東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

坪井善明,『ヴェトナム新時代』,岩波新書,2008

2008-09-12 22:27:02 | 国家/民族/戦争
バランスのとれた現在進行中のヴェトナム分析。
この種の海外現代事情物は〈狼が来たぞ〉タイプ、腐敗と混乱をことさら強調する〈暴露物〉タイプ、投資のチャンスだという〈儲かりまっせ〉タイプなど毎年毎年出ている。
読者のほうとしても眉につばをつけて向かわねばならない。
とくにヴェトナムの場合、〈社会主義の勝利〉から〈かわいい雑貨〉まで、数年ごとに変わるからね。用心しなくては。

本書にしても、著者の分析がどこまで妥当かどうか、わたしは判断できません。
しかし、問題のとりあげかたは妥当であるように思われる。

農村社会の伝統と儒教と社会主義から生まれる汚職と非能率。
インフラの遅れ。(製鉄や精油ができないうちにIT革命??)
格差の拡大。
少数民族政策。
ASEAN加盟、WTO加盟(07年1月正式加盟、知らなかった……なんてこったい)
USAと中国という二大国との外交問題。
日本、韓国、台湾、フランス、そしてASEAN諸国との関係。(在ヴェトナムの外国人では日本人よりも韓国人が圧倒的に多い、なんてことも知らなかった)
日本のODA問題(ハウザン橋が工事途中で落ちたなんてことも知らなかった……)
はげたかファンドに狙われたら〈赤子の手を捻るように〉やられてしまうだろうという危惧。世界市場経済に対する無知と無防備と人材不足。

ホーチミンについての著者の見識もたいへん参考になった。
そして、共和制というものが、儒教を基盤にした農村社会(=ヴェトナム共産党の体質)とは、ほとんど相容れない思想である、というのがわかった。(いいとか悪いとかいう判断は、また別の問題であるが)

小田実の死についての1章あり。ふーん。この人にとっても小田実はそれほど大きな存在であったのか。

加藤祐三 編,『アジアの都市と建築』,鹿島出版会,1986

2008-09-10 20:42:46 | コスモポリス
なんと東アジア・東南アジアの29都市の建築を紹介したもの。
豪華執筆陣は泉田英雄(マレー方面)、藤原惠洋(華南沿岸)、松村伸(中国東北方面)、西澤泰彦(韓国など)、その他、マニラも台湾もジャカルタも香港もマカオも……。

異常に盛りだくさんで、細かい文字がびっしり、小さい写真がびっしりで四六版330ページ。
結果として、わざわざ捜して読むほどのことはありません。
あまりにも範囲が広く、話題や視点がコマギレです。

1986年の時点では新鮮なテーマであったかもしれないが、その後、続々と旧植民地・アジアの西洋建築・都市計画に注目が集まり、一般向けの本がたくさんでた。
平凡社や河出書房新社や新潮社からカラー写真をぜいたくに使った本が、一都市まるまる一冊使ってでていますね。それを29もびっちり凝縮したのが本書。
凝縮しすぎで、モノクロの小さい写真は何が写っているのかわからないほど。刊行当時、つまり1980年代前半の様子がわかるかというと、そういうわけでもなく、建造物だけの写真が多い。

もっとも、建築の見方、都市の観察のしかた、流派の変遷や土着化、植民地宗主国の影響など興味ぶかい話題も多いのだが、なにしろ詰め込みすぎです。

台南・台中(執筆・堀込憲二)など、建築関係の本が少ない都市も取り上げられているのはいいんですが。