ロシア代表団の団長を務めるメジンスキー大統領補佐官
ゼレンスキー大統領 ロシアとの協議へ トルコに代表団派遣 NHK 2025年5月16日 2時25分
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、トルコのイスタンブールに代表団を派遣し、ロシア側との直接協議に応じると明らかにしました。停戦をめぐる両国の対面での協議が実現すると、ロシアが軍事侵攻を始めた翌月の2022年3月にイスタンブールで行われて以降はじめてです。
ゼレンスキー大統領「重要な交渉を真剣に考えていない」と批判
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、トルコのエルドアン大統領と会談したあと、記者会見し、プーチン大統領が首脳会談の呼びかけに応じず、メジンスキー大統領補佐官を団長とする代表団を送ったことについて「重要な交渉を真剣に考えていない」と批判しました。
その上で「トランプ大統領、そしてエルドアン大統領に敬意を払い、少なくとも緊張緩和と停戦に向けた最初の一歩を踏み出したいことを示すため、代表団をイスタンブールに派遣することにした」と述べ、ロシアとの直接協議に応じると明らかにしました。
代表団は、ウメロフ国防相が率い、イスタンブールに向けてすでに出発したとしています。
ただ、協議の時間については「アメリカとトルコからの情報を待っている」と述べ、調整を続けているということで、ウクライナの代表団は16日まではイスタンブールに滞在するとしています。
ゼレンスキー大統領は協議について停戦が最優先だとした上で「ロシアは戦争を終わらせたいと思っていない。しかし、会談中に少なくとも何かを示すことを期待しよう」と述べました。
ゼレンスキー大統領はこれまでプーチン大統領との首脳会談を呼びかけていて、ロシア側が発表した代表団のメンバーについては「飾り物のように見える」と述べ決定権がないと指摘していました。
そして、エルドアン大統領と首脳会談を行ったあと、協議に応じるかどうか決めると明らかにし、その対応が注目されていました。
ロシア代表団団長「中断された協議の継続と位置づけ」
ロシア代表団の団長を務めるメジンスキー大統領補佐官は15日、ほかの代表団のメンバーとともに、トルコのイスタンブールにあるロシア総領事館の敷地内で、記者団の取材に応じました。
この中で、メジンスキー補佐官は、「われわれは、今回の協議を、ウクライナ側によって3年前に中断されたイスタンブールでの和平協議の継続だと位置づけている」と述べました。
その上で、「われわれ代表団は、建設的な対話を望んでいるし、可能な解決策や接点を探している。ウクライナ側との直接協議の課題は、この紛争の根本原因を取り除き、いずれはウクライナとの間で長期的な和平を達成することだ」と述べ、従来のロシア側の主張を重ねて強調しました。
これまでの経緯
ウクライナ情勢をめぐり、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナとの直接協議を15日にトルコのイスタンブールで行うことを提案したのに対し、ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領にトルコでの首脳会談を呼びかけています。
プーチン大統領は、直接協議にメジンスキー大統領補佐官を団長とする代表団を出席させることを決め、ロシア外務省の報道官は「代表団はすでにイスタンブールに到着している」と述べました。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は15日、アメリカのCNNに対して、プーチン大統領がトルコでのロシアとウクライナの協議に出席するかどうか聞かれ「しない」と述べ、否定しました。
ゼレンスキー大統領「私はここに来た これが明確なメッセージ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、トルコの首都アンカラの空港で記者からロシアのプーチン大統領に何かメッセージはあるかと聞かれたのに対して「私はここに来た。これがとても明確なメッセージだ」と答えました。
ゼレンスキー大統領は今月11日、「トルコでプーチンを待っている。戦争を終わらせるために話す用意がある」と述べていました。
ゼレンスキー大統領 エルドアン大統領と会談
ウクライナのゼレンスキー大統領は、現地時間の15日正午すぎ、日本時間の15日午後6時すぎ、トルコの首都、アンカラの空港に到着し、午後7時すぎからはトルコのエルドアン大統領と会談を行っています。
空港で、ゼレンスキー大統領は、報道陣に対し、「私たちの代表団は外務省、大統領府、軍、そして情報機関からなり、最高レベルのものだ。期待されている公正な平和につながる決定を下すためだ」と述べ、多くの政府高官とともにトルコを訪問したと強調しました。
その上で、「私はまだ、ロシアの代表団がどのレベルなのか正式には知らされていないが飾り物のようにみえる。彼ら自身で決断を下すことができるのか。ロシアの代表団のレベルを理解する必要がある。なぜなら私たちは誰がロシアの決断を下すか知っている」と述べ、エルドアン大統領との会談のあとに今後の対応を検討する考えを示しました。
また、ゼレンスキー大統領はエルドアン大統領との会談のあと記者団の取材に応じる意向も示しました。
トランプ大統領「私が会わない限り何も起こらない」
アメリカのトランプ大統領は15日、中東のカタールからUAE=アラブ首長国連邦に移動する大統領専用機の機内で記者団の取材に応じました。
このなかでロシアとウクライナの代表団による直接協議に関連して「プーチン大統領と私が会わない限り、何も起こらないと思う。しかし、私たちは事態を解決しなければならない。あまりにも多くの人が亡くなっているからだ」と述べ、事態の進展には、みずからとロシアのプーチン大統領との首脳会談が必要だとの考えを示しました。
トランプ大統領は午後4時すぎ、日本時間の午後9時すぎに3か国目の訪問先、UAEの首都アブダビに到着しました。
国際部デスク解説 ニュースウオッチ9
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トランプ大統領“何かを実現できることを願っている”
アメリカのトランプ大統領は15日、訪問先のカタールの首都ドーハで開かれた現地のビジネス関係者との会合でロシアとウクライナの代表団による直接協議について「ロシアとウクライナが何かを実現できることを願っている。戦闘は止めなければならない」と述べました。
またトランプ大統領は自身が直接、トルコを訪問する可能性に言及していたことについて「何かあれば、それが適切であれば、金曜日に行くかもしれない。ただ、いま協議にあたっている者がいる」として、現地にはルビオ国務長官らを派遣していると説明しながらも16日にトルコに行く可能性も排除しない姿勢を示しました。
トランプ大統領はこのあとカタールを出発して次の訪問国となるUAE=アラブ首長国連邦に向かう予定です。
ロシア メジンスキー大統領補佐官らを派遣
ロシア大統領府は14日、プーチン大統領がメジンスキー大統領補佐官を団長とする代表団を出席させることを決め、ガルージン外務次官と軍参謀本部のコスチュコフ情報総局長、それにフォミン国防次官らが出席すると発表しました。
メジンスキー氏は2022年にトルコのイスタンブールで行われたロシアとウクライナによる対面での停戦交渉で、ロシア側のトップを務めた人物です。
“プーチン大統領 代表団らと会議” ロシア大統領府
ロシア大統領府は、プーチン大統領が14日夜、ウクライナとの直接協議に備え、トルコのイスタンブールに派遣するメジンスキー大統領補佐官らの代表団やプーチン大統領の側近らとの会議を行ったと発表しました。
会議には、代表団のメンバーのほか、ラブロフ外相、大統領府で外交政策を担当するウシャコフ補佐官、ナルイシキン対外情報庁長官、ボルトニコフ連邦保安庁長官、ショイグ安全保障会議書記、ベロウソフ国防相、ゲラシモフ参謀総長、それに軍事侵攻に参加している部隊の司令官らが参加したということです。
ウクライナ外相 アメリカ国務長官と会談
一方、ウクライナのシビハ外相はアメリカのルビオ国務長官とトルコ南部のアンタルヤで会談したと15日、SNSで明らかにしました。
この中でゼレンスキー大統領の和平に向けた取り組みの展望を共有し、双方の立場を調整したほか、さらなるステップについて詳細に議論したとしています。
そして、和平に向けたアメリカのトランプ政権の関与に謝意を表明しています。
その上で「ロシアがウクライナの建設的なステップに応じることが極めて重要だ。これまでのところそうなっていない。プーチン政権は和平を拒否することは代償を伴うということを理解しなければならない」としています。
侵攻開始翌月 トルコ イスタンブールでの対面交渉は
2022年にロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めた当初、両国は停戦に向けた直接交渉を重ね、3月29日からイスタンブールで4回目の対面交渉が行われました。
欧米メディアによりますと、ウクライナ側の提案には欧米やロシア、中国などによる安全保障の枠組みで安全が確保できれば、NATO=北大西洋条約機構への加盟の断念を含む「中立化」を受け入れることなどが盛り込まれています。
また、ロシアが一方的に併合したクリミア半島の主権の問題については、今後、協議を続けるとして事実上、棚上げするとしています。
ただ、ロシア側は、ウクライナが合意から後退し、こう着状態に陥ったと非難し「交渉で最終合意に至り、目的が達成されるまで軍事作戦は継続する」とする立場を表明しました。
ウクライナ側も、首都キーウ近郊のブチャなどで多数の市民が殺害されているのが見つかったことなどを受けて態度を硬化させ、領土の奪還に向けて戦闘を継続し協議は中断します。
プーチン大統領はその後、イスタンブールで一定の合意に達していたものの、欧米の介入により署名できなかったとする主張を繰り返しています。
2024年6月、プーチン大統領は、イスタンブールでの協議で「ウクライナの永世中立と安全の保証に関する条約」の草案が作成されていたとした上で「重要な点はわれわれの基本的な要求に沿っていて、課題を解決するものだった」としています。
そして2024年12月には「2022年、われわれはイスタンブールで合意に達した。ウクライナ側は全体として同意していた」と述べロシア側にとって停戦をめぐる今後の交渉の出発点はイスタンブールで合意された内容だという立場を繰り返し表明しています。
仲介役トルコの立場は
黒海を挟んでロシアとウクライナの両国と向かい合うトルコは、ロシアのウクライナ侵攻が始まった翌月の2022年3月に両国の対面での停戦交渉の場となりました。
その後、ウクライナの首都近郊のブチャで多くの住民が殺害されているのが見つかるなどして、交渉は打ち切られる形となりましたが、トルコのエルドアン大統領は、その後も再三にわたって双方に交渉の場を提供すると呼びかけてきました。
エルドアン大統領は「戦争に勝者はなく平和に敗者はいない」としてロシアのプーチン大統領、それにウクライナのゼレンスキー大統領とも直接対話を続け、今週、両者とそれぞれ電話で会談するなど仲介役を担ってきました。
また、アメリカのトランプ大統領は5月初めに行われたエルドアン大統領との電話会談のあと「ばかげた戦争を終わらせるためエルドアン大統領と協力することを楽しみにしている」と強調していました。
トルコはNATO=北大西洋条約機構の加盟国である一方、地理的な近さもあり、ロシアとウクライナ双方と緊密な関係を続けていて、ロシアに対しても欧米各国が科してきた経済制裁には加わりませんでした。
2022年にはウクライナ侵攻によって世界的に穀物価格が高騰する中、国連とともにウクライナ産農産物の黒海を通じた輸出の合意でも仲介役として存在感を示してきました。