東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

平岩道夫,『東南アジアひとりある記 : 韓国からシンガポールまで 』,白陵社,1969

2010-09-12 21:19:05 | 実用ガイド・虚用ガイド
『平岩父娘のアフリカとっておき : ケニア・タンザニア訪問一〇〇回記念・傑作写真集 』『香港・マカオ・台北の旅』『ローマレストラン・ショッピング案内』『趣味の切手ハンドブック : 集め方から鑑賞まで 』『韓国・台湾・香港男の旅』
など多数の著作をもつ方。
同姓同名かなと思ったが、NDL-OPACでも同一の個人著者標目としているし、本書の奥付にも同様の記載があるので、同一人物とみてまちがいなし。

初出『デイリースポーツ』1968年9月から150回連載。

一九六八年から六九年の正月休みに海外へでかけた日本人は一万三千人。うち八割がなんと東南アジアだったという。

8割?
実は、本書で扱う東南アジアとは、韓国・沖縄・台北・香港・マカオ・バンコク・クアラルンプール・シンガポールである。
うーむ。韓国・台北はともかく、沖縄も東南アジアとは、なんと歴史的・風土的に的確な認識であろうか!

小見出しをひろってみよう

韓国
ゴキゲンな"カジノ・プーサン"
居ながらにして三拍子が手にはいる
娯楽場ウォーカーヒル
カタコトの日本語で愛敬ふるまくホステス嬢
夜十二時から朝四時までは外出禁止
礼儀正しいキーセンたち
ボーイが女性のオーダーとりに

沖縄
那覇のバー街"桜坂"
温泉マークいっぱいの"男の天国"
赤線地帯"十貫寺"
コザには"吉原"がある
南国の楽園"石垣島"
"男子一生の恥……"?

台北
華やかすぎる"台北の夜"
"酒家"は美人ぞろい
"珈琲庁"とはおさわり専門喫茶
台北セックス旅行
情こまやかな待応生
新北投だけではの女のコが足りない
高砂族の"烏来"

香港
クツの値段のはなし
"クツずれ"に注意しよう
水上レストランは竜宮城
裏通りに密集"売春宿"
ゴキゲンな"飲茶"
大丸百貨店のレストラン
連れ出し自由のダンスホール
香港のリベート合戦
日本語学校大繁盛
豪華なミラマーホテル
香港の赤線と青線
奇妙な"女子美髪庁"
サンパンが並ぶ水上遊郭
豆電球が営業中の合図に
ヒヤカシ程度が賢明

マカオ
公認のトバク場とドッグレース場
中式と中西式の二通りがある

バンコク
名物"トルコぶろ"
ソコまで懇切ていねいに
微妙な快感"リイマ"
水上マーケットの旅
驚くほど安い果物
ガラス越しにホステスを選ぶ
"温泉マーク"がいっぱい
大もての日本人ホステス
ものわかりのいいコばかり
バンガローとは……
試食したいタイ料理
日本料理店も多い
ゲイボーイのはなし
オカマや映画・実演も
タイみやげのお買い得品
日本語を話す店員もいる
南京街の遊びの名物は
以外に多い青線
茶室で美人あんまがサービス
サムローは荒っぽく危険
チェンマイは美人の産地

クアラルンプール
典型的なアラビア風建築
ハッピー・マッサージ
電話一本でホテルへも
プロの女性に不自由しない
ダンスホールのはなし
指名料払えばぴったり相手に
冷房施設のあるホテルを
リキシャでの見物はいかが?
錫の露天掘り

シンガポール
人気ナンバーワンはワニ皮製品
宝石は日本の半値
アナ場は"ワールド"
ホステスの連れ出し自由
バーは日本と同じシステム
人口二〇〇万の美しい町
楽しいマレーダンス
うまい物いっぱい
試食した"露天料理"
一一階建てのホテル・マレーシア
豪華な"機内食"
一食分うかせるのが常識

などなど、若い諸君には意味不明の語句も多いだろうが辞書で調べるように。
これらの小見出しは、ジョークでも露悪趣味でもない。もちろん告発でも皮肉でもない。
まっとうに正直に観光案内を書いているのである。ほんと信じられない。別にわたしは道徳的にどうのこうの言っているのではない。当時のふつうのサラリーマンにとって(いや、サラリーマンという身分は当時まだ普通ではなかったのだよ)半年分以上の月給を使って行くのに、こんなどうでもいいことしか興味ないのか?とアゼンとしてしまう。

ちなみに本書によれば、東南アジアのいたるところ日本語が通じるようだ。

つまり、これは実用的ガイドではなく、単なる読み物、夢のようなはなしなのだろうか。
随所に間違いやデタラメがあって笑えるが、頭をかかえるような記述もある。

一般に韓国女性は、バストがみごとなほど発達しているが、これは子供のころからチマ(下着)で適当に圧迫し、刺激しているかららしい。

シンガポールでは、
ゲテモノ趣味の向きには、
ボルネオの洞窟でとれる馬の巣!!
がある。誤植とも思われない。なんで馬の巣になったのだ??

それにしても、こういうガイドを書いていた方が、ケニアやタンザニアに行って野生動物の写真をとり、観光親善大使になっているとは。マサイの子供たちの小学校に寄付し教育支援活動もやっているんだそうだ。

おそどまさこ,『障害者の地球旅行案内』,晶文社,1996

2010-09-09 21:10:41 | 実用ガイド・虚用ガイド
地球は狭いわよ、と言っていたおそどまさこさんも、年齢不明だがおそらく60歳を過ぎているだろう。本書執筆時点で50歳くらいだろうか?(注;前項の『地球女ひとり旅ガイド』に生年が書いてあった。1949年うまれだ。)

本書は肢体障害、視覚聴覚障害、内臓障害などを持つ人のための海外旅行案内である。
具体的な工夫、事前の準備、援助組織の詳細は各自よんでみてください。

わたしは、とくべつ○○障害と名前がつくような障害はない者であるので、そういう者からみた感想を少々述べる。

基本は、他人の善意ではなく、金銭で解決すること。つまり、それなりの代価を払うこと。シビアな意見であるが当然だろう。

最初のバリアーは、パスポートを取るなど役所関係の障害。それに周囲の反対を押しきる覚悟。

電動車椅子などさまざまなハイテク機器を活用する。本書は15年近く前の本なので現在はもっといろいろな機器が開発されているのだろう。ICレコーダーも携帯電話もほとんど普及していない時代の話である。

こうしてみると、いわゆる障害者といわゆる健常者の違いがどんどん小さくなっていっているように見える。電子機器や衛生用品をたくさんつめこんで旅行するスタイルも普通になったし、車椅子や杖を使って移動する人も普通になった。

一方で、本書の内容は他人事ではないなあ、と思うところも多い。
内臓障害、手術後の排泄の不便など、これからわが身にふりかかりそうなこともある。
結局、さまざまな瑣末な不便や身体の不調が海外旅行のバリアになるのだろうな。

おそどまさこ,『地球は狭いわよ 女のひとり旅講座』,トラベルブティック747出版局,1976

2010-09-09 21:10:17 | 実用ガイド・虚用ガイド
古本(ネット利用)で安く買えた。ちなみに、元の定価980円、初版5000部。
初めて現物を見る。

驚いた部分はいろいろあるが、まず書き下ろしではないこと。文化出版局の雑誌『Amica』に1974年9月号から1976年7月号まで連載された記事をもとにしている。
その『Amica』という雑誌も知らないが、ネットで検索したところによれば、やはりファッション中心の雑誌である。海外旅行の記事もあるが、それほど現実的な話ではないんではないかなあ。(未確認)

内容は準備偏として渡航手続・やすい飛行機の探し方・インフォメーションの収集・海外での周遊券・持ち物・トラブル対策。
目的地の情報としては、ニューヨーク・サンフランシスコ・ロサンジェルス・ホンコン・バンコク・バリ島・オーストラリア・ニュージーランド・ニューカレドニア。
ヨーロッパが無いのは著者が実際に旅行した時期から離れすぎていて最新の情報が載せられないからという理由である。収録地域の取材は雑誌掲載の前ぐらいで、本書刊行の1~2年まえ。

宿泊は長期宿泊のアパートメント、YMCA・YWCA、ユースホステルの紹介が多い。現在と違い、どうせ行くなら長期滞在ということだろうか。
「アダルト・スクール」(移民のための成人学校みたいなもの)入学体験記もあり。信じられないが無料だったそうだ。
そのほか、オノ・ヨーコ会見記、マリファナについて、レズビアンバー、ピアスをしてみました、などなど時代を感じるコラムも収録。

しかし、もっと時代を感じさせるのは、

追記
最近、新聞で、「エチオピア、バングラデシュ以外の海外渡航に種痘の予防接種は必要なくなる」とか、「海外旅行に持ち出すことが出来るドル限度額は1500ドルから3000ドルにかわる」とか、ニュースが流れていますが、6月18日現在、まだ確実ではありませんので、今後、出発される方は、直接、日本銀行、検疫所に問い合わせて下さい。


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さて、本書は現実の旅行ガイドとして役に立つのかどうか、わたしには判断不能である。
今読むとあたりまえの部分が多いし、肝心の安い航空券の入手など、どうもよくわからない。著者の使った航空券の期限がどのくらいか、FIXなのかOPENなのかもわからない。

各国の在京観光局が紹介されているが、どの程度の情報が得られるのか。地図は日本で入手可能なのか。
予算もわからない。親から1000ドル(30万円)ぐらいどーんと小遣いをもらえるくらいの女性を想定しているのだろうか。ちなみに、かなりの大企業でも20歳代の月給は10万円ぐらいの時代である。

現在の手取り足取りの親切すぎるガイドブックと比べるのは難癖だと承知のうえで言うと、空港から市内への移動のしかた、公共バスの乗り方など、もう少しくわしく書いてもらわないと、空港に着いたとたんにウロウロしてパニックってことにならないのだろうか。

旅行に必要な英語の文例や単語の案内もあるが、booking とか available? なんて重要な単語が載ってないんだよね。
著者自身はかなり自由に動けるタイプの人だろうが、本書を読んで羽田出発から目的地空港の外に出るまでイメージできる読者はいないと思う。

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実用的な知識はともかく、都市の案内もひじょうに忙しいのである。

しかし、はたしてマカオは団体旅行でなくては見てまわれないものでしょうか?九龍のスターフェリーの前、スターハウスの15階にあるマカオ・ツーリスト・インフォメーション・ビュローの職員ジョセフ氏も、「マカオは小さな街です。歩いたって正味2時間あれば回れますよ。」と言います。とにかくマカオはこじんまりとしていて、車などに乗るとアッという間に終わってしまうのでポルトガル情緒を味わうこともできません。香港からマカオ行きのツアーに参加したいというと、140ドル(8400円)以上とられてしまいます。2時間で歩けるところを、なにも高い費用を出して、車に乗ることはないでしょう。もしひとり旅でマカオへ行くとすれば、かかる費用をざっと計算してみても、水中翼船が往復40ドル、昼食代が5ドル、ビザ代が25ドル、雑費が10ドルとして計80ドル(4800円)で、つまり5000円足らずで納得いくまで、マカオをまわることができるのです。マカオには市内バスが走っていますし(30セント)、タクシーや人力車が絶えず流していますから、利用してもいいでしょう。

と、いうように、せっかくのひとり旅なのに、ツアー客並の駆け足旅行を書いている。ちなにみ、マカオを2時間で歩くのは不可能だし、一日ではぜんぜん納得いくまでマカオを回ることはできないと思う。

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別に本書だけではないが、現在のガイドブックにまで続く不思議な内容がある。

まず、日本食が欲しくなるから準備するという記述。これがほんとに不思議だ。著者の年齢ならわからないでもないが、みそ汁やお茶や梅干がそんなに欲しくなるものなんだろうか。
家庭でも毎日みそ汁やお茶を飲んでいる日本人ってそんなに多いのか?

最近は荷物検査が厳しくなって、ナイフは預け入れ荷物に入れなくてはならないという記述が多い。本書でも持ち物の中にナイフがある。しかし、旅行中にナイフが必要?安宿でも高級ホテルでも包丁ぐらい借りられるだろうし……。

『[新版]東南アジアを知る事典』,平凡社,2008

2009-07-14 20:19:04 | 実用ガイド・虚用ガイド
昨年の6月に刊行されたものだが、つい最近まで気がつかなかった。
[新版]と謳っているが、どの程度の改訂かわからず、どうせ最近の事情を追加しただけではないかと高をくくっていた。

〈新版ではとくに、マレーシアとシンガポール、ジェンダーや大衆文化に関する記述の充実を図った。各国便覧や貿易の統計なども一新され、複雑・多様な東南アジアの理解に必須の総合事典。〉~本よみうり堂のサイトより

各国便覧や統計なんかネットで調べればいいよなあ、ジェンダーや大衆文化なんて、この種の事典で調べてもしょうがないだろう……。と、思った。

しかし、これは平凡社のブログにあるように、〈ほとんどゼロから作った事典です〉。いや、ほんと、知らなかった。平凡社ももっと強烈に宣伝すればいいのに。
編集委員のひとり見市建さんのブログやトヨタ財団のサイトの見て、やっと、これはひょっとして……と思い、図書館で実物を確認して、買うことにした。

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旧版監修者が執筆した部分を含め、旧版の記事はばっさばっさと気持ちよく削られている。旧監修者の方々の業績を尊重して名前を残したのであろうが、読者・購買者としては、どうせ偉い先生方が担当した部分は同じだろうと思ってしまうではないか。「ワシの名を消すとはけしからん」と言うような狭い了見の方々ではないのだから、思い切って名前を消してもよかったのでは?
編集委員代表の桃木至朗の活躍がしのばれる、斬新な内容です。

国別の記述は、ほぼ100%書き改められている。「ほぼ」というのは、石井米雄執筆「〈東南アジア〉という概念の成立」の部分などが残っているが、位置も分量も変わっていて、新しい文脈の中におさまっている。

項目別の部分で旧版の記載内容が残っているのは、まだ全体を読んでいないが、1~2割程度という印象。残っているのは、人名や史料名の短い項目。大項目はすべてといってよいほど新しい執筆者によって書き換えられているようだ。
さらに、同じ執筆者・同じ項目名であっても、内容が完全に書きかえられたり、追加されている項目がたくさんある。

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先に「ジェンダーや大衆文化なんて、この種の事典で調べてもしょうがない」などと書いたが、小泉順子+中谷文美執筆〈ジェンダー〉の項目を読むと、おお!と蒙を啓かれる鋭い内容であった。すみません。反省します。
こうした背景があって、石井米雄執筆〈レオノーウェンス〉Anna Harriet Leonowens の内容も微修正が加えられているんですね。
大衆文化にしても、ネットで見ればいいじゃんという気がするが、旧版の内容ではあまりに乏しいわけで、これもひとつの戦略というか主張なのでしょう。

一方、やはり、事典としての本来の使命は退屈で平凡な事実をきっちりと書いてくれることだろう。
この点について、はたしてどれほどわたしにとって有用かは、ある程度長い期間使ってみないとわからない。
ただ、ここ20数年の学問の進歩はめまぐるしく、退屈で平凡な事実もどんどん書き換えが進んでいる。
ともかく、現時点での最高の到達地点であり、信頼できるソースであることは疑いない。

事件の年号、王朝や国家の成立、地域や都市の基本的な事実、人名など固有名詞の表記、この『[新版]東南アジアを知る事典』に準拠して間違いないだろう。
というか、これ以外にない。

同時に、小項目については削除されたり他の項目に吸収されたものが多いので、旧版をお持ちの方は捨てることはないと思います。(わたしは持っていない。)

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あと、よけいなことをひとつ。

これだけ高水準・先端的なものが提供されたわけであるが、やはりまったく知らないことを調べたり、誤解されたことを修正するのは難しいという気がする。
この事典の内容をもう少し易しく説いた、中学生高校生でも読めるようなツールがあればいいと思うんですが。

(この項つづく)

『東南アジアを知る事典』,平凡社,1986 その2

2009-07-12 18:23:43 | 実用ガイド・虚用ガイド
これは旧版についてのコメントです。内容を一新した新版が2008年に出ています。誤解なきように!
敬称は省く。

読んでいくと、執筆者の数が少ないなあと感じる。計148名の執筆者であるが、一個ないし数個の項目執筆者が大半で、大量の項目を担当している少数の執筆者で全体の7~8割を占めている。

多い方は

大野徹  ビルマ、古代から現代政治まで
石井米雄 タイ全般、仏教
石沢良昭 カンボジア、古代から現代まで
桜井由躬雄 ベトナム、古代から現代まで
池端雪浦 フィリピン、なんでも
生田滋  ヨーロッパ関係広く
永積昭  インドネシア全般、オランダ関係
土屋健治 インドネシア思想・文化
前田成文 社会、民俗
高谷好一 生態・風土・生業
別枝篤彦 自然地理、人文地理

川本邦衛 ベトナム文学・思想
田辺繁治 タイ
滝川勉   フィリピン現代
関本照夫 イスラム、ジャワ文化
伊東照司 宗教建築・美術
田村史子 音楽、古典芸能
渡辺弘之 森林物産
冨田竹二郎 タイ古典文学
重松和男 先史時代・考古学
吉田集而 食文化

取りこぼしがあると思うが、以上の方で7~8割ぐらいカバーしている。
つまり、現在(2009)活躍している若い方々は、まだ執筆依頼がくるほど偉くなかったということですね。

全体として、東南アジアらしさを強調したためか、それとも他の分野との重複を避けたためか、単なるページ数の関係か、外来文化・外来勢力・移民の記述が少ないように感じる。

中村光男 〈イスラム〉
重松伸司 〈印僑〉
蔡史君   〈華僑〉

といった個性的な記述もあるが、ポルトガル人・イエズス会・アメリカ合衆国・福建人など索引項目にもない。
濱下武志・斯波義信など中国史方面の研究者とのつながりがないし、秋田茂・水島司など、南アジア~ブリティッシュ方面の研究者ともつながりが欠けている。

いや、非難しているわけではない。
あまりにも中国の付録、ブリティッシュ帝国の一部、オランダの侵略、冷戦下の低開発国といった方面からの見方が大きかったので、ネガティヴではない東南アジア固有の世界をしらせようという使命感に燃えた結果だと思う。
これはこれで、1980年代という時代を代表する成果として記念すべきだろう。

吉田集而 〈方位〉
松本亮  〈ワヤン〉
坪内良博 〈村〉

など魅力的な項目もあるし、故・冨田竹二郎のタイ古典文学の項目など楽しい。

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なお、この旧版『東南アジアを知る事典』項目と『大百科事典』項目はほぼ同一内容だが、その後全三十数巻の『世界大百科事典』にも流用されている。
それから、ここだけのないしょの話だが、2007年に刊行された『改訂新版世界大百科事典』も東南アジア関係については、最近の事情は加えられているものの、過去の記載への加筆も訂正もほとんどない。図書館に行って、ざっと見ただけなので、どっかに大幅な改訂があるのかもしれないが。

また、現在(2009年)日立システムアンドサービスのサイト「ネットで百科」で検索できる内容も、有料サイトなので詳しくチェックしたわけではないが、東南アジア関係は旧版とほぼ同じ記事が数多く受け継がれていると思われる。

さらに蛇足だが、「ネットで百科」の項目をそのまま wiki にコピペしているやつがいるぞ。うるさいことを言うわけではないが、ちゃんと典拠を書けよ。

2009年8月30日追記
上記の指摘がウィキペディア内で問題になったようだ。
ここ数日、新しい記事を書いてないのにアクセス数が上がったのは、このためだろうか??
それにしても、ウィキのボランティアの方は、わたしのブログのようなものさえチェックしているんですね。

『東南アジアを知る事典』,平凡社,1986

2009-07-09 19:43:46 | 実用ガイド・虚用ガイド
これは旧版についてのコメントです。内容を一新した新版が2008年に出ています。誤解なきように!
平凡社のサイトのブログを見ていたら、思わず、とほほ……とつぶやきたくなる記事があった。エイプリル・フールの頃の話で、すでに古い話題だが、ネット上ではほとんど話題になっていないようだ。

MSNエンカルタが終了する。
有償版も無償のサイトもサービスを終了(停止というのか廃止というのか)するのだそうだ。
いろいろ物議をかもしたエンカルタも、ひっそりと幕を閉じるわけである。

最初から志が低すぎる代物であった、エンカルトというものは。あれでは、インターネットを使っている連中など程度の低いやつらだ、と思われてもしょうがない。
〈southeast asia〉の項目など、50年前で思考が停止しているんじゃないかってな内容である。日本語版〈東南アジア〉の項目は、英語版よりずっとまともであるが、やはり役にたたないのだ。
どういう方が執筆したのかわからないが、百科事典で署名のない記事は役にたたないのである。この点をエンカルタ編集(というグループや組織があるのかどうか、それさえ不明だが)の方々はわかっていないようだ。

さて、平凡社の話だ。

あの、全三十数巻の『世界大百科事典』とは別に、1980年代に加藤周一を編集長に向かえ『大百科事典』(発行は1984-85)が企画された。
大項目中心の百科事典で図版はモノクロのみ、斬新な編集で、執筆者の個性を生かした事典である。
この『大百科事典』の編集のため、各地域ごとの委員会が構成されたそうだ。そのうち東南アジア委員会のメンバーが、この『東南アジアを知る事典』の監修者である。
石井米雄・高谷好一・前田成文・土屋健治・池端雪浦、それに桜井由躬雄が委員会メンバーであった。京都大学東南アジア研究センターが中心であり、センターの方向性が前面に出ている。

しかし今見ると、たった二十数年前とはいえ、時代が違うなあと思う。
〈メナム川〉なんて項目があるのだ。〈チャオプラヤー川〉は追い込み項目になっている。
カバーそでの部分に各国国旗があるのだが、カンボジアが二種類ある。

という時代である。
なんとかして我々が見て感じて歩いた東南アジアを伝えたい、知らせたいという熱気が伝わってくる。
しかし、よくも悪くも百科事典である。他の分野他の地域の記述と整合させることも必要であったろう。

自然環境・生業・民族・言語・物質文化・宗教・歴史・独立運動・古典藝術・政治・経済・外交、そして日本との関係、という記述になる。
また、前半の項目別(約900項)と後半の地域・国名編に分かれているが、現代の政治・経済は国別がいいとしても、歴史や生業を国別に記述すると、重複や齟齬が生じる。

といっても、全体の見取り図と項目を設定しただけでも里程標といえるだろう。
ほとんど基準になるソースや入門書がなかった時代なのだ。

巻末の文献案内(渡辺佳成 作成)を見ると、こんなもんしか無かったのかと驚く。
弘文堂の「講座東南アジア学」、河出書房新社の「暮らしがわかるアジア読本」、明石書店のエリア・スタディーズなどのシリーズはまだ出ていないのだ。「もっと知りたい東南アジア」シリーズ6冊が出ている程度。
一般向歴史関係も講談社現代新書の『東南アジアの歴史』、ビジュアル版世界の歴史12『東南アジア世界の形成』ぐらい。山川の各国史は1970年代の現代史のシリーズだけである。
まあ、学術書は刊行されていたが、まずこれを読め!とか、ここがスタート地点といえるような書籍はほんとに少ない。
入門書として読めるのは、渡部忠世・高谷好一・鶴見良行・岩田慶治・青木保……ぐらい。とすると、梅棹忠夫の『東南アジア紀行』はやっぱりすごいな。

各国別の一般書は、こう言っちゃ悪いが、戦争と政変と貧困ばかり書いているような感じである。観光案内や遺跡に関する本は、(出版されていたとしてもこの文献案内には載らないだろうが)まだ少ない。

翻訳文学はかなりの数が出版されていたはずだが、この文献案内では省略されている。

そんな時代である。重要な著作、基本的な入門書、おもしろい読み物は、80年代から90年代に出版され、現在も毎年良いものが出ている。昔は良心的な出版物が多かったなんてのはまちがっています。現在が一番、充実した書籍が出ている。

(この項つづく)

高島俊男,『独断!中国関係名著案内』,東方書店,1991

2009-01-18 22:39:16 | 実用ガイド・虚用ガイド
ちくま文庫から出ている『本と中国と日本人と』,2004
は、この改訂版。
東方書店のPR誌『東方』の連載エッセイから収録しているが、追加と削除があり、『独断!』と『本と中国と日本人と』の内容は3割から4割ほど一致しない。


本書には絶大にお世話になっている。
内容は各自、本書でも文庫版でも読んでくれ。

著者・高島さんは、「お言葉ですが」のシリーズが有名で、ウェブに散乱するのもその傾向のものが大半だが、本書『独断!……』で紹介された書籍・書物をちゃんと読みたいもんだ。と、いいつつ、わたし自身も水滸伝関係はまったく読んでいないのだが。
高島さんには、元気なうちに書いてもらいたかったことがある。

たとえば白川静のこと。
この白川学のどこがヘンなのか、シロウトにもよくわかるように、ちゃんと批判して欲しかった。

あるいは、岩波文庫や平凡社・東洋文庫の中で、この校本はおかしい、この訳はおかしい、ということをはっきり書いてもらいたかった。
別に権威ある出版をけなしてよろこぶ、ということではないし、学者の間のもめごとを楽しむというわけでもない。

たとえば最近、ロレンスの『知恵の七柱』の〈完全版〉と称するものの翻訳が東洋文庫から出ているでしょう。それじゃ、以前の翻訳はどうだったんだ?ということになる。さいわいにして、わたしは旧『知恵の七柱』を読んでないが、もし読んでいたら、ああ、時間を無駄にした、ってことになるではないか。

同様に、日本語文献の翻刻でも、漢語からの翻訳でも、シロウトにうかがいしれないヘンなものがあるかもしれない。

本書に紹介されたものの中でいえば、
河口慧海,『西蔵旅行記』 である。

この現行の書籍版は、講談社学術文庫も白水社版も、(今では入手がむずかしい)旺文社文庫版も、みんないいかげんなテキストである。
これは本書で例が示されているのでシロウトにもわかる。岩波文庫か東洋文庫あたりで、原文発表時のテキストを収録してくれないもんだろうか。

こんな具合に古典翻訳・校本・再刊本について、高島さんに一刀両断してもらいたかったな。

******

ただ、現在の高島さんのファンや出版社の姿勢からすると、そんな話題をとりあげる本は出そうにないな。

宮崎市定、桑原隲蔵、内藤湖南、津田左右吉、こんなビッグネームこそ、高島俊男を通じて知るべき巨峰であるはずなんだが。

えっと、誤解をまねくといけないが、本書で紹介している本はそんなビッグネームの重厚な業績ばかりではない。
その反対に、バックパッカーの旅行記や(高島さんもバックパッカーって言葉つかっているんだよ)、学生や女性の滞在記や現代アジア事情の本がいっぱいある。

そのオバサンの滞在記として、おっと、オバサンなんて呼ぶとたちまち抗議の声がとんでくるだろうが、高島さんが紹介している本がある。
一冊一項として扱った紹介ではなく、

「ちょっと横道」 中国レポートの移りかわり と題した中でふれている。

松井やより『人民の沈黙』,すずさわ書店,1980

である。
ええ!?
高島さんが松井やよりの本を褒めるわけがない。けちょんけちょんに貶しているんだろうって、思うでしょう。
違う違う、ちゃんと評価している。
アンチ松井やより派にも、アンチ高島俊男派にも、松井シンパにも高島先生の弟子にも意外だろうが、ちゃんと紹介しているんですよ!

<腰抜けレポートからまともなレポートへの転換点に位置するのが、松井やよりさんの『人民の沈黙』ではないかとわたしは思う。
<この本は、転換点だけあって複雑な本である。
<ひどい話だが、そのころまでの大部分の日本の新聞というのは、中国関係記事に関するかぎり、中華人民共和国の宣伝機関みあたいなものであった。(まともなのはサンケイと赤旗だけ、などと言われたものだ)。
<この本を読めばわかるように、松井やよりさんというのは、いたって正直な、率直なかたである。そういう人に、その新聞社の記者として見たまま感じたままを語られては、ぐあいがわるかったのであろう。
<つぎに、松井さん自身が複雑――というより、混乱している。それはこの本のエピグラムに如実にあらわれている。

 祖国の解放と、人民が主人公の新しい社会のために命を捧げた数百万の烈士たちに
真の社会主義を目ざして、投獄も迫害も恐れず闘い続ける民主と人権の闘士たちにこの書を
 捧げる

<前段では今の中国を「人民が主人公の新しい社会」とたたえ、後段ではその社会を解体しようとしている人たちに声援を送っている。

 中略

<当時の日本にはまだ、社会主義である以上必ず資本主義より進んだ社会にちがいない、という神話が強固に生きていた。それに、一つの国が総ぐるみで外来者にいつわりのイメージを描いて見せるというような大じかけなペテンに、これまで日本人は出くわしたことがなかった。
<松井さんはその神話にすっぽりとからまれながら、それを抜け出そうともがいている。『人民の沈黙』はそのもがきの姿を正直に示した記念碑的な中国レポートだ。

<松井さんと同じ日本のジャーナリストである西倉一喜氏もまた、同じ神話にからまれ、同じもがきを経た人である。そして、西倉氏が一年の留学生活でついに神話から脱し切った時、『中国・グラスルーツ』の爽快な視野がひらけたのである。


どうです。
読みたくなるでしょう。
で、読んでみた。
次項へ

『旅の指さし会話帳 東南アジア』,情報センター,2008

2008-08-10 19:12:19 | 実用ガイド・虚用ガイド
わお!こんなのが出てたんだ。
なんと東南アジア9カ国(ブルネイを除くアセアン参加国)全部の会話帳ですよ。

実は恥ずかしながら、このシリーズにはお世話になっている。
体裁が若い女性向けで、わたしのようなムサい老人が使うには恥ずかしいものがあるが、結構役にたつ。
とくに、数と月日と時間と交通に関する表現、巻末の単語リスト(簡単な辞書)がありがたい。

それで、この総合版であるが、これは欲張りすぎですよ。
この9カ国を一度に旅行するなんてほとんどありえない。

単発版で便利だった交通機関に関する表現が少なすぎる。各国ごとの交通事情に適応できる表現が必要なんですが。
宿泊施設に関する表現も不足している。電話やインターネットの各国別事情に対応するのも最近の旅行では必要ではないでしょうか。

食べ物・食事に関しては、表現を覚えるよりも、どんなタイプの飲食店があるかという知識のほうが重要である。それがわかれば、あとは指差しやジェスチャーでなんとかなる。個々の料理名よりも、砂糖を入れないで!というような表現が重要。〈持ち帰り・テイクアウト〉の表現は最重要。

というわけで、本書は実用書というより、見て楽しむ本でしょうか。

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あと、実用書として使う場合の注意。
〈いつ来ましたか?〉〈いつ帰りますか?〉などという表現が載っているのは、少々危険。自分の行動予定は知らない人にむやみに教えないように。
〈結婚していますか?〉などという方面の話題になるのも危険。というよりウザイ方面へ話題が移る。若い女性は要注意。

『別冊 暮しの手帖 旅を創る』,2002 7月

2008-07-22 19:07:15 | 実用ガイド・虚用ガイド
『暮しの手帖』は20年くらい前はときどき読んでいたのだが、最近はまったく手にとることなし。
いかにも中産階級向けの落ち着いた雑誌であった。豪華さや派手さを売り物にする雑誌よりも、購読者の収入がずっと高かったのではないだろうか。

その別冊、個人旅行のすすめとして企画されたのがこれ。
●日本からの直行便のある都市
●飛行時間12時間以内
●着いた都市のホテルに連泊
●日本人だからこそ楽しめる

という条件にあてはまる20都市を、四段階に分けて紹介している。その20都市に選ばれたのは……

難易度が低い、見慣れた街(!?)を再発見
シドニー、ソウル、ワシントンD.C.、台北、ホノルル

トランジットでおなじみ(!?)、やや難易度が上がる。
バンクーバー、クアラルンプール、フランクフルト、ナンディ、ブリュッセル、オークランド、ヘルシンキ

趣味をたずねる
ウィーン、シカゴ、ローマ、ロサンゼルス

最高難易度、であるがずっと気軽で自由な街(ホント?)
ホーチミン、西安、広州と香港、カイロ

どうですか、みなさん?
明らかに、パック旅行その他で海外旅行経験が数回ある人を対象にしている。
さらに、英語がある程度話せて、近郊へ公共交通機関を利用して移動できることを念頭に置いている。
そして、紹介する内容は町並みや食事、公園や歴史的建造物。

広告をとらない、タイアップしない方針を貫いている雑誌だから、具体的なホテルやレストランの紹介はない。
ひじょうに趣味の良い写真と文章、高年齢の方を対象にしたつくりかたである。けっこう予算もかかりそうな所が多い。

という構成だが、これを見て個人旅行したくなる人は、もうすでにやっているはずだ。
広告をとらない、企業におもねずの方針の雑誌であるから、もう少し具体的なアドバイスや避けるべきことを書いてもいいように思う。
パック旅行に不満を言うのではなく、自己責任で旅行をしよう!という方針なのであるから、高齢者向けに必要なスキルやヒントがあってもいいように思えるのだが。

まあ、未経験者に言葉や文章で説明するのは困難だし、一度やってみればわかる、という旅行ガイドに共通する問題ではあるが。
9・11事件の後の旅行会社の対応、外務省に対応に対して、自己責任で行けばいいのに何を恐れているのだ、という指摘あり。バックパッカー向けの雑誌みたいだなあ。

『新バックパッカーズ読本』,双葉社,2003

2008-07-22 19:05:47 | 実用ガイド・虚用ガイド
一度手にとってみる価値はあり。
インターネット上にあふれている情報とおんなじじゃねえか、という文句がでそうだが。

ちゃんとした編集の手を経て、わかりやすい日本語で書かれているし、極端な間違いや偏向した意見がない。
たとえば、一日300円以下で一年間旅をするとか、インドでヒッチハイクするとか、そういう無茶なことは書いていない。

一方、日本人ばかり集まる宿なんか近寄りたくない、という方、こういう本を読んで避ければよい。
交通機関にしても食事にしても、バックパッカーが集まるポイントを少しはずれると、本書に書いてあるようにスムーズにはいかない場合がままあるだろうが、最初の一歩として参考になるだろう。

わざわざ本書をとりあげたのは、インターネット上の情報があまりにも不正確で扇情的で論争的だから。
個人のサイトの情報はありがたいが、個人の経験に根ざした情報ほど他人が応用できないし、目的地が異なると、まったく役にたたない。
掲示板やQ&Aの投稿は、読んでいて不快になる文章や内容で、とてもあの情報の洪水から有益な知識は得られないだろう。『旅行人』の掲示板など、ピンポイントの情報では有益であるけれど。英語のフォーラムも、むちゃくちゃな質問や回答があるのは日本語世界と同じ。

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大学生など若い連中が低予算で海外旅行する流行が終わったという分析がある。
〈若者の海外旅行離れ〉というやつ。日本旅行業協会やJTBの分析だが、あの分析自体が〈社会調査のウソ〉の見本みたいなもので、数字の読み方に誤りがあり、理由の分析もおかしい。

ただし……、若者が海外旅行に魅力を感じなくなる傾向がある、のはほんとうかもしれない。

はっきりした数字のあるデータではなく、単なる印象だが、アメリカ合衆国国民は、観光やバカンス目的の海外旅行が、少ないと言われているし、わたしもそう感じる。
これは数字として提示するのはむずかしい。日本やヨーロッパやカリブ海方面へは大量のアメリカ人が出かけるから、その中でビジネスや勉学とバカンスを分けるのは難しいだろう。
それに、アメリカ人の場合、ハワイからアラスカまで国内の旅行も多いだろうし、メキシコやカナダなんてしょっちゅう往復している者がいるだろう。
だから数字では表せないが、東南アジア方面に限っていえば、アメリカ人の旅行者は少ないし、団体バスに乗って集団で行動しているのが見られる。日本人観光客の団体がばかにされるが、アメリカ人はもっと適応力がない感じがする。

これは、最近の日本と同様、あまりにも本国での生活が便利で、外国旅行ができないためではないか。
さらに日本人同様外国語に弱いし、低賃金・高収入を問わず休暇が少ない、という要因もあると思う。
つまり、日常生活の経費が増大して余裕がなくなり、海外にでかける好奇心やスキルが減ってきている、ということではないか。

バックパッカー旅行をプロモートしても、旅行業界は儲からないだろうが、もう少し個人旅行を宣伝するのが本道では?いや、それじゃやっぱり儲からないから意味ないか??