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フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 AIの進歩にはめざましいものがあり、多方面に影響をもたらしています。その中で私が特に関心を持っているのは、囲碁・将棋・チェスなどに関することです。
 ちなみに、今から8年半前。2012年1月のこのブログに「初めてコンピュータ囲碁に負けた日」というブログを掲載しています。そのとき、次のように書いていました。

(2012年1月7日)
15年ほど前にコンピュータ囲碁ができた頃には、「私が生きている間に私がコンピュータに負けることはないだろう」と考えていました。ところが、9路盤のこととはいえ、コンピュータに私が負ける日がついに来たというわけです。正規の19路盤では選択肢が広すぎて、私が負けそうになるようなコンピュータは、まだ開発されていないようです。


 繰り返しますが、私がこう思っていたのがわずか8年半前のことです。ところが、アマチュアの私が負けるどころか、囲碁の世界王者すらAIには勝てないほどAI囲碁ソフトは進化しました。20数年前には「私が生きている間に私がコンピュータに負けることはない」、8年前には「私が負けそうになるコンピュータは、まだ開発されていない」と、アマチュアの私ですら言っていたのに、です。

 そういう状況の中でですが、興味深い出来事がありました。昨日、会議の合間に you tube で囲碁のタイトル戦「女流立葵杯第1局 藤澤里菜対鈴木歩」をちらっと覗いてみたところ、中盤を過ぎたところ
で、AIが鈴木挑戦者の勝つ確率を約82%と判定していました(写真の場面)。AIの判定の信頼度にはいろいろな考え方があります。とはいえ、選択する着手の善し悪しをAI判定を頼りに検討することも多い昨今、AIが80%を越える勝率を予想したことには一定の意味があります。
 しかし、解説の王銘エン九段は想定終局図を作って、白の1目半勝ちを予想しました。結果も白番の藤澤里奈立葵杯が半目勝ちをおさめました。画面下部の孤立した白2目の攻め取りを、AIは正しく想定していなかったのではないかと思います。
(注記:結果がAIの判定通りにならなかったからAIが正しくない、ということにはなりません。対局している人間が、その後の着手を間違えたのかもしれないので。しかし、王九段は、双方最善を尽くした想定図を作って白の勝ちを予想しました。そのことの意味をここでは論じています。)

 8年前に私が、「私が負けそうになるコンピュータは、まだ開発されていない」と書いた頃は、「AI」という語もありませんでした。その当時は、コンピュータに着手の「価値」を判定させることが難題でした。しかし、高性能コンピュータ同士に対局をさせて、似たような局面のデータを膨大に蓄積させる方法が開発されてからは、コンピュータ囲碁は飛躍的に強くなりました。いわばコンピュータが自分で対局を繰り返して、自分で強くなっていくのです。

 もはや人間がかなわなくなるほど強くなったAI囲碁なのですが、今回は、形勢判断で人間の判断と食い違いました。そして、人間の判断の通りになったことを見て、なんとなくほっとする気持ちになりました。そのほっとする気持ちなど、時代遅れの感覚に過ぎないと知りながら、人間の判断の価値というものを再度考えさせられました。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。




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