フイールドに到着すればさっそく老舗旅館の御出迎えのようにずらずらずらーと御出迎えしていただくのがこの時期の申し合わせみたいになっている。まあ、確かに男衆はおらず女子衆だけと理解しているのだが嬉しくとも何ともなく、それ以上に迷惑なお出迎えなのである。赤外線を関知して寄ってくるらしいので温まった動輪タイヤやボディに取りついたり体当たりして来る。稀に首筋など露出している皮膚に止まる個体もいるのだが温度は車体の方が高いから9割方はボディに向かう。
この段階で捕獲し潰しておかないと作業行動中に襲われる事になる。そんな時は1匹とか2匹程度で二桁も集まることは無いのだがこれがしつこく煩いのである。身体の至近を飛び回っている段階では羽音がしていて煩い。羽音がしなくなっても「あれ嬉しや!」なんて油断は禁物なのだ。「吸血する!」と意を決した段階でステルス飛行モードに入り皮膚に着陸しても感覚がないほどの軟着陸なのである。「痛い!」と思った時には既に時遅く、皮膚に血が滲みその後は痒みが長く続くのである。
だからこそ車に群がっている僅かな時間帯に「勝負!」と捕虫網を振り一匹一匹捕獲するのが毎朝の勤行である。色即是空空即是色、「生はすなわち死であり死はすなわち生である」という生命の連鎖、物質の循環を感じない訳にはいかない蟻さんの巣穴をマークして今日も生贄を捧げた。