東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

山口文憲,『香港世界』,筑摩書房,1984

2008-08-31 22:08:49 | コスモポリス
ちくま文庫,1986をブックオフで見つける。
誓って言うが、わたしはブックオフはめったに行かないしほとんど買わないし、絶対売らない。本は捨てる。
本書もちゃんと新品で買ったことあるんです。信じてください。

前項「人生が変わる旅の本100」では『香港 旅の雑学ノート』がセレクトされていたが、本書は文章としてまとめた形で香港体験を綴る。
人生なんか旅ぐらいで変わるわけない、あるいは、人生が変わろうと変わるまいとどうでもいいという視点で綴られた香港本の白眉。
というか、ある種の旅行記・滞在記のスタイルを決定した作品ですね。

香港回帰(1997年7月1日)の頃、本書と『雑学ノート』はすでに古典扱いで、かなり注目されたはず。
それから11年。中国大陸を香港が呑みこむか、あるいは香港のほうが大陸に浸食されるか、などといろいろ予想されたが、結果は出たといっていいでしょう。

国家も土地所有もない、丸裸の資本主義社会というのはやはり例外的であって、国家の規制や土地投機があってこそ資本主義が跋扈する、というのが今現在2008年夏の状況ではないでしょうか。

それに比べ、香港はまったくのインプロビゼーションの世界。
故郷に執着せず、さらに香港にも執着しない移民の世界。
これを、あるがままに観察したのが本書である。11年前とは別の意味で古典的である。

たとえば、「香港人はほんのちょっぴりしかゴハンを食べないオカズ食い」なんて書かれているが、もはや日本中が香港人化している。
ノーマン・ベチューンを知っている中国旅行者がいるのか?(わたしも読んでいない。)
日本人女性旅行者が拉致されて人肉市場に売りさばかれるという伝説も紹介されているが、この話も本書の時代ですでに冗談であったものが、まだウェブ上に跋扈しているようだ。

というように読み返して、新たに蒙を啓かれる作品である。

文庫版解説は妹尾河童、著者じきじきの指名。まだ『少年H』を発表する前、カウンターカルチャー方面の人、というイメージだったなあ。

それから、表紙が堀内誠一なんだ。へえ。この頃まだ生きていたんだな。
「ぐるんぱ」や「たろう」などの絵本から、いきなり「血と薔薇」という経路で知った若い人には、なんでオジンやオバンの雑誌のデザイナーがそんなにすごいのか理解できないかもしれない。

前項の特集に堀内誠一がセレクトされていないのはライバル会社の本丸であるからという理由ではなく、男っぽくないから?
『パリからの手紙』というナイスな旅行記があるんですよ。航空書簡(アエログラム)なんてものがあるのを知ったのは、この本からであったな。
最近、澁澤龍彦との往復書簡集がでましたね。(未見・未読)


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