2010ワールドカップ南アフリカ大会のアジア最終予選がおこなわれており、現在その半分が終了したところまで進んでいます。
2月11日(水)には、その第4戦のオーストラリア戦が横浜日産スタジアムでおこなわれ、結果は「0対0」の引き分けでした。この日は中央大学の入学試験期間だったため、会場に行くことはできず、テレビの前で応援していました。
ところで、この試合の結果に関しては、既にいろいろなことが言われています。その最たるものは、岡田武史監督の解任を求めるような報道です。解任までいかなくても、先日の引き分け試合を「情けない試合」「負けに等しい引き分け」「勝ちに出る戦術がない」といった批判がマスコミに流れています。
たとえば、サッカー評論家・セルジオ越後氏の次のような論調がそれにあたります。
セルジオ越後 「ちゃんとサッカーしなさい」 2009年02月12日
勝つための選手交代なし/W杯予選(抜粋)
<W杯アジア最終予選:日本0-0オーストラリア>◇11日◇A組◇日産スタジアム
この引き分けは負けと同じ。オーストラリアは最初から無理をせず、引き分ければいいというアウェーの戦いだった。確かに日本はチャンスをつくったけれど、相手が引いてチャンスができただけ。決定的といえるのは遠藤の1本。1カ月も準備してきたのに、1日しか全員で練習していない相手に分けた。とても満足できる試合じゃないね。
一生懸命ボールを追いかけて、相手DFのミスを誘う。アジア相手にはいいけれど、世界基準ではミスをしない。それでも、ずっと続けた。工夫がないよ。もっと勝つために動いて欲しかった。交代もポジションが同じ選手を入れ替えるだけ。勝つための交代じゃない。ホームだし、無理しても勝ちにいかなきゃ。
確かに勝ち点1は加えて南アフリカには前進した。岡田監督も引き分けでいいと思ったんでしょ。でも、日本が目指しているのは世界ベスト4。本当に世界を目指すなら、ここで世界での力を試さないでどうするの。アジアの予選を2位突破して、世界のベスト4にはなれないよ。目標を訂正しなきゃいけないね。監督は「あとは精度を上げるだけ」というけれど、精度が上がらないのが問題よ。
試合後も、サポーターからはブーイングも起きなかった。みんな、オーストラリアの方が上だと認めているんだよね。どこかに、W杯に行ければいいというムードがある。もう3回も行ったよ。もう、行くだけはいいでしょ。勝たなければいけないムードにならないと、また1次リーグで負けて帰ってくるよ。(日刊スポーツ評論家)
言ってることはよくわかりますし、同感する部分も多くあります。また、その国のサッカーが強くなるためには、こうした批判も必要だと言えるでしょう。しかし、しょせんは評論家(部外者)の立場からの発言であって、要するに飲み屋でくだを巻いているオヤジたちと大差ありません。
3回ワールドカップに出たからと言って、今回も出られるとは限らないし、ワールドカップ予選はそんなに甘くない。そして、もし今回ワールドカップ出場を逃すようなことがあったら、日本のサッカー界にとってどれほど大きな損失になるかはかりしれない。そんな状況で、カウンターを食うリスクをおかして何が何でも勝ちに出るサッカーをするべきか。それを求めるのはセルジオ越後氏が「御意見番」ではあっても、日本サッカーの「部外者」でしかないことの何よりの証しでしょう。
私の結論から言えば、岡田ジャパンの戦い方はけっして間違っていないと考えています。
ただし、オーストラリアに引き分けてよかったとは言えません。今回の試合の前まで、オーストラリアと日本はともに3試合を終わって、オーストラリアは3戦全勝のグループ(5チーム中)1位、日本は2勝1分けで2位。グループ2位までは無条件でワールドカップ本大会に参加できます。そういう状況で、今回のオーストラリア戦にはいろいろな思惑が交錯しました。
日本は2位であり、ホームの試合ということで、たしかに勝つことが求められていました。それに対してオーストラリアは1位でアウェイの試合ですから、引き分けでも悪くないという状況でしょう。その意味では、オーストラリアの狙い通り、引き分けに持ち込まれたとも言えます。つまり、今回の引き分けは、日本にとっては不満の残る引き分け、オーストラリアにとってはまずまず満足のいく引き分けだったと言えます。
しかし、それなら誰が監督をして、どんな選手でどんな戦術をとったらオーストラリアに勝てたのか。それは簡単には答えられません。ただ、少なくとも内容的には、完全にオーストラリアを上回る試合をしていたことは間違いありません。
「内容で上回っていたのに勝てなかったのがいけない」と言えば、それはその通りです。「公式戦は結果がすべて」です。いくら内容で上回っても、勝てなければ意味がありません。
しかし、監督を変えても、戦術を変えても、それで勝てるという根拠は何も見あたりません。だいいち、オーストラリアとの対戦ということで言えば、ジーコジャパンはドイツワールドカップで対戦して「1対3」で敗戦。オシムジャパンはアジアカップで対戦して引き分け(PK勝ち)。それくらいオーストラリアは強い相手であり、感情的に監督に不満をぶつけても、何も状況が改善されるとは言えません。
では、岡田ジャパンの特徴とは何か。それは全員守備を徹底させ、前線から相手のボールを追いかけて攻撃的な守備をおこない、できるだけ自陣での守備の時間を減らす。そして、球を奪ったらすばやいパス交換からシュートに結びつけるという戦術でしょう。
このような岡田ジャパンの戦術の特徴は、フォワードの起用のしかたに顕著にあらわれています。
ジーコがワールドカップに選んだフォワードは高原・柳沢・玉田・巻。オシムも高原と巻を起用することが多かったと言えます。これに対して、近頃の岡田監督は玉田・田中(達)・大久保の起用が目立ちます。オールラウンド型の高原や長身で当たりの強い巻ではなく、いずれも身長の高くない3人のフォワード(または攻撃的MF)を起用していることからも、岡田ジャパンがスピードと運動量と連動性を重視していることがよくわかります。
巻の運動量と献身的な守備はFMとしては驚異的であり、私は彼も重要な選手だと思いますが、岡田監督はドリブル突破などのスピードと足下のテクニックにすぐれた選手を起用したいと考えているようです。
私は、このような岡田武史監督の目指すサッカーは間違っていないと考えます。たしかに、アジアの格下チーム相手であれば、クロスを放り込んで高さで圧倒するサッカーが通用する場合もあります。しかし、そういうサッカーはアジアの中でも強豪国(たとえばオーストラリア)には通用しないし、世界の強豪国にはもっと通用してきませんでした。
そんな状況の中で、攻撃の高さは捨てても、スピードと運動量と連動性で上回ろうとするサッカーが、少なくとも先日のオーストラリア戦では十分に通用していることが見てとれました。
もちろん、今回の試合が「日本のホームでおこなわれている」「オーストラリアが引き分けでもいいという試合をした」という点もありましたので、一概に日本の出来がよかったとばかりは言えません。しかし、それならどんな方向性を目指したら日本がもっと強くなるのか。そのコンセプトを明確に説得力ある方法で示している人は、私の見る限り誰もいません(少なくともセルジオ越後やラモスの精神論にはヴィジョンがない)。
「チャンスは作ったが点は取れなかった」。これは監督を代えたら解決する問題ではありません。であるなら、私は今の岡田武史監督のコンセプトで、日本がその日本らしいサッカーを追究していくことを望みたいと思っています。
岡田ジャパンの次のワールドカップ予選試合は、3月28日(土)埼玉スタジアムで行われる対バーレーン戦です。