現在、サッカーのアジアカップがベトナム・タイ・マレーシア・インドネシアの4カ国共催で、U-20ワールドカップがカナダでおこなわれています。アジアカップはアジアの国別公式戦で、優勝国にはフェデレーションカップへの出場権も与えられますから、ワールドカップやオリンピック予選に次いで、重要な大会と言えるでしょう。
フル代表の方はまだ2試合を終わったところですが、第1戦のカタール戦では、勝てる試合を引き分けに持ち込まれてしまいました。また、U-20日本代表の方は、グループリーグを2勝1分の1位で突破しながら、R16(準々決勝)でPK戦の末に敗退してしまいました。
試合内容はいずれも日本代表が上回っているように思えました。しかし、内容がいいから勝つとは限らないのが勝負ごと。特にサッカーはそういうことが多いように思います。
たとえば、最近ウィンブルドン・テニスが開催されていましたが、そこでスイスのロジャー・フェデラーが5連覇を達成しました。確かにフェデラーの実力がすぐれているとは言っても、同じ選手が5年間も同じトーナメントで無敗でいられるのは、実力通りに結果が出ることが多いというテニスの特性があります。特に4大大会は5セットマッチでおこなわれますから、番狂わせが起こりにくいのがテニスという競技です。
それに比較して、得点の入りにくく、得点に偶然の要素の大きいサッカーという競技は、実力通りに結果が出るとは限らないというところに特徴があります。だからこそ、サッカーには実力以外の要素、たとえばマリーシアと呼ばれるずるがしこさや知恵がどうしても必要になります。
ちなみに、深夜のサッカー番組で「日本代表がアジアカップで優勝する確率」を討論しており、評論家たちが50%だとか60%だとか言っていましたが、サッカーという競技で、しかも32チームも出場する大会で、そんな確率で優勝できるチームなど絶対にあり得ません。かりに日本が他の強豪チームよりも強いと仮定しても、それぞれの試合に勝てる確率はせいぜい60%くらいなものでしょう。だとすれば、日本の優勝確率など20%もあったら立派なものであるはずです。
ちょっとここで確率計算をしてみましょう。日本に甘めに考えて、日本のグループリーグ突破(4チーム中2位以内)確率を95%、準々決勝に勝つ確率を65%、準決勝に勝つ確率を60%、決勝に勝つ確率を55%と仮定してみましょう。これで優勝確率を計算するとほぼ20%。つまり、アジアで日本が最強だとしても、そのくらいがせいぜいの可能性だと考えられます。もし、グループ突破確率を90%、準々決勝勝利を60%、準決勝勝利を55%、決勝勝利を50%と仮定すれば、優勝確率は約15%となります。たとえ、世界トップ10に入るような強豪国をアジアカップに連れてきたとしても、優勝確実とまでは言えない。それがサッカーという競技であり、特にトーナメント方式でおこなわれる場合は、延長→PK戦となりますから、その傾向が強いように思います。
話を戻しますが、そういう競技だからこそ、ある種のずるがしこさのようなものが必要になるように思います。そのあたりは、日本人のやや苦手なところではないでしょうか。
たとえば、囲碁の話なのですが、日本の棋士はよく「死んでも打てない手」とか「そこに打つなら負けた方がまし」という表現をします。それは、形の美しさを重視する発想からきており、「棋道」という「道」の思想にもつながっています。しかし、それが日本の囲碁を国際棋戦で勝てなくしている理由にもなっているように感じます。つまり、韓国や中国に追い越され、世界のトップから滑り落ちた日本の囲碁の問題は、「勝敗よりも大切なものがある」という理想主義にあると私は思います。
これは、柔道にも似たことが言えました。以前に柔道が国際化された時、日本は柔道の「道」にこだわり、勝敗だけを徹底して考える発想をとらなかったために、国際試合で敗退することが多くなっていきました。しかし、現在は国際試合で勝つためのJUDOという考え方をとらざると得なくなり、その結果再び国際試合の結果に結びついてきたように思います。
サッカーの場合、過去にさまざまな伝説があります。ヘディングと思われたシュートが実は手によるものだったり、というのはまだ可愛い方で、水分補給の水に睡眠薬を入れて、親切なふりをして相手に手渡していたなどという話もあるくらいです。まあ、そこまでいったら犯罪ですので、それは極端な話としても、汚い駆け引きは日常茶飯事のようにおこなわれています。
先日のアジアカップ「日本対カタール」戦。カタールはフリーキック以外にほとんどシュートを打てない状況。そこで終了間際に、一か八かシミュレーション(反則をもらおうとわざと転ぶことで、審判にとられると警告を受ける。警告を2回受けると退場になってしまう。)覚悟でフリーキックをもらいにくるのはわかっていました。そこへ罠にかかるようにディフェンス阿部選手が反則をとられてしまい、フリーキックで同点に追いつかれてしまいました。
また、U-20のR16になるチェコ戦。ここでの主審の笛はかなり基準がばらついているように見えました。そこで、2点負けていて、そのままでは敗退が決まるチェコは捨て身でPKをもらうために突っかけてきます。そこで、まず1回は、ねらい通りにPKをチェコが獲得する。これで1点差。次にまた突っかけて来たときには主審がチェコのシミュレーションをとる。問題はここからです。
主審がシミュレーションをとって警告をチェコに与えたことで、日本は、チェコ選手がもう同じプレーができないだろうと考えたように思えました。しかし、そこが甘いところです。2点差だろうと1点差だろうと敗退にかわりないチェコ選手は、そこからさらにPKをもらいに突っかけてくるのです。そこへおあつらえ向きにと言うか、ペナルティエリアで日本のディフェンス選手が相手のボールに飛び込むと、チェコ選手はおおげさに転んで目論見通りにPKを獲得したのでした。
一度シミュレーションをとられたのでもう転びにくいと見た日本選手と、どうせ敗退するなら最後まで何でもしようとしたチェコ選手の間には、「勝敗がすべて」という意識において差があったのではないでしょうか。
アジアカップの方は、日本が第2戦に勝ってグループ首位になりました。初戦のカタール戦の引き分けやU-22の敗退を教訓として、今後の試合が、ぜひとも「内容で勝っても勝負に負けた」という試合にならないことを願っています。