フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 1月も下旬となり、今クールのドラマが出そろってきました。前回以降に放送され始めた作品を中心に、今回も私の勝手な感想を書いていきます。今週も番組HPなどから、作品のジャンルや謳い文句を最初に紹介します。

『不適切にもほどがある』(TBS系、金曜22時)
「意識低い系タイムスリップコメディ」「時をかけるダメおやじ、参上!」

 昭和のダメおやじが令和にタイムスリップし、かずかずの不適切な言動を繰り広げる話。もちろん不適切ではあるのですが、一方で、「じゃあ今の考え方がそんなにいいのかい」という疑問もわいてくるように作られています。宮藤官九郎脚本・阿部サダヲ主演の名コンビで、私は今クールでこの作品を一番楽しみにしていました。両方の時代を知る私は昭和と令和の落差をおおいに笑って、さらに深く考えさせられます。昭和を知らない若い世代がこのドラマをどう見るか、4月からの授業で取り上げてみたい気がしました。

『アイのない恋人たち』(テレビ朝日系、日曜22時)
「愛がない」「見る目(eye)がない」「自分(I)がない」
「それぞれにアイが欠けている者たちによるラブストーリー」

恋愛ドラマの変遷は私の持ちネタの一つで、授業でもよく取り上げますし、最近新しく書いた論文にもその要素をかなり入れました。近年のドラマでは「恋愛苦手」な若者たちがしばしば描かれます。この作品もその系統ではあるのですが、「愛がない」「eyeがない」「Iがない」の三様が描かれるところに独自性と面白さがあると感じました。見る前はそんなに期待していなかったのですが、見てみるとぶっちゃけ面白かったです。現代版『男女7人◎物語』というところでしょうか。オリジナル『男女7人』は「恋愛まっしぐらの人たち」、現代版『男女7人』の『アイのない恋人たち』は「恋愛下手っぴの人たち」が描かれています。「恋愛下手っぴ」たちの今後が楽しみです。

『厨房のありす』(日本テレビ系、日曜22時半)
「新時代のハートフル・ミステリー」

「料理は化学です」が口癖の料理人・八重森ありす(門脇麦)は自閉スペクトラムの女性。彼女の店のメニューは「おまかせ」のみ。接客はできないが、厨房から客を見て、その客に合った料理を提供します。客本人が食べたい料理とは一致しないものの、ありすが何故その料理を提供するのか、知ってみればもっともだ、ということになります。そこで私が思い出すのは、『マイリトルシェフ』という作品です。2002年という古いドラマですが、『厨房のありす』と同じように、決まったメニューではなく、その客のための料理を提供するドラマでした。ただ、『マイリトルシェフ』は、客の話を聞き、その人が喜ぶ料理を提供していました。『厨房のありす』の方は「料理は化学です」が示すように、フィジカルな要因から料理が考えられていくことが多いように感じます。個人の好みでいえば『マイリトルシェフ』の方が好きでした。西村雅彦演じる父親(ひとり親家庭の父親)に苦みの強い料理を提供する回が特に感動的で、今でも強く印象に残っています。娘のために一緒に甘いカレーを我慢して食べてきた父親に、ニジマス(だったかな)のはらわたを使った大人の料理を提供する回です。そんななつかしいドラマを思い出させてくれました。

 今週いろいろ用やするべきことがあって、『マルス―ゼロの革命』や『Eye Love You』を見ることができていません。ごめんなさい。

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 今回もテレビドラマへの勝手な感想を書いていきます。今回は、前回(1週間前に)書いた後に始まったプライムタイムの作品と、注目される遅めの時間帯作品について書きます。今回は、作品のうたい文句(キャッチコピー)を番組HPなどから最初に引用してみました。なお、放送されている作品数が多いので、このブログでは原則として、続編やシリーズものについては省いています。ほんとはそれも書きたいのですが、そこまで手が回りません。ごめんなさい。

『春になったら』(フジテレビ系、月曜22時)
「ハートフル・ホームドラマ」

余命3か月を宣告されても治療を受けようとしない父親(木梨憲武)と、その決断を受け入れられない娘(奈緒)の話。余命宣告ものは、テレビドラマの世界では『僕の生きる道』(2003年)など多くの成功作品があり、私の授業や著書でも何度か取り上げています。また、「父と娘」というのもしばしば取り上げられる題材で、その二つのテーマを組み合わせているところがこの『春になったら』の特徴のようです。病院での延命治療よりも、残り人生の時間が短くても今まで通りの生活をしたい父親と、父親を失うことを受け入れられない娘の葛藤が初回から十分に描かれていました。「ハートフル・ホームドラマ」というには、かなり重い話です。

『グレイトギフト』(テレビ朝日系、木曜21時)
「ノンストップサバイバル医療ミステリー」

うだつの上がらない病理医(反町隆史)が、新種の球菌を発見したことから連続殺人と熾烈な権力争いに巻き込まれていきます。すごい話だなあ…と思うのですが、反町隆史がどこからどう見ても「うだつの上がらない病理医」に見えません。コミュニケーションが苦手で人と目を合せることもできない、という設定なのですが、突然仮面を脱ぎ捨てて、「今から本当の俺を見せてやる!」とか啖呵を切りそうで、本来のストーリーよりもそちらが気になって仕方ありませんでした。

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(フジテレビ系、土曜日23時台)
「”昭和のおっさん”のアップデート大作戦」

古い常識・偏見で凝り固まった中年男(原田泰造)が、息子の引きこもりや、会社の部下たちに遠ざけられる体験を経て、自らの価値観を変えていこうとする話。これもよくある題材ではあります。シリアスに作れば、先に引用した『僕の生きる道』の続編『僕と僕の彼女の生きる道』(2004年)などに通じるテーマですし、同じコメディタッチなら、郷ひろみが主人公を演じた近年の単発ドラマ『定年オヤジ改造計画』(2022年)にも通じます。変わろうとする気持ちが生まれてくるような人なら、それまでがこれほどひどくはないだろう、という疑問もわいてきますが、そこはドラマなので不問としましょう。ちなみに、同じテーマをロマンティックに作れば、竹野内豊と麻生久美子が演じた『この声を君に』(2017年)にもなります。私の好みはこちらですね。私、ロマンティックな人間なので、てへ(笑)。

『リビングの松永さん』(フジテレビ系、火曜23時)
「シェアハウスで年の差ドキドキラブコメディ」

”恋に不器用な堅物のアラサー男”(中島健人)と”ピュアで一生懸命な女子高生”(高橋ひかる)がシェアハウスで同居する話。いかにも少女漫画的な話ですが、一方で、少女漫画をこえてよくある設定でもあります。ちなみに、新聞のテレビ欄では、「赤の他人が一つ屋根の下で、という設定自体は「陽あたり良好!」などの頃からポピュラーではあった。」(『朝日新聞』1月9日朝刊)と書かれていました。たしかに一つ屋根の下のアパート設定なら、『めぞん一刻』(1980年~1987年)やそこから影響された『ちゅらさん』(2001年)などがありました。ただし、私は朝日の記者さんよりかなり年上みたいので、ずっとさかのぼれば『雑居時代』(1973年~1974年)なんていうテレビドラマ作品もありました。石立鉄男と大原麗子、なつかしいなあ。韓国ドラマでも頻出。それだけよくある設定なので、どこでオリジナリティを打ち出すかが見ものです。

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 今年もテレビドラマへの勝手な感想を書いていきますので、よろしくお願いします。ただ、毎回字数が長くなって、実はけっこうつらいです。初回はやはりプライムタイムの作品から書いていきますが、今後短めの感想で済ますことがあってもご容赦ください。また、深夜枠作品やこれから放送開始される作品のことは、来週以降に書こうと思います。

『君が心をくれたから』(フジテレビ系、月曜21時)

ラブストーリーによくある要素が満載です。「初恋」「高校生の頃」「出会い」「雨」「地方都市の風景」……。それだけならあまりにもありふれた作品ということになるのですが、ここに異質な要素が一つだけ加わります。「事故にあった彼の命を救うためには、死神?に自分の心(5つの感覚)をすべて差し出す」というのが、その異質な要素です。私はありふれたラブストーリーも、ファンタジーの加わったラブストーリーも好きですが、これはファンタジーというにはあまりにも残酷な設定です。こわいくらいです。こわいもの見たさで、今後もこわがりながら見てしまいそうです。

『さよならマエストロ』(TBS系、日曜21時)

5年前のある事件以降音楽から遠ざかり、家族も去っていった指揮者・夏目俊平(西島秀俊)と音楽を嫌うようになったその娘・響(芦田愛菜)の話。西島秀俊と芦田愛菜の組み合わせ、しかもTBSの看板枠の日曜劇場とくれば、それだけで期待は高まります。ただ、初回を見る限り、父娘のかかわる場面はまだ少なく、むしろ指揮者としての俊平が、つぶれる寸前の地方オーケストラを立て直していく話が主眼のように見えました。これは、言ってみれば、伝統的な学園青春ドラマですね。傑出した指導者が廃部寸前の落ちこぼれ生徒たちの運動部を率いて、エリート校に負けない強い部に育てていく話。そう思えば、これは古くから親しまれた安定の構図です。そこに父娘の和解が組み込まれていくと考えたらいいのではないでしょうか。

余談ですが、妻役の石田ゆり子は、最近飛行客室内へのペット同伴発言で物議を醸しました。石田ゆり子は小学生のような純粋な気持ちで、ただ「ペットと一緒に客室にいられたらいいのになあ」と発言しただけなのでしょう。それに対して大人の立場からは、「では動物アレルギーの客はどうなる?」「緊急時にペットを連れて行こうとして手間取り、他の乗客に迷惑をかけたら?」というような懸念事項が次々に頭に浮かびます。何も考えずにただ純粋に希望を述べた子どものような人と、その功罪、メリットとデメリットを考える大人との違いです。これはもう同じ土俵の上に乗った対立ではなかった、というのが私の感想でした。(石田ゆり子推しの私としては、精一杯の石田ゆり子弁護のつもりです。そういえば私、昔こんな記事にも関係していました。→なぜオヤジたちは「石田ゆり子」にぞっこんなのか-デキる女より、美魔女よりも「マイナスイオン美人」!?

『院内警察』(フジテレビ系、金曜21時)
「病院もの」も「警察・謎解きもの」も多すぎて、もうこれ以上見なくていいんじゃないかと思っていたら、病院内に警察(正確には元警察官を雇った民間の部署)を作ってしまいました。不敵な元警察官(桐谷健太)と天才外科医(瀬戸康史)の組み合わせは面白くなりそうですが、初回だけでは面白さがまだよくわかりませんでした。脱落する視聴者が多くないか、心配です。話はそれますが、桐谷演じる院内交番の人がいつもチュッパチャプスみたいなのを口にくわえてます。でも、子ども相手とはいえ、口に棒を入れてサッカーするのはやめた方がいいですよ。転んで大けがする可能性があるので、見ていてこわいです。

『となりのナースエイド』(日本テレビ系、水曜22時)

「病院もの」が多すぎると書きましたが、この作品では元●●のナースエイド(川栄李奈)と天才外科医(高杉真宙)の組み合わせを持ってきました。たしかに面白そうな組み合わせです。ただ、初回の外科手術の場に、ナースエイドがマスクも帽子も手袋もせずに乗り込んで喋る場面が、ネット上で物議を醸しました。そこだけではなく、嘘っぽい場面が多々あります。私は、フィクションに嘘があっていいという立場ですが、嘘が受け入れられる場合と受け入れられない場合があることは、このブログでも何度か取り上げてきました。嘘自体がいけないわけではないと思っています。その嘘に目をつぶりたくなるだけの余得、嘘を受け入れて得られる楽しみとの差し引きで決まるのではないか、というのが私の意見です。このことはまたいずれ、詳しく書いてみたいと思います。

『ジャンヌの裁き』(テレビ東京系、金曜20時)

検察審査会の委員に選ばれてしまった一般市民の漫画家(玉木宏)が主人公。地味な題材ですが、中身をよく知らない検察審査会のことを知るいい機会になりそうです。検察審査会の最中に新事実(新証言)が出てくるというのは少し都合がよすぎますが、そこはドラマなのでいいとしましょう。『12人の怒れる男たち』を思い出しました。しかし、初回は都合よくまとまりましたが、第2回以降はどうなるんでしょうか。毎回こんないい話でまとまるんでしょうか。


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 皆さま、今年もよろしくお願いいたします。
 さて、このブログではテレビドラマについてよく書いていますが、NHK朝ドラや大河ドラマについては、書くことが少ないと思います。別に避けているわけではないのですが、3か月ごとのテレビドラマへの感想を書いている関係で、民放ドラマと放送期間の違うNHKドラマについては、書きにくいところがあって、タイミングを逸してしまうことが多かったと思います。
 さて現在放送中の朝ドラ『ブギウギ』を、私は楽しみに視聴しています。既に批評がたくさんあるので、ここでは違う観点から書きます。朝ドラでは過去の実在人物がモデルに使われることが多いのですが、中でも音楽をテーマにした朝ドラでは、時代との関係が実にうまく描かれているという印象を持っています。『ブギウギ』の前にそれにあたるのは『エール』でした。どちらも、「なぜその時代にこの曲が歌われ、人びとに支持されていったのか」というところから、その時代と音楽の関係が作中で描かれています。私はテレビドラマ研究者として、時代とテレビドラマの関係について考察することが多いのですが、音楽(特に流行歌)と時代の関係についても同様の考察ができると感じています。
 放送中の『ブギウギ』は、年末年始の関係で、今週は2回(木曜・金曜)だけの放送でした。しかし、太平洋戦争の末期を描く実に濃い2回でした。ドラマの中の戦争期の描き方はどうしてもステレオタイプになりがちなのです。しかし、1月5日(金)放送回は、福来スズ子(モデルは笠置シズ子・趣里)が戦争未亡人のために歌い、茨田りつ子(モデルは淡谷のり子・菊地凛子)が特攻隊員のために歌う、という内容でした。詳しいことは省きますが、戦争未亡人だから戦争を恨んでいる、海軍の上官だから軍の規律通りの言動をしている、といったステレオタイプにとどまらない、それぞれの葛藤がみごとに描かれる内容でした。時代と音楽が切り結ぶとことにドラマが生まれる、そんな回になっていました。
 週明けからは戦後の時代と音楽の関係が描かれることでしょう。今後も期待して見ていきたいと思います。

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