フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 台湾の絵本作家・幾米(ジミー)が書いた『地下鉄』(小学館、1365円)という絵本があります。その絵をブログに載せると著作権違反になるので残念ながらやめておきますが、とてもかわいらしい絵がつづられた絵本です(表紙を見たい方はこちら→小学館)。
 特にストーリーがあるわけではなく、目の見えない少女が雨の日に地下鉄に乗っていくというだけの絵本です。しかし、100ページ以上(見開き50枚以上)の絵でつながれたこの絵本は、目の見えない少女の心の中のイメージが美しく描かれており、台湾で高い評価を受けたこともうなずけます。
          
 ところで、なぜこの絵本に注目したかというと、このストーリーのない絵本に触発されて、そこから映画とドラマが作られているからです。
 映画の方は、香港で制作された『Sound of Colors 地下鉄の恋』 (トニー・レオン、ミリアム・ヨン主演)です。この作品で主旋律となるのは、目の見えないしっかり者の女性とダメ男の恋愛。いんちきな結婚相談所を1人でしているダメ男ホウを、トニー・レオンが演じています。ホウがある日突然失明してしまい、それからミリアム・ヨン演じる目の見えないチョンの手助けで、不自由ながら日常生活をしていけるようになります。そして、ホウを支えてくれるチョンを次第に恋するようになるのですが、クリスマスイブの晩に再びホウの目が見えるようになり、その時……、というのが映画の主なストーリーとなります。
 主旋律といったのは、そこに、台湾の男性と上海の女性の話がからみ、さらにそれらの縁の背後に3人の天使が媒介をしているという作りになっているからです。ストーリーのない原作とはまったく別の作品とも言えますが、絵本の世界に触発されたというか、インスピレーションを与えられた作品とも言えるでしょう。
 ちなみに、私は結末のホウのせりふがけっこう好きでした。〈ネタバレ〉になるので、結末を知りたくない人はここから読まないでほしいのですが、ホウは結末近くである言葉を口にします。それを私なりに読み解くと、この2人の恋愛が天使によって受動的に与えられたものではなく(はじめは与えられたのだとしても)、最後は自分たち自身の意志でこの恋を成就するんだという強い意志がそこに表現されているように思いました。
 そんな意味も含めて、特によく出来た映画とは言えないものの、たいへん後味のいい映画になっていると思いました。ただ、原作の絵本とはまったく別の作品と割り切って見た方がいいかもしれません。
          
 一方、台湾ではこの絵本のテレビドラマ化もおこなわれました。それが、
『地下鉄の恋』 (ウォレス・フォ、ルビー・リン主演)です。こちらはBS日テレで放送されていて、つい最近最終回を迎えました。
 テレビドラマで全21回の放送ですから、原作はもちろん、映画と比べても大幅にストーリーがふくらまされています。
 目の見えない女性ジンジンは、ラジオ局でDJをしています。ジンジンはある日地下鉄の中でひったくりに遭い、それをユンシャンという男性に取り返してもらいます。そして、それがきっかけになって、ジンジンとユンシャンは恋に落ちるのですが、実はこの2人が出会うのはこれが初めてではなく、2人には大きな因縁があったのでした……。
 ここからはネタバレになるので書きませんが、全21回にわたるドラマですから、この2人をめぐって、さまざまなエピソードが積み重ねられています。「ハンディキャップを持つ女性との恋愛」というストーリーは、古くから何度も何度も繰り返されてきた、いわば使い古されて飽きのきた設定なのですが、それでもなおこのテレビドラマを21回も見てしまったのは、ジンジンとユンシャンという2人の恋愛だけでなく、その他の人物たちまで詳しくかつ魅力的に描かれているからだと思います。
 たとえば、ユンシャンと父親との関係。病気になったユンシャンのためにこの父親が献身的に尽くし、ドラマ的にもけっこう泣かせてくれます。父と息子の葛藤というのもまた古来からよくあるテーマですが、父親の無限の優しさが息子のかたくなな心を溶かしていく過程にはじーんとくるものがありました。
 また、ジンジンの姉のミンミンにはヤンという部下がいるのですが、ヤンはミンミンに片思いしています。この2人の恋愛模様もなかなか面白くて、高ビーなキャラとも言えるミンミンと、そのミンミンのてきぱきした仕事ぶりを含めて人間として尊敬しつつ恋愛対象になっていくヤンの心の変化が興味深く描かれます。そして、そういった魅力的な脇役を配することで、ドラマは21回飽きさせないように作られていると思いました。
 (ジンジンは目が見えないやさしい女性)
 (ユンシャンはジンジンと運命の再会で恋に落ちる)
 (ミンミンは仕事はできるがちょっと恐い女性……)
 (ヤンはそんなミンミンが大好き~)

 先にも書いたように、原作の絵本とはまったく別物ですが、それだけ多くの作品にインスピレーションを与えたこの『地下鉄』という絵本の持っている「フィクションのチカラ」に敬意を表したいと感じました。

 



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 ひどいタイトルなのですが、本当の話です。
 もうしばらく前のことになりますが、大学の授業が終わった頃、右目に違和感があったので鏡を見たところ、なんと右目の白目部分の半分くらいが真っ赤になっていました。睡眠不足のときに「目が真っ赤」と言ったりしますが、それは細かい血管が出ているという意味でしょう。ところが、このときにの「真っ赤」というのは、本当に白い部分がなく「真っ赤」になっていたのです。
          
 これはたいへんだ!と仰天してしまい、当日大雨が降っている中を眼科に行って診察してもらいました。何か悪い伝染病か何かにかかってしまったのかと、実はかなり不安になりました。
 しかし、「ああ、何かで傷つけて出血しちゃったんでしょうね。点眼薬を出しておきますから」とこともなく先生に言われて、「なんだ、その程度のことだったんだ」とちょっと安心しました。
 とは言え、見た目はかなりひどい状態です。この目で人前に出るのはためらわれるような状態でしたが、大学の授業が休みになったところでよかったと思いました。その後、1週間ほどで出血はひいていきましたので、その程度で済んで、不幸中の幸いでした。

 ところで、目についてもう一つ。出血がひいた頃に再度診察してもらったところ、まぶたの裏に油(分泌物)の小さな固まりがいくつかあると言われ、それを除去してもらいました。そう言われてみると、それまでも異物感を感じることがたびたびありました。まつげが入りやすいのかと思っていたのですが、眼科で診察してもらい、分泌物の固まりがあると言われて思い当たりました。この機会にとってもらってよかったと思っています。
 このところ、近視が進みながら同時に老眼が入ってくるなど、目の衰えを感じることが多くなりました。そう言う意味でも、この機会に目の状態をチェックしてよかったと思いました。
         



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 今日、62回目の終戦の日を迎えました。
 そこで思うことをとても書き尽くすことはできません。ただ、毎年思うことは、この日の迎え方が国によって、地域によって、民族によって、大きく異なっているということです。
 私は日本に育ったので、ある頃までは日本のようなこの日の迎え方を当然のことと思っていました。というより、当然とか当然でないとか、考えることすら無かったのです。それが、30代の半ばで初めて海外に暮らすという経験をし、それがちょうど戦後50年の節目の年だったこともあって、この8月15日の迎え方がいかに異なっているかを痛感したのでした。このことについては、前に書いたことがあるので、そちらを見ていただけたら幸いです。(→「VEデイとVJデイのこと」)
 また、この機会に、4年以上も前に書いた文章も公開することにしました。これは、「9・11」があった年に書いた文章で、毎年作成しているゼミの報告集の巻頭に掲載した文章の一部です。終戦の日にあたり、自分が何ができるのかを再度考える意味で、公開しようと思います。(→「個性ということ」)



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 明治大学教授の宮越勉さんから『志賀直哉 暗夜行路の交響世界』(翰林書房、6700円)という本をいただきました。一言で言えば「『暗夜行路』に関する総合的な研究書」です。
          
 この本を「総合的」な研究書というのは、『暗夜行路』という一作品に対して、実にさまざまな角度から考察しているということです。この本の第Ⅰ部は志賀の短編作品を扱っていますが、それぞれの章が、何らかの意味で長編『暗夜行路』に結びつく意図で考察がなされています。また、『暗夜行路』を直接論じる第Ⅱ部でも、第1章では主人公の時任謙作が祖父の呪縛からどのように解放されるかを論じ、第2章では『暗夜行路』の「序詞」がその後の作品世界といかに連関しているかを論じています。さらに第3章では、『暗夜行路』前篇第一と作者志賀直哉の日記の比較から『暗夜行路』の「アレンヂ」のあり方を論じ、第4章では『暗夜行路』に挿入されるさまざまなエピソードのうちの悪女たち(栄花と蝮のお政のエピソード)がいかに作品に幅と深みを与えているかを論じています。
 という具合に、全400頁にもわたる大著のすべてが、大作『暗夜行路』をさまざまな角度から論じることになっているのです。
          
 このことは、
『暗夜行路』を論じる方法に関しても「総合的」だということを意味します。
 作品内をていねいに読み込む章もあれば、作者の日記を重視して作者の実人生と考えあわせる章もあります。また、作品を完成形として考察する部分もあれば、作品が出来上がる草稿の過程を重視して論じる部分もあり、そのような分析の方法という意味でも、この本は『暗夜行路』に関する「総合的」な研究書と言えると思います。
 長編とは言え、『暗夜行路』一作だけでこれだけの考察を積み重ねた著者の研鑽の過程に、心から敬意を表したいと思います。



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 (グレープフルーツを乗せたジュース寒天)

 近頃、寒天を使ったデザートを自分で作ることが多くなっています。
 昨年少し体調を崩して体重がかなり減った時期があったのですが、今はだいぶ良くなりました。体重もだいたいもとに戻ってきたので、今度は逆に太らないように気をつけなければいけません。ただ、私は洋菓子などが好きなので、うっかり食べ過ぎてメタボリック症候群にならないように気をつけようと思っています。
          
 というわけで、ここ数ヶ月は寒天を使った、砂糖をいれないデザートを自分で作っています。今は主に、寒天で牛乳や野菜ジュースを固めて冷やしたデザートを作っています。寒天は低カロリー食品なのですが、牛乳やジュースには脂肪分や糖分が含まれています。ですから、正確には低カロリー食品とまでは言えません。というわけで、ダイエットとはとても言えないのですが、それでも夏に冷たい寒天を食べると、甘い(高カロリーの)デザートを食べる代わりになるので、なるべくそうするように心がけています。
          
 寒天は、棒寒天と粉寒天の2種類があり、棒寒天の方が安く売っています。両方使って作ってみたのですが、棒寒天は湧かして溶かす過程で「だま」が残りやすいので、やはり粉寒天の方が簡単なようです。
 私の場合、けっこう凝り性ですが、飽きやすいところもあるので、いつまで続くかはよくわかりません。ですが、しばらくこの寒天作りを続けてみようかと思っています。


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 7月~9月期のテレビドラマももうすぐ始まって1ヶ月。それぞれのドラマの印象が固まってきました。あいかわらず漫画原作ものが多いという特徴ははっきりしていますが、その他に目につくのが、20歳前後の若手女優さんたちのイメージチェンジぶりです。
          
 特に目立つのは『パパとムスメの7日間』の新垣結衣と『花ざかりの君たちへ』の堀北真希
。ガッキーの方は父親と体が入れ替わってしまうという、大林映画『転校生』のような設定。ですから、父親(館ひろし)になったつもりの男っぽい演技をしています。堀北真希の方は、好きな男の子を追いかけて男のふりをして男子校に入学する女の子の役。こちらも設定から必然の男の子っぽい演技をしています。          
 もう一人あげるとすれば、『ホタルノヒカリ』の綾瀬はるか。こちらは、男の子っぽいというのとは違いますが、家に帰るとグータラでまったく男にも縁がないという「干物女」の役。
 ちなみに「男っぽい」とは何か?「女っぽい」とは何か?これは実は重大な問題なのですが、このブログは論文ではないので、詳しくは触れないことにします。ただ、各ドラマでどのようにそのイメージを出そうとしているかは興味深いところです。
 たとえば、『パパとムスメの7日間』では肉体と精神が入れ替わるのですから、外見でガッキーの「男っぽさ」を出すことはできません。そのために、ちょっと脚を開いて座ったり、男言葉を使ったりすることで、「男っぽさ」を出そうとしています。それに対して、堀北真希ならショートカット、綾瀬はるかならジャージ、という外見で「男っぽさ」を出そうとしています。
 好きな女優さんのイメチェンを楽しむファンも多いでしょうから、それはそれでいいのですが、この3人の中では、綾瀬はるかが一番成功しているように思います。『たったひとつの恋』のようなお嬢さん役の多かった綾瀬が、コメディーでもかなりいけるということを示したという意味で、女優としての役柄を広げることに成功していると思いました。
 ただ、「干物女」ってそんなに特別なのでしょうか?普段恋愛に関心がない、というところだけリアリティがないような気がしますが、それを除けば、私には「普通みんなあんなもんだろ」(外でいい顔して家に帰ったらグータラ)って思うのですが、違うんでしょうか。
 一方、男の子っぽい役柄の多かった井上真央が、『ファーストキス』で女の子っぽいイメージにすっかり変身したのも見逃せません。『キッズウォー』
から始まって最近の『花より男子』まで、男の子っぽくてたくましい女の子役ばかりだった井上が、この作品ではわがままで性格のかなり複雑な、いわゆる「小悪魔的」な女の子という役柄をこなしています。
          
 実は、今期の作品の中では、この『ファーストキス』が一番うまくいっているのではないかと私は思っています。かなり複雑な性格の美緒を井上真央が見事に演じていますし、その良さを井上由美子の脚本が引き出しています。ちなみに、井上由美子は、脚本家としてすでに数多くの作品を書いています。「ひまわり」(1996年、NHK)「きらきらひかる」(1998年、フジテレビ) 「北条時宗」(2001年、NHK)「白い巨塔」(2003年、フジテレビ)「14才の母」(2006年、日本テレビ)などを書いていて、ヒューマニティの強い作風と言えるでしょうか。その点は今回の『ファーストキス』にも共通しますが、今回は井上脚本にしてはコメディー色が強いのが特徴です。
 具体例で脚本の良さを言うなら第3回。子どもの頃から病気がちだった美緒を初恋の相手に会わせようと奮闘する兄・和樹(伊藤英明)。「会いたくない」と突っぱり、兄にも初恋の相手にもひどいことを言ってしまうのに、その一方で初恋の思い出のカツサンドを作ろうと懸命になっているという、美緒の錯綜した気持ちが描かれ、その葛藤を井上由美子の脚本と井上真央の演技が巧みに表現しています。
 その意味で言うと、今回のドラマの中では、この『ファーストキス』に断然期待したいと思っています。
 



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