“売れないアメリカ車” その理由は? NHK 2025年4月23日 23時03分
アメリカのトランプ政権は、日本市場でアメリカ製の車がほとんど売れていないことを問題視し、日本の車の安全基準などを「非関税障壁」だと主張し批判しています。
日本の安全基準に合わせて海外で仕様変更
都内にあるこの店舗では、ヨーロッパの自動車大手「ステランティス」の傘下で、アメリカブランドの「ジープ」の新車を販売しています。
展示されている車は、ウインカーの色やヘッドライトの光の向きなどを日本の安全基準に合うようにメーカーが事前に海外で仕様変更していて、購入後はそのまま走ることができます。
また、道幅が狭い日本でも運転しやすいよう、車のラインナップも日本市場のニーズを考慮してブランドの中では比較的サイズを抑えた車を販売しています。
エンジンの排気量も2000cc未満となっていて、大きいモデルと比べれば、自動車税も抑えられるということです。
さらに山道など悪路でも走れる特徴を生かし、そうした車を好む顧客をターゲットに販売の拡大を図っています。
「ジープ池袋」の春田幸司所長は「販売店としては、非関税障壁を感じることはない。アメリカ車は大きいというイメージがあるかと思うが、実際に乗ってもらえると非常に楽しい車だと思うので、多くの人に乗ってほしい」と話しています。
直接輸入している販売店 日本の基準を満たすための整備は
アメリカで売られている車を直接、輸入して販売している店では、日本の安全基準を満たすために整備を行った上で販売していて、こうした整備費用は販売価格に上乗せされるため、顧客の負担になっていると指摘しています。
埼玉県所沢市にある輸入車の専門店では、年間100台ほどのアメリカ車を販売しています。
この店では、日本の正規販売店が扱っていないフォードブランドの車や、GM=ゼネラル・モーターズの車種を中心にアメリカから直接、輸入しています。
輸入した車は日本の安全基準を満たすために、ウインカーをオレンジ色に換えたり、シートベルトを装着していないことを知らせる警告灯を取り付けたりしているということです。
このほか、初めて日本に輸入する車種については、専門の機関に安全基準に適合しているか、騒音や排ガスなどのテストを依頼する必要があるということです。
こうした作業は車種によって数十万円から300万円ほど費用がかかるということで、販売価格に上乗せしているということです。
この店ではアメリカ車の見た目やエンジンの迫力などに魅力を感じてリピーターも多いということです。
輸入車専門店「キャルウイング」の植野史祐竜さんは、「輸入した車の整備には時間とコストがかかる。少しでも安全基準が緩和されれば、アメ車の良さを知ってもらい、いろいろな車種をより安く届けられるようになる」と話しています。
専門家 “安全基準で譲歩しても売れるかは疑問”
アメリカの自動車ブランドの販売台数が日本で少ない理由について、自動車産業に詳しい伊藤忠総研の深尾三四郎エグゼクティブ・フェローは「車両のサイズが大きく、日本の道路事情に合っていない。燃費が悪いのも大きな要因で日本市場でよく売れているハイブリッド車が少ない」と指摘しています。
日本市場のニーズに合う車が少ない背景については、「人口減少社会である日本市場は長期的に見ても縮小市場なので、日本市場を狙って車を作るという発想がもともとないのではないか」と話しています。
また、アメリカ側が車の安全基準の違いなどをめぐる日本の対応を「非関税障壁」だと主張していることについては「日本の安全基準は国連のルールに基づいている。ヨーロッパも同じような基準でアメリカと違うだけだ」としたうえで、「安全基準などで日本が譲歩したとしてもアメリカ車が日本に入ってきて売れるかと言えば、大きな疑問だ」と話しています。
一方で、日米交渉で政府が取るべき対応については、「トランプ大統領は実績を作らないといけない立場なので、花を持たせる必要がある。例えば、アメリカのEV=電気自動車を公用車として購入し、数千とか数万台輸入するという話をすれば、交渉の切り札になり得る」として、アメリカ側から見て目に見える形の成果を見せることが重要だと指摘しました。
日本は国連の協定に加入 アメリカは独自の基準
USTR=アメリカ通商代表部は先月公表した報告書の中で、日本がアメリカの車の安全基準を日本の基準と同等のものとして受け入れていないことなどが「非関税障壁」となり、日本市場へのアクセスを妨げていると主張しています。
車の安全基準では、日本は国連の協定に加入し、国際的な基準を採用しています。この基準はヨーロッパ各国や韓国、タイ、オーストラリアなどあわせて61の国と地域が採用していて、こうした国や地域から日本に輸出して販売する場合は、新たな認証を得る必要はないということです。
一方、アメリカは、「FMVSS」(Federal Motor-Vehicle Safty Standard)というアメリカ独自の安全基準を採用しています。
違いを例として挙げると、日本などが採用する国際的な基準では歩行者の安全性を重視し、人の頭部や足を模したダミーとの衝突試験も行います。
日本では住宅街などで狭い道も多く、車と歩行者が接触するケースが想定されるためですが、アメリカの基準では、こうしたダミーとの衝突試験などは義務づけられていないということです。
こうした基準の違いからアメリカのメーカーが日本に車を輸出して販売する場合には、国際的な基準に適合させる必要があります。
国土交通省によりますと、アメリカの車が基準を満たすには車のボンネットやフロントガラスの部分に歩行者の頭がぶつかった時の衝撃を測る試験や、死角を減らして歩行者を巻き込む事故を防ぐために、補助ミラーやカメラを使って、運転席から車の前方や左側が見えるかどうかを確認する試験などを行う必要があるとしています。
アメリカの自動車メーカーはこうした試験などを行って日本の基準を満たしたうえで、現地生産したモデルを日本に輸出し、正規ディーラーで販売しているということです。
一方で、日本の自動車メーカーもアメリカに輸出する場合には、アメリカの基準に適合させる必要があり、乗員を事故から守るために車体の屋根や側面の強度を高めるなどの対応をしているということです。
アメリカの自動車ブランド 日本国内販売全体の0.3%
日本自動車輸入組合によりますと去年1年間に国内で販売された海外メーカーの輸入車の台数は22万7202台で、販売全体の5%ほどです。
ブランド別では、「メルセデス・ベンツ」が5万3195台、「BMW」が3万5240台、「フォルクスワーゲン」が2万2779台、「アウディ」が2万1415台などとドイツが上位を占めています。
一方、アメリカの自動車ブランドはあわせても1万6700台余りで、国内の販売全体の0.3%にとどまります。
もっとも多いのが、ヨーロッパの自動車メーカー、ステランティス傘下のアメリカの自動車ブランド「ジープ」で9633台、GM=ゼネラル・モーターズの「シボレー」が587台、「キャデラック」が449台などとなっています。
アメリカのEVメーカー「テスラ」は日本での販売台数を公表していませんが、輸入組合の統計から5600台余りを販売したとみられます。
存在感は長期的に見ても低下
日本の新車市場におけるアメリカブランドの存在感は、長期的に見ても低下しつつあります。
日本自動車輸入組合の資料によりますと、日本メーカー分も含めて国内で販売された輸入車の台数は1995年の時点では38万8000台余りで、このうち、アメリカブランドの販売シェアは、36.9%を占めていました。
しかし、2005年には7.2%まで低下し、2015年には32万8000台余りの輸入車のうち、アメリカブランドはわずか4.6%にとどまっています。
ドイツメーカーが日本市場のニーズをとらえながら高級車を中心に存在感を高める中で、アメリカブランドの車は販売が低迷し、2016年にはアメリカの自動車大手の一角で、戦前から日本に進出していたフォードが日本でのすべての事業から撤退しました。
アメリカのトランプ政権は、日本市場でアメリカ製の車がほとんど売れていないことを問題視し、日本の車の安全基準などを「非関税障壁」だと主張し批判しています。
日本の安全基準に合わせて海外で仕様変更
都内にあるこの店舗では、ヨーロッパの自動車大手「ステランティス」の傘下で、アメリカブランドの「ジープ」の新車を販売しています。
展示されている車は、ウインカーの色やヘッドライトの光の向きなどを日本の安全基準に合うようにメーカーが事前に海外で仕様変更していて、購入後はそのまま走ることができます。
また、道幅が狭い日本でも運転しやすいよう、車のラインナップも日本市場のニーズを考慮してブランドの中では比較的サイズを抑えた車を販売しています。
エンジンの排気量も2000cc未満となっていて、大きいモデルと比べれば、自動車税も抑えられるということです。
さらに山道など悪路でも走れる特徴を生かし、そうした車を好む顧客をターゲットに販売の拡大を図っています。
「ジープ池袋」の春田幸司所長は「販売店としては、非関税障壁を感じることはない。アメリカ車は大きいというイメージがあるかと思うが、実際に乗ってもらえると非常に楽しい車だと思うので、多くの人に乗ってほしい」と話しています。
直接輸入している販売店 日本の基準を満たすための整備は
アメリカで売られている車を直接、輸入して販売している店では、日本の安全基準を満たすために整備を行った上で販売していて、こうした整備費用は販売価格に上乗せされるため、顧客の負担になっていると指摘しています。
埼玉県所沢市にある輸入車の専門店では、年間100台ほどのアメリカ車を販売しています。
この店では、日本の正規販売店が扱っていないフォードブランドの車や、GM=ゼネラル・モーターズの車種を中心にアメリカから直接、輸入しています。
輸入した車は日本の安全基準を満たすために、ウインカーをオレンジ色に換えたり、シートベルトを装着していないことを知らせる警告灯を取り付けたりしているということです。
このほか、初めて日本に輸入する車種については、専門の機関に安全基準に適合しているか、騒音や排ガスなどのテストを依頼する必要があるということです。
こうした作業は車種によって数十万円から300万円ほど費用がかかるということで、販売価格に上乗せしているということです。
この店ではアメリカ車の見た目やエンジンの迫力などに魅力を感じてリピーターも多いということです。
輸入車専門店「キャルウイング」の植野史祐竜さんは、「輸入した車の整備には時間とコストがかかる。少しでも安全基準が緩和されれば、アメ車の良さを知ってもらい、いろいろな車種をより安く届けられるようになる」と話しています。
専門家 “安全基準で譲歩しても売れるかは疑問”
アメリカの自動車ブランドの販売台数が日本で少ない理由について、自動車産業に詳しい伊藤忠総研の深尾三四郎エグゼクティブ・フェローは「車両のサイズが大きく、日本の道路事情に合っていない。燃費が悪いのも大きな要因で日本市場でよく売れているハイブリッド車が少ない」と指摘しています。
日本市場のニーズに合う車が少ない背景については、「人口減少社会である日本市場は長期的に見ても縮小市場なので、日本市場を狙って車を作るという発想がもともとないのではないか」と話しています。
また、アメリカ側が車の安全基準の違いなどをめぐる日本の対応を「非関税障壁」だと主張していることについては「日本の安全基準は国連のルールに基づいている。ヨーロッパも同じような基準でアメリカと違うだけだ」としたうえで、「安全基準などで日本が譲歩したとしてもアメリカ車が日本に入ってきて売れるかと言えば、大きな疑問だ」と話しています。
一方で、日米交渉で政府が取るべき対応については、「トランプ大統領は実績を作らないといけない立場なので、花を持たせる必要がある。例えば、アメリカのEV=電気自動車を公用車として購入し、数千とか数万台輸入するという話をすれば、交渉の切り札になり得る」として、アメリカ側から見て目に見える形の成果を見せることが重要だと指摘しました。
日本は国連の協定に加入 アメリカは独自の基準
USTR=アメリカ通商代表部は先月公表した報告書の中で、日本がアメリカの車の安全基準を日本の基準と同等のものとして受け入れていないことなどが「非関税障壁」となり、日本市場へのアクセスを妨げていると主張しています。
車の安全基準では、日本は国連の協定に加入し、国際的な基準を採用しています。この基準はヨーロッパ各国や韓国、タイ、オーストラリアなどあわせて61の国と地域が採用していて、こうした国や地域から日本に輸出して販売する場合は、新たな認証を得る必要はないということです。
一方、アメリカは、「FMVSS」(Federal Motor-Vehicle Safty Standard)というアメリカ独自の安全基準を採用しています。
違いを例として挙げると、日本などが採用する国際的な基準では歩行者の安全性を重視し、人の頭部や足を模したダミーとの衝突試験も行います。
日本では住宅街などで狭い道も多く、車と歩行者が接触するケースが想定されるためですが、アメリカの基準では、こうしたダミーとの衝突試験などは義務づけられていないということです。
こうした基準の違いからアメリカのメーカーが日本に車を輸出して販売する場合には、国際的な基準に適合させる必要があります。
国土交通省によりますと、アメリカの車が基準を満たすには車のボンネットやフロントガラスの部分に歩行者の頭がぶつかった時の衝撃を測る試験や、死角を減らして歩行者を巻き込む事故を防ぐために、補助ミラーやカメラを使って、運転席から車の前方や左側が見えるかどうかを確認する試験などを行う必要があるとしています。
アメリカの自動車メーカーはこうした試験などを行って日本の基準を満たしたうえで、現地生産したモデルを日本に輸出し、正規ディーラーで販売しているということです。
一方で、日本の自動車メーカーもアメリカに輸出する場合には、アメリカの基準に適合させる必要があり、乗員を事故から守るために車体の屋根や側面の強度を高めるなどの対応をしているということです。
アメリカの自動車ブランド 日本国内販売全体の0.3%
日本自動車輸入組合によりますと去年1年間に国内で販売された海外メーカーの輸入車の台数は22万7202台で、販売全体の5%ほどです。
ブランド別では、「メルセデス・ベンツ」が5万3195台、「BMW」が3万5240台、「フォルクスワーゲン」が2万2779台、「アウディ」が2万1415台などとドイツが上位を占めています。
一方、アメリカの自動車ブランドはあわせても1万6700台余りで、国内の販売全体の0.3%にとどまります。
もっとも多いのが、ヨーロッパの自動車メーカー、ステランティス傘下のアメリカの自動車ブランド「ジープ」で9633台、GM=ゼネラル・モーターズの「シボレー」が587台、「キャデラック」が449台などとなっています。
アメリカのEVメーカー「テスラ」は日本での販売台数を公表していませんが、輸入組合の統計から5600台余りを販売したとみられます。
存在感は長期的に見ても低下
日本の新車市場におけるアメリカブランドの存在感は、長期的に見ても低下しつつあります。
日本自動車輸入組合の資料によりますと、日本メーカー分も含めて国内で販売された輸入車の台数は1995年の時点では38万8000台余りで、このうち、アメリカブランドの販売シェアは、36.9%を占めていました。
しかし、2005年には7.2%まで低下し、2015年には32万8000台余りの輸入車のうち、アメリカブランドはわずか4.6%にとどまっています。
ドイツメーカーが日本市場のニーズをとらえながら高級車を中心に存在感を高める中で、アメリカブランドの車は販売が低迷し、2016年にはアメリカの自動車大手の一角で、戦前から日本に進出していたフォードが日本でのすべての事業から撤退しました。