すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

セカイノオワリ(2)-気候危機

2022-09-11 10:00:47 | 社会・現代

 「気候変動」という言葉は、すでに今地球規模で起こっていることを表わすのに全然足りなくなっているのだそうだ。言葉が現実に置いて行かれてしまった。今の現実は、「気候危機」、あるいは、「気候崩壊」と呼ばねばならないのだそうだ。
 この夏、少しでも日本の、世界の自然災害のニュースに耳を傾けた者の多くは不安を感じ、危機や崩壊が迫ってくるのを目の当たりにする思いがしただろう。現時点では、それは都会に住む我々が直面する問題ではないように見える。人々の多くは「何とかなるさ」と思っているかもしれないし、不快ではあるが差し迫った問題ではない、と感じていられるかもしれない。だが、たちまち、自分自身の生活にも大きな困難をもたらす問題になることは間違いない。
 気候危機は、現代の東京に暮らすぼくたちにも、水害や山火事という形ではなくても、大きな苦難をもたらす。ぼくたちにいちばん直接的にかかわる問題の一つは、食糧の確保の問題、当面は食糧価格の高騰だ。だが価格高騰に留まらず、そう遠からず、食料が手に入らない、というところまで事態は進む。食べることができる者とできない者に分断され、社会全体が不安定化し、暴動が起きる時代はそう遠くはない。
 現在の食料品とエネルギーの価格の高騰はロシアのウクライナ侵攻が原因の一時的な事態であって、いずれ戦争が終結すれば元に戻る——ということではない。いったんは下がるかもしれないが又すぐに上がる。そして将来は、一年で2倍、3倍になる。日本のように食料自給率の低い国では、輸入できる食料が減れば、当然そういうことになる。買いたい国がいっぱいあれば競争になるから高い金を出さなければならなくもなる。中国やインドが食糧確保は自国民優先、となれば、何倍の価格でも手に入らなくなるだろう。
 食料がなぜ問題なのか? あれは、異常気象に見舞われた今年だけの問題ではないのか? もちろん、そうではない。なぜなら、気候危機によって、世界の農作物の、特に、主食である小麦、米、トウモロコシの生産は減少の一途をたどるからだ。このことの一部は、少し考えてみればすぐに分かる。
 世界はあちこちで、旱魃と水害に見舞われている。見舞われているのはいずれも、大食糧生産地だ。旱魃や水害に見舞われた土地は、食糧の生産ができない。一度見舞われれば数年はできない。そして旱魃と水害は年々繰り返され、年々ひどくなっている。
 干ばつや水害だけでなく、世界の食糧生産地は水不足という深刻で長期的な問題に悩まされている。アラル海はほとんど乾上ってしまった。サブサハラ(サハラ砂漠南縁の地方・国々)では砂漠の拡大に苦しんでいる。いちばん深刻なのは中国だろう。
 ぼくの友人数人が、マリ共和国の内陸部の砂漠化を食い止める活動に従事していた。灌漑施設を作り、農業指導をし、遊牧民の定住を図る運動だ。だが、灌漑をして作物を育て始めると、土中の塩分が上昇してきて作物は塩害を起こしてしまう。また、民族対立が激しくなり、活動は停止している。ここでは穀物の不足は民族対立・宗教対立の原因にもなっている。北部の遊牧民はアラブ人でイスラム教徒だし、南部の農耕民は黒人でキリスト教徒もしくは民俗信仰だからだ。
 これと同じ現象は、もっと過激な形でスーダンで起きている。こちらはアラブの遊牧民、黒人の農耕民、どちらもイスラム教徒だ。そして、食糧争奪のための民族紛争や戦争は、穀物不足が深刻になるにつれてさらに世界のあちこちで起こるだろう。
 気候危機による水不足は氷河の消失という形でも起こる。インドと中国の農業生産は、ヒマラヤ(と、チベット高原)の氷河という水源に大きく依存している。どちらも、氷河が融けるのにつれて水量はどんどん減っている。黄河は近年たびたび枯渇している。ロッキー山脈とアンデス山脈でも同じことが起きている。
 温暖化と、もう一つは増え続ける人口による水不足を解消しようと、各国は井戸を掘って水を汲み上げている。井戸はどんどん深くなっている。降雨による地下水では足りないので、さらに深くの「化石帯水層」からのくみ上げが行われている。これは石油や天然ガスと同じく、これから回復することは無いので、使い切ってしまえばおしまいだ。すでにサウジアラビアでは使い切ってしまい、穀物は全面的に輸入することにした。
 人口が急速に増え続けるインドでも、穀物生産は落ちている。アメリカの大穀倉地帯「グレート・プレーンズ」でも、化石帯水層はどんどん減少しているという。
 中国やインドやアメリカが穀物輸入国に転落する事態になれば、日本は遥かにひどい食糧不足に見舞われる。日本人は性格が温和な国民だそうだが(?)、深刻な食糧不足となれば別だ。歴史で習った「米騒動」のような暴動が起きるかもしれない。そしてそれは、セカイノオワリの悲惨のほんの始まりなのだ。

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