中爺通信

酒と音楽をこよなく愛します。

a-moll 其の三

2008-06-18 23:43:31 | クァルテット
 18歳のメンデルスゾーンが書いた、この弦楽四重奏曲の持つ「みずみずしさ」について考えています。若い時に特有の精神の透明感、感動の新鮮な感じは、なかなか想い起こすのが難しいものですね。もう「おやじ」でございますから。

 そこで、ル・クレジオの「海を見たことがなかった少年」を読み返しました。

 不遇な少年、ダニエルは学校を脱走して、憧れの「海」を見るために旅に出ます。「昼も夜も走り続けた貨物列車」から飛び降りて、ようやく海にたどり着いた感動は、圧倒的です。

 「彼は幾度となくこの瞬間を想像してきた。海をとうとう実際に見る日、写真や映画でのようにではなしに、本当に、海全体を、自分のまわりに広げられ、膨れ上がり、重なり合っては砕ける波の大きな背中、泡の雲、太陽の光を浴びて埃のようなしぶきの雨が、そしてとりわけ、遠くに、空を前にした壁のように湾曲したあの水平線がある海を見る日を幾度となく想像してきたのだ!実に幾度となくこの瞬間を待ち望んできたので、彼はまるで死にかけるか、眠りかけてでもいるように、もはや力がなくなっていた。」

 このような、新鮮で、それまでのつまらない人生観や、それにともなう自意識や根性とかに汚されていない感動は、魂のみずみずしさ特有のものです。

 メンデルスゾーンのこの曲のロマンティシズムは、そんな所にあるような気がしています。そして音楽への「純粋な憧れ」が、バロックや古典を大切にする気持ちにつながるのでしょう。

 本当に何度聴いても、結晶のように美しい曲です。日常の(最近の)怒りや恨みを忘れます…。

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