東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

長坂寿久,『オランダを知るための60章』,明石書店,2007

2008-11-10 20:02:09 | コスモポリス
明石書店の「エリアスタディーズ」シリーズ、このシリーズは水準が高いが本書もいい。アジア方面だと類書もあるが、オランダあたりになると基本的知識を紹介したものが少ないので貴重。

内容は干拓・治水といった自然環境とそれから生まれた民主主義、寛容な社会、異文化共存を論じていく。
とくに歴史関係にページが割かれていて、これ一冊でオランダの歴史は一通り概観できる。

ブルゴーニュ公国とハプスブルク家、宗教改革、ミュンスター条約による国家の形成(その後にウェストファリア条約が締結されたのだ)、VOC、ブリテンとの競合(なんてたってイングランドを征服したのはオランダだけですからね、俗にいう「名誉革命」です)、アジア貿易、などなど。

わたしのブログではオランダ人というはたいてい悪者で、ケチで強欲なやつらであるが、本書を読むとオランダ人も苦労しているなあ、と同情したくなる。

暗く湿った土地、大国に囲まれた地勢、狭い土地で他人に干渉せずちまちまと生きる生活の知恵、麻薬から売春まで寛容と黙認を是とする政策、気の毒になる。(もちろん本書の著者は、民主主義の伝統、多民族共存の社会の明の部分ばかりでなく、東インド統治、南アフリカのアパルトヘイト、移民との軋轢などの項目も忘れていない。)

ただ、わたしが感じるのは、こういう理性的で寛容とコンセンサスを重んじる社会も窮屈なもので、グリーンピースに代表される価値観の押し付けなど、オランダ社会の窮屈さを外で発散しているんではないか、と思ってしまう。
一方で、本書に描かかれるような他人に干渉しない社会、寛容な社会というのも羨ましいというか、都市的な生活が定着しているんだなあ、と感じる。
その都市的な生活が過去の暗黒の歴史の上に築かれたもので、その過去の蓄積がないアジアの都市が100年たってもオランダのようにはなれない、ならないというのはわかる。
どっちがいいとか悪いとか判断しても無意味だが、こういう世界もあるのだなあ。

この「○○を知るための××章」は複数の著者によるものが多いが、本書は単独著作。著者は拓殖大学の教授だそうで、明石書店で出版する本を書く人もいるのだなあ。大学の所属と著者の主張は、本来関係ないから、当然であろうが。


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