フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



          

 テレビドラマへの感想を書く恒例の回の2回目です。

 前回は恋愛しにくい人の恋愛を描いた作品のことを書きました。その続きからいこうと思います。

『早子先生、結婚するって本当ですか』 (木曜22時、フジテレビ系) 6.8%

原作は、2009年10月からブログに連載している四コマエッセイマンガ。実話をもとにしているそうです。主人公は小学校教師・立木早子(松下奈緒)。番組公式ホームページには、次のように紹介されています。

この作品は、いわゆる「婚活HOW TOドラマ」ではなく、周囲に巻き込まれて、結婚に向かって動き始めた早子が、時に傷つきながらも運命の人と巡り会うべく奮闘していくストーリーで、木10らしい恋愛要素だけではなく、ひとりの人間として、ひとりの女性として「結婚とは」「家族とは」そして「人生とは」をつかんでいく、笑って泣けるヒューマンドラマです。

 主役の松下は長かった髪をばっさりと切りました。今までの上品なイメージではなく、ざっくばらんな雰囲気の小学校の先生を演じています。34歳独身という設定で、結婚したくないわけではないけど、無理に結婚させられたくもない…という、主人公の気持ちはよく描かれていると思いました。ただ、初回をみる限り、山というか「これは」という見せどころが少ない印象でした。テレビドラマは初回勝負というところがあります。無理に山を作らない、無理に恋愛要素を打ち出さない、という良心的な出だしともいえますが、やや初回にしては地味すぎるように感じました。 

『ラブソング』
(月曜21時、フジテレビ系) 
10.6%→9.1%

 主人公は神代広平(福山雅治)。もとはプロのミュージシャンでしたが、今は臨床心理士。独身で定住はせず、死んだ元の恋人の妹の部屋にやっかいになっている、という設定です。

 ヒロインは、佐野さくら(藤原さくら)。大型車販売店の整備工場で整備補助をしています。吃音症のため、周囲とのコミュニケ-ションがうまくとれず、上司の滝川文雄(木下ほうか)につれられて、神代のカウンセリングを受けることになります。そして、さくらは神代にひかれていく…という展開になります。
 吃音症を少しずつ改善していくことと、恋愛感情を持っていくことが重ねて描かれており、その過程は丁寧に描かれていて好印象を持ちました。ただ、障害をかかえた女性が恋愛するなかで変わっていき、相手の男性も次第に理解を深め、男性の方も変わっていく、という展開のドラマは過去にいくつかありました。その意味では、設定的にはやや昔ふうのドラマという印象を受けます。この種のドラマが受け入れられるには、それなりの時代背景が必要です。
 また、作中の神代とさくらは23歳差の設定。福山雅治と藤原さくらの実年齢差は27歳。う~ん、いくら福山があいかわらずかっこよくても、これはやはり親子にしか見えないかな。ネット上では、福山と同じ芸能事務所の新人・藤原さくらを売り出すためのドラマ、といった陰口もかなり書き込まれています。こうした陰口を吹き飛ばすような良質のドラマになることを願っています。

 ところで、この作品では吃音症への理解にもとづいた描き方がされるよう、全国言友会連絡協議会が台本や撮影の監修をおこなっているそうです。その説明はこちら。 ↓
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160418-00000097-spnannex-ent
 また、私が中央大学で指導した卒業生も、この作品の台本監修に参加しているとのこと。こうした丁寧な作品の作り方を評価したいと思います。


『コントレール』 (金曜22時、NHK) 5.7%

まずはNHKの公式ホームページの紹介を見ましょう。

 文(あや、石田ゆり子)は5歳の息子を抱えたシングルマザー。6年前、無差別殺人事件で夫を殺されて以来、夫婦で始めた「コントレール」(ひこうき雲)という名の海辺のドライブインを細々と守ってきた。事件で世話になった刑事・佐々岡(原田泰造)が何かと気にかけ訪ねてきてくれるが、女心はときめかない。そんなある日、口のきけないトラックドライバー・瞭司(井浦新)が店にやってくる。どこか世捨て人のようなそのたたずまいは、文の眠っていた女心を大きく揺さぶる。だが二人の間には隠れた因縁があった。実は瞭司こそ、6年前に文の夫を殺した張本人だったのだ…。

※コントレール=ひこうき雲の英訳。ヒロインにとってはすぐに消えてしまう幸せの象徴であり、男にとっては、人を殺めた時に見た悲劇の象徴。ヒロインが営むドライブインの名でもある。

 前回のブログでも、今回のブログでも書いたように、恋愛を前面に押し出したドラマは、今はかなり珍しくなってきています。 その中で、この作品は貴重です。脚本は『セカンド・バージン』をヒットさせた大石静。現代における恋愛ドラマは、『セカンド・バージン』やこの『コントレール』のように、少し前の時代の恋愛もので育った中年世代をターゲットにするしかないのでしょうか。

 テレビドラマは映画やマンガ、演劇や小説に比べて、より多くの人に受け入れられなければならないというノルマを課されています。しかし、そんな中で、若い人には受け入れられないけれど、ある年齢のある人たちにはわかる…。そういうドラマがあってもいいのではないでしょうか。たしかに、文(石田ゆり子)、佐々岡(原田泰造)、瞭司(井浦新)それぞれの気持ちは、その年齢にならなければわからないものなのかもしれません。
 偶然すぎる偶然とか、心のショックによる失声症とか、いささか非現実的な要素が多い気はしますが、それでもその世界に共感する人は、どっぷりとはまってしまうことでしょう。そういうドラマとして、現代においては貴重だと思いました。



『重版出来!』 (火曜22時、TBS系) 9.2%→7.1%

 主人公は黒沢心(黒木華)。柔道一筋の体育会系女子で日本代表にもなったが、ケガでオリンピックを目指すことを断念。一転して、以前から好きだったマンガへの熱意から、週刊コミック誌の編集部員になるという設定。 原作は、松田奈緒子のマンガです。

 黒木華の演技力は、既に高い評価を得ています。TBS日曜劇場『天皇の料理番』(2015年)や、現在放送中の大河ドラマ『真田丸』(2016年)では、古風でけなげな女性役を演じました。今回は一転して体育会系の元気女子。これまでも朝ドラ『純と愛』(2012~13年)や『リーガル・ハイ』(2013年)でもさまざまな異なる印象の役を演じていて、体育会系の元気女子を演じている黒木華も、まったく違和感なく見られます。
 新人がその業界独特の課題に戸惑いながらも、次第に成長していく…というのはありふれたドラマの設定ではあります。しかし、けっして主人公の成長だけに焦点化するのではなく、周囲のベテラン編集者や実作者であるマンガ家たちも丁寧に描かれます。そして、編集部とともに出版社の重要な部門である営業部の若手社員の視点も、作品にアクセントを加えています。これら多くの人びとが主人公を見守ったり、主人公に心を動かされたりしていき、見てみて実に後味のよいドラマにできあがっています。
 視聴率的にはのびていないようですが、私ももっと評価されてもいいドラマだと感じました。


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 テレビドラマへの感想を書く恒例の回です。
 とはいうものの、あいかわらずの校務多忙でまとめて書く時間がないので、まずはいくつかの作品を見た印象だけを書いておきましょう。

 今回感じたことは、「恋愛ドラマが難しい時代の恋愛ドラマの描き方」ということです。
 従来から言われているように、現代は恋愛ドラマが流行らない時代です。今の大学生たちにバブル期の「トレンディ・ドラマ」などを見せると、「この時代の人たちは、どうしてこんなに恋愛に熱心なんですか?」と驚いた反応を示されることがあります。それくらい、今の若者たちに、ベタな恋愛ドラマは受けないということになっています。

 私も、今は恋愛ドラマは以前のように流行らないことは、確かなことだと思います。ただし、その時代にはその時代なりの恋愛ドラマがあるのではないかとも思っています。
 たとえば、2015年1~3月期放送の『デート』(月曜21時、フジテレビ系)は、引きこもり男性と極端なリケ女の恋愛ドラマ。どちらも恋愛への情熱などまったくないように見えながら、その二人が少しずつ少しずつ、恋愛する気持ちを持っていくというところに、今の時代に即した恋愛ドラマであることが感じられました。端的に言えば、恋愛への情熱が最初からあふれているような人物は、今の時代の雰囲気に沿っているとは言えないのです。

 その観点から見て、興味深かったのは、『世界一難しい恋』 (水曜22時、日テレ)でした。
 大会社の社長で見た目も悪くないのに、まったく人の気持ちがわからず、女性にも持てない鮫島零治(大野智)。その零治が突然に社員の芝山美咲(波瑠)に好意を持ち、不器用きわまりないアタックを始める、というストーリーです。

 もう一つ同じ関心を持ったのは『私結婚しないんじゃなくてしないんです』 (金曜22時、TBS系)。
 こちらは、美貌の女医ながら、39歳、独身の恋愛弱者が主人公です。橘みやび(中谷美紀)がその美貌の女医で、キャリアもあり、年収も多く、プライドが高い。それなのに恋愛はまったくうまくいかないという設定になっています。

 恋愛下手な人物を描いたドラマは以前からずっとありますが、 この二つの作品に共通するのは、恋愛を強く求めて得られないのではなく、もともと恋愛などたいしたことではないと思って、かなりの年齢まできてしまっているということです。
 もともと恋愛に熱意のない人物が、少しずつ恋愛を意識していくという点で、『デート』に共通する要素があります。しかも、『世界一難しい恋』の零治は美咲に出会うことで変化し始め、『私結婚しないんじゃなくてしないんです』のみやびはかつての同級生と再会することで変化し始めます。その点でも『デート』に似た部分があり、これからこの二つの作品がどのように展開していくかを楽しみに見ていきたいと思っています。

他の作品についてはまた後日書きたいと思います。


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 4月期のテレビドラマもぼちぼち始まりますが、まだ放送された作品は少ない状況です。そこで、一足先に放送された深夜ドラマを取り上げてみたいと思います。それは『昼のセント酒』(テレビ東京系、土曜深夜)です。


 テレビ東京系では、『孤独のグルメ』というシリーズ化されたヒット作品があります。同じ久住昌之の原作マンガをもとにしたテレビドラマ作品が、この『昼のセント酒』です。その概要を公式ホームページから引用してみましょう。

 内海孝之(戸次重幸)は42歳。勤務先は日の出広告(株)の企画営業部2課。1年前に内勤の業務部から企画営業部に移動したが、口下手で不器用、要領が悪く、押しも弱い。そんな性格がわざわいして、営業成績はいつも最下位。課長の堂園翔子(八木亜希子)からは、いつも叱責されている。そんな内海の唯一の楽しみは、営業をさぼって平日の昼から銭湯に入り、その後、渇いたのどにビールを流し込むこと。勤務時間中という後ろめたい気持ちもありながら、、銭湯を見つけると、その誘惑に抗えない。今日も会社に「急用が入ったので…」と言い訳の電話をすると、意気揚々と銭湯の門をくぐる。入浴料を払い、スーツを脱ぎ、浴場に入ると内海にとって最高の瞬間が待っている・・・。

 前にこのブログに書いたことがあるように(東京には温泉銭湯がある)、私は温泉や大浴場好き。最高のぜいたくは温泉旅行。それが無理なら、次のぜいたくは、出張に出かけたときに大浴場のあるビジネスホテルに泊まること。それも無理なら、せめてもの楽しみは、自宅のの近くの温泉銭湯に出かけることです。ですから、『昼のセント酒』の世界には、おおいに共感するものがあります。

      (原作本)

 それはそうと、テレビドラマを歴史的に考察しているテレビドラマ研究者の私としては、この『昼のセント酒』の世界観に共感すると同時に、歴史的にもなかなか興味深いものを感じます。

 というのは、同じ久住昌之原作のテレビ東京系ドラマと言っても、そこには大きな違いがあるからです。人気シリーズになった『孤独のグルメ』の主人公・井の頭五郎は、一種の自営業者ですから、どのように働くかは自分自身で決められます。しかも、毎回の放送では、仕事のために出かけた街で、何らかの仕事を終えてから、空腹を満たすためにレストランや食堂に入り、1人で思う存分に食事を楽しみます。

 それに対して、『昼のセント酒』の内海孝之は営業職のサラリーマン。その彼が、勤務時間内に銭湯に入り、しかも居酒屋でビールを飲んでいるというのは、かなりの問題行動です。もし会社にわかって厳しく追及されれば、これは会社から懲戒処分を受けても仕方ない行動です。そのような行動をとる人物を描き、そこにアウトロー的な魅力を描くのではなく、むしろ庶民的な癒しを描き出そうとするところに、私は興味をひかれます。


 たとえば、1960~70年代のスポーツ根性ドラマの最盛期にこの番組を置いたら、努力をすべての価値観の根底におく風潮の中で、このような番組は駆除されていったことでしょう。また、1980年代後半のバブル絶頂期にこの番組を置いたら、その貧乏くさい楽しみのあり方に視聴者はそっぽを向いてしまったことでしょう。

 内海孝之のような、会社の仕事をさぼって数百円でできるささやかな楽しみにふける人物を描くこと。それが喜ばれるような時代のあり方について、それを考えるのもテレビドラマ研究者の仕事です。この点について、しばらくこの『昼のセント酒』を見ながら、もう少し続けて考えていきたいと思っています。

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           (中央大学卒業式のようす)

 私が勤める中央大学の卒業式が3月25日(金)に、入学式が4月2日(土)におこなわれました。
 ほぼ1週間の間に前年度の卒業式と次年度の入学式があるので、なんかもう一連の行事のようです。学生や院生たちを送りだして年度を終え、また新しい学生や院生たちを迎えて新年度が始まる……という感じがあまりしません。ということは、学生や院生たちを送りだすという感慨を持つ余裕もなかった、ということかもしれません。

 昨年の卒業生は、入学の時期が東日本大震災直後だったため、入学式がおこなわれなかった学年でした。そのため、卒業式において復興支援ソング「花は咲く」を合唱したのでした。それから1年。今年は通常通りすべてがおこなわれた学年を卒業させ、また通常通りに新入生を迎えました。
 学生や院生たちにとっては、それぞれが生涯にたった一度しかない入学式や卒業式です。こちらが校務多忙であることはやむを得ないことですが、学生・院生たちを送りだしたり、迎え入れたりすることが、まるでバルトコンベアのような何の感慨もない日常になってしまわないよう、そのつど心がけて学生対応や行事に参加したいと思い直しました。


     
          (国文学専攻の卒業証書授与の会場)

     
          (国文学専攻の入学ガイダンスのようす)


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