一力遼棋聖が、本因坊文裕(井山裕太)を破り、初めての本因坊位を獲得しました。
(日本棋院twitterより)
日テレニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/da9523490824ec49d7044ebd5e58932b9f183480
YouTube放送
https://www.youtube.com/watch?v=-R0hiBbsAa4
囲碁ファンでないとご存じないかもしれませんが、「本因坊」は、もともとは囲碁の家元の家系でした。江戸時代には本因坊道策、本因坊丈和、本因坊秀策といった、後世に残る大名人を輩出した家元でした。その後、1938年に21世本因坊秀哉が引退するときに名跡を譲り渡し、家元制から実力制のタイトル戦に変更されたのでした。
以来多くの本因坊が誕生し、名勝負が繰り広げられました。今年まで本因坊位にあった井山裕太は、かつて囲碁界の7大タイトルを独占し、将棋の羽生善治とともに国民栄誉賞を受賞した囲碁界の顔・大スターでした。今の将棋界でいえば藤井聡太のような存在です。本因坊位も昨年まで11連覇を果たしていて、誰が井山裕太の本因坊連覇記録を止めるかが注目されていました。その本因坊位を、34歳の井山裕太から26歳の一力遼が、挑戦手合4勝3敗で奪取しました。囲碁界で序列一位の棋聖位を、昨年井山裕太から奪取したのも一力遼でしたから(それまで井山は棋聖位を9連覇していました)、これは一種の世代交代、囲碁界第一人者の交代を意味するといってもいいかもしれません。
ただし、本因坊位の権威については、残念なニュースもありました。来年度からは棋戦方式も賞金額も縮小・減額され、囲碁界の棋戦序列も下がるそうです。この話題については、次回以降に取り上げます。
さて、今回の本因坊戦の対局日程に関連してですが、その日程と開催場所について、興味深いことがありました。それは、井山裕太と一力遼の対局が本因坊戦に限らず他棋戦でも続き、しかも一時期の2人の対局が、大阪などの関西地区に集中していたことです。この2人は、次のように対局をしていました。
6月20日(火)21日(水)
本因坊挑戦手合第4局 映像配信1日目 映像配信2日目
ホテルアゴーラ守口(大阪府守口市)
6月27日(火)
碁聖戦挑戦手合第1局 映像配信
日本棋院関西総本部(大阪市)
6月29日(木)
名人戦リーグ 映像配信
日本棋院関西総本部(大阪市)
7月4日(火)5日(水)
本因坊戦挑戦手合第5局 映像配信1日目 映像配信2日目
寂光院(京都市)
ちなみに寂光院は、初代本因坊算砂が住職を務めていた寺です。ここに示した4局の棋戦は、本因坊戦、碁聖戦、名人戦、また本因坊戦と棋戦が異なりますが、同じ2人が同じ地域で戦い続けるという、いささか珍しい現象が生じました。先の3局をマスコミでは「囲碁界・大阪夏の陣」と呼んでいました。
ちなみに、井山裕太の所属は日本棋院関西総本部(大阪市)、一力遼の所属は日本棋院東京本院(東京都)です。ですので、この日程は井山裕太に有利のようにも見えますが、タイトル戦全体では、それほど大きな偏りはないように日程が組まれているはずです。ただ、タイトル保持者が井山裕太ということもあり、また名人戦リーグ内の序列(前年順位)が井山1位、一力2位だったこともあり、この間の2人の対戦に際して、大阪対局が多くなったという事情がありました。
そこで一つ紹介したい話題がありました。大阪に遠征しておそらくはホテル暮らしをしていたであろう一力遼は、特に過密日程の6月27日と29日の対局の間に何をしていたのか。それが気になっていたところ、一力の動向があるtwitter(大阪こども囲碁道場)に紹介されていました。
このように、一力遼は、重要対局の合間の一日に、大阪こども囲碁道場に出向き、そこで後進の指導をしていたのでした。こども道場といっても、プロ棋士を輩出するようなレベルの高い道場ですし、指導した相手も、20歳未満の囲碁プロ棋士世界大会に出場したような一流若手棋士だったようです。つまりは、お遊び・ご愛敬レベルの訪問ではありません。有望若手棋士のために、過密日程の合間に道場に出向き、後進の指導をしていた(いわゆる胸を貸していた)ことに、一力の人柄が垣間見られるように思いました。
以前に書いたことがあるように、私は囲碁愛好者であるのと同時に、一力遼推しのファンでもあります。
→「一力遼・新棋聖誕生を祝う」(過去のブログ)
一力棋聖は今年ずっと好調で、1~3月には棋聖位を防衛しました。その後も各棋戦で勝ち進み、本因坊戦と碁聖戦の挑戦者になりました。しかし、性格が真面目すぎるのか(そこは私と同じだ…)、一つでも負けると考えすぎて調子を落とすことがあるように思います。昨年の本因坊戦挑戦手合7番勝負と碁聖戦挑戦手合5番勝負において、ともに井山裕太にストレートで敗れ去りました。一力は責任感が強すぎるのか(それも私と同じだ…)、敗戦を必要以上に重く受けとめ、調子を落としてしまった過去がありました。今回の本因坊戦も3勝1敗と「あと1勝」まで井山を追いつめながら、その後に連敗していました。その後の最終第7局に勝利して、私もほっとしました。(始めから4連勝してくれたら私のスケジュールももう少し楽になっていたのですが…)。
囲碁界には7大タイトルがあり、そのうち賞金が高く2日制の7番勝負を実施している棋聖戦・名人戦・本因坊戦を3大タイトルと呼びます。その3大タイトルのうちの棋聖と本因坊を獲得し、名人戦の挑戦者の可能性もまだ残している一力遼は、もはや囲碁界の第一人者になろうとしています。その一力遼棋聖・新本因坊を、今後も応援し、推し続けていきたいと思っています。
※このブログはできるだけ週1回(なるべく日曜)の更新を心がけています。