金属部分が途中で折れてねじ曲がっているほか、もともと打ち込まれていたコンクリート部分には、先端部分が残されているのが分かります。
中国道 足場崩落5人死傷の事故 金具一部折れた後も工事続行か NHK 2025年5月20日 22時14分
ことし1月、広島県内にある中国自動車道の橋の改修工事現場で足場が崩落し作業員5人が死傷した事故で、足場をつるすための金具の一部が折れたのに工事が続けられ、まもなく事故が起きていたことが複数の業者などへの取材で分かりました。
ことし1月、広島県廿日市市にある中国自動車道の橋の改修工事現場で、橋桁の下につり下げられた足場が崩落し、作業員5人がおよそ20メートル転落して2人が死亡、3人がけがをしました。
足場はコンクリート製の橋桁に20本の金具を打ち込みチェーンでつり下げられていましたが、事故のおよそ2時間前に金具のうちの1本が折れていたことが、複数の下請け業者や作業員への取材で分かりました。
工事はいったん中断され、作業員たちは元請け業者側の現場監督に安全性の確認を求めましたが、その後、問題はないとして工事を続けるよう指示があり、再開後に事故が起きたということです。
業者側は警察にもこうした経緯を説明しているということで、警察は業務上過失致死傷の疑いもあるとみて、引き続き事故の詳しいいきさつを調べています。
この事故について工事を発注した西日本高速道路は、橋桁に打ち込まれた金具の深さが足りなかったり、位置が計画よりも低かったりしたことが事故の原因とみられると公表しています。
崩落事故前の折れた金具とは
崩落事故が起きる2時間余り前、金具1本が折れたあとに現場で撮影された写真です。
金属部分が途中で折れてねじ曲がっているほか、もともと打ち込まれていたコンクリート部分には、先端部分が残されているのが分かります。
金具が折れたあと作業員たちは安全な場所に一時避難したうえで、元請け業者側の現場監督に安全性について確認するよう求めたということです。
作業員 “亡くなった方に誠心誠意謝ってほしい”
現場で作業にあたっていて背骨などを折る大けがを負い、今も入院している男性がNHKのインタビューに応じました。
男性は当時の状況について「安全帯などはつるされた足場の金具につけていましたが、金具ごと落ちたのでひとたまりもなかったです。すごい速度で落ちていき、気付いたときには一緒に作業していたメンバーのうめき声や『助けてくれ』という声が聞こえ、大ごとになったと思ったら意識が飛び、目が覚めたら救急車に乗っていました」と振り返りました。
工事を発注した西日本高速道路の事故後の発表では、金具は橋桁の下から130ミリの位置に深さ68ミリで打つことが「基準値」として決められていました。
ところが、男性や下請け業者によりますと「橋桁の中に埋め込まれたケーブルに当たらないようにするため」として、今回の工事では元請け業者側から位置は43ミリ低く、深さは18ミリ浅く打つよう指示を受けたといいます。
男性は「高さも深さも変わりますと言われ、普通に考えたら強度が持たないと思ったので、怖くなって大丈夫かという確認を何回もしました」と話していました。
事故当日、足場が崩落する2時間余り前にすでに設置していたアンカー1本が折れてチェーンと一緒に足場に落ちたため、男性はほかの作業員たちと一時避難し、現場監督に対して上司に安全性を確認するよう求めたといいます。
男性は「これはただごとではなく、僕らも落ちるかもしれないと思ったので確認をしてもらいましたが、しばらくして上の道路にいた現場監督が手でまるを作って合図をして『大丈夫です』と言ったため、その指示を守って作業を再開しました」と述べました。
そして「僕らは元請け業者側から『やってくれ、大丈夫』と言われたらやるしかないし、これは無理だと言うと仕事にならない。元請け業者側には亡くなった方に誠心誠意謝ってほしい」と話していました。
専門家 “予兆あった段階ですべて見直すべき”
橋の設計や構造に詳しい日本構造物診断技術協会の高木千太郎顧問は、現場で足場が崩落する前に金具1本が折れたことについて「1本が折れるということはほかにも危険な可能性があることを意味していて、崩落事故の前に予兆があったと言うべきだ。予兆があった段階ですべてを見直すのが基本的な考え方で、それをやらないということは安全性を無視した施工を継続したことになる。現場で何が起こっているかが常に確認されるべきだ」と話していました。
作業員が金具を本来予定されていたよりも低い位置で浅く打つよう元請け業者側から求められたと証言したことについては「基準値よりも位置や深さを下げて工事をするということはコンクリートの抵抗力を下げることになり、安全とは逆の方向に向かっているのは明らかだ。仮にそうした指示をする場合は、安全性を確保できる手段が講じられる必要があり、今回の現場でそうした対応がなされていたかは疑問だ」と指摘しました。
工事を受注した共同企業体 “コメントできない”
工事を受注した東京に本社がある建設会社のオリエンタル白石などの共同企業体は「工事の発注者である西日本高速道路には把握している事実を報告している。警察と労働基準監督署による捜査中のためコメントはできない」としています。
西日本高速道路 “捜査に協力 回答は差し控える”
工事を発注した西日本高速道路はNHKの取材に対し「弊社としては受注者である元請けに報告を求めている状況だ」としたうえで「警察および労働基準監督署において捜査中で、全面的に協力しており、回答は差し控える」とコメントしています。