不愉快なアメリカ人を怒らせるには、「日本には四季があります。」といえばいい。
たいてい、「こいつら日本人は四季があるのは日本だけだと思ってるのか?」と怪訝に思い、さらに、アメリカに四季がないような口調を不愉快に感じる。わっはっは。
しかし、四季があるところに住んでいるのが文明人という偏見をひろめたのは、ヨーロッパ人であり、北アメリカのヨーロッパ系である。
日本人が、そのマヌケな偏見を忠実に受け継いでいることに、やつらは、おのれのマヌケな姿を見て不愉快に感じるのである。
その〈四季のある温帯が文明を生む〉という概念を広めた代表が本書。戦中の翻訳で、日本人も白人並にエライのだ、という幻想をひろめた本。岩波文庫の奇書の一冊。
奇書であるのは、著者が「人種が文明を決定する」という幻想のかわりに「気候が文明を決定する」という妄想を、一見科学的、客観的に立証しようとしているからである。
ようするに、〈暑いところに生まれた人間はアホだ〉というかわりに、〈暑いところで育つ人間はアホだ〉と言い換えたものにすぎない。
これをヨーロッパ人がアフリカ人やインド人や南アメリカ人をバカにする根拠とするのならまだしも、日本人が率先してこの妄想にとりついたのである。
「世界中の学者からアンケートをとる」という驚くべき方法で、どこの国がアホかどこの国がリコウかという論旨の根拠にするというのがすごい。が、悲しいかな日本の学者もこのアンケートに素直に協力しているのですね。とほほ。『南海一見』(中公文庫で再刊)の著作もある 原勝郎も回答している。ほかに新渡戸稲造と山崎直方という人物も回答。
なお、今ウェブで検索したら、広島大学文学部の河西英通という方(『続・東北 : 異境と原境のあいだ』などの著作があるのに、お名前を存知あげなかった失礼!)の授業で2007年にとりあげられている。〈「奥州平泉」から「イェール大学」を結ぶ一本の赤い糸に注目せよ!〉というメッセージがあり、なかなか鋭いことを勉強するようだ。
シラバスは、home.hiroshima-u.ac.jp/syllabus/2007/2007_02_BY001002.html
ハンチントン,E.著,間崎万里 訳,「気候と文明」,岩波文庫,1938
初版, 1922, 旧中外化会
Huntington,E., Civilization and climate, Yale Univ.Press