テレビドラマ『たけしくん、ハイ!』がBS12で再放送されているので、見直してみました。この作品は、北野武(ビートたけし)の自伝的エッセイを原作としたテレビドラマ作品。放送されたのは、1985年と1986年。作品の最初に登場したビートたけし(当時)は、その頃30代後半。若くて細いので驚きました。私自身はその頃20代後半の大学院生で、毎回放送を見ていました。
私は大学院生でもう大人でしたから、作品のことはよく覚えているつもりでした。
しかし、見直してみると、私の記憶に残っている作品の印象と今回見直した印象は少し違っていました。ほのぼのとしたところのある作品ではあると思っていましたが、酒飲みでダメ男の父親の印象が強すぎて、かなり破天荒な人物たちの作品という記憶が強く残っていました。今回見直してみると、ほのぼのという以上に、こんなにも泣かせる作品だったのかと驚かされました。
たとえば、自転車を盗まれる話。たけしの父・竹次郎は元漆職人でしたが、仕事がなくペンキ屋になっています。しかし、手伝いをしているたけしが目を離した間に、ペンキ屋の仕事に使う自転車を盗まれてしまいます。竹次郎は腹をたてて、たけしを叱り、自転車がないと仕事ができないと言ってよけいに飲んだくれてしまい、また夫婦げんかに発展してしまいます。そんな両親を見て心を痛めるたけしは、日が暮れるまで盗まれた自転車を探し回り、ついに見つけます。ところが自転車を盗んだ男は、たけしの家よりさらに貧しく、子だくさんな上に働き手の男が病気で仕事ができず…。そんな家族を見て,竹次郎は自転車を持って帰ると言うことができず、「自転車なんてくれてやる!」と怒鳴って帰ってきてしまいます。
これだけでも泣かされるのですが、さらに次の回。たけしの母親・真利子は「人さまに施しできる身分かい!」と一度は怒りますが、結局は近所からお金を借りて、中古の自転車を竹次郎に買ってあげます。どんなにダメ男の父親でも、根のやさしさを知っている家族は、結局は彼を許し、受け入れていきます。その気持ちに泣かされます。
さらに別の回。竹次郎がクリスマス嫌い(昔はそういう父親がよくいました。うちはキリスト教じゃない、といってクリスマスを毛嫌いしたものでした。)を知っている家族は、竹次郎のいない日を見計らって、長男の女友だちも一緒にささやかなクリスマス会を催します。ところが、そういう日に限って竹次郎が早く帰ってきてしまい、自分抜きでクリスマスをしていることに激怒して、ケーキをひっくり返し、大暴れしてまた酒を飲みに出かけてしまいます。泣いてしまうたけしと、悲しむ家族たち。
と、ここまではいつもと同じダメ男の父親なのですが、竹次郎が置いていった荷物を見てみると、そこにはなんと小さなクリスマスケーキが。竹次郎は柄にもなく、家族のためにとケーキを買ってきて早く帰ると、家族は自分のいない間にクリスマス会をしていて、腹を立てて怒鳴り散らしてしまった…というわけでした。この話にはさらにもう一つ場面が付け加わります。たけしの母親はたけしに、「父ちゃんを迎えに行こう、たけし」と言って、外に出ます。すると、道路で酔いつぶれている竹次郎を見つけて、たけしが泣き出してしまうという話です。
私はこういう父親をけっしていいとは思いませんし、自分の父親だったら絶対嫌です。ただ、不器用な人間とそれを許して受け入れる家族の思いが、今回見直してあらためてひしひしと伝わってきました。北野武の家が必ずしもこうだったというわけではありませんし、テレビの脚色の部分もかなりありますが、テレビドラマ作品として、おおいに泣かせる出来になっていることを、あらためて強く感じました。
もうひとつキャストについても書いておきます。竹次郎を演じるのは林隆三、真利子を演じるのは木の実ナナ。放送当時、私はどちらも意外なキャスティングと思いました。林隆三は少し癖のある二枚目俳優で、どちらかといえば色男、プレイボーイ的なイメージさえありました。木の実ナナは歌手として活躍して、ミュージカルなどで実力を発揮していましたし、顔立ちも歌うジャンルも洋風でした。その二人が貧乏なペンキ屋とその妻を演じているのが意外でしたが、見てみるとその二人がぴったり役にはまっているように感じました。
30年以上前の作品を見直してあらためてその良さに気づくこと。テレビドラマに限りませんが、そういう思いをすることができた作品『たけしくん、ハイ!』でした。
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