初版は岩波書店。平凡社,東洋文庫から1996。
高島俊男さん絶賛、戦後日本での中国文学研究の金字塔。
それでなにがそんなにすごいのか、ひもといてみる。
北宋の首都・汴京(べんけい、現在の河南省開封市)の風俗を記録した書。
地理書、風土記の類。つまり衣食住から年中行事までの都市生活案内である。
時代は1100年代初頭、本書が書かれたのは南宋の時代1147年ごろ。
うーん、悔しいぞ、東南アジアファンとしては。
900年ぐらい前の記録がこうして残っているのだ。中華四千年などというのは大嘘であるが、二千年くらい前から途切れずに記録が残っている。
イブン・バットゥータやトメ・ピレス、あるいは義浄や馬歓のような外来者の記録しかない東南アジアとは大違いだ。もちろん、外部の目のほうが、その文化の内側の者が気づかないものを記録するということは多い。しかし、この東京夢華録(とうけいむかろく、と読む)のような詳細な観察記録は、外来者には不可能だろう。
さらに本書、つまりこの訳注本である。
日本側のトップクラスの研究者であるそうだが、中国側の研究水準を抜いている。
その成果をこうして、われわれ一般人に親切に説き、公開してくれるわけである。
本文の五倍から十倍の量の訳注。
あの、訳注っていっても漢和辞典を引けばわかるというレベルではないですよ。
ひとつの注にすべて参照・参考文献が明記されている。
もっとも、こちらシロウト読者としては、どうやってその参考文献に辿りつくのか、魔法のような技としか思えないが。
註釈以前の問題として、ただ漢文が読めて字典を引けば意味がわかる、というようなものではない。
ヨーロッパの記録でも、植物名・動物名は現在の認識と違っていてやっかいだが、漢語の場合、文字が同じでモノが違う、モノが同じで文字が違うというのが頻出、とてもシロウトが齧れるものではない。
だいいち、原書は文字と文字の間にスペースがない、だらだら書きである。単語と単語の区切りを識別する段階から始めなければならない。
というように、プロ中のプロの仕事を、こちら読者は寝ながら読めるというわけだ。ありがたい。
******
本書ではじめて、羊頭狗肉の意味がわかった。(すでに知っている人には常識なのか)
いろんな人が軽いエッセーの中で指摘しているが、漢民族の間では、ヒツジ肉よりイヌ肉が珍重され、値段も高い。
それなのに、羊頭狗肉という言い方はおかしい。
それで、東洋文庫版 p80の注によれば、この頃まで、特に華北ではヒツジが最上級品とされていたのだ。
ブタは下等にランクされた。
ヒツジが最高級(コーランの記述と同じか!?)、ツラの皮からキンタマまで食す。だから、羊頭を掲げるわけである。
高島俊男さん絶賛、戦後日本での中国文学研究の金字塔。
それでなにがそんなにすごいのか、ひもといてみる。
北宋の首都・汴京(べんけい、現在の河南省開封市)の風俗を記録した書。
地理書、風土記の類。つまり衣食住から年中行事までの都市生活案内である。
時代は1100年代初頭、本書が書かれたのは南宋の時代1147年ごろ。
うーん、悔しいぞ、東南アジアファンとしては。
900年ぐらい前の記録がこうして残っているのだ。中華四千年などというのは大嘘であるが、二千年くらい前から途切れずに記録が残っている。
イブン・バットゥータやトメ・ピレス、あるいは義浄や馬歓のような外来者の記録しかない東南アジアとは大違いだ。もちろん、外部の目のほうが、その文化の内側の者が気づかないものを記録するということは多い。しかし、この東京夢華録(とうけいむかろく、と読む)のような詳細な観察記録は、外来者には不可能だろう。
さらに本書、つまりこの訳注本である。
日本側のトップクラスの研究者であるそうだが、中国側の研究水準を抜いている。
その成果をこうして、われわれ一般人に親切に説き、公開してくれるわけである。
本文の五倍から十倍の量の訳注。
あの、訳注っていっても漢和辞典を引けばわかるというレベルではないですよ。
ひとつの注にすべて参照・参考文献が明記されている。
もっとも、こちらシロウト読者としては、どうやってその参考文献に辿りつくのか、魔法のような技としか思えないが。
註釈以前の問題として、ただ漢文が読めて字典を引けば意味がわかる、というようなものではない。
ヨーロッパの記録でも、植物名・動物名は現在の認識と違っていてやっかいだが、漢語の場合、文字が同じでモノが違う、モノが同じで文字が違うというのが頻出、とてもシロウトが齧れるものではない。
だいいち、原書は文字と文字の間にスペースがない、だらだら書きである。単語と単語の区切りを識別する段階から始めなければならない。
というように、プロ中のプロの仕事を、こちら読者は寝ながら読めるというわけだ。ありがたい。
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本書ではじめて、羊頭狗肉の意味がわかった。(すでに知っている人には常識なのか)
いろんな人が軽いエッセーの中で指摘しているが、漢民族の間では、ヒツジ肉よりイヌ肉が珍重され、値段も高い。
それなのに、羊頭狗肉という言い方はおかしい。
それで、東洋文庫版 p80の注によれば、この頃まで、特に華北ではヒツジが最上級品とされていたのだ。
ブタは下等にランクされた。
ヒツジが最高級(コーランの記述と同じか!?)、ツラの皮からキンタマまで食す。だから、羊頭を掲げるわけである。