東京大空襲の惨禍、克明に(六)<o:p></o:p>
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風はまだ冷たい季節のはずなのに、むっとするような熱風が吹いて来る。黄色い硫黄のような毒煙のたちゆらめく空に、碧い深い空に、ひょうひょうと風がうなって、まだ火のついた布や紙片がひらひらと飛んでいる。自分は歯ぎしりするような怒りを感じた。<o:p></o:p>
「こうまでしたか、奴ら!」<o:p></o:p>
と思ったのである。<o:p></o:p>
(あれから六十余年経った今、この文章を読み小生も、奴ら!と怒りが沸々と湧いてきます。)<o:p></o:p>
昨晩目黒で、この下町の炎の上を悠々と旋回しては、雨のように焼夷弾を撒いているB29の姿を自分は見ていた。おそらくきゃつらは、この下界に住んでいる者を人間仲間とは認めない、小さな黄色い猿の群とでも考えているのであろう。勿論、戦争である。敵の無差別爆撃を、天人ともに許さざるとか何とか、野暮な恨みはのべはしない。敵としては、日本人を何万人殺戮しようと、それは極めて当然である。<o:p></o:p>
さらばわれわれもまたアメリカ人を幾十万殺戮しようと、もとより当然以上である。いや、殺さねばならない。一人でも多く。(当時としては当然の怒りであり、復讐心に燃えるのも無理からぬことと理解できます。)<o:p></o:p>
われわれは冷静になろう。冷血動物のようになって、眼には眼、歯には歯を以ってしよう。この血と涙を凍りつかせて、きゃつらを一人でも多く殺す研究をしよう。<o:p></o:p>
日本人が一人死ぬのに、アメリカ人を一人地獄へひっぱっていては引き合わない。一人は三人殺そう。二人は七人殺そう。三人は十三人殺そう。こうして全日本人が復讐の陰鬼となってこそ、この戦争に生き残り得るのだ。自分は歯をくいしばって碧空を見た。白は白く、虚しく、じっとかがやいていた。……もう足が棒のようになって、とても歩けそうもないので、神保町までいって新宿行きの電車に乗ろうと相談した。
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