東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

高島俊男,『漢字と日本人』,文春新書,2001

2008-01-25 19:42:35 | 基礎知識とバックグラウンド
前項の橋本萬太郎の竹内好・倉石武四郎のとらえかたでは、おそらく、あくまでわたしのかんじで、同じような立場ではないだろうか。この高島俊男という方は。

つまり、竹内好の理想もわかるが実現不可能である。
倉石武四郎の孤軍奮闘はあっぱれであり、尊敬もするが、パイオニアとしてのムリがあったのでは。
以上、『独断!中国関係名著案内』,東方書店,1991.などから得たわたしの独断ですが。

さて、この新書。
ぱらぱらよみかえすつもりが、一気に通読してしまった。
それほど読みやすい、わかりやすい。

もちろん、ここに書いてあることは常識の部類である。
しかし、絶妙の例をひいて高島節で語られると、じつによく理解できる。

言語学者は頭がキレすぎて、博識すぎて一般読者をおいてけぼりにしがちだし、国語学者は頭がごちゃごちゃして、こちらも一般読者にわかりにくい文章になりがちだが、高島さんのこれは、バランスよく親切。
本書の内容がわからない人、読めない人は、ことばのこと、日本語のことを語るのはムリでしょう。

ただし、基本中の基本を押さえた新書であるので、もれた問題、積みのこしたテーマ、それに高島さんが関心ない領域も多いとおもう。

『ウッズ・ロジャーズ 世界巡航記』,その3

2008-01-23 21:12:10 | 翻訳史料をよむ

さて、航海中の略奪成果で大きいものは、現エクアドル・グアヤキル強奪、マニラからの〈宝船〉拿捕である。

小さい船舶も20隻ちかく拿捕するが、少量の金銀・食料・それに奴隷と船員・船客が獲物である。
このうち金銀・装飾品は獲物として分配する。食料・酒類は飲み食いする。
しかし、ナマモノの人間はどうするのか。

乗組員や富裕な船客については捕虜として、身代金を要求する。
奴隷は船で労働力にするか売り払う。

しかし、まってくれ。拿捕した船の金目のものを奪ったあとに身代金を要求するにしても、誰に要求するのか。
同様の問題は陸上の入植地を襲った場合も同様だ。

海賊商売というのは、不必要な人員を捕虜にしても扱いに困るのである。
奴隷についても同様であって、商品として維持するには、水も食料も与えなくてはならない。(仰天の記録として、雑役に使っていた女性奴隷が船内で出産する、という記録あり。艦隊の医師が産婆役をつとめる。ところで、この赤ん坊は、略奪品の目録に記帳されたのであろうか?)
また当時の風習(?)として、貴顕の身分の者、聖職者(ブリテン側は国教会であるが、敵方はカトリック、宗派の敵対心はほとんどない。)はむやみに乱暴に扱うわけにはいかなかったようだ。

それで、いっときもはやく身代金を手にいれたい。
グアヤキル攻略時も、町に火をはなつぞと脅して町全体の身代金を要求するのだが、なかなか金額交渉がまとまらない。むこうは時間かせぎをして援軍を待っているフシがある。

それから、人間以外で価値があるのは、船体そのものであるが、これも操船する人員がいないと持って帰るわけにいかない。
ウッズ・ロジャーズ隊は、当時の水準としては人員の消耗も少なく、船員の管理もうまくいっていた部類なのだが、それでも脱走や命令違反は多いし、壊血病や熱病患者も続出する。
結局、人間の身代金にしても、むりやり売りつける船体の代金にしても、ほどほどのところで妥協するしかない。

そのなかで、サン・ルカス岬沖で拿捕したマニラからの〈宝船〉にかんして、驚くことが書いてある。(p301)
なんと、拿捕された船長サー・ジョン・ピチバーティー(フランスの勲爵士であるそうだ)は身代金を小切手で払う。
その小切手は、ロンドンで換金できる……?
(帰国後の記事はないので、その後の経過は不明)

ともかく、ウッズ・ロジャーズ隊は負傷者(提督自身もかなりの重傷、ただしこれは出資者に対する言い訳か?)が多く、水や食料の補給もむずかしく、そこそこで妥協して捕虜を解放する。
マニラからのガレオン船のうち、大型の本船には歯が立たず、結局逃してしまう。
以上、グアヤキル略奪と宝船一隻の戦果であきらめ、帰国の途につく。

*****

こうしてみると、オランダは本書にも描写があるように喜望峰に補給基地を設け、東インディーズに拠点をつくり、効率のよい商売をしていたわけだ。江戸幕府をあいてにした出島での交易が、いかに屈辱的であり、量的には華人商人にはるかに及ばないにしても、実に安全に利潤を生んでいたわけだ。

それにくらべると、本書の海賊商売は、運まかせのでたとこ勝負。
バハ・カリフォルニア、サン・ルカス沖の海戦は勇ましいが、マニラ・ガレオン船に遭遇したのはやはり幸運の賜物である。発見したときには、ロジャーズ隊のほうは、病人が多く、船の浸水もあり、食料不足の状態であった。

*****

この航海は、史上三番目の世界一周航海である。
ただし、本書を読めばあきらかなように、地理上の発見や測量はまったくない。島の位置にしても実にあやふやな記録である。住民の生活や産物にしても、よそからの引用であって、独自の観察はほとんどない。後のクック隊やブーガンヴィル隊とは、まったく異なる態度である。

*****

以上のほか読みどころはたくさん。

たとえば、クリスマスというものは、まったく意識されていないが、当時からヴァレンタイン・デイは祝われていた。(もちろん、現在の日本の風習とはまったく違いますよ。)

『ウッズ・ロジャーズ 世界巡航記』 その2

2008-01-23 21:11:26 | 翻訳史料をよむ

〈いうまでもなく、スペイン継承戦争の争点は、どこの王子様がどの王女様と結婚するかという点にあるのではない。〉
と、書いていたのはエリック・ウィリアムズである(『コロンブスからカストロまで』)。今、本が手元にないので、あやふやな引用ですまん。
〈いうまでもなく〉なんて書かれても、そもそもスペイン継承戦争(イスパニア継承戦争)ってなんじゃ。

さらに、ウィリアムズは、〈ユトレヒト条約の最も重要な点はアシエント条項である〉と述べるが、さてさて、ユトレヒト条約ってなんだっけ。

つまり、こういうことだ。スペイン継承戦争(1701-14)というのは、イギリス対フランスの第一回植民地ぶんどり合戦である。
その結果、停戦条約のユトレヒト条約で有利な位置についたのがイギリスであった。イギリスが手にしたアシエント条項というのは、新大陸のスペイン領へ奴隷を販売する権利を保障するものである。つまり、奴隷市場開放をせまるイギリスに、フランスやスペインが譲歩したのである。

本書にもでてくる〈南海会社〉というのは、アシエント権を得たイギリスで設立された奴隷交易に投資する会社である。ブリテン中がバブルに沸き、南海会社に投資する。(経済史、財政史の分野では、年金問題とからめて南海バブル事件というのがあるが、説明がややこしいし、わたしもよく知らないので、各自調べてくれ。)

さて、そのスペイン継承戦争の真っ最中の世界一周航海が本書である。
まだ、奴隷交易という、まっとうな市場に参入できないブリテン勢の略奪商売が、この航海の第一の目的である。

私掠船、つまり敵方の民間船舶であろうが、軍艦であろうが、はたまた小さい漁船であろうが、かってに拿捕して金目のものを奪う権利を保障された船である。
権利は保障されているが、リスクは各自が負う。
この航海の場合、投資してリスクを負うのはブリストルの商人のグループであった。

この点、よおく頭に入れておくように。
国王の軍艦もある程度守ってくれるが、つまり近くにいれば応戦してくれるが、それ以外の航海は、投資したものたちが損失をかぶる。
株式会社方式ではなく、一回の航海で投資を回収する、もしくは損失をかぶる。

航海のさいごのほう、ロンドンの前にオランダのアムステルダムに入港しているが、ここにオーナーたちがまえもって待機している。
どうもこれは、敵船の捕虜を尋問して、拿捕の経緯や積荷の量をチェックするためであるようだ。キャプテン連中が口裏をあわせて投資者をごまかさないように、拿捕された側の証言も調べるらしい。

それでは本書を開いてみよう。
私掠船の評議会、つまり幹部士官たちの会議がしょっちゅう開かれる。
話し合いと合意、記録と署名。
おお、海賊ってなんて民主的なんだ!

つまりこれは、のちのち帰港してから投資者に文句をいわれないための証拠作成なのだ。
これこれの利潤をあげるために我々はこんなに努力しました。これこれの損失は不可抗力、あるいは敵方の圧倒的な戦力によるもので避けがたいものであります。これこれの不都合が生じたのは、だれそれが反対したからで……、このときの連絡がとれず……、という具合に記録し、会議の参加者が署名する。

さらに幹部士官のあいだでのぬけがけ、横領をふせがなくてはならない。
獲物を拿捕したら、分け前は、こういう割合で分配する。投資者への還元は、これこれの割合とする。船長の取り分はこれだけ、と決める。
この航海は二隻の船による航海だが、僚船がぬけがけして、分捕品を隠匿しないように、お互いに監視の人員を置く。
下級船員のかっぱらい、隠匿を監視する。

そう、下級の水夫が悩みの種だ。
下級船員は、投資者に対する説明責任などないし、任務に対する忠義心もない。
鞭打の刑と足枷つきの禁錮をのがれるためにいやいや働くだけ。
海上勤務とはいえ熟練労働者はごく一部で(船大工、桶職人などが熟練工らしい)、大半は経験のない若いものである。
こいつらは、命令不服従、怠業、泥酔で鞭打ちの刑をうける。
出帆そうそうに反乱が起きる。入港するたびに脱出者がでる。
獲物を拿捕すると、私物を奪いあい統制を乱すので、厳格な規則を強制する。

以上まとめると、対投資者、幹部士官同士、対下級船員、と三つの対策を講じておかなくてはならない、ということだ。

そして、もちろん、敵スペインの商船や入植地が相手である。

以下、つづく

平野敬一 ほか訳,『ウッズ・ロジャーズ 世界巡航記』,2004

2008-01-22 21:43:36 | 翻訳史料をよむ

平野敬一、昨年(2007)11月死去。
ぜんぜん知らなかった。

もちろん、マザーグースと伝承バラッドの研究という、英文学のど真ん中を研究した学者である。
しろうとの読者としては、これらが学界(もしくは学閥、業界)でどの程度評価されたものなのかどうか判断不能であるけれども。

しかしわたしにとってまず平野敬一の業績といえば、
ダンピアの「最新世界周航記」(十七・十八世紀大旅行記叢書1)の翻訳者、そして、本書の翻訳者である。
本書の訳業中から体調がおもわしくなかったようで、共訳者の小林真紀子さんは平野敬一のご令嬢であられるそうで、病身の訳者をたすけて翻訳を手伝ったそうだ。
これが、最後のまとまったしごと、というわけか。

意外なものでは、「ヴァージニア入植についての真実の話」(『大航海時代叢書第2期 18』 岩波書店1985)なんてものも訳している。
あのジョン・スミスのチェサピーク湾地方の探検記。ポカホンタスと会った人物であるが、平野敬一が訳したこの記録中にはポカホンタスなどという娘は一言も出てこない。

Webcat で検索すると、意外な結果。
三省堂からの検定済高等学校英語教科書"The crown English readers "の執筆・編集者なんですね。(中島文雄が代表らしい)
かなり長い期間かかわっていて、わたしの高校時代も含まれるのだが、この教科書を使ったのかどうか、まったく記憶にない。(高校時代に関しては、まったく記憶を失っているし、まったく勉強しなかった。参考書も問題集も買ったことない。)ひょっとすると、この教科書にお世話になっていたのか??

高校教科書というのは、エライ学者がたんに名前を貸すだけなのか、それとも教科書を執筆したことが業績として評価されるのか?どうなんでしょうか。

さて、本題にうつろう。
17・18世紀大旅行記叢書 第2期第6巻,岩波書店,2004
原書A cruising voyage round the world (1712年刊)の8割5分ほどの抄訳。
残念なことに、バタヴィア入港などオランダ領東インドの部分は省略されている。
1708年8月から1711年10月まで約3年かけた世界周航の記録。

訳者の解説に書かれているように、途中のフアン・フェルナンデス島で救助したセルカークの〈無人島生活〉が後にロビンソン・クルーソー(ロビンスン・クルーソウ)のモデルになったため、この点ばかり注目されることが多い。

平野敬一によれば、この事情は日本ばかりでなく英語圏でも同様である由。
平野敬一は太っ腹なので、シロウトのロビンソン物語ルーツ探しも笑って紹介しています。

セルカークの逸話は、この訳文380ページあまりの7ページほど。
全航海記中では少々長いエピソードというほど。
本文を読めばわかるように、この島はスペイン人そのほかによって補給地として使用されていた島であって、ヨーロッパ産のヤギやカブやパセリも導入されていたところである。

以上、ロビンソン関係はおしまい。

ほんとうの本題は次の項で。

上赤博文,『ちょっと待ってケナフ!これでいいのかビオトープ?』,地人書館,

2008-01-21 21:53:03 | 自然・生態・風土

センター試験(2008年1月19日)地理Bの問題といてみる。
なかに、不愉快な問題(第3問の問6)があったので、過去の下書きをアップする。
ちなみに、わたしの結果は自己採点では、89点だった。(なんとマダガスカルの季節風をまちがえた、とほほ)

同じく世界史Bもやってみたが、こっちは、64点。さっぱりわからん問題が多い。あてずっぽうで解いた問題もあるので、実力は50点くらいってことか。13世紀以前に関した設問は皆目わからない。

こんな問題がわかるなんて、学力低下といわれながら、今の高校生はしっかりしているもんだ。われわれの世代とは段違いにむずかしいことを勉強しているのだな。

英語は192点。すなおな問題が多い。

*****
ケナフなんて東北タイの輸出用農産物に興味がある人しかしらない、と思っていたのだが、日本全国でしられているのだ。それも学校教育を通じて。

地道な研究を続けている著者がていねいに書いた本である。
正直いって、こんな本が、一般の本好きな読者の目にふれる機会はほとんどないのでは?わたし自身も偶然発見。

一方、本書の参考文献にあげられているように、インチキ・ジャーナリストや御用学者のかいた本が、三流出版社からごろごろ出されている。
それらのクズ本や教師用指導手引きにあふれているのが、「環境にやさしい」「自然にしたしむ」といううたい文句である。

ああ、無力感に脱力する。(脱力しててはいかんのだが。)
念のために書いておきますが、すでにわたしのブログのほかの記事を読んでいるかたには、よけいなお世話でしょうが、ケナフやビオトープが環境にやさしい、とか、こどもたちに生態の多様性を理解させるのにやくだつ、ということは、まったくウソで、逆に生態を破壊し、生物多様性を減少させているのである。

著者は生物学的基礎や観察のしかたを説明し、まちがった指導法とやさしい報道の欠陥を、ていねいに説いている。頭がさがる。感情的に反対したり、罵倒していてもしょうがない。
しかし、やはり、本書の主張する内容は、とどくべき人たちには、とどかない、という無力感も残る。ウェブをみると、ひとの話をきかないひとたちが、ケナフ普及に猛進・妄信しているようだ。

岡本達明・松崎次夫,『聞書水俣民衆史 第五巻』,草風館,1990

2008-01-18 18:07:08 | 20世紀;日本からの人々

ともかく読んでみてくれ、という以外ない圧倒的な一冊。
副題「植民地は天国だった」。

朝鮮赴戦江のダムと発電工事、咸鏡南道の興南工場建設、朝鮮窒素コンビナート、移住、労働、社宅の生活、朝鮮人との関係、敗戦、脱出、正式引揚げまでを生存者からの聞書で構成する。

あらゆるルポルタージュ、オーラル・ヒストリーに共通することだが、ひとびとが生々しい記憶をもっている時点では、口を開きたがらない。
やっと話を聞くようになると、証言者がどんどん亡くなっていく。
本書の証言者も、現在ほとんど鬼籍にはいられている。

読み方は百とおりもあるだろうが、とりあえず、以下のこと。

ダムの建設はT.V.A.に匹敵する120億kw、興南工場だけで当時の日本の内地の発電量の四分の一を消費。

別世界のような建設工事、労働現場。これが近代化ということか。

水俣で食うや食わずだった労働者が朝鮮へ押しよせる。正社員と雇員、日雇までの階層構造。それに社宅の奥様の生活、あぶく銭をもった若い工員の生活。

ソ連軍の侵入から敗戦、武装解除、工場再開、脱出、引揚げまでのこと。
つくづく、これは生き残った者の証言と思い知らされる。体力のない者はどんどん死んでいく。金のない者も死んでいく。
朝鮮人とつき合っていた、友人もいた、という証言があるのは、そういう人が生きのびる可能性が大きかったということでしょう。
シベリアへ抑留された社員や、いちはやくトンズラした憲兵などは、この聞書にはあらわれない。そういう者たちもいたのだ。

興南工場周辺の人々はソ連軍の攻撃を予測していなかったし、当時の日本国内のようすも知らなかった。敗戦も予期していなかった。
反対に、この咸鏡南道のことは、水俣在住の人々以外知らなかったということ。
軍需機密扱いであったし、戦後は会社の公的記録や偉人伝の中で断片的に記されるだけだった。

宇月原晴明,『安徳天皇漂海記』,中央公論新社,2006

2008-01-18 18:06:44 | フィクション・ファンタジー

帯に〈書き下ろし歴史長篇〉とあって、そんなあ、これが歴史小説かい、と思ったものの、本書のような作品こそが正統派歴史小説となる日も近いかもしれない。いや、もうすでにそうなっているのか?

吾妻鏡と金槐和歌集をリミックスした第一部 東海漂泊―源実朝篇、ひょっとして、現在の歴史学からすると正統派に近い読みかもしれない。
作品中のあちこちにちりばめられたアナクロニズムを解きほぐす読みは、わたしには不能。
この場合のアナクロニズムというのは、当時の世界に住む人々が知りえなかった情報、認識できないアイディアを登場人物が見たり考えたりしている、という意味であるのだが、これを作者が読者に仕掛けたイタズラとしてニヤッとするか、こりゃ作者のケアレス・ミスではないか、とつっこみをいれながら読めれば読書の楽しみは倍増するだろう。残念ながらわたしにとって未知の領域で、おてあげだ。

第二部では、帯の文句のようにマルコ・ポーロを中心に、大モンゴル・ウルスと南宋遺臣軍の戦い、港市ザイトンの描写、さらなる南海への航海が描かれる。

作者が記しているように、小林秀雄『実朝』、太宰治『右大臣実朝』、澁澤龍彦『高丘親王航海記』、花田清輝『小説平家』の四作品を換骨奪還、自家薬籠中のものに変化させた作品である、ようだ。
うーん、残念ながら、これらも『高丘親王航海記』意外、読んだことないので、なんとも言えない、とほほ。

高丘親王については、南進論との関わりで20世紀前半にかなり注目された人物であるようだ。(宮崎市定も書いていたと記憶するが、今確認できず、失礼)
澁澤龍彦の年代では、常識として知られていた人物であるようだ。その時代の伝説を蘇らせながら、まったく異なるファンタジーに結晶させたのが『高丘親王航海記』であったのだが、本作品は、シブサワズ・チルドレンの一人のオマージュということ、でしょうね。

未読の方のために、詳しい結末は書かないが、わたしとしては、マレー半島やスマトラ、インド洋あたりまで話を広げてほしかったなあ。そういう意味で、潮盈玉(しおみつたま)・塩乾玉(しおひるたま)の使用法も不満だなあ。もっとスケールのでかいシーンで使ってほしかったのだが。

山田和 ぶん・しゃしん・え,「ながれぼしをみよう」,2000

2008-01-11 19:37:15 | 実用ガイド・虚用ガイド

『おおきなポケット』2000年9月号(第102号)所収。
副題「ぼくらはうちゅうたんけんたい」とあるように、宇宙旅行の実用ガイド、であるわけではない。
じつはこれ、アウトドア・ライフの実用ガイド。

自然に親しもう、なんてかけ声で、〈日本百名山〉をめざしたり、アウトドア用品のカタログを見て高価な装備を集める必要はない。
そこらの山にいって、夜ねころんでみよう!というガイド。

空を見上げれば、さっそくUFOが見えてしまう悲しい現代人へ、驚異のみかたを指南したもの。

著者は、あの山田和(やまだ・かず)です。あの『インドミニアチュール幻想』『インドの大道商人』(ともに平凡社)の著者と同一人物。(陶芸家とは別人ですよね)
まったく違った分野の作品で、絵も文も写真も本人作成である。絵はマンガ風の軽いタッチ。
はあ、とためいき。
そうか、あんなヘンテコで専門的なインド本を書く人は、小さい時からこんなことをやっていて、こういう方面にも興味あるのか、とへんに納得。なお、『つき』という科学絵本も執筆していて、この雑誌と同じ福音館書店より刊行されている。

服装や場所選び、トイレのこともちゃんと書いてくれています。インド・カレーの作り方やインド占星学のことは書いていません。

野田勝久 編,『南方地域現地自活教本』,1999

2008-01-11 19:36:04 | 実用ガイド・虚用ガイド

これでキミも、南の島でサバイバル!
「現地自活(衣糧)ノ勝利」(昭和18年7月陸軍省印刷), 「戰争榮養失調症論」(椰野巖著 陸軍軍醫學校北支那方面軍編)の複製。
4ページ分を1ページに収めた70%縮小版で「現地自活の勝利」、「戦争栄養失調症論」は50%縮小版。
十五年戦争極秘資料集補巻9,不二出版

昭和18年7月、ってことは1943年夏ごろである。アッツ島全滅、キスカ島撤退、連合軍がニューギニア上陸をめざしていたころ。
猛進撃の夢から醒めて、こりゃ長引くぞ(まだ、負けるつもりはない)と、思いはじめた時期だろうか。そこで、現地の部隊は食料そのほかを自活して戦え、という冊子が、この「現地自活の勝利」、なんと660ページの大作だ。

目次をみると、すごいことが書いてあるのだ。どういう意味ですごいかというと、
まず味噌・醤油・食酢・米酒・豆腐・もやし・醗酵パンなどの製造法である。従軍以前にその種のしごとの経験があるものならともかく、とてもシロウトにはできない内容だ。
ちょっとまてよ、のんきにそんなもの作っている暇、設備があるのか。だいたい材料があるんだったら、つまり輸送が可能なら、製品を輸送したほうがはやいと思うのだが。

そういう疑問にこたえるように、野菜類の栽培、家畜の飼育、簡易魚獲法が載っている。
しかしますます混乱してきたぞ。こんな長期の「自活」というのは、ルソン島やジャワ、ビルマなどで可能なことで、これらの地域なら、自活どころか経営も可能かもしれない。
考えるまでもないが、農地にしろ家畜の飼料にしろ、すでにその土地で暮らしている人がいるわけで、そこへのこのこやってきた、気候も土地柄も知らない連中が、自活できるわけはない。商品として栽培・飼育しているものを買う以外ないではないか。
他人の土地や共有地をかってに使っていいわけはない。そういうのを自活とはいわない。

では、太平洋地域の痩せた土地、珊瑚礁やマングローブ帯でサバイバルしようというのだろうか。
これは当然むりだ。もともと食料生産が困難だからこそ人口密度が低かったところで、食料自給しようというのがまちがっている。

という具合に、なにを考えているのか、読む側が混乱する内容である。が、その一方で、細部がみょうに専門的で、とてもシロウトが作ったとは思えない内容がある。たとえば……

サゴ澱粉製造概要、パインアップル酒醸造法(酵母の選定からブランデーの作り方まで)、コプラの簡易利用法(代用コーヒーからアイスクリーム材料まで)、魚介の燻煙法、ローゼル(ハイビスカス属の一年草)の実から梅干代用品を作る方法、ブタの飼育では受胎から分娩まで!

おそらく、台湾などで専門に営農している者か研究者が書いたものを、そのまま引用しているのだと想像される。
しかし、1943年、昭和18年ですよ。戦火が止んでおちついた後の話ならわかるが、戦闘体制で、輸送もままならない時に、このマニュアルがなんの役に立つのか?

つまりこういうことだ。
無人の豊かな土地があって、戦闘の合間にコンニャクや豆腐を作り、イモや野草を山野で採り、魚を釣って自活する、という奇妙な状況を考えていた、ということだ。
うーむ。戦争をしらないのは、われわれヤング(死語)だけではないのか……

CIA;World Factbook で遊ぶ

2008-01-11 19:34:19 | 基礎知識とバックグラウンド

著作権がなく、だれでも自由に引用できる、金持ちUSAのサービス。
とにかく、見やすく使いやすい。
ほかの国は、これがあれば自国でデータ収集する必要なし?

国ごとのデータも比較表も一発クリックででる。
用語の定義と説明も適切で、略語の解説もあり、日本語よりもわかりやすい!たとえば、Total fertility rate を〈特殊合計出生率〉なんて、翻訳まちがいでしょう?
経済と軍事力を測ることがメインでしょうが、人口や教育、交通やインフラのデータも適切で、紙データなら何千ページにもなる情報がタダで読める。

東南アジアのデータ、たとえば識字率、出生率、人口の中間値(ミディアン)などをGDPや投資額と比べると、意外な姿が浮かんでくる。
領土・領海から地形まで簡単な説明あるが、気候や農業・漁業については、あまりにも簡単で参考にすべきではないだろう。

客観的数字以外で、領土紛争、国内紛争なども説明されているが、おもしろいのは、各国の政体。次のようにアメリカから見られているのだよ。

ブルネイ;constitutional sultanate
ミャンマー;military junta
カンボジア;multiparty democracy under a constitutional monarchy
インドネシア;republic
ラオス;Communist state
マカオ;limited democracy
マレイシア;ひじょうに複雑、長い説明あり。臨時政府や紛争中の国を除いて、一番長い説明。
フィリピン;republic
シンガポール;parliamentary republic
台湾;multiparty democracy
タイ;constitutional monarchy
東チモール;republic
ベトナム;Communist state

USA;Constitution-based federal republic; strong democratic tradition
おいおい、もっと客観的に書けよ。
グアム;NA
ずるいぞ。資料なし??
わが日本は……
日本;constitutional monarchy with a parliamentary government
議員内閣をそなえた立憲君主国というわけか……。ちなみに、これと同じタイプは太平洋上のツバルだけなんです……。

言語については、official に関する記載あり。

なんと、スリランカには"official" と "national" の2種類の規定あり?!
そのほか "official" を規定している国は、インドネシア・マレーシア・ブルネイ・ラオス・カンボジア・台湾(マンダリン)・ベトナム・フィリピン(フィリピーノと英語)。
つまり、タイ・ミャンマー・シンガポールには公用語の規定はないってこと。
東南アジアで英語を公用語とする国はフィリピンだけですのでお間違えなく。
アメリカ合衆国で"official language" の規定があるのはハワイ州のハワイアンのみ!

合計出生率の低下に関する論議(いわゆる少子化問題)にしても、スウェーデンやフランスと比べてもしょうがねえだろうが。
まったく世界のデータを見ないで論議している連中が多い。

ミャンマーが1.97(年齢中間値27.4歳)、ベトナムが1.89(年齢中間値26.4歳)、ちょっと前の〈先進国〉の数字なのだ。
あるいは、イランが1.71(同25.8歳)である一方インドネシアは2.38(同26.9歳)、
日本の1.23(43.5歳)より低い国は、ベラルーシ、チェコ、台湾がある。比較にはならない都市国家であるが、シンガポール、マカオ、香港が世界最低である。

つまりだ、GDPや国家体制の問題ではない。福祉政策の問題でもないってことだ。