フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 1月から3月にかけてのクールのテレビドラマが始まって既に2~3回ずつ放送されています。まずプライムタイムのドラマについてだけでも感想を書こうと思ったのですが、これまで以上の校務多忙のため、ブログを書く時間すら自由になりません。今日、2週間ぶりに休み(出校しなくてよい日)をとれたので、ごく簡単な数行だけのコメントですが、感想を書いておきたいと思います。


海月姫  (フジテレビ系、月曜21時) 8.6%→6.9%

 能年玲奈(のん)主演で映画化もされているので、既に設定は知られていて新鮮味はありません。しかし、これまで『表参道高校合唱部』や『べっぴんさん』など、「いい子ちゃん」役の多かった芳根京子のコメディ挑戦。芳根京子の天然ぶりはなかなかのものです。


FINAL CUT (フジテレビ系、火曜21時) 7.2%→6.5%→6.5%

 韓国ドラマでは復讐劇はもはや定番となっていますが、日本人は「水に流す」性格のためか、復讐劇はあまりヒットすることが多くありません。ただ、メディアの暴力を描くというのは実に重要な問題提起。メディアの代表であるテレビが、テレビの暴力性を暴き出すという勇気あるテーマ設定に敬意を表したいと思います。


君が心に棲みついた (TBS系、火曜22時) 9.4%→8.5%

 ドジで可愛い女の子が二人の男性の間で揺れ動く…というのは少女マンガの定番中の定番設定。そこに目新しさはありませんが、元カレ(向井理)がとんでもない男というのがミソ。単純なDV(暴力)男というのではなく、巧みに相手を支配する悪魔的な男。ただ、「ドジで可愛い女の子」を演じるなら吉岡里帆でなくてもいいのでは。『カルテット』の「目が笑ってない」アリスちゃんなら吉岡が活きてきます。


anone  (日本テレビ系、水曜22時) 9.2%→7.2%→6.6%

 坂元裕二の『Mother』『Woman』に続く3部作だとか。それができるのは、坂元が『最高の離婚』などのコメディも書けるからでしょう。となると、坂元は現代において、1980~90年代の野島伸司のような位置に立ったのかもしれません。野島も『101回目のプロポーズ』や『ひとつ屋根の下』をヒットさせたからこそ、『高校教師』や『人間・失格』も実現できました。坂元の脚本を演じる広瀬すずにとっても新境地になりそうな作品です。


BG~身辺警護人~  (テレビ朝日系、木曜21時) 15.7%→15.1%

 スタッフが豪華で一度は見てみようと思いますが、見てみた視聴者を離さないのは井上由美子の脚本と制作の力が大きいでしょう。木村拓哉作品といえば、木村をかっこよく見せるためにだけ作られたプロモーションビデオのような作品が、かつてはよくありました。今回は、仕事に失敗した過去のあるボディガードという、ほどよい「やつし」を背負った主人公像で、その点も成功しているように思います。


隣の家族は青く見える (フジテレビ系、木曜22時) 7.%→6.2%

 「妊活」はややもするとたいへん重いテーマになるところですが、この作品では「ああ、こういうことってあるある」と思わせるような、子どもを持つ事に関する日常のエピソードをうまく積み重ねています。ただ、派手で華やかなテーマではありませんから、視聴率には結びつきにくいのかもしれません。松山ケンイチと深田恭子という、どちらかといえば浮世離れしたイメージの2人が、身近で平凡な夫婦を演じるところにも今後注目していきたいと思います。


アンナチュラル  (TBS系、金曜22時) 12.7%→13.1%

 解剖医たちを主人公にしたドラマは既に『きらきらひかる』や『ヴォイス』など、以前から何度も放送されています。その点で新しさはありませんが、テンポが速いこと、ところどころに笑える要素を織り込んでいることなどが、きわめて現代的です。犯罪解決ものは既に飽和状態ですから、それだけではもはや視聴者に支持されません。最後まで見て「なるほど」ではなく、途中でも心地よいことが鍵になるようです。


もみ消して冬 (日本テレビ系、土曜22時)13.3%→11.1% 

 公式ホームページによれば、「痛快どコメディホームドラマ」だとか。たしかにどういうジャンルのドラマなのか、分類がよくわかりません。それでも、面白いことは確かです。ただし、3兄弟(小澤征悦、波瑠、山田涼介)の顔ぶれからすると、芸達者の2人に比べて、山田君は顔がいいだけのようにも見えます。コメディは努力や演技力ではなく、持って生まれた才能が大きいもの。山田君の分まで、波瑠さんに笑わせてもらいましょう。


99.9 (TBS系、日曜21時) 15.1%→18.0%

 第1シリーズのときにも書いたように、従来型の手法に満足しない型破りな弁護士像、それでいて食にこだわったりつまらないギャグを言ったりする不思議なキャラクター、そして展開を簡単には予測させない実によく練られた脚本と、見たくなるドラマの条件がそろっています。加えて、松本潤はどちらかと言えば俺様キャラ。王子様よりは今回のような変人役が似合っています。今後は脚本の質を維持し続けられるか次第でしょう。


トドメの接吻 (日本テレビ系、日曜22時半) 7.4%→6.5%→7.1%

 3回目まで見て次第に謎が解かれてきましたが、初回を見たときには、何がしたいのかよくわかりませんでした。つまり、ホラー仕立てで怖がらせたいのかと思う反面、見ていて、この変てこな世界になんだか笑ってしまったんですよね。もう少し初回に作品の狙いを明確にした方がよかったように思います。ただし、山崎賢人ファンだったら、ホスト役の賢人君に満足なので、そんなことは気にしないのかもしれません。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。

 



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 ブログを更新せずに、とうとう2週間が過ぎてしまいました。実は先週末に、1~3月期テレビドラマのことを書きかけたのですが、どうにも書き終える時間をとれず、今日に至ってしまいました。新聞等でご存知の方がいらっしゃるかもしれませんが、私の勤務する中央大学が今いささか難しい問題を抱えていて、それにかかわる会議等も増えて、どうにも校務多忙に拍車がかかっています。残念ながら、テレビドラマ批評は後日とさせてください。


 ということで、今日はこの10日間ほどにあった2つのパーティーのことを書きます。それは定年退職される同僚(先輩)のお別れ会のことです。一人は日本史学専攻の松尾正人先生、もう一人はフランス語文学文化専攻の永見文雄先生のパーティーでした。
 松尾先生は文学部長、副学長、図書館長などを、永見先生は研究科委員長、学生部長などを歴任された先生です。行政職に就いたから偉いというわけではなく、お二人とも、行政職プラス、多くの貢献を中央大学に残された先生でした。



 とりわけ私は、お二人から多くの示唆と影響を受けました。そういう先輩同僚を見送るのは寂しいことですが、去られる先生方から受け取ったタスキを大切に走り続けなければいけない、ということを強く感じました。

 どちらのパーティーでも、僭越ながら学部長として最初に挨拶をさせていただきました。他に先輩や偉い先生方がいらっしゃる中で心苦しいところもありましたが、同時に、大切な役目をいただいて光栄なことでもありました。お二人のこれからのますますのご活躍を祈念すると同時に、残された私たちが中央大学文学部を発展させていく責任を強く感じました。

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 久しぶりに映画のことを書きます。
 クリスマス頃にテレビで、『天使がくれた時間』(THE FAMILY MAN、2000年、アメリカ)を放送していたので、何度も見ているのにまた録画して見ました。
 設定はこうです。13年前に恋人と別れてロンドンの銀行に研修に行き、その後出世して、ニューヨークのウォール街で活躍するやり手の投資家になっている男性ジャック。大金持ちになったが孤独な彼が、クリスマスの夜にふとしたことから別の世界に迷い込む。そこではかつて別れたはずの恋人と結婚し、裕福ではないが、二人の子どもと暮らしていた。ジャックはその生活に戸惑い、元の富と地位を取り戻そうとするが…。
 ちなみに、この映画の評価は「みんなのシネマレビュー」で7.28点。「Yahoo映画」で4.11点。なかなかの高得点です。一般視聴者のこの映画に対する評価はかなり高いことがわかります。しかし、この映画を評価する映画評論家は、おそらくあまりいないことでしょう。要するに常識的なのです。一方の人生は「財産・地位・孤独」、もう一方の人生は「平凡・家族・愛」。さあ、どちらの人生を選びますか、って、それはあまりにもありきたりの設定だし、ありきたりの問いかけじゃないですか。
 他にも文句はたくさんあります。別れた恋人とのあり得たかもしれない人生を見た後、男は13年ぶりにかつての恋人に再会。そして、敏腕弁護士になっている彼女が活躍して、パリの支店を任されるために出発するところに会いに行き、飛行機に乗ろうとする彼女に「コーヒーを飲もう」と言って引き留めます。
 なんて都合がいい! そんな13年も前に分かれた恋人がまだ独身でいて、パリに行く飛行機への搭乗直前に思いとどまるわけがないじゃないですか。これは、別れた恋人はその後もずっと自分を好きでいてくれるはず…という男性に多い自己中心的な願望そのものです。
 とまあ、この『天使がくれた時間』という映画に批判的なことばかりを書きました。私もフィクション研究者ですから、そういう批判を受けるべき作品であることはよくわかっています。そうなんですが、毎年クリスマス頃になるとこの映画が放送され、放送されるとまた見てしまうのです。
 たしかにありきたりなテーマを描いた作品ですが、それだけに普遍的なテーマでもあると言えます。そして、13年前に戻れるという安易な結末ではなく、失った13年を経た上で行動するという結末にも共感できます。また、あり得たはずの家族との生活がとても微笑ましく描かれていて、しばらくするとまた見てみたくなります。そういう作品だからこそ、「みんなのシネマレビュー」でも「Yahoo映画」でも高い評価が与えられているのでしょう。
 ありきたりであったとしても、何年かごとに「またあの作品を見てみようか」という気持ちになれる作品があるというのは悪くないものです。また何年かしたら、この映画を見直してみようかと思った今年のお正月でした。

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