すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

三つ峠山

2019-05-25 20:18:46 | 山歩き
 三日前に、上野の公募展で、知り合いが出品した富士山の絵を見た。丘の上から見ていて、手前の、日当たりの良い丘の斜面には梅が咲き始めていて、その向こうに市街地、その向こうはゴルフ場に虫食いにされた痛々しい山の斜面が広がり、その上に裾野に雲をまとわせて富士がやや左に傾いて浮いていた。手前のゴルフ場が無残なだけになおさら、「悠久の富士」という感じがした…
 富士急行線を三つ峠の駅で降りると、実物が悠然と裾野を引いていた。富士は裾野が良い。左右の傾きがいくらか違うのがまた良い。世界で最も美しい山はペルー・アンデスのアルパマヨ山だという説があるそうだが、これだけ美しい裾野を引く山は、他にあるまい。富士山型の山の写真をいくつか見たことがあるが、富士の裾野のなだらかな美しさがいちばんだ。
 西に向かって歩き始めるとこれから登る三つ峠山が正面に遠く高い。「えー、あそこまで行くのかあ」という気がするが、ちっぽけな人間も偉いもので、ひと足ひと足歩いていけば着いてしまうのだ。
 今日は、トレランシューズの履きならしのつもりで、8時間コースを選んだ。若い頃には12時間13時間ぐらいは平気だったのだが、最近としては8時間はチャレンジだ。
 とはいえ、今日(昨日)は体調があまり良くない。前回山に行って以来約3週間、他に優先事項があって、体調の調整が十分にはできなかった。 
 林道を登ってゆくと、芝草の間に桜などが植えられてベンチまでおいてある気持ちの良さそうな緑地がせせらぎのほとりに続く。何度か、「今日はここで昼寝でもして、本を読んで音楽を聴いてゆっくり過ごして帰ることにしようか」という誘惑にかられる(音源も薄い本も持ってきている)。「ぼくはほんとは、山登りよりそういう方が好きなんだよな」という気さえしてくる。
 それでも、三つ峠山は以前に北口登山道に友人と二人で行って、ぼくだけ暑さで途中放棄したことがあるので、二度目の放棄はしたくない。ゆっくりゆっくり登って、同じ電車で降りた若い三人連れに完全に置いて行かれて、やっと林道を離れて山道に入った。
 「達磨石」のベンチでストックを取り出し、甘いものを食べ、シャツを脱いで気を取り直して歩き始めたのだが、すぐにまたペースが落ちる。さらに落ちる。「このペースでは山頂着が3時くらいになるなあ」と思う。日は長い季節だが、弱気になっているので、「日暮れまでに下りられるだろうか? 引き返した方がいいのではないか?」とちらちら心配になる。
 道は今が新緑の盛りで、すがすがしい。ところどころ、展望の開けた場所では左手に富士山が美しい。三つ峠山の魅力は第一に、間近な富士の展望だ。富士とシジュウカラの鳴き声とヤマツツジの朱赤色に慰められながら登っていく。
 途中、下山してきたおじさん(ぼくよりは若い)に声をかけられる。「きょうは山頂の小屋でお泊りですか?」「いえ、そろそろ引き返そうかと思っています。このペースでは向こうに下りるのが大変そうなので」「ああ、そうですね。気を付けて行ってください」「ありがとうございます」…「え」と「ね」の助詞で思った。よほど疲れた顔をしていたのだろうなあ。
 9時に駅を出て、八十八大師に13時5分に到着。予定より約1時間遅い。富士山に向かい合って、急いでご飯を食べる。
 ここで気を取り直して、やはり山頂を目指すことにする。ここまでくれば、傾斜は緩くなるはずだ。今にも崩れてきそうな山腹をトラヴァースして、屏風岩の大岩壁を見上げながら歩く。ロッククライミングの練習をしている人たちがいる。残置ハーケンも見える。しばし立ち止まって、「あそこまでなら登れそうかな」「あそこに手をかけて左に上がって…」とか、けしてやってはいけないことを夢想した。道が分かれて最後の急登を登ると山頂はすぐそこだ。山頂着14:26。5時間20分かかった。
 山頂直下にはNHKの電波塔が立っていて味気ないが、富士の大展望は素晴らしい。近くの毛無山、黒岳、釈迦ヶ岳などはもちろん、やや霞んではいるが北岳、甲斐駒、八ヶ岳も見える。穂高や槍は残念ながら霞の向こうだ。
 下りは、「下りならば大丈夫だろう」と思い、天上山を経て河口湖までの長い尾根を歩いた。花期の終わりに近いマメザクラの下向きのかわいい花を楽しみながら、黄色のミツバツチグリがいっぱい咲く草原から樹林帯に入る。ツツドリが瓶の口を吹くように啼いている。おおむね緩やかな下りで、シューズが快適だ。河口湖駅着17:42。なんとか、日の暮れる前に着けた。
 今回は歩くので精いっぱいで、時間をかけて花を楽しむ余裕がなかった。そのためにはもう少し軽い山に行った方がいいのだろうが、ロングコースもまた行きたい。
 
 参考所要時間:三つ峠駅スタート9:05、達磨石10:22、大曲り11:20、馬返し12:06、八十八大師13:03(昼食)、25スタート、三つ峠(開運山)山頂14:26、母の白滝分岐14:55、浅川分岐16:33、天上山17:05、河口湖駅着17:42

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