お正月といえば少しのんびり過ごす期間ですが、大学教員の多くは、提出された卒業論文を読み、評価をしなければいけない時期です。(一部、年が明けてから提出する大学もありますが) 実際に、このところ忙しくて、このブログも全然更新していませんでした。
今年も、私のゼミ学生19人が卒業論文に取り組んだので、その論文の題目を書いておきましょう。
小暮智子 吉本ばなな「ハネムーン」論
小川友博 『海辺のカフカ』論
本間結貴 『五輪書』の現代的意義
藤田百香 『リリイ・シュシュのすべて』論
海藤真紀子 宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー』論
正木友理恵 村上春樹「品川猿」論
尾形詩織 村上春樹『スプートニクの恋人』論
上田隼也 同性愛描写における性差についての考察
塩坂奈菜子 伊坂幸太郎論
村上茜 百合子とフェミニズム―『道標』を読み直す
堀田梨紗 森絵都論
小川悟 江戸川乱歩「陰獣」論
鈴木優 村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」論
西山倫子 岡田淳論
渡邉亮 桜庭一樹論 少女が見る家族像
相原由佳 太宰治『パンドラの匣』考
前田徹 町田康『告白』論
矢野由布子 椎名林檎論
伊藤慶 本谷有希子『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』論
近年の卒論テーマの傾向として、やはり新しい作家・作品が増えています。村上春樹やよしもとばななはもう最近の傾向とは言えませんが、加えて、今年も宮部みゆき、伊坂幸太郎、森絵都、桜庭一樹、町田康、本谷有希子といった新しい作家が取り上げられています。さらに、児童文学者・岡田淳やミュージシャン・椎名林檎といった珍しい論文テーマもあります。私が中央大学に勤めた20年ほど前とはずいぶんテーマが様変わりしました。
もっと前の私の学生時代の話をすれば、「卒論テーマは、もう死んだ作家を取り上げるもの」という了解があったように思います。また、私が中央大学に勤めた頃には、「卒論テーマは、全集の出ている作家に限る」と指導する先生もいました。そういう時代に比べると、今はすっかり卒論というものの考え方が変わりました。
以前の考え方にもわかる部分はあります。生きている作家、つまり自分と同じ時代に生きている作家は距離が近すぎて、研究対象として見ることができにくくなる面があります。したがって、純粋に学問的な成果を求めるのであれば、同時代の作家を避ける方がよいという指導にも一定の意味はあるでしょう。
しかし、卒業論文というものの意味、あるいは進学率の変化などから大学生の位置づけそのものが変わっているように思います。学問的に優れた論文を作成するということはもちろん重要ですが、それよりも、学生が主体的に何かの課題に取り組んで完成させるという、教育的な意味の方が重視されるようになったと思います。
多くの学生にとって、まとまった論文を作成するというのは一生に一度のことになるのですから、各自のもっとも関心のある課題に取り組ませてあげたいと私も思っています。学問的な水準で見るならば、新しい課題に取り組んだ論文が必ずしも成果をあげているとは言い難いところもあります。ただ、そのこと通じて、学生たちが真摯に課題に取り組み、そのことを通じて成長してくれたらと願っています。