うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 山田風太郎の「戦中派不戦日記」を読む227

2010-09-22 04:59:01 | 日記

風太郎氏 神話について語る<o:p></o:p>

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天孫降臨や八州の修理固成や大蛇退治が、この戦争中哲学的に喋々され、神聖化されたばかばかしさは、実に何とも評しようがなかった。<o:p></o:p>

 われわれはこれから「神」さえも合理化しなければならない。例えば天皇が二度とマイクの前に立たれることはないであろうという側近者の話は、時勢後れと評するほかはない。ラジオで国民に呼びかけるというようなことを、それほど重々しく考える必要はない。くだらない神秘やもったいをつけることで民衆の崇敬がかち得られない時代は、遅かれ早かれやって来るのだ。<o:p></o:p>

 科学万能の果ては人類の幸福か不幸か、それを不幸としないためには、事実としてはっきり把握することが必要だ。神秘すなわち無知の産物で、それが人間の脳髄の及ばない時代はしかたがなかったとして、これからは堂々と天日に照らすべきである。惨禍は大部分無知からうまれるものである。<o:p></o:p>

 新しい日本史を歓迎する。ただし、これから出る歴史書は当分、今までの歴史と同様眉に唾をつけて見る必要がある。秀吉の朝鮮征伐を、大東亜共栄圏建設の理想に燃えたもの、など書いた戦時中の評価はばかげているが、さればとてこれを突忽たる侵略と断定し、イギリスの印度征服やアメリカのフィリッピン占領には眼をつむっているような歴史書はお話にならない。<o:p></o:p>

 とにかく神話は、ギリシャ神話の水準にとどめるべきである。<o:p></o:p>

 夕、風呂にゆく。この五日から銭湯は二十銭に上がった。「風呂の二十銭はいいですよ、燃料も要ることですから……しかし散髪の五円はひどい、メチャクチャですよ」という声、風呂の中でしきりなるをきけば、どうやら散髪代も上がったらしい。<o:p></o:p>

 出れば金色の細い上弦の宵月。空は淡青に冷たく澄んでいる。国民酒場には労働者や人夫やサラリーマンや職人たちが大行列している。通りすがりにきくと「三百円、どうして飲めるもんですか!」という嘆声。酒一升の闇値ならん。<o:p></o:p>

十一月十日() 晴<o:p></o:p>

 午前久保生理。午後岩男内科、低血圧症に就いて。<o:p></o:p>

 明日は進駐軍が神宮外苑で遊楽するため、一部省線電車は乗車禁止を行うと。敗戦国は惨めなるかな。<o:p></o:p>

 日本のアジア解放戦は真実邪悪なる侵略戦であったか。見よ、インドネシアは独立を叫んで英蘭軍と戦い、安南軍はフランスと死闘をつづけているではないか。日本は今や刀折れ矢尽きて不甲斐なくも敵の軍門に下った。われらはこれらアジア諸民族の戦いをただ黙して傍観しているよりほかはない。<o:p></o:p>

 日本に執拗な反抗をつづけた蒋介石は、日本の価値と大東亜戦争の意義を、遠からず骨身に徹して知るでおろう。今やすでに全中国を動乱の渦に巻き込みつつある中共との戦いに対し、蒋先生以って如何となす。だから言わぬことではない、と日本から思われても致し方ないではないか。<o:p></o:p>

十一月十一日() 快晴<o:p></o:p>

 蒼空一片の雲もなく強風烈し。神宮外苑の米兵に相応ずるか、米機十機二十機編隊組みて爆音凄まじく飛び交う。


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