フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 私が勤める中央大学文系学部の卒業式が3月25日(日)にありました。
            
 約1年前に東日本大震災があった関係で、昨年は卒業式がおこなわれず、各学部や専攻の先生方が来られる学生に自主的に卒業証書を手渡しました。それでも、多くの学生が来てくれて、全体の卒業式はないものの、専攻としては学生を見送ることができました。
            
 今年は通常通りの全体の卒業式があり、それに続いて学科や専攻ごとの証書授与式がありました。
 私は中央大学に勤めて22年が終わりました。毎年毎年、卒業生を送り出すのが当たり前だと思っていましたが、昨年の大震災による卒業式の中止を体験して、こうして平穏に卒業生を送り出せることがどれほど幸福なことか思い知らされました。
 とはいえ、世の中は不景気で学生の就職状況は超氷河期。平穏な式の後に卒業生たちに待っているのは、例年以上の世間の荒波かもしれません。卒業生一人ひとりがその中で輝いてほしい。そんな気持ちになった22回目の卒業式の日でした。
            



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 私が卒業した仙台市立愛宕中学校の同窓会をおこないました。と言っても、仙台でおこなわれる大規模な会ではなく、首都圏在住者を中心とした同学年の卒業生(1973年卒業)の会です。
              

 この会は、以前は有志で不定期におこなっていましたが、前回からは4年に1回、オリンピックの年におこなうことにしました。あまり頻繁におこなってもありがたみがなくなりますし、あまり間が空いても音信不通になってしまいかねません。ということで、覚えやすいようにオリンピックの年に開催と決めました。
            

 この4年に1度というのは、ちょうどよい間隔のような気がします。4年経つとそれぞれいろいろなことがありますし、転勤や転居、子どもの成長など状況が変わることもあります。それによって参加しにくくなったり、逆に参加できるようになったりがあり、4年前とは少し顔触れが変わりました。
 今回も、前回欠席だった同窓生が何人か参加してくれて、仙台の学校の同窓会なのに18人も出席してくれた賑やかな会になりました。仙台や名古屋から出席してくれた同窓生もいて、とてもなつかしくて楽しい会になりました。
 考えてみると、中学校を卒業してから来年で40年にもなります。ときどき会っている同窓生もいますが、一方で、卒業以来会っていない(あるいは高校生くらいに会ったのが最後の)同窓生もいます。40年近くも会っていないのですから、子どもの頃に数年同じ学校に通っていただけなんて、長い空白期間に比べればほんの短期間のつきあいにすぎません。それなのに、40年近く経っても友人でいられるというのはなんだか不思議な関係でもあります。
          

 「若者は未来に生き、老人は過去に生きている」という言葉もあり、同窓会なんて後ろ向きな老人のすることだという考えもあるでしょう。それもたしかです。ただ、なつかしむ過去があり、一緒になつかしむ友人がいるだけ、自分の人生が豊かなのだというのも一面で真実かもしれません。
 過去にばかり執着するつもりはありませんが、4年に1回くらい昔の仲間と時間を過ごすのも悪くない…。そう思えた日でした。
              



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 バーレーン4
   (サポーターで埋まった国立競技場観客席)

 3月14日、男子サッカーU23(23歳以下)日本代表が、ロンドンオリンピックへの出場を決めました。この試合を現地(国立競技場)のスタジアムで観戦してきました。

              
 日本代表のオリンピック出場は5大会連続の9回目。1968年のメキシコ大会で銅メダルを獲得してから1996年アトランタ大会まで、28年間オリンピックに出場できなかったことを考えると、それ以降の5大会連続出場は実に立派な記録です。
 バーレーン1
  (試合開始前のセレモニー) 
             

 ちなみに、この5大会の出場国を調べてみると、5大会連続出場は韓国と日本だけです。前回の北京オリンピックまで4大会連続出場していたオーストラリアもイタリアも、今回は予選敗退が決定しています。あの強豪国ブラジルでさえ出場できなかった大会がある(アテネ大会)があるように、16か国しか出場できないオリンピックには、32か国が出場できるワールドカップよりも格段に出場の難しい大会なのです。
 もちろん、地域差というものも無視できません。特にヨーロッパのような予選参加国数の多い地域では、オリンピック予選を突破することが他の地域よりも特に難しく、5大会連続出場国が韓国と日本のようにアジアに偏っているのは、ヨーロッパなどに比べればまだアジアの中でのレベルの差が大きいことを意味しています。
 このような地域差はあるものの、5大会連続出場した韓国と日本は世界でたった2か国なのですから、それは十分称賛されるに値します。組み合わせ抽選に比較的恵まれ、世界ランクでは大きく差のある3カ国と同じ組だったことが幸いだったとしても、常にオリンピックに出場し続けられることは、世界と真剣勝負の場を持つという意味でもたいへん価値のあることです。
              
 バーレーン3
 (前半は日本優勢ながら、0対0のまま)

 ただし、前回までの4大会連続出場で、グループリーグを突破したのはわずかにシドニーオリンピックの1回だけ。前回の北京オリンピックではグループリーグ3戦全敗。ですから、5大会連続出場は立派なものの、本大会では結果を残せていません。
 ヨーロッパから3カ国(+開催国イギリス)、南米から2か国しか出られないという激しい予選を勝ち抜いてくるチームと互角以上の戦いをするのは容易ではありません。日本代表の試合を注意深く見ていきたいと思っています。
              
 バーレーン2
  (コーナーキックからバーレーンゴールに迫る日本チーム)

 ところで、オリンピックのサッカーに出場するのは原則として23歳以下の選手です(女子は年齢制限なし)。これはサッカーにおいてはワールドカップが最大の大会であって、オリンピックはそれと同格にできないという競技の事情によります。しかし、予選ではそうなのに、オリンピック本番では1チーム3人まで、オーバーエイジ枠といって、23歳を越える選手の出場が認められます。これもまた、オリンピックを2流の大会にしないため(つまり観客を呼べる大会にするため)の措置です。
 となると、オリンピックのサッカー競技とは、ワールドカップと同格にはできないというサッカー側の事情と、オリンピックを2流の大会にはできないというオリンピックの側の事情の両方を汲んだ、妥協の産物とも言えます。
 ことを日本に限ると、オリンピック本番でのオーバーエイジ枠は、これまでうまく機能してきませんでした。これは、予選とは異なるメンバーが入ってうまくフィットするかという問題に加えて、所属チームが有力選手をオーバーエイジ枠として出したがらないという事情もあります。フル代表と違って、オリンピックは所属クラブから選手を借りる権利がありませんので、有力選手がオーバーエイジ枠として出場してくれないという問題も起こっています。(ドルトムントの香川真司選手はオーバーエイジではなく、オリンピック世代ですが、これほどの中心選手を所属チームは予選のための招集にOKしてはくれません。)
              
 このように、オリンピックのサッカーには複雑な事情が多く、手放しで楽しめるというわけではありません。ただ、諸事情はあるにしても、次世代のサッカー界を担うような多くの選手たちが世界の舞台でプレイするわけです。ですから、日本が勝つかどうかだけではなく、世界の有望選手たちの活躍を期待しながら、ロンドンオリンピックを見ていきたいと思います。
              


【3月16日付記】
 ロンドンの前の4大会しか調べませんでしたが、確かめたら、韓国は今回で7大会連続出場でした。たいしたもんです。また、オーストラリアも前回まで6大会連続出場。それが今回で連続出場が途絶えたということです。いずれにしても、こうした連続出場はアジアやオセアニアならではの記録(豪は今はアジア地区に移籍)。ヨーロッパや南米では困難なようです。
 ちなみに、私は前々回のアテネ大会出場を決めた試合、前回の北京五輪出場を決めた試合に続いて、3大会連続で出場決定試合をスタジアムで観戦しました(プチ自慢です)。

 2004年 3月18日 対UAE (3対0勝利) 国立競技場
 2007年11月21日 対サウジアラビア(0対0引き分け) 国立競技場
 2012年 3月14日 対バーレーン(2対0 勝利) 国立競技場

 前回の時のことはこちらを御覧ください。
   → 「北京五輪出場決定試合を観戦して」

 



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 未曽有の大災害だった東日本大震災から、もうすぐ1年が経とうとしています。
 死者15、854人、行方不明者3、203人と伝えられています。大震災の犠牲になった方たち、お一人お一人の御冥福を心から祈りたいと思います。


               
 このブログの中でも書いたように、私はその大震災のときに飛行機の中にいました。
   →「英国での地震報道」(2011年3月21日)
 中央大学でおこなっている共同研究のために成田空港からロンドン・ヒースロー空港へ向かう飛行機の中でした。大震災の起こったのが3月11日14時46分。私は13時頃に成田空港を離陸したので、大震災の時刻には何も知りませんでした。ロンドン到着の1時間ほど前、日本時間の深夜0時頃になって、ようやく機長のアナウンスで大震災のことを知りました。

 しかし、機長のアナウンスと言っても「日本で大きな地震がありました。詳細はわかりませんので、ロンドンに到着したら御自身で確認してください」というだけのものですから、聞いてかえって不安になってしまったことをよく覚えています。ロンドンに到着したら家族からメールが入っているかと思ったのですが、それもなく、かえって不安が募りました。
 その後は家族の安全が確認され、翌日からはロンドンのホテルから仙台在住者に連絡をとりました。その間に寄せられた情報もこのブログで何度か発信しました。
   →「災害への備えと大震災のその後」(2011年3月29日)など

               *
 昨年6月に私立中学校・高等学校協会の研究会で講演したときにお話したことですが、私が研究対象にしている村上春樹は、1995年の阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件、さらには2001年のアメリカ同時多発テロ事件(9・11)などを受けて、「この世界にはもうソリッドなものはない」という思いを強くしたと語っています。
 私たちが日常信じているものが一瞬にして崩れ去ってしまうかもしれないという認識。それが村上春樹のその後の活動の根底になるようです。地震もテロ事件もすべて同じに見るという発想は特殊なものかもしれませんが、そう考えると村上春樹作品には日常の常識を疑ったりくつがえしたりする発想が貫かれています。
              *
 私たちが信じられる確固としたもの(ソリッドなもの)とは何なのか。東日本大震災から1年経って、もう一度考えたいと思っています。
              



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 先日のテレビドラマ評には書きませんでしたが、NHKの朝ドラ『カーネーション』を楽しみに見ています。自身もデザイナーで、世界的なファッションデザイナー3姉妹を育てた小篠綾子さんをモデルにした、小原糸子役を演じているのが尾野真千子さんです。
 ドラマの面白さは小原糸子のたくましさです。ときにはあまりのガラの悪さに爆笑しながら、私はドラマを見ています。しかし「朝からガラが悪すぎる」という不評もあるとか。テレビドラマに好評・不評はつきものですが、あまりの「ガラの悪さ」が私にはむしろすがすがしいくらいです。
             
 ただし、今日書きたいのは『カーネーション』自体というよりも、女優としての尾野真千子の持っている天賦の才能についてです。それは演技力とともに容姿だと思っています。ただし、尾野真千子の才能である容姿というのは、美人女優だということではありません。むしろ容姿だけを見ればそれほど目立たない、印象の薄い容姿だとも言えます。もちろん尾野真千子はたいへん綺麗な女優さんですが、柴崎コウや黒木メイサのような強烈な個性を持った顔立ちではありませんし、藤原紀香のような華やかな顔立ちでもありません。『カーネーション』の小原糸子のキャラクターが強烈なので個性が目立ちますが、顔立ちはむしろ地味で印象の薄い顔立ちです。それが尾野真千子がどんな役でもできることにつながっていると思われます。
            
 その証拠に、「尾野真千子、30歳で大ブレーク」のようにマスコミで言われますが、実際にはかなり多くの役を演じてきています。私が見ている中でも、『火の魚』(NHK、2009年)のヒロイン・折見とち子役、『Mother』(日本テレビ、2010年)の道木仁美役、『名前をなくした女神』(フジテレビ、2011年)の安野ちひろ役などなど。多くの重要な役を演じていますが、多くの人は『カーネーション』を見て初めて尾野真千子という女優を意識したか、あるいは今までのあの役を演じていたのはこの人だったのかと気づくことになったようです。今まではどちらかと言えば、『カーネーション』の糸子とは正反対の根暗な役を多く演じています。そのせいもありますが、『カーネーション』の糸子を見ても、これまで見てきた女優さんと同じ人とは思いませんでした。
             
 一度見たら忘れないような印象の強い顔というのも女優さんとしての財産ですが、一方でさまざまな異なる役を演じて別人に見えるというのも大きな財産です。
 先に触れた『火の魚』は室生犀星の原作を現代に置き換えて描いたテレビドラマで、尾野真千子演じる女性編集者は、ある理由があって演じるのになかなか難しい役です。ただし、原田芳雄演じる気難しい小説家が前面に目立つ分、女性編集者役はたいへん重要ながら脇役に徹するといった存在です。その重要な脇役を演じていながら、『カーネーション』の主人公と同じ女優さんとは私が気づかなかったのですから、尾野真千子という女優の「化け方」は見事というほかありません。
 『火の魚』は第64回文化庁芸術祭大賞(テレビ部門・ドラマの部)、放送文化基金賞優秀賞、モンテカルロ・テレビ祭・ゴールドニンフ賞(テレビ映画部門)などを受賞しています。賞を受けたから良い作品というわけではありませんが、私にとっても印象深い作品でした。私が楽しみに見ている朝ドラ『カーネーション』の方は、ちょうど今日で尾野真千子の出演部分は終了してしまいました(今後は夏木マリが演じます)。
 尾野真千子という異なる役柄をこなせる女優さんの才能が、これからもさまざまな作品に活かされていくことを願っています。
             



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