すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

手紙(1)

2018-03-14 22:57:15 | 思い出すことなど
 (3/8の記事「心に痛い思い出」に出てきた友人)Aとお花見ランチをすることになった。10年ぶりぐらいだろうか。
 ところで、みいちゃんが亡くなった当時のことがノートに書かれているのではないかと思って、押し入れの奥から古い段ボール箱を取り出して捜してみたら、電報を受け取ったその晩とその翌日とさらに数日後にAに宛てて書いた手紙のコピーが出てきた(当時ぼくは、手紙をカーボン・コピーしながら書いていた)。アルジェリアの東部の地中海岸の町、スキクダからの手紙だ。
 他人の若い頃の、亡くなった彼女のことなど、関心がないだろうが、良かったらもう何回か、お付き合いいただけないだろうか。たいへんセンチメンタルな手紙なのだけれど、「白い鳥」に書いたことは、予知夢とか心霊現象とかについてのぼくの考えを人に説明するために、彼女の亡くなったの時のことを手掛かりとして使っているので、生な感情ではなく、やや構えた文章になってしまっている。上から目線的でもある。以下の手紙の方が、ぼく本人には、未熟ではあっても、好ましい。
 なお、先日の文とは時間の順序や人間関係についての認識などに食い違いがある。先日のは、出来事からすでに30数年たって書いているので、記憶に間違いがあり、こちらが正しい。
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 四・五日前に奇妙な夢を見ました。ぼくはすでに中年過ぎで、結婚して娘が一人いる。妻は病身で、先に他界してしまう。ぼくは娘に、「妻を失ってはこれから先、生きていく勇気がない。父さんをゆるしてくれ」と書き置きを残して、妻の後を追って自殺してしまう、という夢です。
 昨夜見た夢は次のようなものでした。
 ぼくは一人の娘を好きになる。彼女は病気がちである。ある日ぼくは彼女の家を訪ねてゆく。坂を上がった公園の中のようなところに高層建築があって、その中に招き入れられる。ところが、エレベーターはどこまでもその白い建物の中を登ってゆく。そしてそこで、ぼくは実は彼女は白い鳥なのだということを知る。アンデルセンの陸に上がった人魚姫が一歩歩くごとに足に激しい痛みを覚えるように、地上にいるとき彼女はその翼のあるべきところに激しい痛みを覚える。それが彼女の病気がちである原因なのだということを知る。
 そのことを知って以来、ぼくは彼女を以前のように愛することにためらいを感じざるを得ない。なぜならば、ぼくが彼女と一緒に暮らし、彼女を地上にとどめておこうとすることは、彼女に苦しみを強いることになるのだから。白い鳥として空に住むことが彼女の安らぎなのだから。そうして結局、彼女はある日空に帰ってしまうのです。
 あなたからの電報を受け取ったのは今日の午後でした。
 人の霊魂というものがあるとすれば、時差が8時間ほどありますから、ぼくは彼女の亡くなった10時間ほど後に、この夢を見ていることになります。したがって、先の夢は虫の知らせ、後の夢は彼女の霊魂が10時間ほどかかって地球の裏側にいる僕のところへ現れたのだということになります。
 ただし、ぼくは、超自然現象を起こす主体としての何らかの存在を否定しないまでも、キリスト教的な実態としての霊魂は認められません。鎮魂とは、生き残ってしまった人達の心を鎮めるためのものです。
 これに対し、ぼくは輪廻転生というものは信じています。それは、魂がまた別の形の中に宿ることではなくて、もっと自然なものです。私が死んだら、私の体は自然に帰ります。古代人は、その私たちが還って行く自然を、風と火と水と土であると考え、これを四大と名付けました。遠い時間の彼方で、その自然は再び私という体、私という意識を形成するかもしれません。その時私は再び彼女に会えるかもしれません。たぶんその時、ぼくらはお互いに相手に気づかないでしょう。しかし、そう言い切ってしまわなければならないものではありません。「この人とは以前に会ったことがある」、「いつかここにこうして座っていたことがある」などとふと思う時があります。ぼくはそれを、意識の空白からくる記憶の前駆現象、などではなく、遠い遠い以前の記憶が突然よみがえってくることがあるのだと思います。いつか突然に、すべてが明らかになるかもしれません。  
 ともかく、六年ほど前、ぼくがみいちゃんに会い、あなたやエミちゃんに出会った頃、ぼくはランボーだのなんだのの本で読んだ観念だけで、人生とはどんなものかまるで知りませんでした。今ではその頃よりはいくらか知っています。――そのことが今夜はひどく苦い。
 12月7日
 A様
コメント
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