を覚ました。
「目が覚めたのが・・・深夜じゃなかっただけ、よかったようなものね・・・」
と、ミウはそのまま起きだし、水道の水をコップに移して飲むと・・・熱いシャワーを浴びる・・・。
「あれは、雨のひどい日だった・・・お父さんは目が悪かったのに・・・それでも出て行った・・・ほんとうに自殺だったのね・・・」
と、シャワーを浴びながらそのことを考えるとミウの目から涙が流れる。
「お父さん・・・なんで自殺なんてしちゃったの・・・あんなにやさしい・・・大好きなお父さんだったのに・・・」
と、ミウはシャワー浴びながら声をあげて泣いた。
いつまでも、いつまでも、ミウは泣き続けていた・・・。
日曜日、朝の10時半過ぎ・・・鈴木サトルは、藤沢駅北口にあるスポーツ自転車店「コギー藤沢北口店」にサイクルウェアのまま、顔を出していた。
「辻さん・・・マシンチェックいつものように頼みます。デパ地下で買い物してくるんで」
と、サトルは自分のマシンを辻店長に預ける。
「朝のトレーニングはどうだった?134号は相変わらず混んでたかい?」
と、自転車を渡されながら、辻は鷹揚に話している。
「えー、車はいつも通り混んでましたよ。自転車もけっこう走ってましたしねー」
と、サトルは笑顔で話している。
「じゃ、頼みますねー」
と、サトルは笑顔になると、サイクルウェアのまま、道路の反対側にあるデパ地下へと消えていく。
「しかし、サトルくんも・・・あの真っ赤な派手なサイクルウェアのまま、デパ地下へ出没するんだから、度胸あるわ」
と、辻店長は呆れ顔で、店員の嶋野に言葉をかける。
「ま、サイクリストはある意味、コスプレイヤーみたいなモノですからねー。ま、サトルさんところのチームは度胸あるひとばかりだし・・・」
と、苦笑する嶋野だった。
「そうだったな。つーか、八津菱電機マンは、皆、度胸あるのかもな」
と、ニヤリとする辻店長だった。
「そうですね」
と、嶋野も笑顔で同意した。
同じ頃、ミウは、日曜日の天気のいい月夜野の街を気分を変える為に散歩していた。
静かな街もなんとなくポカポカして・・・いい日よりだった。
ミウは結局、昨日の夜、サシ飲みをしてしまった先輩の豊島テルコ(60)との会話を思い出していた・・・。
「そういえば、姫ちゃんのお母さん、身体壊して大変なんだって?所長さんに聞いただが」
と、テルコはやさしい笑顔で聞いてくる。
「えー・・・まあ・・・そうなんですけど・・・」
と、ミウは少しうつむくように話す。
「テルさん、聞いていいですか?」
と、ミウは少し話しづらそうに聞く。
「ん?何でも聞いてくれ・・・姫ちゃんは娘みたいに感じるだが・・・」
と、豪快にレモンサワーのジョッキを空けながらテルコはそう話す。
「母親って、娘にどんな思いを持っているもんなんでしょう?」
と、ミウはテルコに真面目に聞いている。
「どんなって・・・なんだが?」
と、テルコは少しキョトンとする。
「そのー・・・進路っていうか、将来一緒に住んでほしいのか・・・それとも自由にしていいのか・・・とか、そういうこと・・・」
と、ミウは具体的に言葉にする。
「うーん、巷にはいろいろな女性がいると思うがら、俺の答えだけな・・・」
と、テルコは答える。
「俺は古い考え方かもしれねえが・・・まあ、仕事は東京で就職してもええけど、両親つーか、男親がよ、年取ってきたら・・・出来るだけ近くさ戻ってきてほしかったな」
と、テルコは真面目に答えている。
「年を取ってきたらっていうと・・・55歳を超えたらってことですか?」
と、ミウが聞く。
「まあ、サラリーマンには場所によって55歳で定年だからな・・・定年迎えっと男親はがっくり来るもんみたいだ」
と、テルコは答える。
「はい・・・」
と、ミウは言う。
「もちろん、おらも妻として、支えることには変わりはねえが・・・少しでも父ちゃん喜ばしてえって思うのが妻だが」
と、テルコは続ける。
「父ちゃんが、一番喜ぶのが娘の顔さ、見た時だ・・・それはどこの家族でも、変わらねえべ?」
と、テルコは言う。
「そうですね。わたしの家も・・・わたしが実家に帰るとまず父に会えるのが嬉しかったし、父も喜んでくれて・・・」
と、ミウは言う。
「そうだが・・・おらは、そんな父ちゃんの笑顔が見てえ・・・だがら、こうやって、仕事もしてる・・・」
と、テルコは答える。
「そういえば・・・テルさんの旦那さんは、今、どんな仕事を?」
と、ミウは質問する。
「元々は市場の関係者で仲買いさー、してたんだけど、40歳くらいから、野菜農家を片手間で始めてて・・・55歳で農家に専念してな・・・がんばってるんだ」
と、テルコは言う。
「酒一滴も飲めねえがら・・・こうやって、おらが、たまに外で飲むのも、許してくれてんだ・・・やさしい父ちゃんだ」
と、テルコは言う。
「それで娘さんは?」
と、ミウが聞く。
「東京で看護師してたんだけど、あるサラリーマンに見初められて・・・今、アメリカだ。ボストンっちゅーところへ住んでる。だから、たまにしか帰ってこねえ」
と、テルコは寂しそうに言う。
「そうだったんですか・・・」
と、ミウ。
「同じおんなとして考えたら・・・ユキはユキなりにしあわせをつかもうとがんばってるのかもしれねえ。あいつも必死だ」
と、テルコは少しさびしそうに言う。
「え?でも・・・サラリーマンで、アメリカにいるって言ったら・・・大きな会社なんじゃないですか?栄転っていうか・・・」
と、ミウが言う。
「大日本物産・・・旦那はそこのサラリーマンだ・・・エリートさんで・・・よくうちの娘なんか貰ってくれた・・・」
と、テルコは言う。
「大日本物産って・・・一流商社じゃないですか・・・すごいなあ、ユキさん・・・どうやったら、そんな男性捕まえられるんだろ」
と、ミウは少し笑顔になりながら、言う。
「看護師だったユキが交通事故で入院してた旦那さんを献身的に看護して・・・それがきっかけだ」
と、テルコは言う。
「へー、ドラマみたいな話ですね・・・あーあ、わたしも看護師になればよかったかなあ・・・」
と、ミウはため息をつきながら、言う。
「介護士は、看護師とは似て非なる仕事だかんな。相手はじっちゃんやばっちゃんばかりだからな。出会いはねーべ」
と、テルコは笑いながら、言う。
「そうですね。それは仕方ないけど・・・自分で選んだんだし・・・」
と、ミウは笑顔で言う。
「ところで、姫ちゃんは、なんでそったら事、俺に聞くんだ?」
と、テルコは真面目な顔で言う。
「姫ちゃんところも、あれか?母ちゃんとうまく行ってねえだが?」
と、テルコは真面目な顔して言う。
「さすがに先輩・・・よくわかりますね」
と、ミウは寂しそうに言う。
「そら、おらだって・・・何度ユキとぶつかったか・・・おらの考えが古すぎるんだけどな」
と、テルコ。
「それはわかってる。それはわかってるんだが・・・父ちゃんが寂しそうにしてると・・・たまんなぐなって・・・つい、ユキに電話して、戻ってこれねーか聞いちまう」
と、テルコ。
「今は無理だって、怒られる。まあ、その状況をわからねえではねえけど・・・でも、自分の父親だど・・・」
と、テルコ。
「父親が悲しい顔してんの、見てたら、たまらなぐなんねえか?特に一人娘だったら・・・責任感じねえもんか?」
と、テルコはミウに言う。
「それは感じますよ。それは・・・でも、人生どうにもならない時もあるって・・・今これをやらなければいけないって、そういう時だって、あるんです。娘だって」
と、ミウは自分の母親に言うように言葉にする。
「そーが・・・姫ちゃんは、ユキ側の立場の人間だもんな・・・そうが・・・」
と、テルコは少し寂しそうに話す。
「いや、すいません、テルさん・・・なんだか、母親に非難されているように感じて・・・」
と、ミウは謝り、すぐさま、
「ユキさん・・・アメリカのボストンは遠いし・・・お子さんなんかも、いて、大変な状況なんじゃないですか?」
と、言うミウ。
「5つと3つの男の子だ。かわいい盛りでな・・・父ちゃんは、その孫にもあいてえみてえだ。そりゃそうだ・・・年とったら孫に会うのは夢だべ」
と、テルコ。
「姫ちゃんも・・・早く子供産まねえと・・・女の賞味期限は、はええど」
と、テルコ。
「それは、わかってるつもりなんですけどね・・・そうですか、旦那さんの為に・・・娘さんに戻ってきて欲しいんだ」
と、ミウ。
「それはどこでも、そうなんじゃねえか?愛する者の笑顔を見たい・・・そりゃあ、誰だってかわんねえべ」
と、テルコ。
「そうですね・・・」
と、ミウ。
「姫ちゃんのおかあちゃん・・・なんか言っでねえが?父ちゃんのこと」
と、テルコ。
「言ってますよ。テルさんと同じです。父を、それはそれは愛していて、信頼していて・・・わたしとは喧嘩ばかり・・・」
と、ミウ。
「ほら、おんなじだべ・・・おんなは皆好きな男のために、生きてんだ・・・おらも、ユキも、姫ちゃんのおかあちゃんも・・・」
と、テルコ。
「姫ちゃんだって、まーさか処女じゃあんめい?」
と、テルコ。
「ええ。もちろん、男性に抱かれたことは、何度もありますよ」
と、ミウ。
「そっだら、気持ちいいの知ってっべ。好きな男が抱いてくれる時のいい顔知ってっぺ。思わず好きになるっべよ・・・愛しちまうべよ・・・」
と、テルコ。
「そうですね。それはわかります、わたしにも」
と、少し赤くなるミウ。
「おんなは、恋する為に生まれてくるんだ。一生尽くす男を探す為に生まれてくるんだ。それでそういう相手を見つけたら、その笑顔の為に生きるんだべや・・・」
と、テルコ。
「それが女だべ。違うが?姫ちゃん」
と、テルコは言う。
「いいえ・・・その通りです。テルさん・・・間違っていません。そのためにおんなは、生まれてくるんです」
と、ミウ。
「だったら、早く姫ちゃんも、そういう相手、みつけろ」
と、テルコは言うと、何杯目かのレモンサワーを飲み干した。
「すっがし、こういう話、楽しいなあ・・・姫ちゃんとこういう話したの、初めてだが」
と、テルコが言うと、
「そうですね。わたしもテルさんとこういう話が出来て楽しいです」
と、ミウは言う。
「これが、ガールズトークってやつか。おらたちも最先端だがー」
と、笑うテルコをミウはやさしい目で見ていた。
「女性はどこまでも行っても女性なのね・・・」
と、ミウは歩きながら、つぶやく。
そして、大きなため息をついたミウだった。
月夜野の街はポカポカと気持ちいい日よりだった。
(つづく)
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