人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

モーツアルト「弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K.516」~疾走するかなしみ

2011年05月16日 20時45分16秒 | 日記
16日(月)。今日はモーツアルトが「弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K.516」を完成させた日です。1787年5月16日。今から224年前のことです。

弦楽4重奏曲(バイオリン2、ビオラ、チェロ)にビオラを1本加えた編成です。チェロでなくビオラを加えることによって中声部の充実を図っています。

この曲の完成の前月に、重病の父レオポルトあてに手紙を書いていますが、その父は5月28日に世を去っています。そうしたことが背景にあって「短調」の憂いに満ちた曲が出来上がったのでしょうか。

「K.516」と聞いて「小林秀雄」の名前が浮かんだ人はよほどのモーツアルティアンです。小林秀雄は、終戦の翌年に「モオツァルト」を発表しました。新潮文庫の初版は昭和38年5月15日、平成23年2月20日には第83刷が出版されているベストセラーです。彼は”批評”を”文学”の位置に高めた最初の人で、音楽評論(文芸評論と言った方がいいか?)のパイオニア的な存在です。この本の影響を受けたクラシック音楽愛好家は数知れないでしょう。というより、この本を読んだことのないクラシック愛好家はいないのではないでしょうか。

彼は書きます。
「スタンダアルは、モオツァルトの音楽の根底はtristesse(かなしさ)というものだ、と言った。~~tristesseを味わう為に涙を流す必要がある人々には、モオツァルトのtristesseは縁がない様である。それは、次の様な音を立てる、アレグロで。(ト短調クインテット、K.516)」
として、K.516の第1楽章冒頭の楽譜を提示します。そして続けます。
「ゲオンはこれをtristesse allante と呼んでいるのを、読んだ時、僕は自分の感じを一言で言われたように思い驚いた。確かに、モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない。涙の裡に玩弄するには美しすぎる。空の青さや海の匂いの様に、「万葉」の歌人が、その使用法をよく知っていた「かなし」という言葉の様にかなしい」

この文章を頭に思い浮かべながら、あらためてK.516の五重奏曲を聴くと、よく理解できます。第1楽章から第3楽章までの哀しみをいつまでも引きずっていると、第4楽章では底抜けに明るい音楽に転じます。まさに「モーツアルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない」のです。

いま聴いているCDはアマデウス弦楽四重奏団+アロノビッツ(第2ビオラ)による1951年録音による演奏です。1947年設立のカルテットですが、ウイーン情緒溢れた演奏を聴かせています。

 






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