フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



     
     以前、カールに入っていたケロ太(左)、右は通常のカール

 菓子などを製造・販売する会社・明治が、ロングセラー菓子「カール」の製造・販売を縮小し、今後は東日本では販売されなくなる、というニュースが昨日流れました。


 私は、日頃そんなによくお菓子を食べるわけではありませんので(というか食べたくてもなるべく控えるようにしているので)、特に「カール」に思い入れがあるというわけではありません。しかし、それでも何度かこのお菓子を食べたことはありますし、好きか嫌いかと言われたら、けっこう好きなお菓子でした。
 ですので、「これから食べられないと思うとちょっと残念だな」と思って、近所のスーパーマーケットに行ってみましたが、予想通りすっかり売れ切れていました。ないと思うと急にほしくなるなんて、これって情報に踊らされている愚かな行為なんだろうな、と思いつつも、これきり食べられないと思うとなんだか寂しい(グッスン…)。
     

 それで思い出したのですが、「カール」にはときどき違う形のものが入っているとか。近頃は「雪だるま」形のものが入っているようですが、私は以前に食べていて、「ケロ太」(カエル)形のものを見つけたことがあります。それで、そのとき撮った写真をさがしてみたところ、今からちょうど4年前。2013年5月下旬のことでした。それが上の写真です。
     

 それから何回「カール」を食べたのか、よく覚えていません。1年に1回か、多くても半年に1回くらいだったでしょうか。菓子の種類は無数にあり、普段は何とも思いませんが、いざ食べられなくなると思うと急に残念に思う。おおげさに言えば、人生にはそういう普段は気づかないものがたくさんあるのかもしれません。なくなってから残念に思わないよう、普段から大切なものを大切にしないといけないと思いました。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。


 と、このようにブログを書いたのですが、翌日になって、前の日と同じスーパーマーケットに行ったら、売り場の棚にカールが5袋置いてありました。思わず全部買い占めようかと思いましたが、全部買ったら他のお客さんに申し訳ないので、4袋を買い物かごに入れ、1袋は棚に残しておきました。(それでも4袋買うんかい!)
     



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 NHKのテレビドラマと言えば、「朝ドラ」(連続テレビ小説)と「大河ドラマ」がその代名詞のようにいわれますが、BS放送まで含めれば、近年は実に多くのテレビドラマ作品が放送されています。
 たとえば、現在NHKで放送中のオリジナル・テレビドラマは、衛星放送も含めればこれくらいあります。

『ひよっこ』(月曜~土曜、8時)
『おんな城主直虎』(日曜20時)
『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』(金曜22時)
『みをつくし料理帖』(土曜18時05分)
『4号警備』(土曜20時15分)

『この世にたやすい仕事はない』(木曜23時、BS)
『立花登青春手控え2』(金曜20時、BS)
『PTAグランパ』(日曜22時、BS)

 海外から輸入したドラマを除いても、これだけのテレビドラマが放送されています。
 私はテレビドラマ研究者ですから、多くのテレビドラマが制作され、放送されることは喜ばしいことだと思っています。ただ、NHKは国営放送で、民放テレビ局とは違いますので、NHKには民放とは異なる役割があるということを、これまで何度も言ってきました。言い換えれば、民放と同じようなドラマであれば、何もNHKが放送する必要はないということになります。「朝ドラ」や「大河ドラマ」はもちろん民放にはない作品で、NHKらしい作品ということが言えますが、放送されている作品が、すべてがNHKならではの作品とは言えないように思います。

 今回取り上げる『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』は、実にNHKらしい作品であり、私は高く評価しています。
 というのも、この作品にはいわゆる「派手さ」がまったくありません。鎌倉で祖母に育てられた女性・鳩子(多部未華子)が高校卒業とにその祖母(倍賞美津子)とは絶縁状態になり、祖母の死をきっかけに8年ぶりに鎌倉の家に戻ります。祖母は文具店と同時に代書屋(手紙の代筆をする仕事をする人)でもありました。その祖母に厳しくしつけられ、反発して家を出た鳩子でしたが、鎌倉に戻ったことをきっかけに、その文具店と代書屋を継ぐ気持ちになる…というストーリーです。
 と書いたように、このドラマには大きな事件もなければ、ときめくような恋愛もありません。いわゆる「派手さ」のまったくないこのようなドラマは、民放で放送することはかなり難しいでしょう。だからこそ、NHKならではと言えるのです。

 この作品の主人公・鳩子は祖母の文具店と代書屋という仕事を引き継ぎます。この作品のすばらしいところは、「代書」という、多くの場合あまりよいイメージで使われない言葉を作品のメインにすえ、そこから人間のさまざまで豊かな感情の機微を描き出しているところです。
 「代書屋」ということばは、単に他人の代わりに文書を筆記するという意味で、敬意を払われない職業として呼ばれることがしばしばあります。ところが、この作品に用いられる「代書」とは、他人の依頼に応じてそれにもっともふさわしい手紙の内容を考え、その文章に適した便せん、封筒、切手、そして筆や墨の種類までていねいに選び、依頼者に心から喜んでもらう手紙を書いて、送り先に届けることです。
 人に心から喜んでもらえるような手紙を書くためには、依頼者はもちろん、依頼者が手紙を出す相手の事情や性格、そして両方の関係性までも理解している必要があります。まさに人間に対する深い理解があってはじめてこの仕事が成り立つことが、このドラマを見ているとよくわかってきます。
 このドラマは、小川糸の同名小説を映像化した作品。先に書いたように、このドラマには大きな事件もなければ、ときめくような恋愛もありませんが、それでも、人の心を深く理解することの大切さを教えてくれる作品に仕上がっています。こうした上質ながら地味な題材の作品は、民放テレビ局では放送されにくいことでしょう。だからこそ、国営放送NHKには、こうした地味でもすぐれた作品を今後も放送し続けてほしいものです。


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 ブログのネタが尽きてしまったので、今回は食事のことを書きます。

 このブログでも何度か書いたことのある、フレンチレストラン『ル・ヴェルデュリエ』に行ってきました。
 → 「ありがとう、ル・ヴェルデュリエ」(2015年7月)
 → 「夏らしいフランス料理」(2012年7月)
 → 「大学院生と食事会」(2012年1月)
 → 「ル・ヴェルデュリエ 冬のフレンチ」(2011年1月)
 → 「夏らしいフレンチ」(2010年8月)
 → 「またまた鵜の木でフレンチを」(2009年12月)
 → 「鵜の木でフレンチを」(2009年8月)

といっても、行ったのは1か月ほど前、4月中旬のことです。テレビドラマのことばかり書いていたので、遅くなってしまいました。そして、1か月経って料理の記憶が薄れているところがあります。ごめんなさい。

 このお店は2年ほど前まで大田区鵜の木にありました。住宅街のなかにある一軒家でした。繁華街でもなんでもない場所にありましたが、私は電柱広告で見かけて一度食事して、すっかりファンになりました。その後は何年も通いましたが、残念ながら2015年に千駄ヶ谷に移転して、行く機会が減ってしまいました。そのため、千駄ヶ谷のお店に行くのはこれが2回目です。

 ランチのコースは、2500円、3500円、5000円(サービス料別)の3種類。メイン料理を2品にするのもいいのですが、このお店のオードブルとスープが特に気にいっていたので、オードブル2品の3500円コースにスープを加えてもらう形でお願いしました。この日も、以前から好きだった小林浩一シェフの繊細で、しかも日本の素材を積極的に取り入れた斬新なフレンチを味わわせていただきました。



アミューズ「パルメザンチーズのシフォンケーキ」


オードブル1「魚介の盛り合わせ」
(ホタルイカ・サバ・コハダ・ホタテ・マツバガニ・オランダアスパラ・キャビア)


オードブル2「テリーヌと京地鶏、野菜添え」
(テリーヌには牛肉・トリッパ豆・フォアグラ・豚足・蓮根などが)


スープ「沖縄クーナ芋のポタージュ」


メイン料理「牛ホホ肉の赤ワイン煮込みと漢方牛ステーキの盛り合わせ」


デザート「ブラマンジェ・ガトーショコラ・苺」


 この日は、鵜の木にお店があった頃の懐かしい料理と、今まで味わったことのない新しい料理という、その両方を味わうことができました。メイン料理の「牛ホホ肉の赤ワイン煮込みと漢方牛ステーキの盛り合わせ」は、鵜の木時代に何度もいただいたものです。メイン料理1品にもかかわらず2種類の味が楽しめる、私の好きな料理でした。

 一方、「沖縄クーナ芋のポタージュ」は初めて味わう料理でした。なんでも、小林浩一シェフが沖縄に行って、この食材を使うことを思いついたとか。小林シェフは京都の出身で、もともとフレンチ料理に京野菜など日本の食材を使うことが多い人ですが、今回はなんと沖縄クーガ芋をポタージュに。このクーガ芋は「畑のうなぎ」と言われるほど栄養価が高い食材で、それを料理に使うことで食べる人に喜んでもらえるのでは、とシェフが考えたそうです。

 千駄ヶ谷店に行くのはまだ2回目ですが、鵜の木の頃から、毎回店を訪れるたびに「なつかしい味」と「新しい味」を両方味わわせてくれるのがこのお店でした。今回も嬉しくその料理をいただきました。


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<p><a href="https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130901/13005224/?tb_id=tabelog_9d6a6f056936a35cad17a25523debeb5f41202fc">ル・ヴェルデュリエ</a> (<a href="https://tabelog.com/rstLst/RC021101/">フレンチ</a> / <a href="https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130901/R5582/rstLst/">千駄ケ谷駅</a>、<a href="https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130901/R11081/rstLst/">北参道駅</a>、<a href="https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130901/R3960/rstLst/">国立競技場駅</a>)
  <br />昼総合点<span style="color: #FF8C00;">★★★★</span><span style="color: #A9A9A9;">☆</span> 4.8
</p>



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 NHK「連続テレビ小説」(朝ドラ)の今シリーズは『ひよっこ』。まだ始まって1か月を過ぎたばかりですが、近年の「朝ドラ」の中では特に「泣ける作品」になっています。その「泣ける作品」という意味でも、『おしん』(1983~84年)や『すずらん』(1999年)のように、可哀想で泣けるという作品は、過去に多々ありました。この『ひよっこ』は、そういう意味よりも、登場する人物たちの心のやさしさ、あたたかさが、少しずつ見ている者の心の中に沁みてくるようで泣けるのです。

 ネット上でも書き込まれているように、第11回で、主人公の母親。・谷田部美代子(木村佳乃)が消息不明になった夫を捜す場面。警察で「疾走する出稼ぎ者が多い」ということを言われて、次のように訴える場面は、他の誰でもない、「ただ一人」のかけがえない夫を思う気持ちがあふれて胸に迫ってきます。

(警察にて谷田部美代子)
茨城、奥茨城村で生まれて育った、

谷田部実という人間を探してくださいと、お願いしています。
ちゃんと、ちゃんと名前があります。お願いします。

 一方で、第22回で、農家の三男である三男(みつお・泉澤祐希)に対する葛藤する気持ちを打ち明ける角谷きよ(柴田理恵)の言葉などは、上記のような人のあたたかさで泣ける場面です。

 そのように、数々の泣かせる場面がある中で、もっとも「人のあたたかさ」に泣かされたのは、私にとっては第1
2回でした。この回、夫を捜して見つからなかった美代子は、夫がかつて食事したことのある東京の洋食店「すずふり亭」に立ち寄ります。そこで交わされた会話は次のようなものです。

【東京の洋食店・すずふり亭にて】

(牧野鈴子)
お重、まだお預かりしててもよろしいですか。
ご主人、いつか取りにいらっしゃるって。
その時までお預かりしていてもよろしいですか。

(美代子)
はい、お願いいたします。

(鈴子)
承知いたしました。大切にお預かりさせていただきます。

(美代子)
ありがとうございます。

(牧野省吾)
あ! 奥さん、夕ご飯めしあがりました。

(美代子)
え?

(省吾)
何か召し上がりません? うちの料理。

(鈴子)
そうね。
ええ、遠慮なんかなさらずに。

(美代子)
あの、
主人が、いつか家族みんなで、こちらに伺おうって言ってたので、
それまでは、わたし、すみません。


【上野駅で一人ベンチに座る美代子】

(鈴子)
私の勘があたった
お夜食、食べましょう。

(省吾)
これ、店のじゃないからいいでしょう。

(美代子)
でも、どうして?

(鈴子)
せっかくのご縁じゃないですか。
あははは、なんだかたのしい。
おしゃべりしましょう。いろいろと。

(省吾)
話長いですよ。この人。

(鈴子)
もうしつこいねえ、この子は、もう。

 
 美代子の夫がまたいつか立ち寄るかもしれないと思い、そのときのためにあえて美代子の家のお重を預かっていようと申し出るすずふり亭の女主人。そして、疲れ切った美代子のために食事を勧めるすずふり亭の料理人(牧野省吾・女主人の息子)。しかし、夫と家族と一緒にいつか食事に来るからと言って、願をかけるようにして食事を辞退する美代子。これだけでも、それぞれの思いに涙が出そうです。
 しかし、この回はそれでは終わりません。食事もせずに上野の駅で夜明かしをする美代子のために、すずふり亭の女主人と料理人は食事を持ってやってきます。そして、いつか家族一緒にすずふり亭を料理を食べると言って辞退した美代子のために、「これ、お店のじゃないからいいでしょう?」といって別の食べものを用意してきます。美代子の気持ちを最大限に尊重しつつも、見知らぬ土地で空腹のまま夜明かしをする女性のために、それほどの縁があるわけでもないのに、夜明かしにつきあおうとするすずふり亭の親子。

 『ひよっこ』の脚本は、朝ドラでは『ちゅらさん』『おひさま』に続いて異例の3作目になる岡田惠和。彼の脚本の世界については、私の著書『テレビドラマを学問する』(中央大学出版部)の中にもページをさいて論じています。岡田惠和の脚本が持つやさしさとあたたかさは、この『ひよっこ』にも存分に発揮されています。
 これまで数年の朝ドラは、女性の実業家や出版社長など、実在の人物の伝記がもとになっていて、言わば社会的に成功した過去の人物を描いた作品でした。それはそれで前向きで明るい気持ちのいい作品でしたが、そうした成功者のお話にはない、人の心のあたたかさがこの『ひよっこ』には描かれています。今のところの視聴率では、これまでの数作品には及ばないようですが、それを補って余りある素晴らしい世界が展開されていると私は評価しています。


【付記】
最初に書いたように、谷田部美代子の夫・谷田部実は東京に出稼ぎに行ったまま、消息不明となってしまいます。そのために娘のみね子(有村架純)は高校卒業後の進路を変更し、東京へ就職することになりました。これほど実の消息不明が長引くとは、私は思っていませんでした。あれだけ家族思いの実が長期間にわたって家族に連絡をとらないのは、とても不思議です。はじめは、警察に誤認逮捕されているといった理由を考えてみたのですが、これほど長期間連絡できないことはないでしょう。となると、岡田惠和脚本で過去にも使われたことがある「記憶喪失」あたりしか考えられません。本当にそういう理由かどうかはわかりませんが、そんなことにも注目しながら、今後の『ひよっこ』を見続けていきたいと思っています。



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