一年を通して日本全国の各市町村で何らかのお祭りが必ずあります。
故郷を思うとき、まず思い出されるのが祭りではないでしょうか?
ただ世の中には、地元の人には普通で真剣なんだけれど、
外部の人から見ると摩訶不思議な世界に見えてしまう祭りがあります。
これを世の人は「奇祭」と呼びます。
奇祭とは、独特の習俗を持った、風変わりな祭りのことと解説されています。
これを、人によっては「とんまつり(トンマな祭)」
「トンデモ祭」とも呼んでいるようで、
奇祭に関する関連書物も数多く出版されています。
よく取り上げられるのは、視覚的にインパクトがある祭り
(性器をかたどった神輿を担ぐ祭りなど)がよく話題になりますが、
ほかにも火を使った祭りや裸祭り、地元の人でさえ起源を知らない祭りや、
開催日が不明な祭りなど、謎に包まれた祭りはたくさんあるようです。
これから数回に渡って奇祭を特集していきます。
その多彩さに驚くとともに、祭りは日本人の心と言われるゆえんが、
祭りの中に詰まっていることが理解できるでしょう。
特に言う必要はないと思いますが、
以下にふざけて見えようと馬鹿にしているように見えようと、
れっきとした郷土芸能であり、
日本の無形民俗文化財だということは間違いありません。
今回は、沖縄県のムシャーマです。
ムシャーマ(沖縄県八重山郡竹富町波照間)
ムシャーマは、旧暦7月14日に日本最南端の波照間島で先祖を供養し、
豊作と安全を祈願して行われる祭りです。
波照間島は日本最南端の有人島です。
この島の名前は、
「果ての珊瑚礁(ウル)の島」から名付けられたといわれています。
周囲約14.6㎞、面積約15平方kmの小さな島です。
珊瑚礁の石垣とフクギに囲まれた赤瓦の家々、
ブーゲンビリアやハイビスカスの花々が咲く、美しい島です。
歩いていると、笑顔で「こんにちは~」と声を掛けてくれる、
おじいちゃん、おばあちゃんがいたりして。
のどかな時間が、ゆっくりとゆっくりと流れている、そんな島です。
波照間島の言葉で「面白い」ことを「ムッサハー」といいますが、
ムシャーマの語源は、この「ムッサハー」だといわれています。
この由来の通り、この祭事の日は1日中様々な芸能が披露され、
島の人々を楽しませてくれます。
娯楽の少なかった時代、
人々にとってこのお祭りは待ち遠しい行事の一つだったのです。
祭りに日の朝、ドラの音が島中に響き渡ります。
祭りの始まりの合図です。
この島のどこにこんなに沢山の人がいたのかと目を疑うほどの沢山の観客が、
公民館前広場に集まります。
ムシャーマの1日は、3組(東組:北と南、前組:前、
西組:名石と富嘉)の仮装行列から始まります。
仮装行列の先頭はブーパタ。
旗に記された文字は、その組を象徴します。
次に、ミルクヌナーリ、ミルク、ミルクンタマー、ミルクヌジィーが続きます。
ミルクヌナーリとは、竹や柳の枝にヤラブ(テリハボク)の実や
色とりどりの色紙などを丸めて作った五穀の実りをつけたもので、
「五穀豊穣」を象徴します。
ミルク(弥勒)は、仏教思想の「弥勒菩薩」から来たものといわれますが、
その伝来については不明で、波照間島では、
ミルクは「五穀豊穣と幸福」をもたらす神仏の象徴だと考えられています。
ミルクの後ろには、ミルクンタマーが続きます。
ミルクンタマーとは弥勒の子供たちという意味です。
ミルクは扇を左右に動かしながら後ろに続く
ミルクンタマーを見守るように振り返りながらゆっくり進みます。
ミルクンタマーの後ろには、
ミルクヌジィーと呼ばれる「弥勒節」の地歌、笛、三線が続きます。
この唄は、9番まであり島の繁栄を願う内容の唄です。
独特の節回しと、おばぁ達の歌声がのどかな島に響き渡ります。
行列はまだまだ続き、
航海安全と人生航路の安全を祈りながら踊る「嘉利吉節」、
軽快な曲調に合わせて農耕の様子を踊る「豆どうま節」、
稲穂から精米にして俵にするまでの行程を踊る「稲摺節」などがあります。
行列の演目は、豊年祈願・祖先供養の意味を持つものですが、
時代の世相を反映して幾多の変遷があったといわれています。
この島で生まれ育った若者たちが島を離れていく反面、
南国の生活に憧れて沖縄県外から移り住む人たちも多くいます。
昔から伝え受け継がれてきた文化、新しく入ってきた文化、
ムシャーマの仮装行列からこの島の歴史を垣間見たような気がします。
仮装行列の終了後、
公民館の中庭でテーク(太鼓の舞)とボー(棒術)が行われます。
テークは、テークヌピン(笛)の演奏に合わせて締め太鼓を打ち踊る演技です。テークヌピンは、沖縄の音楽でありながら
琉球音階ではない独特のメロディーを奏でます。
ボーは、長刀、刀、六尺棒、五尺棒、鎌、
笠などを持って2人一組で演じられます。
各組、農民と武士の組み合わせで戦いますが、
最後は必ず農民が勝つようになっています。
「イヤァー、ホーッ、ヤァー!」の掛け声、
棒と棒が激しくぶつかる音がとても勇ましい演技です。
テークとボーの終了後、中庭で「ニンブチャー」(念仏踊り)が行われます。
ニンブチャーは、極楽の天国へ成仏できずにいる無縁仏を慰霊し、
故人を偲び感謝するものです。
中庭の中央に酒と肴を供え、それを囲んで笛、銅鑼、地謡が座り、
公民館の役員代表とボーシンガーが全員で「親ぬ御恩」の歌に合わせて踊り、
「ハーリカ、ヨイサー、シッサー、サーサー、スリサーサー」と囃し立てます。
午後からは、公民館の中庭に特設舞台が作られ、ブドリ(舞踏)、
コンギー(狂言)などが演じられます。祭りの最終演目は、6頭の獅子舞です。
午後5時過ぎ、夏の空はまだ明るいけれど、
ムシャーマの1日は終わろうとしています。
3組の仮装行列が公民館から朝通ってきた道を練り歩き、帰っていきます。
多種多様な文化がこの島にはあり、
独特の節回しの音楽、獅子舞などが伝わっていますが、
いつ、どこから伝わったのかは定かではありません。
【交通アクセス】
航路:波照間海運石垣港離島ターミナルから高速船もしくは貨物船で波照間港へ。
安栄観光石垣港離島ターミナルから高速船で波照間港へ。
安栄観光西表島・大原港から不定期便の高速船が波照間港へ就航。
いかがでしたか。
祭りには底知れない魅力と気分を高揚させる何かがあります。
長年にわたって受け継がれてきた祭りには、
理屈では割り切れない人々の思いが詰まっているように思います。
たかが祭り、されど祭りといったところでしょうか?