フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』(押井守監督作品)を、先行試写会で見てきました。

 『機動警察パトレイバー』は1980年代後半に始まった、当時としてはまだ珍しいメディアミックス作品で、これまでにマンガ・アニメ・小説などの作品として制作されており、映画化も何度もされています。今回はその最新作を見てきました。
 と、知ったように書きましたが、私自身はこの種の作品には詳しくなく、今回初めてその作品世界を楽しんできました。

 今回の映画最新作『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』の最大の特徴は、ドルビーアトモスを使ったその音響システムです。上映スペースの左右と天井のスピーカーが駆使され、まさにその場にいるかのような、迫力ある臨場感を体験することができました。
 この試写会では、押井守監督の舞台挨拶が予定されていたのですが、都合で来られなくなり、代わりにこの作品のチーフ・プロデューサーが舞台に立ちました。そこで「〈百聞は一見に如かず〉といいますが、まさに〈百聞は一チョウ(聴)に如かず〉という体験をしてください」との挨拶がありました。これはなかなか含蓄のある挨拶です。
 「聞(ブン)」も「聴(チョウ)」も聞くことではありますが、自然に耳に聞こえてくる「聞」に対して、より能動的に音響を感じとろうとする「聴」の姿勢によって、この音響システムの素晴らしさを体験してほしいという挨拶だったのでしょう。

 もう一つ私が感じたのは、「新しさ」に対する認識です。この『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』の基本の設定は、自衛隊から最新鋭の戦闘ヘリコプターが盗まれ、それによる凶行に、今では時代遅れになった人間型パトレイバーに乗り込んだ警察官たちが立ち向かっていくというものです。
 ここにあるのは、機械文明の進歩が必ずしも勝者を作るわけではないという哲学です。「新しい」ものは「古い」ものを凌駕して成立し、その能力を発揮していく。それは歴史の必然でもあります。しかし、この作品の最新鋭のヘリコプターを駆使するのも、一人の自衛隊員の天才的な能力であり、それと対決するのは、廃止寸前の部署となった「第二小隊」の警察官たち。まさにそれは機械と進歩の物語ではなく、人間の持つ感情や能力による闘いの物語です。
 1980年生後半から人気作品であり続ける所以が、このような人間的な作品構造にあるのではないかとの感想を私は持ちました。そう考えると、パトレイバーが「人間」型機械であることの必然性が理解できるように思われます。

 パトレイバー・シリーズがこれからどこまで人びとを魅了し続けていくのか。その点にも注目して、この作品の今後を見ていきたいと思っています。
 『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』は、5月1日から全国ロードショー予定です。

 余談ですが、相変わらずの校務多忙につき、このブログの更新が滞っています。今後は「週1回」の更新を心がけていきたいと思います。



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 恒例のテレビドラマ批評です。1~3月期ドラマに関するここまでの感想を書いておきましょう。今期は、有名脚本家による力作が揃いました。ぜひそれも含めて、全部のドラマについて書きたいと思います。
 …と言いたいところなのですが、あいかわらずの校務多忙につき、全部書いている余裕がありません。まずはその「有名脚本家による力作」への感想を書いておきましょう。それ以外にも意欲的で面白い作品が多いので、それはまた近日中に書きたいと思います。
 いつも通り、ドラマ名の後に今までの視聴率を示しておきます。(ビデオリサーチ社、関東地区)
          

『デート』 (フジ、月9)  14.8%→13.6%→11.0%
脚本・古沢良太(『鈴木先生』『リーガル・ハイ』など)

 これは面白い!
 視聴率が下がっているのは、万人受けするドラマではないからですが、けっこう私のツボにグイグイ来ています。
 堅物のリケ女(理系女子)公務員と、30代のニート男(本人は高等遊民を名乗っている)の恋愛ドラマ。それぞれ極端なステレオタイプ化(類型化)とカリカチュアライズ(戯画化)がおこなわれています。極端なリケ女っていうのは、こういう冗談も通じない、なんでも理屈っぽく考える。30代のニートっていうのは、働きもせず、本やマンガ・アニメに凝っていて、何もできないくせに特定のことにだけ詳しい(つまりオタク)。そういう、ステレオタイプ化とカリカチュアライズがおこなわれています。
 しかし、このドラマの良さは、そのようなステレオタイプ化とカリカチュアライズが、愛情をもっておこなわれていることです。
 「変な奴を笑う」ことは誰にでもできますが、それは後味がよくありません。大切なのは、「変な奴」に見える人にも理由があるし、その人もその人なりに懸命に生きていることを理解し、愛情をもって微笑めるような描き方がされていることです。『リーガルハイ』の古沢良太が、早口長セリフをここでも活用し、二人の愛すべき奇人ぶりを見事に描いています。
 そのリケ女を演じるのが杏、ニート男を演じるのが長谷川博己。この二人の「ここまでやるか」というてらいのない演技も見ものです。やっぱりコメディなら、このくらいやってくれなきゃ。引き合いに出して申し訳ないですが、堀北真希ちゃんはいつもで経っても「上品なお嬢さん」だなあ…女優としては、これくらい脱皮するといいのに。
 視聴率がどうでも、私はこのドラマが今クールの一押しです。
          

『ゴーストライター』
(フジ、火9)  10.5%→9.2%→8.7%→7.6%
脚本・橋部敦子(『僕の生きる道』『遅咲きのヒマワリ』など)

 流行作家・遠野リサ(中谷美紀)と、遠野リサに憧れる作家志望の川原由樹(水川あさみ)。天と地ほどの差のある二人が出会うところからドラマが始まります。既に名声を手に入れていながら書けなくなった作家・リサと、まったくの無名だが次々に才能あふれる文章を生みだす由樹。その関係が次第に逆転していきます。
 書けなくなった流行作家がアシスタントに代作をさせる…、作家志望の若者がはじめは自分の作品を世に出せることで満足していたが、次第に傲慢さを身につけていく…。真面目に人生と向き合う地味なドラマを書くことの多い橋部敦子ドラマですが、この作品は珍しくエグイ感じを前面に出しています。
 しかし、そんなエグイ中に、人間の心の中にある欲望と向き合うドラマを作り上げています。
          

『まっしろ』
 (TBS、火10)  7.9%7.8%5.7%→5.1%
脚本・井上由美子(『白い巨塔』『昼顔』)

 堀北真希が看護師役を演じるコメディ医療ドラマ。
 脚本の井上由美子は、シリアスもコメディも何でもできる万能脚本家。前クールでは、上戸彩主演の主婦不倫ドラマ『昼顔』で成功しましたが、今回は視聴率的には惨敗です。
 毎回そこそこ面白く出来ているとは思うのですが、キャストや演出が物語とマッチしているかどうか。堀北真希は、『デート』で書いたように、「上品なお嬢さん」というのが持ち味。朝ドラ『梅ちゃん先生』でけなげな町医者さんを演じて大成功でしたが、コメディ色の強い作品に合っているかどうかは疑問です。
 ちなみに私が気になるのは、ナースキャップのかぶり方。堀北真希をはじめ、きれいな女性たちがみな看護師役を演じていますが、髪をまとめないでそのままナースキャップをかぶっています。こんな髪の毛バサバサの看護師さん、実際にはいないんじゃないでしょうか。これじゃキャバ嬢のコスプレみたいです。(単なるイメージです。すみません。キャバ嬢さんのコスプレを本当に見たわけじゃありませんので、先に謝っておきます。できれば一度見てみたいですが…。)
 ナースキャップのかぶり方くらいたいしたことじゃありませんが、『デート』の杏のネズミメイクと比べるとかなり見劣りします。『デート』の杏は、遊園地で遊ぶのにネズミのメイクをして楽しもうとしていました(冒頭写真参照)。堀北真希にも、『デート』くらい徹底して役になりきってほしいなあ…と思いました。

          

『○○妻』
(日テレ、水10)  14.4%→15.2%→13.9%→15.2%
脚本・遊川和彦(『女王の教室』『家政婦のミタ』など)

 『家政婦のミタ』で大ヒットをとばした遊川和彦の新作。謎の女、不審な言動、その理由と過去が少しずつ明らかにされていく…。それらの点では『家政婦のミタ』と共通点があります。
 しかし、謎を小出しにすれば視聴者が見てくれるわけではありません。気の短くなった現在の視聴者は、少しつまらなければすぐに見るのをやめてしまいます。その点で、遊川の作品は、謎を小出しにしながら、その過程で興味深い人間ドラマを作っています。
 主人公は柴咲コウ演じる謎の女性ですが、そこに同時に描かれているのは、男の性(さが)のようなものです。東山紀之煎じるニュースキャスターは、無名のジャーナリストから出世し、有名になり、安定を求め始め、そして少し傲慢にもなり始めています。柴咲演じる妻に向き合うことで、その姿が次第に明らかになります。その意味では、この作品は謎の女の物語であると同時に、謎の女に向き合うことで本音をさらすことになる普通の男の物語でもあります。 
 今クールは、『問題のあるレストラン』なども含めて、男性社会や男性中心の発想に対する女性の不満を吸収するドラマが多いようです。この作品の根底にあるのも、男性と女性のあり方に対する疑念で、それがこの作品に、単なる謎解きに終わらない深みを与えています。
        

『問題のあるレストラン』
(フジ、木10)  11.3%→8.4%→8.1%→8.9%
脚本・坂元裕二(『Mother』『最高の離婚』など)

 坂元裕二は、『東京ラブストーリー』など古くから活躍している脚本家で、近年もプロをうならせる作品を続けて書いている、今一番ノッテいる脚本家と言えます。
 『Mother』『Woman』のようなリアルで重い作品も、『最高の離婚』のような軽妙なラブコメも書けるのが坂元裕二です。今回は軽いタッチながら、その奥に男性社会への女性の抗議の声がこもっています。
 主要な登場人物は、男性たちのハラスメントでいずれも仕事を失った女性たち(とゲイの男性一人)。彼女たちが集まり、協力して作るレストランが舞台で、いわば、素人女性たちが集まって強力な男性社会を見返す物語になっています。
 つまり、これは蟻が集まって巨象に立ち向かう物語です。『ドクターX』のように、スーパーウーマンが男性社会を切り崩す物語の方がスカッとするでしょうけど、この作品はそうではありません。ですから視聴率はそれほど上がらないでしょうけど、蟻がどうやって巨象を倒すか、私は毎回じっくり見せてもらうつもりです。
          

『セカンド・ラブ』 (テレビ朝日、金11)  8.2%→
脚本・大石静(『ふたりっ子』『セカンド・バージン』)

 まだ1回しか放送されていませんが、こてこてのラブストーリーです。会って一目ぼれするとか、お互いを見つめ合うとか、先の展開を見せるのではなく、場面に浸らせる(感情移入させる)ドラマです。私はけっこうこの手のドラマも好きですが、現在の視聴者からすれば、ベタすぎて恋愛ドラマのパロディに見えるかもしれません。
 現在の視聴者は気が短くなっています。少しつまらないと、ケータイやインターネットへ移ってしまいます。そんな中で、一話完結にもせず、小ネタで笑わせることもせず、ひたすらじっくりしっとり恋愛を見せるドラマが視聴者に響くかどうか。
 深キョンと呼ばれた深田恭子も今や32歳。近年は、『ヤッターマン』のドロンジョだの、社会派ドラマのコミュニティ・ソーシャルワーカー(『サイレント・プア』)だの、いろいろな役をしています。この頃は少し痩せましたし、年齢とともにさすがに少しやつれた感じもしますが、若くてぽっちゃりのイメージから脱皮して、女優としての幅を広げるかもしれません。
 現在はラブストーリーの喜ばれない時代だというのが定説ですが、それに真っ向から逆らっているところに興味をひかれます。

          


ついでですが、前のクールに放送されていた深田恭子主演の『サイレント・プア』(NHK)は、実に良質のドラマでした。主題歌がドラマの内容に合っていませんでしたが…。 



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 この数か月の間に取材を受けて、私のコメントが掲載された雑誌や新聞です。
          
 『産経新聞』は、最新のドラマに注目して、ウェブページと夕刊の両方に記事が掲載されています。『週刊文春』はNHKの朝ドラと大河ドラマに注目しています。『サンデー毎日』は6人が朝ドラの歴代ベスト3を選ぶという面白い企画。『FLASH』は読者の年齢層が高めらしくて懐かしのドラマ(朝ドラとトレンディドラマ)という切り口でした。
 同じテレビドラマ記事であっても、掲載誌それぞれの観点があって、取材される方からもたいへん興味深いものがありました。
           

『週刊文春』2014年11月13日号
朝ドラ「マッサン」記事

『産経新聞』夕刊、2014年12月(5分割)
10~12月期ドラマの女性主人公特集
ウェブページにも掲載
http://www.sankei.com/west/news/141128/wst1411280005-n1.html

『FLASH』2014年12月23日号
朝ドラ・ヒロイン特集

『サンデー毎日』2015年1月4・11日合併号
ツウが選ぶ「朝ドラ」ベストランキング


『週刊文春』2015年1月29日号
大河ドラマ「花燃ゆ」記事

『FLASH』2015年2月10日号
トレンディドラマ特集



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