フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 2012年10~12月期のテレビドラマが出そろいました。私のブログ恒例のテレビドラマ批評の時期です。今回は「初回」というテーマで批評を書いておきます。というのも、テレビドラマというのは、毎回視聴してから1週間空くという特殊なメディアです。演劇も映画も、劇場や映画館へ行って見るにしても、DVDを家庭で見るにしても、基本的には最初から最後まで見通すものです。しかし、多くのテレビドラマは違います。「初回」を見てから次週以降のことを決める人が多く、その点から「初回」の重要性が強いのがテレビドラマの特徴です。。
 例によって、ドラマ名の後に、ここまでの毎回の視聴率を示してあります。
          
『パーフェクトブルー』 (TBS、月8)  9.0%→7.1%→9.2%
 宮部みゆきの2つの作品を原作とするミステリードラマ。女性だけの探偵社を舞台に毎回完結の事件と、7年前に自殺したとされる主人公・蓮見加代子(滝本美織)の父親をめぐる連続のストーリーとを織り交ぜたドラマになっています。しかし、これだけ事件もの・ミステリーものが多いテレビドラマの中で、よほどインパクトのあるオリジナリティを出さないと、多くのドラマに埋没してしまいそうです。

          
『PRICELESS』 (フジ、月9)  16.9%
 急に会社を解雇され、その上に住まいでガス爆発が起こり、突然に住まいも金もなくなった男・金田一二三男を木村拓哉が演じます。これまで常に高視聴率をとってきたキムタクドラマの初回にしてはやや物足りない視聴率ですが、プロ野球クライマックスシリーズの影響もあったかもしれません。
 パイロット・検事・脳科学者など華麗な役を演じてきたキムタクが、こうした貧困にあえぐ元サラリーマンをどのように演じるか。第1回見る限りは、「それならキムタクじゃなくていいよ」と思われそうです。
 ただし、結局キムタクが演じているんだから、金田一二三男はこれから名誉挽回して、大活躍していくんだろうなあ……。本当はそうじゃなくて、「最後までかっこわるいキムタクだけど、新境地をひらいたなあ」と思われるようなドラマが見てみたいです。

          
『遅咲きのヒマワリ』 (フジ、火9)  13.5%
 28歳の派遣社員・小平丈太郎(生田斗真)が、次の仕事も決まらず、高知県四万十市の臨時職員に応募する話。軽い気持ちで「3年間食いっぱぐれがないし…」程度の気持ちで地方に来た主人公が、次第に変わっていく姿を描きます。
 地方の人々と実情に触れて軽薄な青年が次第に変わっていく…という展開は新鮮味がありませんが、真面目な作りに好感が持てます。地方病院に飛ばされた医師・二階堂かほり(真木よう子)がどう絡むかも見ものです。
          
『ゴーイングマイホーム』  (フジ、火10)  13.0%→8.9%
 坪井良多(阿部寛)と坪井沙江(山口智子)の夫婦をめぐる物語。山口智子久々の連ドラということで注目されましたが、初回視聴率はそのわりに高くありませんでした。
 監督・脚本は、『誰も知らない』などの映画で知られる是枝裕和。たしかに映画作品のような、細部に神経のいきとどいた丁寧な作りになっています。ただし、テレビドラの、特に初回にはわかりやすさやインパクトが必要です。映画は映画館に座ったらほとんどの人が最後まで見ますが、テレビドラマの場合は初回に視聴者をがっちりつかまないと次回から見てくれません。これから面白くなりそうではあるものの、テレビドラマ特有の初回の「つかみ」は物足りなく思います。
 翌週にサッカー中継があったためなのか、初回いきなり2時間というのも、視聴者にはハードルが高かったかもしれません。
          
『東京全力少女』 (日テレ、水10)  9・0%→8.2%→7.9%
 武井咲が周囲から浮いてしまうくらい全力で生きる少女・佐伯麗(うらら)を演じます。しかし、水曜10時は「働く女性もの」の多い時間帯。「全力少女」キャラが時間帯に合うかどうか心配です。
          
『レジデント 5人の研修医』 (TBS、木9)  8.4%→6.2%
 救命救急センターに勤める5人の研修医の話。過去にもありがちな話で、ちょっと新鮮味がないです。5人の個性があり、テンポも速いのはいいですが。ちなみに、5人の研修医とは次の5人です。
→美山しずく(仲里依紗)・矢沢 圭(林遣都)・真中潤一(増田貴久)・小岩井陽菜子(大政絢)・新城紗知(石橋杏奈)
          
『Doctor-X』 (テレビ朝日、火9
)  18.6%→17.6%
 勤務医には出身大学のしがらみがつきものですが、主人公の大門未知子(米倉涼子)は、自分の手術の腕だけが頼り。周囲との協調なんてまったく気にしない。ひたすら自分の考えだけを押し通します。
 真面目な医療ドラマとして見ることはできませんが、わかりやすいです。痛快です。そして、笑えます。NHK朝ドラ『純と愛』や『東京全力少女』などの主人公も、ある意味同じKYキャラですが、まったく悩まない分だけ、大門未知子は痛快です。
         

『結婚しない』 (フジ、木10)  13.0%→13.6%→10.3%
 「等身大」って便利な言葉ですが、こういうドラマが本当にそういう「等身大」を描いたドラマなのでしょう。天海祐希と菅野美穂という芸達者な二人の「本音」の、時にはちょっと「イタイ」感じもいいです。1回目より2回目の視聴率が上がった貴重なドラマです。しかし、第2回の展開、見合い相手のブログの話あたりはちょっと無理があると思いました。

          
『大奥 誕生(有功・家光)編』 (TBS、金10)  11.6%→10.6%
 柴咲コウ主演でヒットした映画に続き、男女逆転の大奥を描いたテレビドラマ。原作はよしながふみの漫画です。
 映画の将軍は吉宗でしたが、こちらは徳川家光。家光を演じるのは多部未華子。家光のために無理やり還俗させられた元公家・万里小路有功 (までのこうじありこと)に堺雅人。この二人は、それぞれの年代のもっとも演技のうまい俳優と私は評価しています。
 映画版は将軍(柴咲コウ)の男前なところがよかったのですが、テレビドラマ版は運命に翻弄される家光と有功のせつなさと、その二人の心の通い合いがとてもいいです。視聴率はそれほど上がりませんが、私はイチオシです。
          
『匿名探偵』 (テレビ朝日、金11)  11.7%→9.9%
 基本的に『特命係長・只野仁』を引き継いでいます。「特命」と「匿名」とかけているところもおしゃれです。謎解きあり、アクションあり、お色気あり。固定ファン向けです。


          
『悪夢ちゃん』 (日テレ、土9)  13.6→10.7%
 子どもも一緒に見られるエンターテイメント・ホラーといったところでしょうか。二重人格の小学校教師・武戸彩未(むといあやみ)を演じるのが北川景子。北川は綺麗ですが、この作品のようにちょっとお笑いが入る役の方が嫌味がなくていいです。

※(11月4日加筆)初回を見て「子どもも一緒に見られるエンターテイメント・ホラー」と書きましたが、その後も見続けたら、意外に深くて難しい話でした。とても子ども向けではありません。なかなか考えさせるドラマになっています。

          
『高校入試』 (フジ、木11)  7.7%→6.3%→7.0%
 1話で完結しない連続のミステリーは、ちょっと見るのがつらいです。初回は設定の説明だけで終わっている感じがしました。
          
『MONSTERS』
(TBS、日9)  13.8%
 変人刑事に
香取慎吾、コンビを組む新米刑事に山下智久。これまでのヒット作のいいとこどり。
  ①今大流行の1話完結ミステリー
  ②『相棒』のような刑事コンビもの
  ③『ガリレオ』のような変人による謎解き
 とはいえ、香取演じる平塚平八の変人ぶりというのは「セコくて姑息、細かい事にうるさく無礼だが、いつもにこにこしていて誰に対しても極端なまでの紳士的な言葉遣い」。う~ん、ガリレオ先生の変人ぶりはおおいに笑えましたが、この変人ではちょっと…。つまり単なる変人でしかなく、「笑える変人」でないのが気になります。
          
『TOKYOエアポート』 (フジ、日9)   14.0%→9.4%
 空港グランドスタッフから空港管制官を目指して実現させた篠田香織(深田恭子)を主人公とするドラマ。珍しい職業を扱っており、英語バンバン飛び交ってます。全日空の全力バックアップですし、力の入った作りになっていますが、見てて疲れる気がします。真剣にテレビドラマを見たい人向き。
          

※ここからは深夜枠です。

『ガールズトーク』 (テレビ朝日、火深夜)  
 教会に懺悔に訪れた若い女性の悩み相談という設定のドラマ。場面を固定した不思議な作り。深夜枠の低予算番組ですが、シスターがガツンと毒舌を吐くところがけっこう笑えます。
          
『孤独のグルメ season2』 (テレビ東京ほか、水曜深夜)  
 最近の深夜枠では最高傑作。 久住昌之原作、谷口ジロー作画の漫画を原作とするグルメドラマの第2シリーズ。
 多くのグルメ番組というのは、「グルメレポーター」と言われるタレントが味見して「まあ~、おいしい」とか「口の中でお肉がとろける~」とか言うだけなのです。それとは違い、この番組はドラマ仕立てで作られていますから、コメントが綿密に作りこまれています。
 さらに言えば、一人で黙々と食べる松重豊の強面(こわもて)がいいです。このくらいこわい顔の人が「うまい」「いいぞ」と心の中で繰り返すと、見ているこちらも信用して、本当にうまいような気になってきます。多くのグルメレポーターが軽薄に見えてきます。
 ただし、あくまで「B級」グルメに徹してほしい。お昼に1皿1500円もするような焼肉を何皿も注文するような食べ方(第3回)は、あまり好きになれません。そんな予算でお昼を食べるなら、フレンチ・レストランへ行った方がいいです。
 「安くてうまいものをぐいぐい食べる」という姿勢に徹してほしいです。
          



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 歌舞伎『塩原多助一代記』を、東京千代田区にある国立劇場で見てきました。
          
 私は演劇を特に専門に研究しているわけではありませんが、文学・映画・テレビドラマなどを含めたフィクション研究者ですので、演劇にも関心はあります。今回は、私の勤務する中央大学の国文学会という組織でおこなわれた「観劇会」として、学生や大学院生と一緒に、この歌舞伎を見てきました。
          
 『塩原多助一代記』は、江戸時代に実在した豪商の出世成功話です。明治の著名な落語家・三遊亭円朝によって高座にかけられ、それをもとに三代目河竹新七が歌舞伎化しました。1882年(明治25年)に東京歌舞伎座で初演されました。
          
 この作品は、明治になってからの歌舞伎ということで、明治的な性格を強く備えています。
 明治という時代は、それまでの「士農工商」の身分制度が撤廃され、能力によって高い地位への出世と成功が可能になった時台でした。もちろん、そうした願望がかなえられるのはほんの僅かの場合であって、立身出世の夢に破れた多くの若者たちがいたことも事実です。
 とはいえ、立身出世の夢を持った多くの若者たちがいたことも事実であり、『塩原多助一代記』は、そのような時代を背景に人々に受け入れられたのでした。
          
 この『塩原多助一代記』は52年ぶりの上演、しかも「通し狂言」としては83年ぶりの上演だそうです。どうしてこの時期に再演されたのかはわかりません。ただ、こうした明治の立身出世観にもとづいた痛快で人情味のある一代記が、あまり明るい話題のない現在の世相の中で、もう一度求められたのかもしれません。
 一緒に見ていた学生や大学院生たちの感想でも、「わかりやすかった」「楽しい」「歌舞伎ってもっと難しいと思っていた」という声が聞かれました。三津五郎と橋之助がそれぞれ二役を演じるのも興味深いところでした。
 こうした楽しめる歌舞伎作品が復活し、それを楽しめたことはとてもよかったと思います。
          
 



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 (この夏、シドニーの書店に貼られた村上春樹本のポスター)

 今週はノーベル賞発表の時期でした。

 私は文学研究者ですので、村上春樹がノーベル文学賞有力と言われていることについて、報道関係各社から多くの質問を受けました。そして、日本テレビ朝の情報番組『ZIP!』やTBS朝の情報番組『朝ズバッ!』などにフィルム出演もしました。
          
 報道各社からの質問というのは、多くの場合、「村上春樹作品が世界中で読者をひきつけているのはなぜか」「村上春樹が評価される理由は何か」といったことです。しかも、それを端的に、できるだけ短い言葉で回答することが求められていたと感じます。
 それは、多くの時間と労力をかけてある課題を解明しようとしていく研究の論理とは異なるものである、ということは否定できません。小説家が心血を注いでつくり上げた文学世界を、研究者がまた多大な時間と時間と労力をかけて明らかにしていく。それを一言でまとめることなど、到底無理なことです。
          
 その一方で、私はこうも思います。
 「文学」というジャンルにおいて、「村上春樹」というスターが生まれたことは、やはり希有なことです。その村上春樹がノーベル文学賞を受賞するかどうかに世間の注目が集まり、普段は「文学」に関心のない人も、その結果に関心を持つ。そのことは「文学」ジャンルにとって、やはり貴重なことだと思うのです。
          
 たとえば、このことをスポーツにたとえてみます。かつて国民的に人気を誇った野球には「ON」(王貞治と長島茂雄)のような大スターがいました。連日大入り万人だったかつての大相撲には「大鵬」「千代の富士」「若貴」(若乃花と貴乃花兄弟)のような人気力士がいました。しかし、今の野球界や相撲界はどうでしょうか。プロ野球のテレビ中継はなくなり、大相撲の国技館には空席が目立ちます。松尾雄治や平尾誠二のようなスターのいなくなったラグビーにも同様のことが言えます。
 「その世界に人気があるからスターが生まれる」「スターがいるからその世界の人気が高まる」というのは、両方の要素がありますが、いずれにしても、スターにいないジャンルは、その業界そのものが沈滞していきます。
          
 そのように考えたときに、「文学」にかかわる者として、「村上春樹」というスターにばかり世間の注目が集まることを苦々しく見ていているだけでは、何もよいことがありません。これを機会に「文学」に注目し、小説を読んでみようという多くの一般の方がいるのであれば、私はそれに関して一定の役割を果たそうと思います。
          
 近年、村上春樹に関する講演を頼まれることが多くなりました。近いうちに、ある自治体の講座でも、『1Q84』に関する講演をします。それに関して、担当者と打ち合わせをしたのですが、村上春樹の本を読んだことがないという初心者の方と、村上春樹に関してかなり詳しい知識を持っているという方の、両方を想定した講演にしようと相談しました。講演の中で、作品の内容を紹介するという初心者への配慮と、作品の背景になっている課題や評価の理由を考察するようなややレベルの高い内容とを、両方含むように配慮するつもりです。
 村上春樹作品を一度も読んだことのない人に、「まず自分で読め」と突き離すことは簡単です。しかし、村上春樹を読んだこともないけど研究者の話を聞いてみよう、と足を運んでくれた方の気持ちをまず大切にしたい、と私は思います。
          
 今回のノーベル文学賞報道には文学研究者としてさまざまな思いがありますが、「文学」が注目されるよい機会として、こうした現象を前向きにとらえていきたいと考えています。
          

 



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 大学の後期授業開始時期で忙しく、ブログを更新していませんでした。久しぶりです。
 そういう時期ではありますが、気分転換にテレビドラマ『すいか』 (2003年放送、日本テレビ系)をDVDで見直しました。
            
 先月、『テレビドラマを学問する』(中央大学出版部)という本を出しましたし、この10年以上の間、連続ドラマの少なくとも最初の1回は、すべて見ているつもりでした。しかし、この『すいか』の記憶があまりなかったのです。この『すいか』というドラマは評価も高く、このままにしておいてはいけないかと思い、DVDで見直すことにしました。
             
 「研究する」ことと「好き」であることは異なりますが、私はテレビドラマ研究者であると同時にテレビドラマ大好き人間でもあります。その私でも、実はこの頃あまり面白いと思うテレビドラマにあたりません。それで、ゴールデンタイムのテレビドラマではなく、昼ドラ『赤い糸の女』(フジテレビ系、月曜~金曜、13時30分)などに手を出していました。
 この『赤い糸の女』はなかなかすごいドラマです。中学校時代の同級生が美容整形手術でまったく別人のようになってあらわれるとか、1人の男性と3人のルームメイト女性全員が関係を持つとか、考えられない展開の連続です。さらには、3人の女性の1人が事故死したり、主人公の女性が買い物依存症から借金苦に陥ったりと、次々と思いもよらない展開になります。もうこのくらい刺激の強いドラマでないとつまらないくらい、私はテレビドラマに飽きてしまったのかと思っていました。
            
 ところが、DVDで『すいか』を見直したところ、『赤い糸の女』とは対照的に何も特別なことが起こらないこのドラマを、私はすっかり好きになってしまいました。『すいか』の主要な人物は次の通りです。

 早川基子(小林聡美)
   信用金庫職員。34歳まで真面目に勤めてきた自分に疑問を感じている。
 亀山絆(ともさかりえ)
   貧乏漫画家。実は金持ちの娘。双子の姉を事故で亡くしている。 
 芝本ゆか(市川実日子)
   大学生をしながら下宿「ハピネス三茶」の家主もしている。
 崎谷夏子(浅丘ルリ子)
   大学教授。学生時代からずっと「ハピネス三茶」に住んでいる。

 基子が家を出て、今どき珍しい食事つきの下宿「ハピネス三茶」に住む所から物語は始まります。しかし、上記の主要な4人に特別な出来事は何も起こりません。基子の友人の馬場万里子(小泉今日子)が3億円を横領して逃亡するという事件はありますが、4人にはそんなことはありません。基子は毎日平凡な信用金庫職員として働き、絆は書きたくもないエロ漫画を生活のために書き、ゆかは大学生をしながら、下宿人のために賄いの食事を作り続けます。
 では、何も大きな事件が起こらないからつまらないかと言うと、そうではないのがこのドラマの特筆すべき点です。なぜ大きな事件が起こらなくても面白いのか。それは「①小さな出来事もみな毎回のテーマにしたがって関連してくること」 「②出てくる人みんながたいへん魅力的に描かれていること」の2点が理由としてあげられます。
            
 ①の点。全10回のこのドラマは、毎回なんらかのテーマが設定されています。
 たとえば第9回のテーマは「別れ」。絆が飼っていた猫が出ていってしまう、基子の母親が癌の手術をする、絆に好意を寄せる青年に「好意に応えられない」と告げる…、といったさまざまな出来事がすべて、視聴者に「別れ」について考えさせるように作られています。しかも、基子は街で「あなたは20年後に何をしていますか?」というインタビューを受けます。そこでまた、「その20年間にどんな別れがあるのか、変わらないものは何か」と考えることにつながります。
 ②の点、「魅力的」というのは感覚的な表現ですが、言いかえれば、それぞれの俳優の特徴が十分に引き出されています。

 このドラマの主要な人物を演じるのは、いずれも他作品で主役を務める俳優ではありません。しかし、それぞれの俳優の特徴を最大限に活かす性格が与えられています。小林聡美は平凡だが真面目で心やさしい30代女性を、ともさかりえは自由に生きているようで心に傷を持つ女性を、市川実日子は下宿を父親から押しつけられたにもかかわらず明るく家主業を勤める大学生を演じて、このドラマを好ましいものにしています。
 さらに特筆すべきは、大学教授を演じる浅丘ルリ子。もちろんかつての美人主演女優ですが、『すいか』のときに63歳のこの女優は、かつてのようにひんぱんにテレビや映画で見ることはありません。しかし、大学生時代からずっと同じ下宿に住み続ける大学教授という「浮世離れ」した人物設定と、かつての大女優として庶民的とは正反対の存在である浅丘ルリ子のイメージが重なって、「この人をおいて他にない」と思わせるほど適役になっています。
            
 視聴率的には『すいか』はふるいませんでした。しかし、評価はその当時から高かったのです。
 ストーリー中心のドラマは一度見たら終わりです。ですが、この『すいか』のようなドラマは、何度でも見直したくなります。
 その後、『野ブタ。をプロデュース』(2005年)、『セクシーボイスアンドロボ』(2007年)、『Q10』(2010年)と続く木皿泉脚本の独特の世界の原点がこの『すいか』にあると再認識しました。
           



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