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今日の筆洗

2016年03月02日 | Weblog

「こんなことを言ってはアレなんですけどね」。八十代の認知症の母親を担当していたケアマネさん。こう前置きし、男に言ったそうだ。「お母さんは、膝が悪くて、よかったかもしれませんよ」▼この男は親思いの上に短気である。「おまえ、怒っただろうな」。そう尋ねてみた。膝が悪くてよかった。うまく歩けなくて幸い。認知症による徘徊(はいかい)がひどくなれば、誰かに迷惑をかける危険があるとはいえ、その言葉には傷つくはずである。「ちょっと無神経だなと思ったけど、腹は立たなかったんだ」「だって、当たってもいるんだ」▼認知症患者数、約四百六十二万人。他人事(ひとごと)ではないと判決を見守った「家族」も大勢いただろう。認知症の男性が徘徊中に列車にはねられ、JR東海がその家族に損害賠償を求めた訴訟。最高裁はJR東海の請求を棄却した。家族の逆転勝訴である▼判決文に介護の切実さがうかがえる。男性が外出したのは高齢の妻が「まどろんで目を閉じている」間という。疲れもあろう。そのまどろみを誰が責められようか▼裁判は終わった。されど問題は終わらぬ。徘徊による事故は今後も起きる。家族の目には限界もある。徘徊する方を見守り、事故を遠ざける社会全体の仕組みがいる▼大丈夫ですか。どちらへ。大勢の声と耳がいる。膝が悪くてよかった。それはやっぱり悲しく歪(ゆが)んだ社会である。


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