私はテレビドラマ研究を重視していますが、もともとは小説の研究者で、その後は映画・演劇や漫画を含めたフィクション研究者であると、自分で意識しています。ということで、このブログにはテレビドラマのことを書くことが多いのですが、今日は映画『湯道』のことを書きます。快作でした。
『湯道』の設定はこうです。東京でかつて活躍していた建築家・三浦史朗(生田斗真)は、会社から独立後に仕事にいきづまり、地方で銭湯を経営している実家を売却することを考える。しかし、銭湯の主人になっている弟・三浦悟朗(濱田岳)や銭湯で働く秋山いづみ(橋本環奈)と一緒に銭湯で働き、銭湯に集う人びとと接するうちに、その銭湯がなくてはならないものだと思うようになる…という話。そこに、茶道や華道のように「湯道」という「湯の道」を継承する人びと(角野卓造・窪田正孝ら)や、「源泉掛け流し主義」を標榜する温泉評論家(吉田鋼太郎)らがからんでいきます。
地方の廃業寸前の銭湯が舞台ですから、目をみはるような映像も、豪華な衣装も、派手なアクションもありません。いってみれば地味な映画です。しかし、小山薫童の脚本ですから、実に巧みにストーリーが練り上げられています。各所に伏線がはりめぐらされていて、それが次第に融合していく面白さが満ちています。巧みすぎて作り手の作為が小憎らしい、あるいは小賢しい気もしないではありませんが、やはり熟達の技に練り上げられた脚本は見事という他ありません。
しかし、見事に練り上げられた作品の描いているものが、あまりにも近代的・合理的なものでは味わいがありません。むしろ「廃業寸前の銭湯」という設定だからこそ、そこにいとおしさがこみあげてくるのだと思います。
先に書いたように、目をみはるような映像も、豪華な衣装も、派手なアクションもない地味な映画ともいえますが、気持ちよく味わえる、一流のエンタテインメント作品と感じました。
※このブログはできるだけ(なるべく日曜)の更新を心がけています。