浜野巌治


博多湾の浜辺に住む頑固ジジイです。

⑨ふくおか、むかしむかし《元寇 その2》

2007年02月16日 | 日記・エッセイ・コラム

《文永の役》

元軍は博多湾から姿を消した。しかし、また襲ってくるかもしれない。幕府は博多湾沿岸に石築地をを築かせた。

Uvs070125011 いまもあちこちに残る防塁だ。博多湾岸20キロに及ぶ高さ2mの石垣。文永の役で戦った九州の武士集団に石築地の場所を割り当てた。例えば、生の松原は肥後菊池の担当だった。おばあの父方の出自は熊本県菊池のだから、もしかしたら、ご先祖さまの一人や二人、泣きながら石を運んだのかもしれない。

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生の松原(いきのまつばら)の一部が修復され元の姿を現した防塁。いま、多くの防塁は松林の根元に半ば砂に埋もれながら眠っている。

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Uvs070125009 『私は博多湾の漁師。文永の役ではさいわいケガもなく、元軍は姿を消した。しかし、元はまた攻めてくると、みんなが思っていた。石築地の建設を急げ!幕府から命ぜられた。20キロにわたる長い防壁を作るのは容易ではなかった。男も女も百姓も漁師も町人も働ける人間はすべて工事に出た。私の小舟は石を運ぶのが仕事だった。海岸に転がる石、川岸の石、山の石、墓石までもありとあらゆる石が海岸線に運ばれた。

およそ2年余り、武士も町人も百姓も汗を流した。蒙古軍が来ても一歩も上陸させないという気持ちが工事を進ませた。』

フビライは1279年、南宋を滅ぼすと、1281年、再び、日本攻略の命令を下した。東路軍は高麗の軍を、江南軍は漢人の軍をあて、日本を目指すことにした。

『私は高麗の漁師。はるか対馬をのぞむ海で魚を追った。蒙古軍が7年前のあのときのように村にやってきた。「船を建造せよ!」と命令した。父は7年前、船でジパングへ向かったまま今なお帰ってこない。母はいまはもういない。私は15歳の大人になっていたから1人前の男として徴発された。山の木々は7年前に切られてしまい、山々は丸裸のままだった。木を切り出すために、洛東江をはるか上流の山々まで行った。海辺では造船がはじまった。しかし、7年前船を作った造船の技術を持った男たちはいなかった。一人として帰ってこなかったのだ。

それでも、「船を作れ!」と蒙古軍は高麗の民を責め続けた。反抗は許されなかった。情け容赦ない地獄かという日々が続いた。

どうにか船の形はできた。合浦に集結した船は900艘。しかし、この船で、荒海を渡ることができるか?竜骨すら満足にない船が荒海を渡り、ジパングに行き着けるか?漁師の私には不安だった。しかし、出航の日は来た。私にも弓と刀が渡された。すでに父のように私も兵士にされていた。』

弘安4年(1281年)フビライは日本遠征の命令を下した。モンゴル人、漢人、高麗人4万の東路軍は対馬、壱岐を襲い、博多湾に侵入した。しかし、元軍が見たのは海岸にどこまでも続く石の防壁だった。6月6日~13日まで日本の武士は勇敢に戦い、上陸を食い止めた。東路軍は一旦壱岐に退き、寧波(ニンポー)を出発した江南軍3500艘(モンゴル人、漢人)を待った。7月、東路軍と江南軍は平戸で合流、再度、博多湾を攻撃する準備をすすめた。しかし…鷹島でまたも暴風雨に襲われ、元軍の船の多くは海の藻屑となり、壊滅した。

『私は高麗の漁師、大船団の中の小舟を操った。帆を張り、櫓を漕ぎ、大海を渡り、ようやくジパングに着いた。刀を握らされたが、戦うことはなく、大きな指揮船の周りを警戒するだけだった。博多湾に入ったとき、私たちが見たのは長大な防塁がどこまでもどこまでも上陸させまいと阻むように波打ち際に連なっていた。あの石塁は馬が乗り越えることは出来そうにない。しかも、旗がはためき、鎧で固めた武士たちが防塁の上に連なっていた。

私たちの船団は湾を出て、なぜか、外洋で漂った。食糧は腐り、水も不足した。病気も蔓延、私たちは戦うまえにみんな死んでしまうかと不安だった。

江南軍の船団が現れ、ようやく士気が戻った。さあ、攻撃だ!しかし、海は荒れはじめた。台風だ。朝鮮南端は、しばしば台風に襲われた。だから、台風の恐ろしさは身にしみついている。舟は内湾などよほど、風を受けないところで台風が通り過ぎるのを待つほかはない。しかし、まったくはじめての海、と陸。風を避ける場所を探すこともままならぬ。台風は襲ってきた。大きい船も小さな舟も風浪に呑まれた。私の舟は小舟だった。岸に引き上げたから助かった。数百、数千の船は消えた。波間に数え切れない兵士が浮んでいた。

小舟をあやつり、ふるさとをめざした。生きて帰った村の男は数人だった。』

『私は博多湾の漁師。“これが神風か”元軍が壊滅したという噂が博多の町を包み、武士も町民も漁師も安堵した。私は小舟で漁をはじめた。』


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