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今日の筆洗

2024年08月07日 | Weblog
「一束(いっそく)」とは噺家(はなしか)の符丁で百のことをいう。明治、大正期の落語家、五代目林家正蔵が「一束」を売りに高座に出ていたそうだ。つまりは100歳▼古今亭志ん生の『なめくじ艦隊』によると「一束十五」(115歳)まで生きたとあるが、さすがにこれは噺家のホラだろう。昔のことで諸説あるが、100歳前後で亡くなったようだ▼長生きも芸のうち。おまけして「一束米丸」と声を掛けて見送るとする。新作で売った現役最高齢の落語家、桂米丸さんが亡くなった。99歳。90代でも高座を務めた大正生まれの芸が消えるのが寂しい▼入門は終戦直後というから師匠の古今亭今輔は新時代の噺家として育てたかったのだろう。前座修業を一切させていない。教えた古典落語は「がまの油」の一席のみ。「古典が土台」といわれる世界にあって新作落語だけで育った新作の申し子だった。角のない高い声とやや速めのテンポ。会社風景や団地住まいを描く新作によく似合った。くすぐり(小さな笑い)を積み重ねた展開は最後に大きな笑いを生んだ▼研究熱心で芝居をよく見ていたそうだ。ある席亭がこぼした。「新作の米丸が勉強していて古典の連中が不勉強じゃ仕様がない」▼200近い作品を残した。その数々が昭和、平成、令和の庶民を描く「古典」として注目される日が来るか。今から「一束」年後の寄席を思い浮かべる。