「はあぁあ。お芋焼きたいなぁ」
「…………」
「お芋、焼きたい、なぁあ」
ごろんと寝っ転がったまま、彼女はちらりと横を見る。
父親がいる。
「お芋……」
「…………」
「焼きたい……」
「…………」
「ねえ、父様聞いてる!?」
「聞いている」
「やろうよー、お庭で焼き芋~」
「次の年にしなさい」
「えぇえええ」
父親は、何かを読んでいる。
仕事、だろうか。
彼女は起き上がり、外を見る。
薄暗い。
寒い。
今にでも、雪が舞いそうだ。
「退屈だなー」
彼女が呟く。
「兄様のとこにでも、行こうかなぁ」
「駄目だ」
「え?」
彼女は父親を見る。
「今日は務めに出ているはずだ」
「務め?」
「そのはずだ」
「えー、つまんない」
彼女は再度、寝転がる。
「父様、私も務めしよっかなー」
「無理だ」
「じゃあ、今日は父様に付いて回ろっかなー」
「…………」
「回ろっかなー」
「…………」
父親が立ち上がる。
彼女も慌てて、立ち上がる。
部屋を出たのに、続く。
父親は何も云わない。
付いてきても構わない、と云うことだ。
「ねえねえ、父様。どこに行く?」
「こっちだ」
外に出て、父親は屋敷の裏口へと向かう。
誰にも会わないように。
その先も、人気のない道。
誰もいない。
「誰もいないねぇ」
後ろを歩く彼女が云う。
「父様、鬼ごっこ逃げるの上手だ」
「そうか」
「それとも、かくれんぼ、かな?」
父親が云う。
「人と接触しない方が、何かと好都合だ」
「そう?」
「もともと、うちの家系はそう定められたはずだった」
「うち?」
「我が家、だ」
つまり、父親のこれまでの家系ではなく、
父親自身、と云うことなのだろう。
「どう云うこと?」
「兄がいた」
「父様に?」
「そう」
「それで?」
「兄を立てなければならないから、」
「うん」
「出来る限り、目立たぬようにと」
「誰が云ったの、それ?」
「お前の、曾祖父だ」
「はあ、……昔の人」
「だから、兄がいれば、高位を外れるつもりだったんだが」
「しなかったの?」
「…………」
「出来なかったのね」
「…………」
「父様のお兄様はどこ?」
「今はいない」
「死んだの?」
「そうだ」
「それで、父様は今の在位なのね」
父親は頷く。
「でも、高位の方がよかったんじゃない?」
彼女が首を傾げる。
「何かね、うん。よさそう」
彼女が訊く。
「高位を下りて、父様はどうするつもりだったの?」
「……そうだな」
父親は歩きながら、呟く。
「どうしたかったのか……」
「今からでも、叶うかもよ」
「…………」
「……父様?」
「…………」
「内緒?」
冷たい風が吹く。
彼女は手のひらをさする。
暖める。
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