読書感想233 だから荒野
著者 桐野夏生
生年 1951年
出生地 金沢市
出版年 2013年
出版社 毎日新聞社
☆☆感想☆☆
世間的には何不自由のない専業主婦の森村朋美が、夫と二人の息子の身勝手で思いやりのないふるまいに、堪忍袋の緒を切らして家出をする。そしてそれぞればらばらだった心が、やっと互いに向き合うようになる物語。
誕生日祝いのレストランから飛び出した朋美は、乗って来た車で東京から長崎に向かうことにする。長崎には夫と結婚する前に付き合っていたボーイフレンドが住んでいる。夫からは車と車に置いおいてあるゴルフ道具を至急送り返せというメールを届くだけ。大学生の長男から必要なものがあれば言ってくれというメールが届く。ゲーム中毒にかかっている高校1年の次男からは音信もない。PAで置き去りにされた女を親切心から同乗させたことがあだになり、宮島で車を乗り逃げされてしまう。ヒッチハイクをせざるをえなくなり、長崎まで行くという老人と若者の車に載せてもらうことができ、ようやく長崎にたどりつく。
家庭から解放された朋美は自由に楽しく過ごしているが、残された家族、特に夫の森村浩光のおたおたぶりが面白い。みみっちくて自分のことしか考えていないが、世間体から妻の家出を隠さなければならないと嘘を重ねて疲れ果てている。
例えば、長男が女の子に振られたらしく、ごみ箱に指輪やネックレスが捨ててあるのを見た浩光の感想。
「返されたアクセサリーは、捨てないで取っておいて、また別の女の子に使えばいいのに。俺なら、きっとそうする。」
東京から長崎までの長距離ドライブは、何日も泊りがけならしてみたい。そして長崎は悲しみを湛えた人に優しい街というイメージがある。人生のやり直しにはふさわしい土地かもしれない。