中爺通信

酒と音楽をこよなく愛します。

後進

2015-04-08 23:46:53 | 音楽
 大先輩の一言というものは、大きな力を持っています。「近頃の若いもんは、ちっとも年長者の言うことをきかない」と古今東西、嘆かれ続けてきましたが、聞く態度は別として、実際には絶大な影響力があるものです。気にしていないようで、実は心に刺さっている。

 役所の窓口の人が機械的になっていくのも、車掌のアナウンスが民謡のような独特なイントネーションになるのも、そういう力学だと思います。個性はそれぞれなのに「染まっていく」のは、意識している以上に、先輩を「見習って」いるからなのです。表面上は反発しても。


 さて山形Qでは、次回の定期のフォーレに余念がありません。フランスのエスプリ漂う、素晴らしい曲です。

 フランス人は誇り高くツンツンしているので、生まれた時から個性的で、他人の目など気にしないはず…という先入観があります。


 フォーレはどうだったのでしょうか?

 フォーレは1882年、37歳の時に、サンサーンスと一緒に旅をした先のチューリヒで、当時の音楽の世界の主であるリストと会っています。

 その時フォーレは自信作であったピアノ曲の「バラード」をリストに見せて、意見を求めました。

「私はこの曲が長すぎたように思うのですが、いかがでしょうか ?」
「長すぎるかどうかなんてことは、君、問題じゃない。思うように書くしかないんだ 」

…どう考えても、若干適当くさいコメントですが、フォーレは大いに勇気づけられたようです。


 リストはその時すでに72歳でしたが、実際に楽譜を見せるとすぐにピアノに向かい、弾き始めました。このあたりはさすがです。フォーレの回想です。

「リストはピアノに向かい、曲の冒頭を弾き始めたが、5~6ページ進むと 『指が足りない』と言いだし、それから先は私に弾かせた。この時の彼の言葉によって私はとても気おくれしたのを憶えている」

 指が足りないとは…リストのくせに、やる気がなかったとしか思えない。もちろん、フォーレの音遣いが斬新だったからというのもあるかとは思いますが、そんな適当なひと言でも、気おくれしてしまうのが、若手なのです。

 
 我々も、プロフィールに仰々しく書いたりしますが「後進の指導にあたる」ことがあります。それなのに、疲れている時など、生徒に対して無神経に接してしまうこともあります。…何気ない一言に気をつけたいものですね。

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