三月十九日 晴。朝は寒く、昼は暖か。あてなく歩きたい方へ歩いたとい<o:p></o:p>
います。<o:p></o:p>
八坂の塔、芭蕉堂、西行庵、知恩院、南禅寺、永観堂、銀閣寺、本願寺、<o:p></o:p>
等々等です。<o:p></o:p>
ここで行き先も日付も時には飛ばしに飛ばす算段に入ります。理由は一つ、あたし自身読んでも、あまり刺激のある旅ではないということであります。悪しからずお願いいたします。<o:p></o:p>
四月三日 風雨が激しかった。<o:p></o:p>
朝湯朝酒。一時の列車で鎌倉に向かいます。天竜川を渡ります。窓辺か<o:p></o:p>
ら海は濁り、富士は見えなかったが、桃の花、菜の花、青麦、日本は美し<o:p></o:p>
いと感激の様子です。熱海は春満開だが花見客が騒々しい。うるさいけれ<o:p></o:p>
ど怒れもしないとぼやいております。<o:p></o:p>
大船で乗り換えようと下車すると、鎌倉同人に見つけられそのまま車で<o:p></o:p>
鎌倉に連れて行かれます。同人鳴雨宅に落ち着きます。勿論その後は酒、酒、話、話。ヒヤとおヒヤ、前者は冷酒、後者は水と屈託ありません。<o:p></o:p>
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沼津→東京<o:p></o:p>
朝の富士は白いあたまの春の雲<o:p></o:p>
松の木あざやかに富士の全貌<o:p></o:p>
街の騒音何の木か咲いてゐる<o:p></o:p>
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東京をうたふ<o:p></o:p>
さくらちる富士がまつしろ<o:p></o:p>
さくら咲いてまた逢うてゐる<o:p></o:p>
旅ごゝろかなしい風がふきまくる<o:p></o:p>
ほつと月がある東京に来てゐる<o:p></o:p>
花ぐもりの富士が見えたりかくれたり<o:p></o:p>
ビルからビルへ東京は私はうごく<o:p></o:p>
ビルがビルに星も見えない空<o:p></o:p>
ビルにて 窓へやつと芽ぶいてきた <o:p></o:p>
今日は。
山頭火、日本各地に友人ありで、それにつれて酒もありで、そんな人は山頭火の前にも後にもいません。見あげたお人です。