フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 私が身の回りを整理し、持ち物を減らしていることは、このブログで何度か書きました。つまり持ち物の整理、いわゆる断捨離をこの数か月続けています。断捨離は、時間・労力を使いますので、肉体的にも疲労しますが、疲れるのは肉体面だけではありません。モノは記憶につながっていて、そこから感情が動かされることも少なくありません。処分することがためらわれるモノも多くあります。
 また、処分することにためらいはないものの、「こんなものがあったのか」と自分でも驚くことがあります。たとえば、今回出てきたのは高校時代に読んでいた加藤諦三の本、それも5冊もでした。これにはびっくり。いわば私の黒歴史です。
 なぜ黒歴史かというと、その本のタイトルからもわかるように、今では恥ずかしいような「人生論」「青春論」だからです。書いてあることといえば、「青春はこんなにも美しい」「生きる!この胸せまる感動」「これが俺の幸せだ」などなど…。これを高校時代に5冊も読んで、しかもその内容から影響を受けたり、その内容に感動したりしていたことに、自分でも驚きです。おお、顔から火が出そうだわぁ。
 こうした過去の自分をもう一度思い出し、ここで本を処分して区切りをつける、それもまた断捨離ということの一つだと思います。私の断捨離はもうしばらく続きます。

※このブログはできるだけ週1回(なるべく日曜)の更新を心がけています。




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 今期のテレビドラマについてはだいたい感想を書きましたが、NHK・BSで放送された『グレースの履歴』については、これまでのブログにまだ感想を書いていませんでした。
 『グレースの履歴』は、ベテラン演出家・脚本家である源孝志の小説作品が原作になっています。今回放送されたのは、その小説を源自身が脚本・演出を担当し、テレビドラマとして制作がなされました。内容は次の通りです。
 40歳を間近にした蓮見美奈子(尾野真千子)は、海外旅行中に突然の事故で亡くなります。後に残された夫・蓮見希久夫(滝藤賢一)は美奈子の遺言として、グレースと呼んでいる美奈子の愛車を譲られます。ところが、その車のカーナビの履歴には、美奈子が希久夫に知らせていなかった行先が多く残されていました。美奈子は海外旅行と偽って実際には国内を回っていたことが、その死後に希久夫にわかってしまいます。そのため、希久夫はその履歴を頼りに美奈子の行った先々を訪ね、美奈子の秘密やその思いを知っていくことになる…という話です。
 一言でいえばいい作品でした。通常のドラマは、「ミステリー」「アクション」「ラブストーリー」などのジャンル設定が明確ですが、この作品はジャンル分けの難しい作品です。しいていえば「ヒューマンドラマ」になるかもしれませんが、その枠組みにおさまるわけではありません。通常のテレビドラマは、毎回のパターンが似通ったものになりがちですが、この作品は全8回がそれぞれ異なる方向に進んでいきます。死者の生前の思いが次第に明らかになり、それを受け止める夫の切なさが高まっていく、そういうみごとな展開のドラマに仕上がっていました。
 もう一つ私が評価したいのは、この作品がNHKならではの作品だということです。私は以前から、「NHKは公共放送として民放とは異なる立場にあるので、民放と同じようなドラマなら制作する必要はない」ということを言ってきました。この『グレースの履歴』はいい作品ですが、派手なアクションも華やかな恋愛もありません。いわゆる地味な作品ですから、これは民放が制作する作品とはとうていいえません。そういう作品こそ、NHKが制作する意義を持っていると思います。
 今年1~3月にNHKで放送されていた『大奥』は、たしかに面白かった。ドラマとしての水準も素晴らしかったと思います。しかし、『大奥』はNHKでなくても制作されます(実際に民放で制作されたことがありました)。NHKが制作すべきなのは、『大奥』のような華やかな作品ではなく、『グレースの履歴』のような地味でもすぐれた作品だ、ということをあらためて強く感じました。


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 映画『まなみ100%』を見ました。この映画は9月29日公開なので、まだ映画館上映はされていませんが、それを中央大学における試写会で見させていただきました。
 というのも、この映画を監督した川北ゆめきさんは中央大学国文学専攻の卒業生。そして私の担当する宇佐美ゼミの卒業生です。また、私が担当するPBL科目「実践的教養演習」で、学生たちに映像制作の指導をしてくれた人です。そうした縁があって、川北さんの母校である中央大学で、公開に先立っての先行試写会を開いてもらうことになりました(ブログ掲載が遅くなりましたが、実施は4月末でした)。
 この映画は川北さんの自伝的な内容とのこと。それだけに川北さんの思いも強く、内容にも撮影場所にも、こだわりを持って作られていることがよくわかりました。封切り前ですから、内容について多くは語りませんが、いわゆる「フィクションの王道」をなぞろうとしていないことに、私は関心をひかれました。普通なら主人公をもっと観客に共感される人物に設定するか、逆に観客から笑われたりこわがられたりする人物に設定するか、どちらかだと私は思います。つまり、観客にどう思われたいのか、どう感じてほしいのかが、制作者側から設定されていること通常だと思います。しかし、この作品では、そうした作りごとめいた人物造形はなされていません。その点に私は強く興味をひかれました。

 上映後には、監督の川北ゆめきさんとプロデューサーの直井卓俊さんによるトークショーもおこなわれました。映画を見ていろいろ知りたくなったことが、直井さんによって質問されたので、映画とトークショーを一緒に体験できて実によい試写会だったと感じました。この映画が成功することを願っています。



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 村上春樹が6年ぶりとなる長編小説を刊行しました。私が勤める中央大学のウェブサイトに、この『街とその不確かな壁』に関する考察を掲載しました。

 新作長編『街とその不確かな壁』が描くもの (Chuo Online)

 『街とその不確かな壁』の発売日は(2023年)4月13日、私の文章の掲載日が4月20日ということもあり、作品後半の展開や結末については、私の文章の中で意図的にあまり触れないようにしました。ですので、作品を具体的に考察する部分は少ないのですが、村上春樹のこれまでの軌跡の中で、この作品がどのような位置にあるのかを中心に書きました。村上春樹という作家は、個々の作品の独立性よりも、作品から次の作品への継続性を重視している作家だと私は考えています。今回の新作長編小説が、これまでの村上春樹作品から変化している部分と、変わらずに継続している部分があることを考察しました。記事をご覧いただければ幸いです。

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